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096.

 青木の事件がとりあえずの解決を見た翌週。

 木戸はなぜか学校の応接室の中にいた。よく保護者が呼ばれたときなんかに使われる部屋で、しっかりクッションのきいたソファーが置かれている。

 ついに両親呼び出しか!? と思うなかれ。今回は相談事があるというので一年の時の家庭科を担当していた羽田先生につれてこられたのだ。彼女はちょうど木戸達が一年だったころに新任だったので今年で三年目。年齢が近いというのもあって生徒からはフレンドリーだと評判の彼女は今年ようやく担任を持たせてもらえたらしい。

「おひさしぶりね、すっかりその……おおきく、なってないけど」

 わざわざクラスに訪ねてきた彼女は、開口一番そんな台詞を言ってのけた。いちおう木戸は家庭科の成績はいい方だし、調理実習もそつなくこなす上に他の生徒の面倒までみるので、そこそこ名前は覚えてもらえている。

「たしかに身長はこれっぽっちも伸びていませんが」

 伸びるやつは伸びるようだけれど、大抵高校生になれば身長は止まるものである。木戸もその例に漏れずに成長期が終了したわけで、それからというもの特に体格の変化はない。縦にも横にもだ。横はもちろん体型維持を心がけているからだけれど。

 そんなやりとりをしながら仰々しい応接室につれていかれて、お茶まで淹れてくれたりすると、少しばかり緊張した面持ちにもなってしまう。

 応接室は三つあって、基本的にはお客さんがきたときに使われる。けれども生徒が入るとしたら理由は大抵、親が呼び出されて説教くらうときと決まっているので、処刑部屋なんていうふうにも言われている位だった。

「さて。実は困ってることがあってね。まわりに声が漏れるとまずいからここ借りたんだけど」

 ここならば外に音は絶対に漏れない。壁は分厚く作られているしたとえ壁に耳を張り付けていても音は漏れない作りになっているそうだ。

「まず、木戸くんは四月下旬からここ一ヶ月、学ランを着た一年生の女子が何人かいるのは知ってる?」

「いえ、初耳ですが」

 学年が違うと部活に入っていない木戸としては情報が全く入ってこない。なのでそんな面白そうな子たちが居るのははじめて聞いた。

 学ラン女子である。一部の層に人気があるといわれる、ギャップによる可愛らしさがいいといわれている存在だ。運動会なんかの応援でくらっとくる男子はそれなりに居るらしい。是非とも撮らせていただきたい。

「これはなにかの反抗なのかどうかってことで。呼び出してきいてみたの。そしたらね。三年にも女の子なのに、学ランの子がいるからって」

「へぇ。三年にもいるんすね。見たことないような気がしますが」

「ええ。木戸くんは見えないでしょうさ。あの子達が出した名前があなたなんだもの」

 ほら。この写真見せられて、この子がいいならうちらもいいじゃないですかってさ、と去年のイベント写真で木戸が写っているものを彼女はぴらぴらと揺らす。 

「ば、かな」

 まさにその言葉の通りである。男子高校生を捕まえて、学ランきてる女子扱いをするにはいろいろと無理がある。女装すれば女子に見える状態である自覚と自信はあるけれど、学ランで女子に見えるっていうのはさすがに聞いたことはない。

「どうしてそんなおかしい話がでたのです?」

「そりゃ先生だっておかしいと思ったわよ……でも本人達がそう言ってたわけだし、それにね……先生からみても、言われればそうだなぁって思うし」

 うぅ。先生からもそう言われてしまっては、どうすればいいのだろうか。

「言われないと気づかないはずなんですが……でも、いちおう男子生徒ですからね?」

 念を押すと彼女は、いちおーわかってます。と曖昧な返事をしてくる。

 いろいろと思い出して見れば、普段の木戸なんぞは普通に男子生活だ。口調の仕草もそう女子っぽいわけではないのにどうしてそうなってしまうのだろうか。

「それで? せんせはその子達になんて言ったんですか?」

 きちんとした情報与えたんでしょうね、と詰め寄ると、え、ええ。と顔を背けられた。どういうことだその反応は。

「いちおー、木戸くんは男子って話はしました」

 でも。

「信じてもらえなかったんよー、すまねぇー」

 ばかな。

 何度でも言おう。どうして眼鏡男装状態でそうなる? 確かに最近実はかわいいだなんて言われてはいるけれど、男装疑惑はそんなになかった。

 せいぜい崎ちゃんに、男装女子だって誤解されたくらいだ。

「どっからどーみても、この写真は男子でしょう? どうすればこれで男装女子だって結論になるのか、脳みそほじくり返して見てみたいところです」

「んー、女子から見ればほら、髪質とかさ? 肌のケアとかそこら辺がね」

 一年のときより髪のつやとかいいし、肌だって半端なくない? といわれて、うわーと思った。

 確かに一年の初期より木戸の髪質は良い。トリートメントをしっかりしているっていうのもあるし、そもそもウィッグの下の地毛にこだわり始めたのは高校に入ってからだ。女の子は細かいところまで見るというけれど、あれだけ隅っこ暮らしをしていた木戸の隅々を見ようと思うのはずいぶんと酔狂である。

「今時男子高校生だって、スキンケアくらいしますよ! 女性用のシャンプーとかつかってるやつだって、いるし……」

「そりゃ時代の流れとか、家族共用でおかーさんのをつかってて、お父様も髪の毛さわさわなんてこともある時代だけど、木戸くんの肌レベルは、群を抜いてしまっております。ありえない」

「そりゃ認めますよ。うちのスキンケアはすごいけど、だからって学ランで男装疑惑はないでしょう」

「そこは個人の感性だしなんともいえぬ」

 査定はあくまでもその人次第だし、といいつつ、さらに彼女は言葉を重ねる。

「それに木戸くんは印象薄かったわけだけど、ちゃんと見ればかわいいじゃない。一昨年よりずいぶん色っぽくなったと先生は思うな」

「め、眼鏡がすべてを隠してくれます。そのための眼鏡なんですから」

 じぃと覗きこむその視線に嫌そうな顔を浮かべる。

 印象が薄い、影が薄いといわれている木戸だけれど、基本的な部分のケアはしっかりしているので見る部分によってはすさまじいケアっぷりという話になってしまうのだった。そりゃルイをやるためにはしかたがないことなのである。

「まあ、ともかく、その三人のために木戸くんには一肌脱いで欲しいの」

「実際にあって裸になれとかそういうのは勘弁っすよ」

「あはは。さすがにそこまでは。男子だよーっていうのは喋ればわかるじゃない? 声は低いのだし」

 それで天使ボイスならたまらんのになーと、言われてしまったのだが、聞かせてはやらない。

 特にこの教師にだけは聞かせるわけには行かない。

 そう。彼女はルイとも面識がある相手なのである。

「ともかく、男子だって所を見せて、男装するのは浮くからやめろって言えばいいのですね」

「その通りです」

 たのんますと言われると、もうホントに教師の威厳がないのなぁとため息しかでなかった。

 



「ここが応接室かー、まじ綺麗なんですけど」

「だよねだよね、一年で入ったのってうちらが初めてかも」

 テンションあがるーと、その三人組は部屋に入るなりすぐにきゃーきゃー騒ぎ始めた。

 確かに学ランである。けれどもそれ以外の行動に関しては思い切り女子だ。

 千歳の例があるので見極めてからという風にも思っていたのだけど、そう深刻な問題でもないのかもしれない。

「さて。それで今日来てもらった理由は、言うまでもないよな。羽田先生に頼まれた。どうしてお前ら学ランきてんの?」

 ストレートに尋ねると、彼女達は、えーだってーとギャルっぽい反応をしてくださった。

 地味に木戸の身近にはよい所のお嬢さんというのしかいないので、木戸のテンションでこれの相手をするのは少し大変である。コスプレイヤーさんはこういうテンションの子は割といるのだけど。

「学ランってかっこいーじゃないですかー。しかもちょっとブカってるのとか着ると、可愛さまででてしまうマストアイテムだしー」

「だよねー。それに冬とか女子の制服寒いしー」

「季節で変えられるといいと思うんです。そもそもどうして違う制服着ちゃいけないんですかー」

 矢継ぎ早に三人に問い詰められて、うぐっとロウテンションの木戸は狼狽ぎみになる。

 いけない。後輩に飲み込まれそうにならないようにしないと。

「それなら私服の学校いけばよかったんじゃ」

 可愛さを追求したいとか学校で言い始めるのなら、私服の学校に行けば良いのである。ここいらにも二、三校はそういうところはあるはずだ。

「そりゃそーなんですけど。偏差値高いところしか私服じゃないじゃないですかー」

 制服がある理由。それは規律を守らせるためというのが一番大きいだろう。ゆえに制服じゃなくても悪いことをしない、非行に走らない頭が良い学校しか私服登校を許可していないのだ。木戸の学校もそこまで学力低くはないものの中の上くらいというのが妥当なので、私服になんかできるはずもないと教師達は考えているに違いない。

「だったら、ちゃんと制服着ようよ」

「えー、せめて夏服になるまではこのままがいいなー」

 ねー、と三人で顔を見合わせているのにはげんなりしてしまう。

 どうしてこんな説得を自分はしているのだろうか。

「夏服になったら着替えるか?」

「えー、どうしよっかなー。夏服もすらっとしてかっこいいしー」

「スカートの方が断然涼しいし、快適さをとるならそっちだろ。それに、なんか男子制服でブラ紐が透けると言う変態感はちょっと勘弁して欲しい」

 彼女たちは四月下旬からこうなのだという。だから実際夏服はまだきていないのだろう。想像で着るのと実際は違うのである。夏服は薄いから下着が思い切り透けるのである。

「透けるって、そりゃーちょっと勘弁ですけどー」

「世の中にはサラシというものもあるというしー」

「サラシは胸のかたちがつぶれてよろしくないって話だぞ」

 昔仕入れた知識を、こんなことで使うはめになるとは思わなかった。

 サイズの合わない下着を着けていると胸はたれるし変形するし大変なんだよーと、胸があんまりない姉の友達が昔懇切丁寧に教えてくれたのである。あの人、今はどうしてるのだろうか。

「先輩は全く使う必要なさそうですね」

「ったりまえだ」

「あはは。わかってますってー。確かに話に聞いてたとおりかわいいけど、男の人ですよね」

 声でわかりますと彼女たちは言った。どうやらさっきのサラシのくだりはこちらをからかっただけらしい。

 当然だ。木戸の地声はそれなりに普通に男子の声である。

「じゃあ、逆になんで異性の制服きちゃいけないんですか?」

 三人の中では一番おとなしめな子が、反論してきて思わずうぐっと言葉につまる。

 女子の制服を着て学校をうろうろしている身としては少し思うことはある。

「校則的にだめなんじゃないか?」

「でも、校則には指定の制服を着用すること、としか書いてないんですよ。男子と女子の制服のどっちかをきればいいってことじゃないですかこれって」

 ああ、なるほど。誰も異性の服を着てくることを想定していなかったから、校則としてはそこまでの明記はないのか。まったくこの反論聞いてるなら羽田先生も先に言ってくれればいいのに。

「となると、教師の言い分の方がおかしいってことか」

 ならば、夏の惨劇のことだけ想像しておいてくれといいつつ先生にメールを送る。彼女は近くの部屋で待機しているのだ。

 そして扉が開かれると羽田先生が入ってくる。

「ど、どうかな? 話はきけた?」

 こそこそとこちらを窺うように彼女は怯えながら中の様子を観察する。

「話は聞きました。別にファッション感覚なのだし、校則違反でもないのだから学ラン登校でもいいんじゃないのですか」

「風紀が乱れるって喜一センセーにおこられるー」

 ちょっとーミイラ取りがミイラにならないでよーと、羽田先生は情けない声を上げた。

「そうはいっても、これは俺の管轄外ですよ。やめさせたいなら生徒総会でもやって学則かえなきゃですよ」

「えええ、そんなおおごとになっちゃう?」

「制服の規定がザルなのがいけないんじゃないですか。やめさせたいなら変えるしかないですよ」

 こちらの方が正論である。しかも彼女たちは男になりたいとかそういうことをいっているわけではないのだから、好きにやらせればいいのだ。じきに飽きてやめるだろう。

「そこをなんとか! 指導力がないとか先生が喜一先生に怒られてしまうのです」

 たのんます、と若いねーちゃんである羽田先生はぱんと手を合わせてきた。どこまでも泣き落としである。

 それを見て、三人はお互いうなずきあった。

「じゃあ、木戸先輩が女子制服着るならうちらも着ようかな」

「え」

 ここでその流れはどうなのでしょうか。先ほど確かに男の人だよねーと言ったではないですか。

「通わせるってことでないなら……」

 じぃと視線がこちらに突き刺さる。なんとかしてちょーだいといううるうるした目を向けられてしまうとどうにも断りづらい。

「ちょっとだけなら、いいですよ」

 はいはい、仕方ないです、と言ってやると三人はきゃーと黄色い声を上げたのだった。

 写真撮影はだめだからな、という声が届いているのかどうか、いささか不安である。



「さて、採寸採寸っと。ばっちり身体に合うの選んであげるからねー」

「あの、先生がいっちばん楽しそうなんですが」

 被服室。彼女の城であるこの部屋で木戸は体操服姿にさせられていた。

 どうせ着るなら、としっかり採寸をしてばっちり似合うのにするのだと巻き尺で各所を採寸されているのである。

 既製品の服を着るのにどうして二の腕とか足首とかまではかられてるの? って感じなのだけど、そこはもう家庭科教師の本能のようなものなのかもしれない。というか、服を作る人としては反射的にここまでやるのか。

 そう。彼女の前で木戸が女声を出さない一番の理由は、彼女がルイを知っているから。つまりこの人もコスプレイヤーなのである。うちの学校はレイヤーさんが多いけれど、それでも三月にコスプレパーティーなんてやれてしまったのは教師側にもいたからというところが大きいのだろう。

「やーねぇ。着せ替えはいつになっても楽しいじゃない。自分で着るのもいいけど着せるのちょー楽しい」

「無茶はせんでくださいよ。スカート丈も膝上五センチくらいまでで」

 どんな暴走をするかわからないので釘をさしておく。

 ルイが使っている制服はスカートのてかりっぷりとかは三年生って感じで好ましいのだけどあいにくスカート丈は短すぎる。あれを穿きこなせるようにはなってしまったけれど、それでも安全な方がいいのである。普段のルイの私服はそこまで攻めたものはない。危ない橋は渡りたくないのだ。

「わかっておりますよ。男子にそんな無茶な。う。無茶をさせたくなるサイズだ」

 巻き尺をあてながら先生は顔をひきつらせる。表にサイズを書き入れながら、まんま女子じゃないですかいと呟いたのが聞こえた。いや、そうはいっても胸とかないしまんまはないとは思うのですが。

「よしっ。じゃあえーっと、これで。さぁお着替えをしましょう」

「ハーフパンツは脱ぎませんからね」

 木戸がブリーフ派であることはメイド喫茶に行ったときにお伝えしたけれど、それでもスカートが翻ってそれが見えてしまう危険は避けたいので先に伝えておく。ルイ状態でパンチラするのであれば、しかたないかとは思えるけれど、木戸の女装状態でのパンチラは美学に反するのだ。もんまりはいいとしても下着が男子のものだと知られるのがとても嫌なのである。

「大丈夫よー。穿いててもちゃんと隠れる丈にしたので」

 ささ、どうぞどうぞと言われていそいそ着替えを始める。

「しっかしそんなに予備があるってどういう状況なんですか?」

 着替えながらそんな疑問を口にする。制服だってお値段はそこそこするしサイズまでしっかりあわせたものをこんなに用意する必要はあるのだろうか。

「いちおう、制服汚しちゃった子用なんだけどね、卒業生のお下がりとかちょろちょろ集めておくとこういうこともできるのですよ」

 なるほど。そういう風に集めたものであればたしかにお金をかけずに制服も揃えられるかもしれない。

 そんなことを思いながら、まずはブラウスとスカートを装着していく。

 木戸の学校の女子制服はブレザータイプである。まだ衣替えはしていないので、冬服だ。

 ブラウスとブレザー、そして首回りにはノーマルリボンかリボンタイのどちらかを選べる。学年によってこれは違っていて、実はルイが使っているのは一昨年の三年生のものなので、現在二年生と同じ色のものだ。そこが違うのはかなりありがたい。スカートはプリーツが入っているもので、これ、クリーニングに出すとそこそこお高いのだよなぁと貧乏性がつい表に出てしまう。まあ、いままで衣替えのときくらいしか出していないけれど。

「普通にリボンでいいかな? それともきりっとリボンタイかな?」

 どっちがいいかなぁと? 小物をあさっている先生に問われる。ルイの装備が普通のリボンなので、タイの方でお願いする。

「うおっ。普通に女の子にしかみえませぬぞ」

 リボンタイをつけてブレザーを羽織ったところで、彼女は興奮ぎみに素をだしていた。オタクとしての独特な喋り口調である。

 靴下は男子のままなのだが、そこはなんかそのままでいいらしい。ルイのときは紺のハイソックスとかを装備していることが多いので白い普通の靴下というのはイメージが違っていいだろう。

 そして眼鏡もシルバーフレームに変えておく。

 別に女子っぽくする必要もないように思われるのだが、おそらくいつもの黒縁眼鏡をつけているとそこだけが目立ってしまって、はずしてくれとせがんでくるに違いないのだあの手の子たちは。

「これで声までばっちり覚えればきっと、エレナたんばりの完璧な男の娘レイヤーになれるに違いないっ。いや、馨たんっ。一緒にコスプレ業界の風になろう!」

 きゅっと手を握られてしまったのだが、さすがにそれに賛同することなんてできるわけはない。

「先生はエレナ男の娘派なのですか?」

「そりゃもちろん。そのほうがいろいろわくわくするじゃない。それに今、馨たんが爆誕したのを見てしまったら、無理ではないなぁとしみじみ」

 そりゃ、無理なく男の娘で女装しているのがエレナだけれどあんな天然物は滅多にいないものである。この程度で追い付いただなんてことはまったくありえない。

「ま、それは考えておいてもらうとして」

 入っておいでよーと、廊下に声を投げ掛ける。

 着替えている間は学ラン三人娘には外に出てもらっていたのだ。

「うわっ。まじやばいんですけど」

「ちょーうける。普通に美人さんだ」

「先輩。なんかしゃべって」

 ほらほらとせかされて、何をいってやろうかと逆に考えてしまう。特別言うこともないのだが。

「これで満足か? はっきりいってスカートはかなりすーすーするぞ」

 一般的な男子が女装したときの感想を伝えて見た。もちろん男声である。自分でやっていてやだなぁと思うのだが、変に騒がれても困るので一般的な女装した男を演じようというわけなのである。特別女装慣れしてることは隠してはないのだけど、この三人にはなんか言いたくなかったのだ。

「たしかにきれいだけど、動きと喋りはふっつーに男だ」

 まじうけるーと、三人の一人が手を叩いて喜んでいた。

 ううむ。これはこれで精神的にダメージがくるものだ。や、やろうと思えばしぐさも声も完璧に仕上げられるんですからねっといってしまえたらどんなに楽か。

「これは是非とも、写真に残して置きたい……」

「さっきもいったが、写真はダメだぞ。お前達のためにわざわざこんなことしてるんだから、それくらいは言うこと聞いてくれ」

「はーい。あ、でもせっかくだから、かわいいポーズとかとってみてくださいよ」

「そうね! せっかくなのだから壁に寄りかかって彼氏を待つ少女風で、どうぞ!」

 ミイラ取りがミイラになったのは、羽田先生。あんたのことだと思います。

 けれど、その注文の通りに壁に軽く背をつけて、時計をチラ見する姿を演出する。

「んはー、かわええ。まじで木戸くんデビューしようよ。業界でトップを目指そうよ」

 はぁはぁと、心の中でシャッターを切りまくってるであろう羽田先生は、生徒の前だというのにコスプレ会場のノリで異常なテンションになっている。

 逆にそれを見てしまった学ラン三人娘は引いてしまったようで、うわぁと可哀相なものを見るような視線を向けていた。

 はい。君たちの担任の先生は趣味まっしぐらのおもしろいお方なのです。

「それで? 学ラン着るのやめる気になったんか?」

「そろそろ潮時かなーとも思うんで」

 まあ、良い機会で、おもしろいものも見れましたしね、と三人は素直に引き下がった。

 明日からはきちんと女子の制服でくるようになるのだろう。

「あ、でもセンセ。時々は気分で学ランで来てもいいですよね?」

「うぅ。結局風紀が守られない」

 ぐすっと羽田先生は今時の女子高生にがっくり肩を落とすのだった。

 ま、まにあった! 10時予定だったので、ひやひやいたしました。仕事もおしたしね。作者いちおーこれで社会人なので、今回はちょっと無茶をしました。


 で、でも、木戸君を学校で女子制服きせる機会なんてあんまりないので、こんなことを画策です。羽田先生がこんなにはじけた人になる予定ではなかったのだけれども。25、6のレイヤーさんなら、教師だってこんなんですよね。

 再登場予定はないのだけど、イベントでばったりはあってもいいかもしれない。


 さて。次回っていうか、明日の朝ですが。エレナの誕生日会二年目です。こっちは原案あるので楽ができる……

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