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085.

「ありがとうございます。大盛況で終わらせることができました」

 これで、明日の卒業式もばっちり盛り上がりますよー、と生徒会の人達から思い切り感謝されたのが少し前のこと。

 明日の卒業式本番もあるので、三時くらいでパーティーは終了だ。

 お昼過ぎから始まったコスプレコンテストは、参加者二十人という大盛況で、それぞれのキャラの特徴やそれに対しての愛やら、チャームポイントやらをきっちりとアピールして、最後に決めポーズまでしっかりやってくださっていた。

 そんな中でレイヤーさんじゃない人も数人混ざっていて、アピールポイントがかわいいだったり、かっこいいだったりしたところは、すごいなぁと思ってしまった。さすがリア充達である。

 会場の片付けは明後日にやるとのことで、まだ舞台はそのまま設営されたままだ。

 すでに人はまばらになっていて、ここに集まっていた人達はもうすでに校舎に入ってしまっているようだった。

 生徒会の面々は明日の式や懇親会の打ち合わせに追われるように体育館にいってしまったし、他の参加者はそれぞれの部室にこもってしまっている。もともと有志の出席なのでこの時間に帰ってしまうようなものはいないようだ。

 冬とはいえまだまだ外は明るい。

 写真部の面々は部室に戻ってわいわい騒いでいるらしい。

 ルイにもお誘いはもちろんかかっていて、着替えが終わったら行きますと伝えてはあるのだけど、その途中で役員さんたちに捕まっていたのだった。

 この学校の女子制服に着替える間も、そりゃもう周りからの干渉がとても多かったのだけれど、なんとか無事に着替えだけは済ませることが出来た。ウィッグはまだつけたままなので髪はショートカットだ。

 斉藤さんやさくらと着替えが一緒になったりはしたのだけれど、カーテンで仕切られてるということもあってだろう、騒ぎたてたりはしないでくれた。なんだかんだでさくらはもう、ルイはルイとしてしか見ていないとは思っているけれど、斉藤さんまでそうなるとはさすがに。

 明日からもそれが続きませんように。

 そんな危惧すらしてしまう。

 学校にルイとして来たことはもちろん初めてではないのだけど、「ルイとして会ったことがまともにない人」にフルスロットルのルイを見せたことに対しては、いろいろ思うところはある。

 特に、なまじ両方を知っている人からの反応がどうかわるのか、とか。

 この学校で、ルイ=木戸を知っている人間は少ない。

 さくら、斉藤さん、演劇部の澪と、くまな人こと木村、あとは漫研のコラージュ娘の美咲くらいなもんだ。

 さくらは男の時は(べつじん)として扱うスタンスで、一年の時からそれはかわっていない。

 斉藤さんと木村がどうなるのか、というのが少し気になる所だ。

 澪と美咲は学年も違うし、接触する機会自体があまりないので、ダメージはそんなにないだろうけど、この状態を見られて認識を新たにされても正直困る。そりゃノリノリなのは隠しもしないけれど、態度がかわってしまったらなぁとは思う。

 なんていうか。最近ちょっと思う。木戸の印象よりルイの印象の方が激しく濃いのだ。いままでは棲み分けをしていたから、ちょっと噂がこぼれてくる位であった教室で、ここまでルイの印象が強まることはなかったのだが。

 明日からどうなるのかなぁ、と思いつつ、まぁ木戸としてはっちゃけるつもりはさらさらないので、今まで通りでしか過ごせない。それで肩身が狭くなるならそれはそれで仕方ない。ルイ=木戸にとって学生生活は写真のための消化生活なわけ……だったのだけど、それがなんとなくもやもやする。

 学校でも友達ができたからというのは、簡単なのだけど、なんだろう。

 卒業式の雰囲気に引きずられているのだろうか。自分は学校に思い出を求めていない、はずだ。

 でも、なぜかもうちょっと学校での生活を優先させたいという気もしてしまっている。

 三年になれば受験の兼ね合いで今ほど時間は取れなくなるはずだけど、それでもここで撮影していたいと思ってしまっている。  

「そうはいっても部活に入るわけにも行かないんだよねぇ、これが」

 木戸馨として写真部に参加をするというのに、少しだけ気持ちが前向きになったりはしたけれど、さすがにアルバイトの代わりを部活で埋めてしまうわけには当然いかない。

 ならせめて今日くらいは、と写真部の部室に向かって歩き出すところで、こちらを見ている黒い影と目があった。

「あれ? 青木さん今日はいらっしゃってたんですか?」

 お久しぶりですと、気負いのない声を向けると、彼はがちがちに緊張していた身体の力を抜いた。

「ああ、もぶ18とかそういうやつだけどな」

 あまりにも普通な会話に、半ばほっとしながら彼は口元を緩めていた。

 彼とこうして会うのはいつぶりになるだろうか。

「気づいてたなら声をかけてくれれば良かったのに」

 もちろん青木に対してはいろいろとしがらみがあるにはある。でもそれは、ルイとの関係性ではないし、彼との間柄は半年前くらいに告られて振った相手でちょっと気まずい程度である。

「しかし、まさかあんな風にイベントに絡んでくるとは思わなかった」

「私もですよ」

 いくら近所とはいえ、参加依頼が来たときは驚いたのだと素直に伝える。

 うん。驚くほど緊張していない。

 なんていうか、青木を振ったってよりそのあとのごたごたでいろいろ吹き飛んでしまっているのかもしれない。

「それで、青木さんは最近、学校生活はどうなのですか?」

 話題があまりにもなくて、普通すぎる質問をしてみることにする。

 あいにく、あいなさんからは弟さんのネタは一切でてきていないのだし、これ自体は困ったあげくにだすネタとしては不自然ではないだろう。

「それが……さ」

 彼は、うーんと、頭を抱えながらぽつぽつといろいろ語ってくれた。

 修学旅行があったこととか、そこでクラスメイトと喧嘩したこととか。その子の素顔がどことなくルイに似ていて、それが元だったこととか。もちろん襲ったということは伏せてあった。

「思春期の思い爆発っていうかさ……男の衝動っていうか。ここ半年でいろいろあって」

 ああ。なんだろうこの罪悪感。ちょっと胸のあたりがつきんつきんとしてしまう。

 ルイを好きになったのは青木の勝手。わかってる。それを丁寧に断ったのだし、その後のことは「知ったことではない」のだけど、そこでOKしていたら別の未来でもあったんじゃないだろうか、とも思う。

 けれども、首を横に振りながらルイとしてはこう答えるしかない。 

「話を聞く限りでは……ちょっと、私、これ怒っちゃっていいところですよね?」

「へ? えええっ、なんでっ!?」

 なんでもなにもない。常識的に考えていただきたい。

 みなさまはルイと木戸が同一と思ってるからこそ、この場でルイが怒る必要はないと思うかもしれないけど。

 青木はそれを知らない。知らせる気もないし今までの会話ですでに知っている可能性も薄いだろう。

 それだからこそ、きっちり怒らなきゃいけない。

「私に似た男の子ってのはさすがにちょっと、どうかと思いますし、それにその……ちょっと想像の斜め上を言っていて本当に思えないんですが」

「いや、嘘じゃ」

 文節の一部にいぶかしむように首をかしげる。

 彼が語ったことは一部脚色やぼかした所はあっても、本当だと木戸は知っている。被害者だから。

 けれども、ルイとしては、彼が男色の道に進んでしまったことも信じられないし、もしそれが本当だとしても、じゃあ自分に告白してきたのはどういうことなの? と言いたくもなるというものだ。

 なまじルイに対しては紳士だった彼だから、そのあとの不祥事を起こしただなんて、想像ができない。

「本当だとしたら、それはそれでちょっと……」

「そんな顔しないでくれ。もう終わったことだし、今は大丈夫だから」

 確かに、ずーんと落ち込んだし、いろいろやらかしてしまうほどにはショックも多きかったけれど、もう今では終わったことだし、そもそもルイさんが責任感じることはまったくないから、と彼はあわあわと言い放った。

 そりゃ、そうなんですが。

「それでルイさんはこれから写真部? まだ活動するのかな?」

 彼はもうその話をしたくないのか、まったく別の話題を持ってきた。

「はいっ。そりゃもう。まだ明るいですし。青木さんはその……またカラオケですか?」

 こちらも彼の誘導にのるようにして、話題をそらす。

 むしろイベントよりもそっちの方に力が入ってる印象の方がルイとしては大きいので聞いてみる。まだまだ日は高いし昼料金でカラオケタイムという風にはならないのだろうか。

「俺もその、学校のイベントくらいはでておきたいなって最近思っててさ。最近一人カラオケはなかなか行きづらいし、駅前の店が二人からになっちまってさ」

「お一人様お断りなお店増えたって噂ですよね」

 確か駅前のカラオケ屋も、二人からの料金ということで表示がされていて、一人だと割増料金が取られるようになっていた気がする。ここいらで一人カラオケできる所はちょっと都会まで足を伸ばさないとないし、行きにくいのかもしれない。八瀬あたりを誘って一緒に行けばいいのになとむしろ思う。他の男子を誘うというのは……あんだけ見事に女声で歌い上げるとなると、引くやつのほうが多いかもしれない。

「そんなわけで、ちょっと家に防音室をつくろうかなとも思っているんだ」

「なっ。いくらなんでも思い切りがよすぎなような」

 カラオケがダメなら家に作ればいいじゃない、というのはお金持ちの発想である。

 地下に専用シアターがあるお家が確かに知人宅だったりするルイとしては、一般家庭があのような装置を持てないものだと思っている。もっぱらルイとしての発声練習もお風呂でやっているし、防音室を作ってと両親に言ったらきっとなに寝言を言っているのかと言われるだろう。

「防音室っていっても、家で組み立てられる段ボールのヤツで改装工事をするとかそういうんじゃないし」

 割とお値段も安めなのだと彼は言った。

 後で調べてみたのだけど、六万程度で買えるものがあるらしい。どのみち置くスペースがないし、そこまで歌わないのでルイとしては必要のないものだけど、どの程度のものなのかというのは少し興味はある。

「そりゃ、某音楽メーカーがやってる防音室とか憧れるけど、百万単位でお金かかるしなぁ」

 うっ。そのお値段はさすがに学生の状態でぽんと出せる金額ではないなぁ。

 それは青木もそうみたいで、さすがにそういうのは嗜好品すぎると肩をすくめていた。楽器を本格的にやるなんていうことなら買う人もいるのだろうけど、さすがに一般人がそこまでやれるかどうかは悩ましい。

「なら、もしそれが実現したら、試させて下さいね?」

 どうせあいなさんちにはお邪魔するでしょうし、と付け加えると、お、おう、と彼はぎこちない返事をよこしてくれた。お友達でいましょうというのを実践しただけだというのに、そんなに固まられてしまうとまだ意識されていると思ってしまうではないか。

「さて。じゃそろそろ行きますね。さくらとかがあーだこーだうるさいし」

 またどこかで見かけたら声をかけて下さいと言って手をふるととてとて歩き出す。

 これ以上ルイとして話していてもしかたないし。

 それにショートカットのウィッグ状態で彼の前に長時間いたくないのだった。

 男の子は異性の前、特に惚れた女の前では表情を変えます。両面を知っちゃうって機会がある人なんてそうそういないのでしょうが、ちょっと異性の前では背伸びをしちゃうっていう、そういったところでございます。

 普段あんだけ残念なので、キャラ崩壊かよっていわれそうですが、二年時最後ですし、二人を会わせてあげたいなぁと思ったのでした。けじめのためにもね!


 そんなわけでコスプレイベント3でした。二年のイベントはここで終わりかと思いきや……実は明日の春休みイベントまで掲載予定であります。それが終わったら二週間お休みというわけで。

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