表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
794/794

734.コンビニの新人さん3

新人さんの名前なやんだあげく、こまりちゃんになりました。

 新人の歓迎会をやる。

 その話を聞いたときに、参加するかどうかでとても悩みました。

 自分なんて歓迎してもらっていいのか、とか。

 まだまだ仕事もろくにできないのに、祝ってもらっていいのかとか。

 そういうのがあって、参加するかどうかでとても悩んでいた時に、いつもよくしてもらっているパートさんに。

「歓迎会はちゃんと出たほうがいいよ? 今回は特にただ飯だし」

 なんて言われて、さらに考え込んでしまった。

 ただ飯。自分なんて奢られていいのだろうか、なんて思ってしまう。

 これは小さいからの私の性分。

 双子の兄は恐ろしく社交的なのに、それに比べると私は壊滅的に社交性がない。

 幼いころ一緒に行動していた時は、いつも兄の陰に隠れていたし、お兄ちゃんに比べるとおとなしいとか、奥ゆかしいとかよく言われた。幼いころはそんなところも可愛くていいなんていわれたけれど、小学校も高学年になってくるとそうも言っていられなくなる。

 ある程度自分の意見を言わないと、集団生活というやつができないのだ。

 ちゃんとしろという無言の圧力がじわじわと降り積もり、いつしかひっそりその日を何とか乗り切ろうなんて考え方になってしまった。

 ここままじゃ良くないというのは自分でもわかっていて、それを変えるためにもコンビニで働くことを決めた。

 

 けれども実際仕事をしてみるとあたふたしてしまって、ひと月経ってみても全然慣れない。

 自分なんてっていう言葉が無限に浮かんできて、今まで通りなんとかその日をこなすことでいっぱいいっぱいだ。

「んー、こまりちゃんは奥ゆかしいというか、考えすぎというか。まあそういうところ、私は好きだけど、生きるのつらいかもね」

 人生ちょっと緩いくらいのほうが、生活しやすいもんよと言われて、それはわかってると心の中で反論を試みる。

「でも、だったらなおのこと、今回の歓迎会は出たほうがいいよ」

「なんでです?」

「だって、あの木戸くんが主催だからね。あの超絶自由人にして、トラブルメーカーの木戸くんを見てたら割と自分のやらかしくらい、些細なことだって思い知るから」

 なかなか一緒のシフトになることはないけど、あの子ほんと武勇伝が多すぎでしょうと、パートさんはうんうん頷いていた。 

「それに、店長と木戸くんの絡みを見ていると、ちょっとこうドキドキするものがっ」

 ああっ、いけませんいけません、とパートさんがなにやら奇妙な雰囲気になったものの、ピンコーンと来店を告げる音が鳴ったので無駄話をやめて仕事に戻ることになった。


 超絶自由人か。いままで一緒のシフトになったことはあまりないけど、どういう人なのだろう。

 ネガティブに考えるのが私の悪い癖だ。でも自分ではもうどうにもならない。

 それならば、新しい出会いというものに期待をするというのも……

 そうして、私は歓迎会に参加することを決めた。




「あ、そろそろ、時間なんでドリンクの準備とか始めましょうか」

 ではどんどん運んでくださいと、冷蔵庫に入れられていたドリンクのペットボトルを取り出してみんなに運んでもらう。

 そして、その間に温めが必要な料理は電子レンジとオーブンでそれぞれ温めなおすことにする。

 ぱりっとさせたいものは当然オーブンでの温めである。


「一応責任者なので言っておくけど、あまり酔っぱらって新人に絡みすぎないように」

「わかってますって。さすがに大人として情けない姿はみせるわけにはいきません」

「そうそう、黒羽根元店長がいないからって羽目をはずさないから大丈夫」

 信じてくださいと、パート組から言われて店長は、まじか……と胡乱げな表情を浮かべているようだった。

 いまいち時間帯が違う相手なのと、こういう歓迎会にはそこまで参加してきていないので、さすがにやらかしがあったかどうかは知らないのだけど、先輩店長的には割とこの二人はやらかしがちということなのだろう。

 社会人ではあるけれど、酒癖についてはあいなさんがあんまりよろしくないので、ダメな人は本当に公のところで酔っぱらってしまうものなのは知っている木戸である。


「それにしても結構9%が並んでいるような……」

 ワインもあるけど、プライベートブランドのチューハイは7%ではなくて9%のほうが並んでいる。

 先輩店長も飲むのだろうけど、結構な量が準備されているような気がする。

「お、オーナーの分もあるからっ。これくらいあってもそんなにおかしくない、よ?」

「って、オーナー向けだったら、有名ウイスキーとかのほうがいいのでは?」

 ほら、コンビニ定番のミニボトル系のいいお値段するやつ! というと、滅相もないと店長が言った。

「たしかに高級ジャパニーズウイスキーのミニボトルとか、うちではあんまり売れないから、こういう機会に売り上げにしてしまうのは、ちょっと考えた……が、それが入るだけで予算がな……圧迫されるから」

 かといって、確かにずっと置いておくのもあれなんだが、と店長が仕事を思い出してしょぼーんと肩を落とした。

 都会のコンビニならば帰りにちょっと、奮発してというのもあるのかもしれないのだが、しがない郊外の店舗である。そこまでばんばん高級酒を買っていく人はいないし、買う人はもっとこうがっつりとフルボトルを一本という買い方をするものだろう。


「てか木戸は酒は飲むんか?」

「俺は、その場の雰囲気次第ですね。普段はそこまで飲まないけど、飲もうと思えば割とザルなので」

 一度、親友に目いっぱい安全な状況でお酒の限界を確かめたほうがいいよと言われて、一緒に飲み会をしたことがありまして、というと、へぇとみなさんは興味深そうな声を上げた。

「木戸くんの親友かー、どういう人なのか気になるなー」

「プレイべートは内緒ですよ? ああでも基本カメラ関係で知り合った人たちは親友であることが多いですね」

 さぁ今被写体になったあなたとも、お友達! といいつつカメラを向けると、あーなるほど、とパートさんたちは納得顔である。

「このテンションを一緒に満喫できる人が、親友足りえる……と」

「そして、お酒を飲みに行ってしまう、と……」

 ということは、きっとカメラ仲間とゆっくりお酒を飲んでからの……きゃー、と二人だけで盛り上がっている。

 いや、ちょっとそこ、変な妄想はしないでいただきたい。


「親友もめっぽうお酒に強いので、あれだけ飲んでもけろっとしてましたね。よっぱらってほけーっとした顔も撮りたかったのですが」

 まあ言えばそういう仕草もしてくれるだろうが、そっちよりはコスプレ的な意味合いでそういうキャラがいればなりきりをしてくれるんじゃないかと思ってしまう木戸である。

 居酒屋系ほっこりお姉さんのコスとかやってくれる日も来るのだろうか。いや……そういう男の娘キャラがいないとやらないか。


「ただ、今日はちょっと軽めにいただこうかなとは思っています。高校生たちにお酒が飲める大人と思われたいので!」

 下手をすると同じ高校生ですかって言われるので! と答えると、大学生の田中さんが、木戸さん童顔だもんねーと声を上げる。

 なにやらお肌の質が若い! との感想のようである。 

「でも木戸さー、無理に大人ぶってるほうが子供っぽく見えるぞ?」

 なんか背伸びしてるっつーかと店長がいうので、そういうこというならサンタやりませんよ? というとうぐっと口ごもった。

「だって、子供にサンタやらせるのはよくないでしょー」

「それは……いや! 子供用サンタ衣装もあるから、そこはぜひ!」

 売り上げがガチで変わるんだ! それだけはぜひにと、店長が言った。


「たしかになー、クリスマスケーキ販売、外で木戸くんがサンタコスやると売れ行きが違うし」

 バレンタインもね、とパート組が言った。

「いっそ、おせちの時は巫女服とかで売ればもっと売り上げがー」

「なら田中さんがやってよ。っていうかおせちって大体事前予約で、クール便で発送されるし、行列はないかと」

 それならむしろ神社でアルバイトするっての、というと、なんとっ! とみんなが変な声を上げた。

「ま、そもそもお正月は父方の実家に帰るので年末年始はお休みもらってると思いますが」

 どっちみち働けませんというと、たしかに木戸はお正月休むほうだよなーと、店長に納得された。

 まあ、実際、じいちゃんの家に行くようになったのはここ数年なのだけど、それは内緒である。


 さて。そんな話をしていると、ちりんと玄関の扉が開く音が鳴る。

「おー、いらっしゃーい」

「……時間間に合いましたかね?」

 こそっと、こまりちゃんが、おそるおそる店内を眺めながら声をかけてくる。

 店内の全部のあかりがついているわけではないので、やってるのかしらとでも思ったのかもしれない。

「だいじょぶだいじょぶ、お店が暗いのは雰囲気づくりとでも思ってもらえれば」

 田中さんがとてとてこまりちゃんを出迎えに玄関まで向かう。

 電気の件は、まぁ経費削減でね! とオーナーに言われているからなのだけど、ギャラリーのほうは電気をつけているしいい雰囲気といえば、まあそうなわけで。

 それと加えて言えば、少し薄暗いほうがこまりちゃんがリラックスできるかも、なんていう部分もあるそうだ。


「とりあえず適当に……は、座らんよな。あとでくじ引きで席決めるから、とりあえずそこに座ってて」

 店長が、テーブルの端のほうの席にこまりちゃんを誘導する。席次については今回はくじ引きをあとでするし、一時間たったらまたシャッフルする予定である。上座とかって考えはしなくていいよとオーナーからは言われているし、そこらへんは気にしないで友好をはぐくもうという感じなのだ。

 さて、こまりちゃんを着席させつつテーブルメイクをしていく。

 飲み物は隣のテーブルに配置して、オーナー以外がそろってからサーブする予定だ。

 席が決まらないと飲み物置けないからね。


「あとは、タツだけか……あ、五分おくれるって連絡きてるわ」

 まー、あいつらしいっちゃらしいなぁと、店長が苦笑を浮かべている。

 周りも、まーしかたねーなぁというような表情である。

 基本待ち合わせより早めに現場に着くようにしている木戸としては不思議なのだが、タツくん15歳は少し遅刻してもしゃーねえなで済んでしまうような人なのである。

 ああ、こまりちゃんはむしろ早めより早く店につくし、学校行事とかほかのことで遅くなりそうなら早めに連絡をくれる子なのだそうだ。木戸さん土日働かないし、平日も夕方から夜なのであんまりシフトが合わないのでまた聞きなのだけど。


「まー、気にせずくじ引きやっちまおうか。待たなくてもいいって連絡もあるし」

 あいつの五分は信頼ならん、と店長が苦笑を浮かべながら、ぱらりと用意していたあみだくじを取り出した。

 それで許されるとか、もうそこらへんは人柄というか、キャラクターというやつだろう。

 もう、そういうやつという感じで周りから受け止められてて、許されてしまうのだ。

 え、遅刻してもいいのかって? そりゃ木戸さんには経営のことはわかりませんが、まじで従業員集まらないので。さらに来年には木戸の卒業がまっているので、それまでにある程度動ける従業員を確保したいという思いもあるのである。

 そんなところで、ちょっと遅刻してしまうーくらいだったら許せ! というのが先輩店長のお達しである。


「それではー、みなさま、好きに線を付け加えてください」

 それぞれ一人一か所ずつ、と言われて、木戸も横線を一本引いた。

 そしてそれから、好きなスタート地点を決める。

 もちろん一番最初はゲストであるこまりちゃんである。

「では、オープンということで! 各自自分の席を確認してくれ」

 木戸も自分が選んだ左から三番目から、下に向けて視線をすべらせていく。横線があればそこから横に移動して、下にさがっていって、最終的に5番の席に確定した。

 え、くじびきっていったら箱に手をいれてひくんじゃないのかって? いや、この人数だし箱の用意が面倒ということで、あみだになったのである。阿弥陀如来さま、なむなむ。

 オーナーの席だけは固定なので、あとは余った席が遅刻してきたタツくんだけだ。

 あまりものに福が来るのか、それともよっぱらいねーちゃんずに絡まれる席になるのか。

 とりあえず一回目の座席決定である。

 

木戸君本人はコンビニではおとなしくやってますよ? って思っているけれど周りの評価はこんなもんです。いやぁーいろいろやらかしてますしね。

そしてもう一人の新人さんは……まぁ、こまりちゃんと真逆というかなんというか。生きるのって大変だよねっていうね。


というわけで、次話は新人さんたちをまぜての、お話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ