11 ムルク村、出発
目と脳みそが疲れたから、カード辞典を閉じて画面から目を離すと、弟のキラキラした目が俺を見ていた。弟はこのカード辞典の内容を読んで楽しんでるのか……。
癒しの何とかのカードの奴は何とか読んだけど、話もよくわかんないし……。
スメアリクは綺麗じゃないアネモザも好きだったから、偉いってことか? けど、アネモザは綺麗な自分が一番好きだったから、スメアリクは振られたと。でももともとアネモザに傷をつけたのはスメアリクっていう奴なんだから、嫌われてもしょうがないよな? よくわかんねーや。
「ねえ、見た!? すごいよ、ショウにいちゃん! ただ、強すぎて、カードの魔法効果を発動する時の消費MPがすごいことになってる……。それに、この特別カード……。特別なカードを何枚か集めたら、帰還のイベントを開くみたいなことを説明書に書いてあったけど、こういうカードのことかな……」
なんか弟がさっきからずっとブツブツ言ってきてる。
すげーな。あんなにたくさん。文字読んで、なんかぶつぶつ考え事してるとかよくやるよ。小学2年生の癖に勘違いして小学6年生の勉強をしてること以外は、結構優秀なんだよなー。
「なあ、コウジ、もう小学6年生の勉強をするのはやめないか?」
「え? なんで? それにもう僕、中学1年のほうにまで進んでるけど」
はあ!? 中学っておまえ、学年だけじゃなくて、とうとう学校まで間違え始めたのかよ。
「お、おい、大丈夫か、弟よ! なんで父ちゃんも母ちゃんも何も言わないんだ! 小学2年生の癖に学年勘違いして年上の勉強しちゃってるドジな弟を、なんでほっといてるんだ!」
「いや、別にドジで勘違いして上の勉強してるわけじゃなくて、自分のレベルに合わせてるだけなんだけど!?」
「いい、いい。分かってるから。兄ちゃんは、お前のそういうドジなところも嫌いじゃないぞ。まあ、でも、あれだな、無事日本に戻ったら、兄ちゃんと話し合おう。悩み事とか聞いてやるよ」
「いや、ちがっ、えっ!? ていうかショウにいちゃんの中で、僕ってそんなかわいそうな感じのイメージだったの!? それが何よりショックなんだけど」
何かを訴えてくる弟を優しい眼差しで諭す。分かってるよ、弟よ。にいちゃんは分かってるからな。
「絶対何も分かってないけど、もういいよ。そろそろ村を出発しよう」
そう言って弟は、俺の肩に飛び乗った。なんか乗り物扱いされてないか、俺。
まあ、でも、トカゲ姿の弟は歩きにくそうだし、俺大人だし、いいだろう。
俺達は、村長に今から出発するぜって挨拶して、村の出口まで案内してもらった。
門の前には、村人総出で見送ってくれるみたいで、たくさんの人が集まっていた。
けどその村人の中には、今朝苦しそうに息をしていた銀髪の女の子はいない。
確か、NPCとかなんだっけ……。
「なあ、あの銀髪の女の子……もう村の中にいなかったな。NPCだからか?」
「そうだろうね。村長に聞いたら、プレイヤーがきたら、伝説の道具を使って女の子を召喚して、イベントを発生させろっていう説明書が村にあったみたい」
「ふーん、じゃあ、あの子は、どこにもいないのか」
「いや、説明書に、基本的にNPCはこの世界に生きてる人の姿かたちをコピーして使ってるみたいなことかいてたから、この世界のどっかに、あの容姿の女の子はいるんじゃないの?」
へー、そうなのか。ふーん。
……この世界に生きてるあの子、元気ならいいな。銀髪の髪なんて、はじめてみたけど、すっげぇ綺麗だった。綺麗な黄緑色瞳で、笑うとちょっと可愛かった。ちょっとな。
俺達兄弟は、何度も村人に手を振りながらムルク村を後にした。




