20 クエスト攻略
弟をいつも通り肩に乗せて下に降りると、いくつかテーブル席が用意されてる食堂っぽいところについた。
少し周りを見渡すと、カウンター席の端っこのほうにエステルがうつむいて座ってる。
なんか元気なさそうだな。どうしたんだろ。
「エステル! 元気ないけど、どうしたんだ?」
俺がエステルの方に向かいながそう声をかけて手を挙げると、エステルががびっくりした顔をして、飛び上がった。
「ショウジさん! もう大丈夫なんですか!?」
ものすごい嬉しそうな顔を向けてきた。心なしか泣いてたみたいに目が腫れてるけど。
「いや、俺は大丈夫だけど、エステルこそ、なんか疲れた顔してだいじょ」
「だめです!ショウジさん、私にちかづいたらだめです!」
「ストップ! ショウにいちゃん!だからむやみにエステルさんに
近づいちゃだめだってば」
エステルと弟がほぼ同時にそういうもんだから、俺は足を止めた。
「え? なんでだ?」
「なんでって……だからまたふっ飛ばされちゃうからだよ!」
なんか弟がプリプリしてる。
あーそういえば、俺はエステルに張り倒されたんだったか……。
「エステルはなんで、俺のこと張り倒すんだ? ……なんか俺、悪いことした?」
悪いことなんかした覚えはない。スカートめくりは小3で卒業して、おれは、ジェントルマンになったんだ。知らぬ間に悪いことしてたのなら、謝らねば。
「いえ、あの、ショウジさんは本当に何も悪いことなんかないんです! あの、ごめんなさい!」
エステルは深々と頭を下げてる。
悪いことしてないのに、吹っ飛ばされることがあるのだろうか……。いったい何がなんだかさっぱりだ。
もっと声をかけようとしたところで、エステルは顔を上げて、また一歩下がって俺と離れた。
「あの、本当にごめんなさい。それと、向こうのテーブルに私の冒険者仲間を呼んでます。これからのクエストの力になってくれるように、私からお願いしたので、そちらで話あってきてください。私は、ここにいますから」
そう言って、ちょっと離れたところにあるテーブルに指差した。そのテーブルには、女の人が2人座っていて、こっちを見て手を振ってる。
「にいちゃん、行こう。 僕はちょっと前に挨拶済ませたんだ」
挨拶? クエスト? さっきから何が何だかさっぱりだ。
思わず首を傾げた俺に気づいた弟が再度説明してくれた。
「ああ、ごめん。突然だったよね。実はこの町についたときに、この町のクエストが発生したみたいなんだ。それが結構難しいクエストみたいで、エステルさんに頼んで冒険者を紹介してもらったところ。向こうのテーブルで詳しく話をするからとりあえず座ろう」
クエスト?
「よくわかんないけど、エステルは一緒にクエストをやってくれないのか?」
俺がそう言うと、エステルは、少し喉を詰まらせたみたいな顔をして、頭を下げた。
「私は一緒にいけません。ごめんなさい」
そんな声が聞こえてきた。
弟とエステルに促されるまま、女の人が二人座ってるテーブルに着いたけど、なんか釈然としない。エステルどうしたんだろう。意味が分からなすぎる。女心は秋の空レベルじゃないぞ。ここまで一緒に来てくれたんだから、一緒にいればいいのに。あんなに、一緒に遊びたそうな顔して……。
「なんか納得してないって顔だけど、初顔合わせだ。もっと朗らかに行こうじゃないか。私は、エスメラルダ。盾役になることが多い。獣人族の重戦士だ。よろしくな、プレイヤー」
そう言って、テーブルに着いてた女の人が握手を求めてきた。
この人、スゴイぞ。耳が、犬っぽいぞ。それに口の辺りも犬っぽい。
差し出された腕を見ると、薄い金の毛色だから目立たないけど長い毛が生えてる。犬っぽい。
「にいちゃん、握手!」
呆然と見てると、弟がなんか急かし当てきたから、慌てて差し出された手をとって握手した
「よ、よろしくな」
俺、昔から犬飼いたかったんだよなー。こういうゴールデンレトリバーみたいなの。
「私はフィリアンスフィー。長いからみんなからはフィーって呼ばれてるわ。私は、一応細剣を使うけど、基本的にはカード使いよ。よろしくね」
エスメラルダの隣に座っていた小柄な女の人がそう声をかけて同じく手を差し出したから、俺はそのまま握手を返す。
おお、なんか妖精っぽい。耳が長くて、目が大きいけど、ほとんど白目がなくて、緑色の大きな宝石が目のところにはまってるみたいだ。髪の色も綺麗なピンク色。羽は生えてないけど、俺の天敵妖精リンカーンベルを思い出す。
「エステルほど飛びぬけた力はないが、私たちはこれでもそこそこの冒険者だ。きっと力になれると思う」
そう言って、エスメラルダがニカっと笑って俺のほうをみた。牙っぽいのがある。すごく犬っぽい。
「ショウにいちゃん、目が覚めたばかりで悪いんだけど、さっさとゲームをクリアしたいから、今日このメンバーでクエストを攻略しようと思うんだ」
「だから、クエストってなんだよ」
「えっとね、北の山に住んでいる悪い神様を倒しに行くっていうクエストなんだけど、この町で発生するクエストの中で一番難しいらしいんだ」
「悪い神様を倒すって……どう悪いやつなんだよ」
「町に住んでいる若い娘を攫っていくんだって」
「そいつは悪いやつだな!」
「うん、それでね、僕たちだけじゃクリアできないぐらい強いみたい。町で発生するクエストの難易度はプレイヤーのパーティーの全体のレベルやバランスをみて決められてるみたい。それで、この町に入った時は、エステルさんと一緒だったから、エステルさんもパーティーメンバーだと思われて、僕たちじゃ手に負えなさそうなレベルのクエストが発生したんだって」
え? パーティーのバランス? なんかよくわかんないけど、つまり、それって、あれだろ。
「なら、やっぱりエステルも一緒に連れてけばいいんじゃないか?」
エステルは一人向こうのカウンター席でこっちをチラチラみている。すごく話に混ざりたそうにしてる。
「だめだよ。エステルさんは。ちょっと危険なところがあるし、なによりエステルさん自信が一緒の行動をすることを拒否してる状態だから」
俺はそう言われて、こっちの方を心配そうな顔して見てるとエステルの方に顔を向けた。一瞬目があったけど、すぐにエステルは顔をふせた。
……なんでだ、一緒に混ざりたそうな顔してるのに。
俺は、首をひねって弟の方をみた。
「なんで、エステルは一緒に行こうとしないんだ?」
「だから、ショウにいちゃんを殴ったりなんだりしちゃうからだよ」
「なんで、殴るんだ?」
「ごめんねぇ。エステルは男の人が苦手で。それで、ちょっと意識しすぎるとなぐっちゃう癖があるのよ。別に嫌いなわけじゃないのよ。むしろ、逆、かも? うふふ」
そう言ってピンクの髪を揺らしてフィーが笑った。
「嫌いじゃないのに殴るなんてことが、あるのか?」
「あるのよ、年頃の女の子にはね。まあ、エステルの場合はもともとのスペックが高すぎて、ちょっとした触れ合いが大怪我になるから大変なんだけど」
ふーん。つまりあれか。ちょっとしたスキンシップがエステルの場合は、すごいことになっちゃうってことか。
「だから、エステルさんのことは置いといて、このメンバーでクエストを攻略しようと思うんだ。ショウにいちゃんはまだレアカード持ってるし、このメンバーで十分攻略はできると思う」
クエスト? ああ、そうか、悪いやつを倒しに行くんだよな
確か若い娘をさらうやつだ。すげぇわるいやつだな!
「よし、わかった。若い娘をさらう奴は許せないし、倒しに行くぞ! でもその前に腹減ったからご飯が先な!」
俺はそう言って、食堂のマスターらしきおじさんに、大量の朝ごはんを注文した。




