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086.


 春休み。

 終業式が終わって少したった日曜日。

 カーテンの隙間から差し込む光に目をぎゅっとつむりながら、んぅうと甘い声を漏らす。馨としてはもちろん無意識だ。寝ている間のことは本人にはわからない。

 眼鏡は枕元にちょこんと置かれてある。

 時計の針は短針が八をすぎた当たり。ぴりりりりっと目覚まし時計が鳴ると片手でがしっとそれを止める。無意識だ。半分意識が混濁しているような状態で、ふあっとあくびを漏らす。

 ちなみにあくびの音はあまり声帯が震えない関係で、息が抜けたような音になるので、男女でそんなに差はでない。

 目をこすりながら布団をめくろうとして、まだまだ冷えている部屋の空気に反応してもう一度掛け布団をぱたりとかぶる。

 うぅ。ぬくい。

 さすがにもう春休みだから、ここしばらくは温かい日が続いていたのだけれど、昨日の雨と今朝の蒼天でずいぶんと気温が落ちているらしい。こういう日はぽかぽかした布団の中というの本当に心地良い。

 意識が半分寝ている状態で、春休みの予定をちらりと思い出す。

 自由に動ける最後の時間をどのように過ごすか、というところはとても大切だ。

 この前はひょんなことからおいしいお菓子屋さんを見つけたりと、春休みにもそこそこ動いているけれど、四月からのことを思えば精一杯いろいろなことをしておきたい。少なくともこの一年はかなり行動が制限されることだろうし、思い残しの……ないようになんて無理なのだろうけど、めいっぱい遊んでおきたいのだ。

 そんなわけで、今日はめいっぱい普段のボクを撮って欲しいと言われたのが卒業式が終わったあとすぐのこと。

 春休みの予定はどう? と言われたので指定したのが今日の十時から。外から差し込む光の加減を見ると、かなりの撮影日和だ。昨日まで降っていた雨と、今日の日差しとで合わせると良い感じになるだろう。

 エレナとの待ち合わせの時間は十時。

 準備をして、機材チェックをして、とやったとしてもあと三十分はこのままぬくぬくしていても十分に間に合う。

 けれどもそんなとき階下から、母の声が響いたのだった。

「あらっ。あらあらあらっ。馨ー! お客さんよっ」

 その前にピンポーンというチャイムの音が鳴っていたかどうかはわからない。

「んん。お客って誰だいったい……」

 エレナとの約束があるから、特別他に人とあう用事はいれていなかったのだけれど。

 けれどもとりあえずは顔だけは出さないといけないと思って、寒い部屋の中にがばりと起き上がった。

 空気を吸うようにすでに眼鏡も装着済み。

 とてとてと階段を下りてこそりと誰が来たんだろうと伺うと、そこにはコート姿の彼女の姿があった。

「って、まだ早いよね!?」

 その姿を見て普通に女声で驚きの声を上げてしまった。

 そう。そこにいたのはもうちょっとあとに待ち合わせているはずのエレナの姿だったのだ。

「うわぁ、思いっきり寝起きだねぇ」

 にこにこと笑顔を浮かべているエレナ(かのじょ)は、思い切りこちらの全身を上から下まで見渡した。

「ごめんなさいね。うちの子今日はゆっくりしちゃってたみたいで」

「いえいえ、私の方こそ早く来すぎてしまって」

 これ、絶対に確信犯だ。前にルイちゃんちにも行ってみたいというようなことを言っていたので、それを実現させましたということだろう。

「顔あらって着替えてくるから、とりあえず居間にいてもらって」

 とりあえずエレナの相手はかーさんにしておいてもらう。

 ちなみに父は休日出勤でもう家を出ているらしい。良かった。あの父がいたらもう、うちの息子をこれからもよろしく!とか鼻息を荒くしていただろう。かわいい子には目がない父だし、エレナくらいとなるともう無遠慮にかわいいなぁーなんて鼻の下を伸ばすに違いない。

「あんましエレナには寝起きは見られたくなかったよなぁ……」

 別に泊まりに行ったりということも気兼ねなくできる相手ではあるけれど、男子としての寝起きをあの子に見られるのはなんとなく複雑なのである。

 いったん眼鏡を外して、丁寧に洗顔をしてからすかさず化粧水を肌の上に伸ばす。冷え冷えの感触がわずかに残っていた眠気を晴らしてくれる。メイクはとりあえずは保留して、寝癖を直しておく。洗面所でやるのはとりあえずはここまでだ。

 そして着替えをすませてから眼鏡を外してコンタクトに付け替える。どうせ今日はこっちなのだし、いまから入れてしまってもいいだろう。ちなみに着替えた服は男子のそれだ。

 姉が帰ってきた時のことを思い出していただければわかると思うけれど、家の中でルイをやるのは最低限にしておくことにしている。放任はしてくれていても目の前に完全に女装した息子がいるという現実はどうやらまだ受け止め切れていないようなのだ。

「おまちどー。とりあえず朝ご飯食べつつ、になっちゃうけどいいよね?」

 ダメとは言わせないから、と女声まで高くしないように気をつけながらエレナに言う。

「おぉっ。これは珍しいねー。まだ馨ちゃんって呼んで置いた方がいいのかな?」

 それともルイちゃんって呼んじゃっていいのかなぁと相変わらずあまあまな声を漏らして下さる彼女は、温かい紅茶を両手でしっかりと持ってほっこりとしている。

 彼女がそういう理由は単純。眼鏡を外して男装している状態というのが珍しいからだ。

「まー、どうせ後で着替えるんで眼鏡は外してるんだけど……服まではかーさんが気にするから」

「えぇー。放任されてるだけいいじゃない。うちなんて協力的なの、中田さんだけだよ」

「まだお父様はさっぱり気づかない感じなんだね」

「お父様はお忙しいし……それにコスプレとかに興味ないから、そっちのほうには視線を向けないもん」

 まだまだ全然平気ーと言うところで、目玉焼き二個でいい? とキッチンから声がかかる。

「片っぽ半熟でお願い」

 はいはーいと、いう母の声はいつもより浮き立っているんじゃないだろうか。

「それで? かーさんと何か話してたの?」

「自己紹介というか、馨ちゃんとの関係性とかそういうところの説明と、世間話してたところ。いちおー彼女じゃなくてパートナーですって言っておいたけど」

 パートナーという単語は実は割ときわどい意味合いにとられることもあるのだけど、後でなにか言われたらきちんと説明をしておこう。厳密に言えば撮影者と被写体という意味でのパートナーであると。

「それと、性別のことはルイちゃんのおかーさまであっても内緒ってことで」

 しぃーと人差し指を口元にあてる仕草は本当にはまっていて、すぐにでもシャッターを切ってしまいたいほどだ。

「それはわかってる。ていうか、男の娘レイヤーなのは知ってるから、明言だけ避ければいいんじゃないかな」

 まー明言さけちゃうと確実に女子だと思われるだろうけど、と苦笑を浮かべる。

 どこの誰がこの目の前の子を見て男子だと言えようか。

 コートを脱いだ今の姿は、黒のミニスカにニーソックス。上着は制服に似た感じのジャケットと中は白ブラウス+薄紅色のカーディガン。胸元には黄色のリボンをつけている。

「にしても、今日はずいぶんと攻めたね。私服割とふわっとしたの多いだろうに」

「んー。ルイちゃんとデートだしね。たまには女子高生っぽい感じにしてみようかなぁって」

 そう言われると確かに制服っぽいと言えば、ぽい。スカートの丈に関して言えば、ルイの制服姿と同じくらいだろうか。絶対領域が数センチできているけれど、その細さはそこいらの女子より一回りはすらっとしていて、そのくせ筋肉の張りがしっかりとしている。思わずテーブルの下をじぃっと見てしまうほどには魅力的な足だ。

「こらっ。あんた年頃の娘さんになんてことしてんの」

 こつんと頭をお盆で叩かれると、ぽこんといい音がなった。くっ。そりゃまあー見とれてはいましたが。

「なにって、ちょっと太ももを見てただけでデスネ」

「なにを悪びれずにそんな……」

 ううぅ、うちの子が変態に育ってるーと、母はうわーんとこちらを白い目で見てくるのだが、誤解だ。これは別に変な意味があって見ているわけではないのだし。

「あははっ。別にルイちゃんはいっつもこんななんで、気にしたら負けです」

 気にしてないので大丈夫デスとエレナがフォローになってないフォローをしてくれる。いつもからこれってそうとうダメ人間みたいに聞こえてしまうじゃないか。

「べ、別に、ふとももばっかり見てるわけじゃないし、変な写真撮ってるわけじゃないんですからねっ」

 もう、母の前だろうと別にいいや。完璧に女声に切り替えてエレナと向かい合う。

 そう。こっちの感覚としては別にやましいところはまったくない、ということのアピールである。

「あんまり、変なことしちゃ、怒りますからね」

 でも、母にはあまり効かなかったようで、やれやれと肩をすくめて朝ご飯の支度をしてくれた。

 テーブルにはトーストとサラダと目玉焼き。その脇にはベーコンが盛られている。

 一般的なブレックファーストである。

「いただきますっ」

 かりかりなトーストにマーガリンを軽く塗ってから、んぐっとかぶりつく。

 いつもより朝ご飯の時間が遅いのもあって、いつもより空っぽなお腹に表面かりっとしたパンがもちもちと心地よい。よい焼き加減である。

「なんか、こういうの、いいなぁ……」

 エレナがそんな様子をじぃと目を細めて見つめていた。別に普通の光景なんだけれどなぁと思いつつ、普通じゃないのかと思い直す。

「エレナんとこは朝ご飯は一人なんだっけ?」

「うん。だいたい中田さんが用意してくれる感じかな。時々自分で用意したりはしてるんだけどね。やっぱりその……まったく料理できないっていうのは、よーじにも悪いし」

 ちょっとずつ練習中と、はにかむ姿はかわいいのだが、ちょっとだけ寂しそうな感じもする。

「お父様とは一緒じゃないんだ?」

「んー、月一回あるかないか、かな。でもそれが休日にかぶると最悪なんだよね、じっくりとご飯一緒って感じになるんだけど、かわいいかっこできないし」

「そこはジレンマなのね」

 お父様と食事は一緒にしたい。でもかわいい格好もしたい。そこは今のところ解決のできない問題なのだろう。

 ちなみに、エレンの母親のことはいままで一度も話題に上がったことはない。家にいる気配もないし、どうもつついちゃいけない藪のようなのでエレナが自分から説明してくれるまでそのままにしている。

「そうだよー。ジレンマっていうと、友達同士でわいわいご飯ってのも憧れるんだけどねぇ。みーんな朝ご飯はお家でしっかり食べてくるし……」

 放課後だって、あんまりファミレスとかファーストフードとかいかないし、と愚痴られてしまった。

「や、でもそれ、あたしもそうだよ? 放課後はバイト忙しいし」

 当然、朝ご飯を外で食べるというような文化もない。忙しいサラリーマンとかは外で食べるのだろうけど、うちの場合はきっちり家でという感じだし、なによりお金がかかるのが厳しいのである。

「うぅっ。ルイちゃんっ。今度奢ってあげるから、朝ご飯一緒に食べようよ!」

 きゅっと手を掴まれて懇願されてしまうと、どんだけ朝ご飯外で食べたいのですかといった感じなのだけれど、彼女なりに憧れみたいなのはあるのかもしれない。

「でもそれ、結局土日だけになっちゃうから、いつものお出かけとあんまりかわらないような」

「くぅっ。じゃあ平日でっ」

 朝、ちょっと早くでて、是非途中で落ち合ってご飯食べようよと頼まれても、首をふるふる振るばかりである。

 やってやれないではないとは思う。

 合流できそうな町もある。確かにエレナが行きたいであろう大衆向けの所はある。

 けれども、想像していただきたい。

 お互い男子の制服姿同士なのですぜ。別に気にはしないけど、エレナが求めてる展開とはちょっと違うのではないだろうか。

「うぅっ。ままならない……」

 その結論に行き着いたのか、エレナがくすんと拗ねた。

「ま、その分今日はいろいろと連れ回してあげるから、機嫌を直してくださいな、私の女主人(マイロード)」 

 かりかりなベーコンを噛みしめながら、そんなエレナに今日の予定を伝えると、彼女は楽しみデスと笑ってくれたのだった。




「エレナと銀香くるのは初めてだよね?」

「うわぁ、ここが銀香町。ルイちゃんの行きつけのところ、かぁ」

 エレナは物珍しそうに周りを見ていた。

 コスプレ会場になるところは、都心の公園ということも多く、ここまで田舎っぽいところにあまり縁がなかったのだろう。 

「あら、ルイちゃん久しぶりねぇ。あらあら。今日はきらきらした子を連れてるのね」

 いつもの子じゃないんだ、と言われて、はいと弾んだ声を返す。

 駅を下りてから商店街に入って、数枚写真を撮ってから向かったのは、おなじみの総菜屋のおばちゃんのところだ。揚げたてのコロッケを是非ともエレナに食べさせてあげたいと思っていたので、まずはここから。

 当然、初めて商店街に訪れる君、みたいな感じの写真もエレナをモデルにしてガンガン撮っているのは言うまでもない。

「初めまして。エレナと言います。ルイちゃんとはその、写真を撮ってもらってます」

「あらあら。モデルさんなのかねぇ。ルイちゃんはおばちゃんのことすら綺麗に撮るから、貴女みたいな子ならすごいのできそうね」

「本人は、人物はそうでもない、自然の方がーみたいなこと言ってますけど、わたしはそんな写真大好きです」

 二人がなんだか嬉しいことを言ってくれるのだが、とりあえずお財布を出しておばちゃんにコロッケの注文を入れる。最初の時はさすがに珍しがられたけれど、ここ一年はちゃんと時々お腹が空いたときに買って食べているので、おばちゃんはいつもみたいに、はいよーと、揚げたてを奥から出してくれた。

「牛肉コロッケと野菜コロッケ一個ずつね。熱いから気をつけて」

「ほっかほかですね」

 小銭で支払いを済ませてコロッケを受け取る。さくらに初めて食べさせた時は、味を知ってる牛肉コロッケだけだったけれど、野菜コロッケもあっさりしていておいしいので今回は二種類だ。

 メインの牛肉の方はエレナに渡して、こっちは野菜コロッケをはむりとかじる。

 ふわんと白い湯気が立って、口の中にはふはふ熱が広がっていく。

「じゅーしー。うわぁ。揚げたてのコロッケの食べ歩きとか初めてだし、おいしいねっ」

 しあわせーと、目を細めてるところをカシャリと一枚。

 片手がふさがっているので、右手だけで撮影。予めシャッターボタンを押すだけで済むような状態にしておいたけれど、ぶれてないといいなぁと思う。

「でしょ? 野菜の方もさくさくで好きなんだよね」

「ああっ、そっちも食べたいかも」

「はいはい」

 ほれ、お食べよと、コロッケを差し出すと、はむりとエレナがそれにかじりつく。お嬢様とは思えない姿ではあるけれど、こういうのもかわいいよね、と思う。

「ホント、仲良しさんね。前に一緒にいたカメラの子とは、そういうノリじゃなかったと思ったけど」

 ルイちゃんに気が許せる友達がいて良かったと、おばちゃんは前にさくらを連れてきた時以上に頬を緩ませていた。

「さくらはちょっとクールさんですからね。こういうことは恥ずかしがっちゃうんですよ」

 別に、彼女と仲が悪いわけではなく、純粋にこれは性格の問題なのだろうと思う。

 女子同士だと良く、お互いの注文を一口ちょうだいみたいなのが普通にあるけれど、男女の仲だとそれこそ甘い関係じゃないとなかなかそうはならないだろうし、男同士だと……まずい。男同士がわからない。

 さくらとルイの関係性だと、お互い自分で食べたいものをそれぞれで、という区分けをしっかりしているように思う。二人ともカメラをやるからかもしれないけれど、さばさばしているところがあるのである。

「さて、それじゃごちそうさまです。撮影行ってきますね」

「はい、お粗末様。まだぬかるんでるところとかあるから気をつけるんだよ?」

 もちろんですと、うなずいて手をウェットティッシュでぬぐう。もちろんエレナの分もとって渡してあげるのはご恒例である。

「次はどこに連れて行ってくれるの?」

「まずは、この町のメイン、銀杏の大樹さまからいこうっ。この時期まだ葉っぱは出てないんで、ちょっと可哀相な感じではあるんだけど」

 冬を越すための姿になっているのですよ、というと、じゃーそこに向かおうと腕を引かれた。

 いちおう一年の銀杏の姿は、HPにも載せているしエレナも見ているから、生が見れる!と楽しみにしていたのだった。

「にしても、これだけ高い建物がないっていうのは、見慣れてないから不思議な感じするねぇ」

 商店街を歩きながら、エレナが周りにきょろきょろと視線を向ける。

 確かに彼女が言うとおり、ここには高い建物はない。小高い丘になっている森はあるけれど、遠くまでが見渡せるくらいに、飛び出た建物というのがまったくないのである。

「商店街は割と建物多いほうなんだけど、少し入ると田んぼとかもいっぱいあるしね。これくらいのどかな景色の方が好きなんだよね」

「確かに、ルイちゃんっぽいといえば、ぽい、のかな。ちょっとだけ日常と違う場所っていう感じもするし」

 木戸家の周りをつい先ほど散策してきたエレナの指摘は確かにそうだなと思わせられた。

 最初に銀香を選んだ理由は、ただなんとなく、だった。偶然ここにあの銀杏があって、そこに引きつけられて意味を持って銀香町に来るようになったけれど、最初の一歩は普段とはちょっと違う所を無意識に選んでいたのかもしれない。

 もちろん、人が少ないところを選んだというのはあるにはあるのだけど。普段の住宅街よりもちょっと離れた「近くにある異界」を求めていたのかもしれない。

「わたしも普段とは違う場所っていうのはほっとするから。なんかここにいると気兼ねしないでいいのかなって気分にはなっちゃうね」

 コスプレしてなくて、緊張しないで済むのはルイちゃんと居る時だけだよぉとエレナはとろけそうな笑顔をしてくれるのだけれど、よーじ君と一緒の時はどうなのだろうかと思ってしまう。

「またまたぁ。よーじ君と一緒の時だって緩んでるんでしょ?」

「んー、確かに安心感はあるんだよ。こんなわたしを受け止めてくれる人がちゃんといるってだけで、ほっとする。でも、やっぱり男の子だしさ、一緒にいてもここまではっちゃけられないの」

 それを言えばルイだって男の子なのですがね、エレナさんや。

 なんて無粋な合いの手は入れない。

 つきあい始めのカップルさんなんてのはだいたいそんなもんだろう。相手に嫌われたくないって思うからこそ自分の全部はさらけ出さない。一番大切なところがばれちゃってるからその点は楽なのだろうけど、だからこそ相手を失望させないように、ある程度頑張らないといけないとでも思っているのかもしれない。

「あたしならはっちゃけちゃっても大丈夫って思ってる?」

「そりゃ、思ってるよー。だってルイちゃんはわたしを丸裸にしてくれるじゃない?」

 撮影をするってそういう所があるんじゃないかな、と彼女は無防備な顔をこちらに向ける。

 見て欲しいという欲求と、変身願望。前にエレナのコスROMを販売したときに、隣のおねーさんが言っていたことがちらりと頭に浮かんだ。 

 かっちりした写真ももちろん撮るけれど、ルイの撮影方法はたいてい相手を乗せて、本心がでたところを撮ることが多い。エレナにしてみても最初の頃は緊張を解いてあげてから撮るというようなことをやっていた。

 素を出して貰えるのは信頼関係ができた証でもある。

 逆にそれができていないと、きれいな写真ではあるけれど、かちっと防御したものに仕上がるのだ。

 それはそれで嫌いではないけど、エレナに関しては無防備な表情(かお)のほうが好きだ。それでもそのキャラとしての顔をはずさないエレナは、衣装によって演じわけるのだけれど。

「裸の撮影はまだするつもりはないよー。でも、リラックスして映って貰えるのなら、それが一番であります」

 見えてきたよ、とエレナの手を無意識に掴んでひっぱる。

 商店街から少し歩いたところにあるその大樹。まだ冬芽が膨らんできたくらいで葉は落ちてしまっているけれど、それでも他の木よりも大きいそれを見上げる。

「ふわっ。おっきー」

 そしてそんな風に見上げるエレナの表情もしっかりといただいておく。

 ささっと数歩下がって、さらに銀杏とエレナの姿を一枚に収める。

「今年はちょっとあんまり前みたいに撮影できなさそうだけどさ、夏と紅葉の時期は是非、こよっ」

 大好きな被写体を合わせて撮りたいのですというと、エレナはただ、こちらに振り向いて。

「ルイちゃんのお誘いならいつでも受けちゃうよ」

 にこりとほほえんでくれたのだった。

 放課後を銘打っていても、実は放課後はバイトしてるからno-Exifじゃなくね? と今になって思ってしまった作者です。でも「ほうのぐ」って略せるし、タイトルはかっけーからいいのですよ。インパクトはないんだけどね!


 そして、二週間の休みに入るまえの最終話。ルイちゃんちにお邪魔するエレナさん。でした。が、最近銀香にも行ってないしなぁってんで、お気に入りの被写体を二つセットにしてしまえーという流れになりました。

 やべぇ。エレナさんかわいすぎる。頭の中で映像が浮かんでいるのだけど、もうね、破壊力すごいのよさ。

 破壊力というと、寝起きの馨たんがかわいいのはもう、本人だけが知らない事実ということで。

 では、二週間後くらいにまたお会いしましょー! バージョンアップして帰って参りますのデ。

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