14 要するにお姉さんはすごい
「どうしたの? ショウにいちゃん?」
「いや、さっきのお姉さんが、ハンマーを打ちつけたときは、もっと実が落ちたのになーと思って」
そう言うと、さっきまで弟とカードを見ながら話し込んでいたお姉さんの肩がビクッと震えた。
「えーっと、それは、あの……」
そう言って、お姉さんは、顔を赤くしてうろたえ始めた。どうしたんだ?
「うーん、コレは僕の推測だけど。木を打ち付ける人のSTRの数値によって落ちる果物の数が決まってるんだと思う。STR100で1個。後は10数値があるごとに1個落としてくれるんじゃないかな。『バーサクの祈り』っていう魔法カードを使って、ショウ兄ちゃんのSTR値は120台ぐらいだと思うから、3個落ちてきたんだと思うよ」
え? 弟がまた良くわかんないことを言ってきた。
いや、おれちょっと数字が出てくると良くわかんないけど。エスティーアールとかも良くわかんないし……。つまり俺が木を打ちつけると3個だけで、お姉さんだといっぱい落ちるって仕組みなのか。
要するにだ。お姉さんがすげぇってことか。
「うん、その通りなの。恥ずかしいんだけど、私、小さい頃からSTRが異常に高くって……」
「え? なんで恥ずかしいんだ? いっぱい果物落ちてきた方がいいだろ」
「うん、まあ、確かにそのお陰で冒険者としてやって来れているんだけど……。でも、女の子がこんなに力持ちだと……気持ちわるい、でしょ?」
「え? 気持ち悪い? なんで? お姉さん綺麗だとおもうけど」
俺がそう言うと、お姉さんの顔が真っ赤になって、動きが止まった。
どうしたんだ? と思って、近づくと、お姉さんが、俺を突き飛ばすように、胸に手を置いて押し出してきた。それがものすごい衝撃で、俺はそのまま数メートル先まで飛ばされた。
「いってぇ」
強く打ち付けた尻をさすって上半身を起こすと、さっきまで俺がいたはずのところには、赤髪のお姉さんがいて、顔を真っ赤にさせて目を閉じながら、「綺麗だなんてやめてくださいー! 恥ずかしいですー!」と言いながら、両手を左右に振っている。
え? あのおねえさんに俺突き飛ばされてこんなところまで飛ばされたのか? お姉さんのほうは、目を瞑っていて、俺が突き飛ばされたの気づいてないっぽいけど。
弟が慌てた様子で、俺の側に寄ってきていた。
「ショウにいちゃん大丈夫? ステータスみた? HPどのくらいのこってる?」
「お前こそ大丈夫か? 俺の肩に乗ってたからそのまま飛ばされただろ?」
「俺は大丈夫だよ、直接攻撃を食らったわけじゃないし。はやくHPみて!」
慌てる弟を見て、俺も自分のステータス画面を見ると、HPが半分以上減っていた。
そのことを告げると、弟は薬草のカードを何枚か取り出して、俺のHPを回復させてくれる。なんか元気になった気もするけど、打ち付けた尻は痛いままだ。
「うーん、薬草って、HPを数値を回復させてはくれるみたいだけど、傷を治すのとは別みたいだね。ショウ兄ちゃん立てる? ステータス表示はどんな感じ?」
俺はステータス表示を見ると、HPは回復してたけれど、状態のところに『怪我(小)』と書かれていて、HPの表示がいつも緑色なのに、オレンジ色になっていた。
俺は怪我と書かれているところをタッチしてみる。
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状態異常:怪我(小)
通常歩いていると回復するHPゲージが回復しない。
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「HPは回復したけど、なんか状態異常ってなって『怪我(小)』ってなってる。歩いていると回復するHPが回復しなくなるらしいぞ」
「そ、そっか。ならまだ大丈夫そうなのかな? HPが減ったら薬草で回復していくから、ステータス表示がすぐ見れるようにしといてね」
「あ、あの! どうしたんですか? 何があったんですか!?」
どうやら俺の状態に気づいた赤髪の女の人がここまで来てくれたようだ。心配そうに声をかけてきている。
いや、お姉さんにやられたんだけど! と言おうと思ったけれど、でも父ちゃんが、男は女の人に向かって怒鳴っちゃダメなんだって言ってたのを思い出す。でも……痛い! 言ってやりたい! めっちゃ痛いって! 本当はめっちゃ痛いって言って、泣き叫びたいけど、でも、もう俺、大人の男だから……!
「お姉さんに突き飛ばされたんですよ!」
俺が一生懸命我慢している間に弟が、ちょっと怒り気味でお姉さんに詰め寄っていた。
あ、弟よ、女の人を怒鳴ってはダメなんだよ、まあ、なんだ、しかし、ありがとう。
「ええ!? 私ですか!? ああ、また私、やってしまったんですね……。ごめんなさい私、まだ自分の力をうまくコントロールできてなくて、たまにこういうことが……本当にごめんなさい!」
お姉さんが、ほとんど泣きながらな感じで謝ってきている。
まだ尻がちょっと痛いけど、まあ仕方ない。代わりの弟が怒ってくれたし、許そうじゃないか。
「お姉さん、気をつけろよ、結構痛かったんだからな。まあ、もういいけど」
そう言って、打った尻をはたいて、汚れを落とし立ち上がる。ついでの弟も抱えて肩の上に乗せなおした。薬草で体力を回復したからか、気力は満タンだ。
「あの、本当にすみません……。ちなみにお二人はこれからどこへ? 私でよければ……護衛をさせてください。ここらへんに出てくるモンスターで私より強いものもいないですし……怪我もしているので守らせて欲しいです」
しょんぼり、といった様子でお姉さんがそう声をかけてくれた。
肩の上の弟と目を合わせると、弟が小声で俺に話しかけてきた。
「どうする兄ちゃん。彼女の強さは本物だ。だって、兄ちゃんて、まだバーサクの祈りの効果が継続してるんだよ。その状態で、ここまでHPを減らして怪我までさせたって……相当な実力者だと思う」
「んじゃ、護衛お願いするか?」
「いや、まって。でもさっきみたいな事故が起こったら終わりだよ。もっと慎重に考えた方がいいかもしれない……」
「んじゃ、断るか?」
「いや、でも、よく分からない森の中だし、やっぱりいてくれたほうが心強い……」
「コウジは、相変わらず優柔不断だなぁ」
だから間違えて、中学やらの勉強始めちゃうのかもなぁ。
「もう! ショウにいちゃんは何も考えずに行動しすぎなんだよ!」
「何言ってんだ! 俺は、スッゲー色々考えて行動してんだぞ!」
「じゃあ、兄ちゃんはすっげー考えた末に、お姉さんのことはどうするつもりなの?」
え? うーんお姉さんのこと? そうだなー。
俺は改めてお姉さんの様子をみる。お姉さんは俺達が相談している様子を、恐る恐るって感じで伺ってる。お姉さんは、『怪我もしてるし守らせて欲しい』って言ってたけど。本来なら、俺が守るべきなんじゃないか? あんなに華奢なのに、俺をあんなに吹っ飛ばすぐらいの力があるって言うのが信じられない。まあ、でも俺の家でも、一番強いのは母ちゃんだったしな……。
うん。
「よし、決めた! お姉さんに護衛を頼もう!」
俺はそう言うと、びっくりした顔をしたお姉さんのほうを見た。
「そういえば、お姉さんの名前聞いてなかったな。俺はショウジで、このトカゲみたいな奴が弟のコウジ。護衛、よろしくな!」
「あ、わ、私は、エステル。エステル=リシャール。そ、その、よろしくお願いします!」
力持ちのエステルと一緒に、町まで行くことになった。




