表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/793

084.

 昨日の分が時間おして本日(0時過ぎ)更新になってますので、そちら見落としてるお方は一個前をどうぞ!

「ぽ、ぽってたんがおる……」

「きょ、今日はお招きいただいたので。せっかくだからカメラキャラをしよーって思って」

 写真部の面々に声をかけられて、あわあわと、それらしい反応を返しておく。

 なんというか、言うまでもなく彼らはみなさん制服+目だけ隠せる仮面という姿で撮影する気満々という感じだった。その中にさくらはいないのだが、彼女は先輩達からコスプレやんなさいと押しつけられたらしい。

 果たしてどんな衣装を着ていることやらといまから楽しみだ。

 彼女らはそのまま仮面の撮影者としてちりぢりに、良い被写体を探しては撮影を始めたようだった。

「さすがに似合ってますよね。ちんまりした感じがたまらないかんじデスっ」

 こちらの着替えをじっくり見守っていた山田さんは自分も着替えてきて、テンガロンハットをちゃきっとお手製の銃で押し上げていた。アメリカのガンマンというような装いの彼女は足を思い切り出していて、かなり寒そうなのだが、コスプレ慣れしている彼女にとってはまるっきりそれは問題にならないらしい。

 どぎついキャラコスと、キャラ属性のない職業系コスとどっちをとろうかーと言っていたけれど、その中間をいったというところだろうか。けれども、ルイはその葛藤のことは知らないしとりあえず無視する。

 ちなみに、彼女は思いきり顔出しをしていて仮面はつけていない。仮面についての規定はあくまでもコスプレをしない人達向けの縛りなのだ。そもそも学校でこういうイベントをやるための補助として、仮面舞踏会(マスカレード)のノリを入れてるだけで、ガチでコスプレをやる人達は自分の愛するキャラをしっかりと作り上げるべしと、生徒会の副会長は言い切っていた。

 それでも恥ずかしい人やら、正体ばれがイヤだというような人はマスクをつけることも出来るので、コスプレのハードルを下げる役にも立っている。

「でもでも、カメラだけはどうしてもアナログにはできなくて」

 極みのレイヤーさん達には作り込みが甘いと言われそうなので先に断っておく。エレナには、こだわっては欲しいけどどうせ撮影の方を優先するんでしょ、ルイちゃんなんだし、と言われてしまった。まさにその通り。

「デジタルの方が気兼ねなく撮れるので」

 カメラを見下ろしながら本音でつぶやくと、おおぅと周りの声が大きくなった。

「むしろ、先輩の方をやった方がよかったのでは?」

「その案も出たんですけどね、エレナがどうしてもって」

「ああ、やっぱりエレナちゃんの協力ありですかー」

 さすがのクオリティですとか、集まってきた子に言われてしまったので、そこはちょっと一言付け加えておかないといけない。撮影特化した自分のコスプレは、そうたいしたものではないのだと。 

「ほとんど半日くらいかけて演技指導をされたんだけど、正直エレナのようにはできないデス。あたしはあたしデシタ」

 なので。とかでもでも、とかいろいろ原作も見せられたし演技指導も受けたんだけれどあんまり様にはならなかった。なんでもはわはわ言いながら撮影するところだけは同じだけどねーと、最後の方はもうこれでいいかとエレナも苦笑を浮かべたのだった。

 けれど、ルイの演技力がどうこうという以前に、このキャラ自体に決めポーズがないというのもやりにくさの一つであるといいたい。そう、撮影して思うのは、どのキャラも見せ場でばばーんとなんかしらのポーズを決められるところがあること。たとえば必殺技を放ってみるだとか、戦闘前に相手にやるお約束ポーズだとか、そういうのはかっちり作り込めるのだけど、今ルイがやっている役は、日常系も日常系なので、そういうのがほとんどない。

 敢えて言えば、カメラをすっと構えてみたり、たとえば動物を追っかけて、うごくなよーうごくなよーって身体を伸ばしながら撮影したりと。普段のお前じゃんって言われるだけだ。

「ふぅん。ルイさんはコスプレ自体はそこまで得意ではない……か」

「ごめんねっ。撮る方専門でそこまでキャラになりきれるってわけじゃないというか。緩いコスで申し訳ない」

「いえいえ、そんなこと。していただけるだけでまずは感謝です」

 山田さんが恐縮したようではわはわと両手をぱたぱた振る。

 よかった。一部の熱心なレイヤーさんに怒られてしまうかもと思っていたので、ほっとする。

「ルイさんの場合、もーちょっとこー素で近いキャラを選んだ方がよかったんじゃないの?」

「ええと……?」

 山田さんが突如現れた謎の少女に首をかしげる。

 そこに立っていたのは、黒髪を後ろで結わえているのだが……全体の印象は和装といえばいいだろうか。緋袴の上に白の羽織を着ていてその背中には矢筒と弓を装備している。額に輝く鉢金は戦装束という印象をぐっと上げている。そして本来耳があるところには、もふもふした動物の耳と、お尻のところにへにゃっとしたしっぽがつけられていた。

「まさか、けもみみで来るとは思わなかったです。名作だよっ! もー双子ちゃんはあわせで一緒にやろうよーってエレナにさんざんせがまれたので知っていますが。クラスメイトのお友達がきょとんとしていますよ? なので」

 これは誰だろうと山田さんが固まってしまったので、助け船を出すことにする。

「へ? 八瀬くん? なの?」

 言葉の全部に疑問符が浮かんでいた。

「なにを驚いているのです? それより若様がどこに行ったのかご存じありませんか?」

 凜とした女声で、若様の安否を尋ねる従者状態なのは、もう役に入っているということだろう。このキャラは犬耳の若様が大好きでしょうがない双子の片割れで、弓の技能が高い子だ。一見女の子に見えるけれど、立派な男の(おのこ)である。双子で、それぞれ瞳の色と袴の色が異なるのだけど、そのうちの片方というわけなのである。

「すさまじい完成度……あのとき木戸くんすごいって思ったけど貴方までそんな……」

 山田さんがうわぁと感動の声を上げる。八瀬の女装は木戸と同じく眼鏡をはずすインパクトと化粧と動作でできている。そういう意味ではありったけの支援をしてやったのだし、キャラの演じくらいは自分で決めて欲しいところだ。まあ女装か? といわれたら男の娘コスですとしか言えないキャラではあるけれど。

「それに、ルイさんとも面識があるの?」

 どういうこと? と問われてようやく八瀬は演技をといて、こちらに愉快そうな視線を向けた。

「私は大の男の娘ファンです。そうなればエレナちゃんの追っかけもするし必然、ルイさんとも知り合いますよ」

 ねー、と問われてルイは渋い顔をする。間違いではないのだが。ルイとしては渋い顔で言うだけだ。

「エレナには指一本ふれさせませんよ! あなたは時々たがが外れやすいですから」

 実際ルイもひどい目にあったしな、と手首を縛られた時の感覚を思い出す。

「むしろ、山田さんのほうがルイと会ってそうな印象だったんだけどな」

 その件を持ち出されたくないのか八瀬はあからさまに視線をそらして、この人、コスプレ会場とかも行くわけでしょ? と山田さんに問いかける。

「なんていうか、エレナちゃんのそばにいるってだけで近寄りがたいというか。カメ子さんだったら囲みやすいんだろうけど、オーラが違いすぎて私みたいなのが近づいちゃっていいのかなって」

 あれだけ人が殺到しちゃってたら、ちょーっと二の足踏んでしまうと彼女は言った。うーん、遠慮なんて全然しないでいいんだけどなぁ。

「あれ? でも山田さんってさくらと懇意だって聞いてたけど。それなら友達の友達ってことで気楽に声をかけてくれればいいのに」

「うくっ。いろいろあるのですよぅ。ルイさんみたいな美人さんにはわかんない苦悩というものが」

 くすんと彼女は拗ねた顔を見せる。その写真を一枚だけカシャリと撮った。

 こちらはこちらでいろいろ苦悩があるのだが、そこらへんが相手にわかって貰えないのはもう仕方ないと割り切っている。

「ま、いいや。今度イベント会場で会ったら声かけちゃうから、写真絶対撮らせてね」

 にこりと笑顔を向けると山田さんがあわわあわわと慌て出す。

「ちょっとルイさんは自粛すべきと思いますけどね。会場が混乱するだろうし」

 イベント会場にまだ足を運ばず、近くの公園や町を中心に歩いているのを知っている八瀬は、神妙そうに、それでいて内心笑いを噛み殺しながら言う。

「ま、まって! この前の件はいちおう穏便に……」

「済んでないですよこれ」

遠巻きにこちらにちらちらと視線を送ってくるのは、学校の生徒たちだ。いちおうコスプレをするのが基本になってはいるものの、目元がかくれる仮面をつければいちおう参加はできるので一般学生がわりと来ているのだ。割合としては六割くらいが一般生徒。自由参加のわりに今年は良く集まっていると山田さんは教えてくれた。

 そんな彼らはちらちらこちらを見ては指をさしている。あれが……とか、そういう声が上がっている。中には体育祭で写真部のアンカーやった子じゃん、なんて声もちらちら聞こえた。

「そのお目当てがあたしって、でもでも、そんなのだめだめです」

「微妙にかなえ先輩とか。でも、先月の一件からルイ様は時の人になってしまっているのですよ」

 少し役に入った言い方で、八瀬が苦笑を浮かべていた。

 なんせこのイベントを成立させるきっかけになったのがルイなのだから、注目度は高いのだろう。

「んむぅ。普通にコスプレの話ならエレナの方が完成度高いじゃない。あたしは撮る側で舞台の上には立ちたくないんです」

 うぅとうめくと、そこに合流するように声がかかった。

「それは、無理なご相談、じゃない。ルイさん」

「ああ、斉藤さんにさくらも。うわぁ」

 さくらの格好を見て思わずうわぁと声をあげてしまった。

 さすがにそれを見せられてしまったらうわぁとも言いたくなってしまう。

「うわぁじゃないっ。日陰者がいいっていったらこのざまよ。ルイもぽってたんとかやってないでこれくらいやんなさいよ」

「さくら……今日ばかりは、その……」

 わしりと両肩をつかむともふりとした感触がきた。すごい、ふわふわだ。

「さくらの勇気にあたしは感動したっ!」

 ずばーんと言うとさくらがひぐぅと嫌そうな顔をする。あれ。結構のりのりってわけではなかったらしい。

 そう。今日さくらが装備しているのはなんと。わんわんのキグルミなのである。幼子が見るあの番組でおなじみのもので、胴体と顔が白で耳やしっぽ、手足が深緑のもふもふ物体である。

「なしの妖精よりはなしじゃないわよ。それにちゃんと顔もでてるし。本家わんわんみたいに全部がおおわれててもふもふってわけでは、ないのデスゾ」

「学校のイベントだから著作権系は緩いのかもしれないけど、ふなっしー多いよね実際」

 しれっと、ちょっと赤いけむくじゃらの、これまた幼子向け番組にでてくるあのお方の口調のさくらをスルーして周りを見回す。

「がわ系は顔がでないから、本番はわりと緊張しないんだよね。作るのすんごい大変だけど」

「だよねぇ。それいうと、斉藤さんみたいな和服系のほうが調達はしやすそう」

 あまりにさくらの格好が衝撃的すぎて放置してしまったのだが、斉藤さんの衣装の方もなかなかに迫力のあるものだった。

 おそらく既存の和服を改造しているのだろう。どこかでみた戦国系アニメの姫の衣装で特殊といえば頭の飾りだろうか。金に輝くそれは豪奢で、まさに姫といった感じだ。

「こういうのは着てて楽しいなぁって感じ。これ、そこの一般の娘。わたくしの供をいたしなさい」

 なんてね、と斉藤さんが舞台映えしそうな声を作る。

「それじゃ、せっかくなので四人で並んで? 一枚撮っちゃいましょ」

 四人おのおの集まってもらって、撮影をしていく。

 なんというか、こう……すごい写真になった。

 斉藤さんと八瀬はまだ和服同士だから多少近いのだけど、他はアメリカンに……最後はわんわんである。わんわんのインパクトが半端ない。

「合わせの真逆だこれ。すさまじい」

「どうせあたしだけ浮いてるとかいうんでしょ。なら代わるわよ。あんたも大昔にタイムスリップした女子高生みたいな感じになりなさいよ」

 はいはい、代わった代わったと、わんわんの口の所から顔を出しているさくらが手を引いてくる。かなりもふもふだった。

「じゃー、集まってー。せっかくだから八瀬くん姫を護衛する感じでちらっと矢筒に手を添えて警戒態勢。ガンマンは、あ、はい。それでいいです」

 場慣れしてるコスプレイヤーである山田さんは指示を出さずとも八瀬と反対側を警戒するように銃を構えていた。

 そんな中で一人慌てているのがルイの役どころだ。

 そして、撮影が始まる、かと思いきや。

「うく。わんわんもふもふすぎてカメラ使いづらい」

 シャッターを切ろうとボタンを押すとかすっかすっ、と滑ってしまってなかなかにシャッターが切れない。

 ひさんだ。あれはひさんだ。

「爪を立てるみたいでやればいけるんじゃない?」

「んっ。おぉ」

 カシャっとシャッターが切れたが、あらぬ方向が写し出された。

「それじゃあらためて」

 腕をぷるぷるさせながらカメラをいじっているさくらを見ていると思わず吹き出してしまいそうになる。

 そんな姿が、彼女のカメラの中にしっかり記録されてしまったのだった。

「あ、そろそろルイさん、撮影お願いできますか? お昼過ぎからコンテストですから」

 山田さんがちらりと時計を見て素に戻った。最初に連絡を受けてから計画がいろいろと練られたようで、コンテストに参加する希望者をルイが撮影してその写真を展示しつつ、投票をしてもらう形式になったそうで、それの素材をイベントで撮るのもお仕事の一つだ。。

 コメンテーターとしても出なきゃいけないし、実は忙しかったりするのである。

 イベントまで二時間はあるけれど、どうせ参加希望者に粘着撮影するんでしょう? という山田さんの視線が痛い。参加人数によっては自重しますよ。一人あたりたっぷり一時間とかそんな撮影はさすがにできない。

 さて、この中に男の娘は何人いるのでしょうか、などと思いながらまた後でーと八瀬たちに挨拶をして、今日のお仕事に向かうのだった。


 ルイのコスプレはカメラ女子キャラにしたい、ということで、「たまゆら」主人公のぽって部長をやってもらいました。ルイちゃんにやって欲しくないカメラ女装っこ話というのはゆびさきミルクティです。あれも大好きで二年待ったほどですが。性的にどろっどろなので、うちのルイちゃんはああはしませんしできません。

 そして八瀬くんは「うたわれるもの」から、グラァさんです。ドリィさんやれる人がこの学校にはわんさといますが、まだ面識がないので一人で。

 他二人はオリジナル設定で、最後のさくらは我ながら……がんばるよなぁとしみじみ思いました。


 さて。まだまだこのイベントは終わりではありません。コンテストとかはぶっちぎっちゃいますが、宴は夕方まで続きます。全面書き下ろしデス。

 そしてそして、三年生になる前に一個エピソードがはいります。それが終わったら二週間の書きため期間にはいろうかと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ