28 カード授与
タコ足を倒して手に入れたカードの中に、一瞬で、近くの町に戻れるカードがあったから、結構疲労していた俺たちは、そのカードを使って一瞬で町に戻ることにした。
弟がそのカードを使ってくれたんだけど、なんか視界がグワンと歪んで、気持ち悪かった。もう使いたくない。カードでの移動の影響もあって、疲れがピークな俺たちは、そのまま宿屋に戻って眠りについた。
そして、次の日から、バタバタと忙しい日々が始まった。
町の人が、スゲークエストのスゲーボスを倒したらしいぞ! という感じで見物人がやってきたり、サインを求められたり、いつの間にか邪神から解放されたことになっていた町長の娘さんに感謝されたり、町長からご馳走もらったりバタバタしていた。
だから、エステル達とゆっくり食事にありつけたのは、あのクエストが終わってから3日ほど立った頃。
いつも使ってる宿屋の一階の食堂を貸切にして、みんなでテーブルを囲んだ。
「なんか、どっと疲れた」
俺のつぶやきに俺と同じく疲れた顔の弟が、「へぇ、ショウ兄ちゃんでも疲れることあるんだね」と力なく呟く。
生意気な口をきく余裕はあるみたいだけど、顔がスゲェ疲れてる。
疲れ果てる俺たち兄弟を心配そうに見ていたエスメラルダとフィーが
「だ、大丈夫か?」
と言いながら、背中をさすってくれて、ちょっと元気が出てきた気がしたから、顔を上げた。
すると、なぜか、離れたテーブルに座るエステルと目があった。
「なんで、そっちに座ってるんだよ。こっちに来て座ればいいのに」
だいたい、みんなでゆっくりクエスト達成パーティーをしようって集まって部屋だって貸切にしたのに、なんで、わざわざ離れたテーブルに座るんだ。
貸切にした意味がない。
「だめ! だめです! いつまた、ショウジ様に怪我をさせてしまうかわかりませんしっ!」
エステルはそう言うと、顔をぶんぶん降って、ても左右にブンブン振って、拒絶の意思を伝えてきた。
「……力の制御とかいうのが、できないからか?」
俺がそう言うと、エステルは、力なく頷く。
エステルは、自分の力の制御ができないから、周りの人、特に男を傷つける習性があるっていう話らしく、俺とは、一緒のテーブルを囲めないらしい。やっかいな修正を持つと大変そうだ。
エステルが、寂しそうに隣のテーブルにいるのをみて、俺はカード辞典を開く。そしてあのカードを探して取り出した。
「エステル、ありがとな。エステルがいてくれて助かったよ」
そう言いながら、椅子方立ち上がると、エステルの方に向かう。
右手にあのカードを持ちながら。
「い、いえ……その、そのぐらいしかお役に立てませんし! あ……それと!不用意に私に近づいてはいけません! ショウジ様!」
そう言って、エステルも椅子から立ち上がって、数歩後ろに下がる。俺と距離を取るみたいに。
「でも、近づかないと、これ、渡せねぇし」
「え? これって……?」
俺は、一枚のカードをエステルに差し出した。
一歩一歩近づく俺にエステルはビビりながらも、どうにかカードを受け取ってくれる。
「ショウにいちゃん、このカードが欲しいって言ったの、エステルさんのためだったの?」
「まあ、そんな感じだな。タコ足の奴が言ってたんだ。装備すれば力を抑えてくれるらしい。だからエステルにやるよ。なんか、力が強いの嫌がってるんだろう?」
「えっ……! でもこれはすごくレアですよ! すっごくレアですし、あんなに無茶して、手に入れたのに……」
「エステルが喜ぶと思ったから、取ったんだ。それに結局タコ足を追い詰めたのエステルだしな!」
「私が、喜ぶ、から? もし、この装備カードを使えば、私は『普通の女の子』になれるのでしょうか……?」
ん? 普通? いや、このカード装備したら、力が抑えられるってだけなんだけど。それさっき俺、説明したんだけど。
「普通の女の子っていうのがよくわかんないけど、とりあえず力を抑えてくれるらしいぞ」
寛大な俺は、改めてカードの説明をすると、エステルは、顔をくしゃくしゃにしてわらった。
あ、やばい、エステルの目から涙が、滲んでる。
「お、おい! なんでエステル泣いてるんだよ! い、いやだったのか!?」
いや、確かによく考えてみると、嫌だよな……。わざわざすげえ強い力持ってるのに、それを抑えなきゃいけないとか、いやだ。俺なら、嫌だ。俺はムキムキになりたい。
「いいえ!私。嬉しくて……。だって、このカード、私のために…! それで戦ってくれたんですよね? 傷つけてばかりの、私のために……ありがとうございます」
そう言って笑った顔を俺に向けてくれた。すごく綺麗で、なんか、よくわからないけど……しばらく体が固まった。
「よかったじゃないか、エステル。早速使ってみたらどうだ」
「あーん、エステル羨ましいー! 男の人からプレゼントだなんて、なかなかやるじゃない」
エスメラルダとフィーがエステルに近くで声をかける。
エステルは二人に微笑みながら、涙を拭って、装備カードを使った。
カードを起動させると、でかい手錠みたいな腕輪が表れて、エステルの両腕に嵌る。
あのでかい腕輪が、どうやらエステルの力を抑えてくれているらしい。
「な、なんかすげぇ、重そうだけど……どうだ? エステル、なんか違うか?」
俺はそう言いながら、エステルの近くに歩いていく。エステルは呆然とした顔で、腕輪が嵌った自分の腕を見つめている。
そして、すぐ近くに俺がいることにやっと気づいたエステルが、顔を真っ赤にさせて、「ち、近くにきたらダメですー!」と言って、手で俺の胸のあたりを押し出した。
いつもなら、盛大に吹っ飛ぶところだけど、エステルが押し出した腕にそこまでの威力がない。トンと俺の胸を鳴らす程度だ。
「あ、すごい。本当に力が抑えられてるっぽい」
俺が吹っ飛ばされると思っていたのか、薬草のカードを準備していた弟が、目をぱちくりさせてそういった。
「ほらな! 俺の思ったとおりだ! うまくいった! エステル、どうだ!? これで、気にせず一緒にクエストしたり、食事もできるぞ!」
俺のすごい作戦がうまくいった! へへ。鼻の下を掻きながら、ニマニマする。俺すごい。
俺の胸を押し出した自分の手を見つめ直して信じられないという顔をするエステル。
そして、また泣きそうな顔になったエステルは、そのまま俺の胸に顔をくっつけてきた。
ええっ!
「エ、エステル!? 泣いてるのか!? やっぱり、泣いてるか!? やっぱつええほうがよかったか!? そ、そしたら、あれだ、その装備外せばいいんだ、確か!」
や、やばい。女の人を泣かしてはいけないのだ。それが父ちゃんの教えだ。エステルの再びの涙にびっくりしてると、エステルが俺の胸に顔を当てながら、首を横に振った。
「違う、違うんです……私、本当は、こんな良くしてもらえるほど、いい人じゃないんです。自分の力をコントロールできないし、しかもドジで、それに自分がダメなのを棚に上げて、ショウジ様達と仲良くできるエスメラルダや、フィーに嫉妬して……」
エステル……どうしよう、俺。
エステルが言ってることが難しくって、ちょっとよくわからなくなってきた。
ていうか、なんで泣いてるんだ。嫉妬?
助けを求めるように、弟のワニ顔をみると、弟もよくわからんみたいな顔してる。そういえばアイツはまだ小学二年生だ。まだ女心を察する力はあるまい。
こんな時、ダンディーな父ちゃんがいてくれたら、どんな反応をすればいいのか教えてもらえたのに。ダンデイーはなんでも知ってるんだ。
ふと、弟の隣にいるエスメラルダ達を見ると、腕を動かして何かを抱えるような動作を繰り返してるのに気づいた。
あの動作は……エステルをこのまま抱き込むってことか?
そういえば、俺、じゃなくて、弟や妹がこけて泣いたりしたときに、母ちゃんがよく抱っこして涙を止めていた。あれはなかなか気持ちよかった。
俺はおもむろにエステルを抱きしめる。
エステルは、びっくりしたように、顔を上げて俺の方を見た。
思いのほかに顔の距離が近かった。
「あ、えっと、落ち着いたか?」
なんか、緊張して、とりあえずそれだけ言うと、エステルは笑った。
「ふふ、いいえ。ショウジ様が抱きしめるから逆にドキドキしてきました」
そう言って、顔を赤くさせて、照れたように笑うエステルは、すごく可愛かった。
そしてそのまま、エステルは俺の背中に腕を回すと、「すごい。私が抱きしめても骨が軋む音がしないなんて……。幸せ」と言って、顔を俺の胸に埋めた。




