15 男とはなんかのウィルスらしい
護衛として一緒に来てくれることになったエステルが、慣れた様子で、先頭に立って道案内してくれる。
俺と話してる時は、なんかオドオドしてるけど、こうやってちょっと離れたところで見てる分には、なんかエステルはしっかりしていて心強い気がしなくもない。なによりスゲーでかいハンマーを軽々背中に背負ってるってのがすごい。
「エステルさん、森の中歩きなれてる感じするね。さり気なく、飛び出てる枝とか切って通りやすくしてくれてるし。やっぱり護衛を頼んで正解だね。ショウにいさんもそう思って、護衛を頼むことにしたんでしょ?」
「ん? や、だって、お前、一緒についていてやんないと。女の人を1人で森の中を歩かすわけには行かないだろ」
「ええ!? そんな理由なの? あの人は1人で森の中歩いても平気だと思うけど……」
「父ちゃんが言ってた。女の人っていうのは強いけど、たまに弱くなる時があるんだって。だから、どんなに強そうに見えても俺達が守ってやんなくちゃいけないんだ。それがアマゾネスだとしても」
「そうなの? エステルさんはアマゾネスではないけど、僕には、あの大きなハンマーを背負うエステルさんを守れる気がしないよ」
すこし弟には難しい話だったか。
まあ、俺も正直、あのハンマーを持ったエステルが倒せない魔物が来た時に守れる気がしないでもないけど。……いや、マジでなんであんな大きなハンマー背負って普通でいられるの? アマゾネス、すげえや。
あ、なんか、エステルのこと考えると、さっき打った尻の痛みを思い出して、ズキズキしてくる。お尻いてぇ。
それから俺は、痛む尻を我慢して大人しくエステルさんについて歩いていくと、結構大きくて強そうなモンスターが何匹か襲い掛かってきた。けれど、エステルのハンマーの一振りでカード化していく。
なんか……もぐらたたきみたいだ。
エステルと3.4m離れたところで歩きながらそんなことを思う。近くに行くとモンスターだけじゃなくて、俺達もあのハンマーの犠牲者になりかねないし、エステルが言うには、『私、男の人との免疫がなくて、ちょっと近くにいるだけで、ドキドキしちゃって、暴走しちゃう時があるんです……』と言うことらしいので、3、4mぐらいは間を置くようにしてるけど……男の人のメンエキってなんだ? メンエキ、免疫……エステルにとって、男はなんかのウィルスってことなんか? よくわからん。
「どうやら、エステルさんが倒したモンスターの経験値、僕達にも入るみたいだね。ぼくさっきレベル上がっちゃったよ」
「レベル? そういえばたまに、女の人の声でレベルが上がりましたーみたいなこと言われてる気がする」
「うん、それレベルが上がった時に鳴るみたい。ショウにいちゃん今なんレベル?」
俺はステータス画面を見てみる。
「んーレベルは4だな」
「へー! 僕は3だよ。このまま順調に行けば楽にレベルが上げられていいね」
「ふふ、やっぱりお二人はプレイヤーなんですね。プレイヤーの方はレベルというものがあって、それによってステータスが増えたりするって聞いたことがあります。私達、先住民族にもステータスはあるんですが、レベルと言うものがなくて、そう簡単に力をつけたりすることが難しいんです」
先頭の少し離れたところにいるエステルが、大きなハンマーを肩に担ぎながらこちらをみて笑っていた。
「エステルさん達は、レベルはないけど、ステータスは見れるって感じなんですか?」
弟が興味津々な様子でエステルの話に食いついた。
「自分の簡単なステータスは見れます。でもプレイヤーにしか見れない表示もあるみたいです。でも逆に私達にしか見れないものもあるんですよ」
「へー! どんなものが見れなくて、どんなものが見れるんだろう」
「うーん、それは私も詳しくはよく分からないですけれど、私達は、手に入れたカードの詳細を見ることはできません。お店にある伝説の台座と呼ばれるものの上において、はじめてその効果なんかを見れるんです」
「ふーん、カード辞典が見れないって感じなのかな。逆にエステルさん達は何が見えるの?」
「イベントの進行状況とかを見れます。というか、自分達で起こせるイベントの台本みたいなものって言う方がいいかもしれません。私達は生まれてから、神様から伝説の説明書を貰っているんです。プレイヤー様がきたら、こういうイベントを起こすように……って前から決められているんです」
「あの、神様って、どういう神様? 僕達が手に入れたカードに癒しの女神ポルネリスとかいう神様の話が出てきたけど、その神様のこと?」
「いいえ、神話の神様とは別です。神話の神様は、今この世界を実際に統制している神様がお創りになった存在なんです」
「今この世界を実際に統制している神様……って?」
「300年ほど前に、この世界を救った神様です。人族にとっては遠い昔の、物語のお話ですけれど、300年前は、ドラゴンと呼ばれる種族が猛威を振るっていて、それ以外の種族、たとえば私達人族、それに妖精族、魔族、海族、獣人族は絶滅に瀕していたんです。その時に現れて、ドラゴンを滅ぼしてくれたのが、今、世界を統制している神様です。神様は、ドラゴンを倒して、色々とこの世界の法則を改変しました。その一つがカード化するモンスターとか、不思議な力を持つ便利な道具です。神様が私達にもたらしてくれた変化は、私達に安全と便利さと平和をもたらしてくれました。私達は神様を崇めました。そして、その変化をくれた神様は、私達にその恩恵を与える代わりに一つお願い事をしたんです。それが、いつか来るプレイヤーと呼ばれる者のために、神様が決めた世界観が崩れないように守ること、そしてプレイヤーの方がきたら、手順どおりにイベントを起こすことです」
ふーむ。なんか、話が長くてアレだったけれど、つまり、俺達をむりやり転移させたのが、その神様ってことで、この世界に住んでいる奴らはその神様からなんかイベントを起こすように言われてるってことか。
んじゃ、あのムルク村の村長の行動、変だなーって思ってたけれど、あれはイベントを起こすためにバタバタしてたってこと、なのかな……。
「イベントを起こす……。そういえば僕達が持ってる説明書にも、そんなことが書いてありました。先住民族の方には協力してもらっているとかなんとか」
「はい、神様はもともとこの世界に生きていた私達を先住民族と呼んでいるみたいです。そして神様が創った人格をNPC……たとえば先ほどお話に出てきた癒しの女神ポルネリス様はNPCです」
「あの、まさかだけど、エステルがこうやって僕達と一緒に行動してるのって、何かのイベント……とかじゃないよね?」
弟が、なんかキョロキョロして、そんなことを聞いてくると、エステルはクスクスと笑って答えてくれた。
「いいえ、違いますよ。先住民族が起こせるイベントは基本的に村とか地域単位のものです。個人で起こせるイベントなんてそうそうありません。そういう個人でイベントを起こせるのは特別なNPCの方ぐらいです。あ……! ちょっとまってくださいね、またモンスターが!」
そう言って、エステルは、ハンマーを振り上げて、モンスターめがけて振り落とした。モンスターは消えて、ハンマーの下からはカードが一枚……。すごいな、さっきまで、クスクス笑いながらのんびり話してたのに……。
あ、なんかエステル見てると、また打った尻の痛みが疼いてきた。ズキズキ……。




