27 我こそは邪神四天王の一人
元タコ足が、剣を振りかぶったまま、想像以上のスピードにこっちに向かってきていた。
びっくりしながら構える俺の前にエスメラルダが大盾を構えたまま割り込む。
そして、盾に元タコ足がタックルのような蹴りを入れる。
なぜか持っている剣を降り下ろさなかったタコ足だけど、その蹴りがすごい威力で、俺はエスメラルダごと空に吹っ飛んで、そのままドスンと、地面に転がった。
いてぇ。けど、俺よりもエスメラルダのほうが痛いはずだ!
エスメラルダが転がっていった方を見ればあの大きな盾がぶっ壊れていた。慌てて起き上がって、エスメラルダの所に向かう。
砕けた盾と、エスメラルダのありえない方向に曲がってる指と赤くく腫れた腕が目に入った。
「エ、エスメラルダ!」
「……くそ、あの剣なら、盾に当てれば砕けると思ったのに……あの蹴り、なんて力だ」
意識はあるみたいで、そういって呻いているけど、血が……。
「ゲヒヒヒヒ! どうだ、私の触手の威力は! 私の触手はこの二本に集約されたのだ! なくなったわけじゃない!ゲヒヒヒゲヒヒヒ!」
ゲヒゲヒと耳障りな笑い声が聞こえた。
「にいちゃん、多分それは、薬草じゃ治らない……。癒しの女神の微笑みを……」
「分かってる!」
そう言いながら、カード辞典から一枚のカードを取り出そうとしたら、「そうはさせるか! ゲヒヒヒヒ!」という声とともに、タコ足が俺の近くにいて、剣を振りあげた。
けどのその剣の一部がジュウと音を立てて、溶けて剣先が折れた。
フィーが、妖怪仙人ヌメリヒョンを使って、剣を溶かしてくれたらしい。
弟も何かのカードを使った。なんだか気分がハイになってきたような気がする。
元タコ足は、ダメになった剣を躊躇なく捨てると、蹴りの体制に入る。
はえぇ。もともとそのつもりだったのかもしれない。
「く、くそ! 俺、別に空手とか、古武術とか、やってないんだぞ!」
吠え付くようにそう言って、どうにか蹴りを転がるようにしてよける。さっき弟が、攻撃力と素早さをあげるカードを使ってくれたみたいだ。それがなかったら、よけれなかった。
でも、一回よけられたからって、安心できない。タコ足は追撃をやめない。
何度か転がって、蹴りを避けたけれど、何度目かで追い詰められて次の攻撃はよけられないと感じた。
咄嗟に腕で顔のあたりを守って、目をつむっていると、ドンと地面に何か重たいものが、振り下ろされた音がした。
まだ痛みはこない。俺はゆっくり目を開けると、見慣れた大きなハンマーが目の前の大地にめり込んでいた。
この大きいハンマーは……。
「早く! エスメラルダさんの傷を!」
凛とした声が聞こえて、声のした方を向くと、俺とタコ足の間を遮るようにめり込んだハンマーを担ぎなおすエステルがいた。
俺は頷いて、辞典からカードを一枚取り出す。癒しの女神の微笑みだ。
最初もらった時と、絵柄が変わってる。前は、おばちゃんが笑ってる感じだったのに、今回はすごい若いお姉ちゃんが笑ってる顔に変更されていた。絵柄が変わったことに、ちょっと驚いたけど、内容は一緒だ。
そのカードを素早く手に持って、発動させると、目の前に、絵柄通りの綺麗なおねえさんが出てくる。
そのお姉さんは、俺の方を見ながら、声をかけてきた。
「私は、ポルネウス。さあ、教えて。癒しを求める者の名を」
「エ、エスメラルダの! 傷を治してほしい」
喋り始めたことにちょっと驚きながらもそう言って、エスメラルダを指さすと、そいつは、エスメラルダを見て微笑んだ
すると、エスメラルダの腫れた腕のあたりが、光ったかと思えば、一瞬で治り、指も元どおり。そして、いきなり現れた綺麗なおねいさんは消えた。
す、すげえ。あんな痛そうな怪我でもすぐに治るのかよ。
「エスメラルダ、大丈夫か」
「ああ、私は大丈夫だ! だが、まだ戦闘は続いてる! 気を抜くな。本当は私の怪我等気にしなくてよかったのだ」
「そんなこと出来るわけないだろう!」
だって、そんなの、無理だろう!
今までだって、体育の授業とかで怪我した奴はすぐに保健室に行ったりしてたぞ!
「兄ちゃん、エステルさんのフォローを!」
弟にそう言われて、エステルの方に身体を向ける。さっきから様子は見ていたけれど、二人にまったく動きがない。さっきからずっとにらみ合いをしてる。
「エステルさんは、パワーはあるけど、すばやさはそこまで高くない。……攻撃が当たらない可能性があるから、隙を探っているのかもしれない」
弟がなんか賢そうにそう言っていた。
よくわかんないけど、間合い的なやつでも見てんのかもしれない。
漫画とかだとそういうのあるし。
でも、俺には関係ない! 間合いとかわかんないし!
隙だらけに見えたので、横から乱入して、タコ足の顔を殴りつけることにした。
けど、漫画とかだと、『見えてるぞ!』とかいって、止められること多いよなぁ、と思っていたけれど、普通にタコ足の顔に俺の拳がめり込んだ。
「いてぇ! おまえは、いきなり割って入るとか、卑怯だぞー!」
と涙目になるタコ足に、パンチをもう一発食らわせる。
あ、また普通にくらった。これはいける。
「お前! 女の人に怪我をさせるなんて最悪なことなんだぞ!」
「私は、邪神だ! 最悪で結構!」
そう言って、笑う元タコ足の顔にもう一発、殴ろうとしたが、俺のパンチは手で止められる。がっしりと掴まれた俺の拳。
でも俺は、これを待ってた!
俺はそのままそいつの腕にしがみついた。
「エステル! 今だ!! こいつに、ハンマーを叩き込め!」
身動きの取れなくなった元タコ足を見て、エステルは頷くと、大きなハンマーを振り上げて、思い切りタコ足に叩きつけた。
叩きつける前に、「ちょ、やめっ」という声が聞こえたきがするけれど、エステルは容赦ない。
大きなハンマーに頭を殴られて、タコ足は、一気にHPゲージが減って、その場で倒れた。
タコ足の頭の部分が、モザイクがかかったようになって、よく見えないけど、なんか、血っぽいのが出ているっぽい。
な、なんだこれと思って見てると、
『残酷な描写に対するセキュリティー発動。15歳以下の方には刺激的な内容となっております』というテロップがタコ足の顔のあたりに流れてきた。
ポカンと見つめる俺の横で、弟が、多分そういうゲームの仕様だと思う……と力なく言うので、よくわからなかったけれど、とりあえず頷いた。
元タコ足のHPゲージはよく見ると、まだ少し残ってるらしい。
俺は止めを刺すべく、拳を振り上げると、タコ足がさっと移動した。
別にタコ足が立ち上がったわけじゃない
伸びたまま、誰かに引っ張られるように動かされた。
俺たちは、突然現れた何者かを見る。
デブだけど顔はイケメンな男と、水着みたいな衣装をきた浅黒い肌のお姉ちゃんが二人いた。それぞれ、ツノやら、悪魔っぽい尻尾やらが生えていて……魔族っぽかった。
浅黒い肌の おねちゃん2人が、伸びてるタコ足を引っ張って、俺たちから距離をとる。
「ちょ! やばくない!? なんかゲッヒャーさん、伸びてるんですケド!? ていうか超グロくない!?」
「いきなり、転送されたから何事かと思ったらぁ、エライことになってるわねぇ」
突然現れたオッパイの大きなおねえちゃん2人は、モザイクのかかったタコ足を見て、青い顔をしてる。
「おで、さっき、肉たべでだ。でも、肉消えた。肉、肉……」
デブな奴が、そう言って周りをキョロキョロしてる。
「お、お前たち、何者だよ!? いきなり現れて!」
「え! やだー! プレイヤーよ! とうとう、プレイヤーが来たんだわ! やばくなーい!?」
「先ほどのアップデートにはこういう背景があったのねぇ」
今度は好奇心むき出しな目で俺をみて、ヒソヒソと話し始める乳女達。
近くには、デブな奴が、にくーにくーと言って鳴いている。
な、なんだ……こいつら。
「あ、新しい、クエスト? でしょうか……? 」
隣のエステルも呆然としている。
ワニの弟が、俺の足元で縋り付いてきた。
「ショウにいちゃん! 何か新しいクエストが発生したとかいう知らせきた? ぼくきてないんだけど」
「俺もよくわかんねえけど、来てないと思うぞ」
「え、じゃあこの人たち一体何? まさかまた戦闘が始まるのかな? 体力的にもきついんだけど」
弟は、ワニ顔を青白くさせながら、突然現れた奴らを警戒してる。
おれも、まじで一体こいつら何なんだと思って、見守っていると、乳女たちが動き出した。
「あ! ヤバイヤバイ! ゲッヒャーのクエスト中だヨ! シナリオ通りにしなくチャ!」
「そうですねぇ……えーと確かぁ、最初に名乗るんですよねぇ?」
「そうそう! じゃあ、まずあたしからやらせてもらうネッ!」
そう言って、乳女コンビの髪の短い方が、俺の方をみた。
「私は邪神四天王の1人リビット! ゲッヒャーを倒したようだけど、調子に乗らないことね!」
「わたくしは、邪神四天王の1人リドル。ゲッヒャーは、四天王の中でも最弱よぉ」
「お? 確か、一番性能がわりぃのは、おでだったべ」
「いいのヨ! もう! いいからシナリオ通りに言いなさいヨ。四天王の1人が倒れたら言う手はずになってるデショ!」
「おで、難しいごど、よぐ、わがらね」
「あらぁ。バグかしらぁー? しょうがないわねぇ。とりあえず名乗った後に『四天王の面汚しよ』って言えばいいのよぉ」
「お? そうか。ならおででもでぎる。おでは、色欲邪神四天王の1人のオデマンだ。四天王のヅラよこせだべ」
「やだー! オデマンそれじゃー、私たちのヅラをよこせって聞こえる~! 私たち別にズラじゃないー! もうー!」
「おで、難しいごと、よぐ、わがらね」
「まあ、いいわぁ。とりあえず言えたものぉ。もう行きましょう。他に用もないし」
と言って、髪の長い方の女がそう言って、他の奴らは頷くと、ゲッヒャーごと一瞬で消えた。
しばらくポカンとしていた俺たちの前に、
『おめでとうございます。高難度クエストをクリアいたしました。クリア報酬をご確認ください。なお、こちらのクエストをクリアしたことで、新たなクエストを受注できるようになりました。合わせて確認ください』
という声が響いてきて、目の前に複数枚のカードが現れた。
そのカードの中にはタコ足が言っていた、俺が欲しいと思ったカードも含まれていた。




