733.コンビニの新人さん2
遅くなってすんません。パーティー準備編でございます。
オーナーが別に経営しているカフェはコンビニから徒歩で行ける圏内にある。
開店当初はまだまだ存在を知られておらず、それほど混雑はしなかったようなのだが、最近はそれなりにお客も入り、順調に営業ができているのだそうだ。
しかも、あそこはオーナーが作ったミニギャラリーみたいなものもあるので、話題の一つとして機能をしているようだ。
「おぉ、なんか落ち着いたというかなんというか」
「なんだよ、木戸、お前ここ来た事ないっていってなかったか?」
どうしたんだ、と店長先輩に聞かれて、あぁと答えておく。
「建築中に一回、見学させてもらったことがあるんですよ。ギャラリーに飾る写真を撮ってほしいって言われて、じゃあ展示場所を見せてくださいな、と」
「なるほどなぁ。お前昔っから写真のことになるとしつこいというか、熱心というか」
「そのためにバイトしてますしね。でも今もギャラリーがそのままなのはありがたい限りで」
新しい写真を依頼してくれてもいいかなとも思いますが、と、カフェのミニギャラリーをちらりと見て以前のままであることを確認した。
新人歓迎会がここで開かれるのは初めてのこと。ぞろぞろと新人さん+参加できる人がオーナーのカフェに集まって、みんなでお食事会をしましょうという形での開催である。ちなみに歓迎される側の新人さんたちの合流は三十分後。
そしてそのあとちょっとしたら、オーナーも途中参加するという話にもなっている。
「それで、キッチンは一応つかっていいって話でしたっけ?」
「ああ。さすがに食材は自前で持ってきてって話だし、ちゃんと掃除して帰るようにと言われているけれど」
「それでも電子レンジとかオーブンが使えるのはありがたいところですね」
ふい、と担いできた荷物をカフェのキッチンに置きつつ設備をちらりと見まわした。
さて。新人歓迎会とは、どういうものか。
ということなのだけれど。いわゆる一般的なものであれば居酒屋とかでうえーいとかなるのかもしれないのだが。
主役である新人さんが未成年ということもあるのでそれはまず無し。となるとファミレスとかで? となるかもしれないけれども、今回の場合は少しばかり趣が異なる。
オーナーのカフェでやりたいですと木戸が言い出したところから始まるのだけれど。
その話をオーナーにしたら、じゃあ定休日にお店使えるようにセッティングするから、それで手作り歓迎会をやってよ、と逆にいわれてしまったのだった。
場所の提供と、費用も出してあげるとまで言われたら、そりゃ乗っかるに決まっているわけで。
新人さんたちは無料にしても、歓迎会自体はお金がかかるものでもあるので、ほかのスタッフとしてもそれならぜひ! と割と乗り気な声が上がったのだった。
え、木戸さんはどうだったかって? そりゃありがたい限りです。でも高校生だった頃とは違って、ある程度経済的な部分で安定してきているので、もし普通にファミレスでという形だったとしても、参加予定するくらいにはなりました。
コロッケ一つをおごるのに躊躇していた頃とは違うのです。
「で、今回のアレンジレシピってどうすんだ? 前にやってたのと違ってパーティー形式だろ?」
「先輩、レシピは前に渡しませんでしたっけ?」
「もー、店長ちゃんと読んでくださいよ。みんなで計画立てたんですから」
そうだそうだと、ほかの参加者からも声が上がる。
今の時間帯働いているスタッフもいるので、全員が参加というわけにはいかないものの、本日の歓迎会は割と人が集まっていて、新人以外で五人が参加している。
大学生バイトさんや、朝から昼過ぎまでのパートさんが二人。
正直、パートさんたちとは働く時間があまり一緒にならない木戸なのだけれど、それでも、というかだからこそだろうか、この機会に友好を深めておきたいなんていう話もあったのだそうだ。
コンビニアレンジ飯に関しては店のホームページ掲載のために以前やったわけだけど、あれはあくまでも個人で楽しむためのメニューという側面が大きかった。例えばラーメンに卵トッピング的な感じといえば伝わるだろうか。
今回のはパーティーメニューになるので、少しばかり前のものとは変わるのだ。
いわゆる、居酒屋風のコース料理をコンビニにあるものを使って、手っ取り早くつくろうというお話なのである。
メニュー開発には、本日参加のほかのメンバーにもご協力いただいていて作成をしている。
「うう、しかし俺あんまり料理得意ではなくてな……」
「じゃあ、力仕事は頑張ってくださいね」
はい、とりあえず飲み物は冷蔵庫に入れましょうと声をかけると、へいへいと、店長は素直に従ってくれた。
飲み物の品ぞろえは割と充実していて、店から店長が車で運んできてくれている。
こういうときは、プライベートブランドを有効活用してね、といわれているので、いわゆる有名メーカーのものは用意されていない。あえていえばアルコール類だけ共同開発のものがあるくらいである。
パートさんたちの要望で、プライベートブランドの赤ワインなんかも用意されているけれど、これは未成年さんには提供しないように注意ということは言ってある。炭酸も多めに置いてあるのでワインの炭酸割りなどで楽しんでもらえるといいと思う。
「ふふっ、木戸くんと店長の掛け合い、見てるとなんかこうなごむー」
長年のバディって感じとパートさんの小泉さんと佐藤さんはきゃーきゃー言っていた。
なにか変なスイッチでも入ってしまったのだろうか。
「確かに付き合いは長いですけど、俺たち別に普通にコミュニケーションとってるだけですよ」
まあ写真も撮りますが、といいつつ少し薄暗いカフェの写真を撮っておく。
これはオーナーの許可済みで、ギャラリー以外の場所だったら好きに撮っていいよと言われているのである。
「ああ、確かに人気のカフェだけあって、おしゃれな雰囲気ですよね、ここ」
大学生仲間の田中さんが、これは通常の開店時にも来てみたいと少しうっとりしながら言った。
まあ、確かにここはデザイナーズカフェといって間違いないところだし、ギャラリーを除いても客席は四十くらいはある割と広いお店だ。提供されるメニューもドリンクを中心にスイーツや軽食をだしているのだそうだ。
「普段はどうしても、地元のカフェにはいかないので、一度くらいは行ってみてもいいのかも?」
今の木戸の経済状況であれば、ちょっとカフェでコーヒーブレイクというものもできるのである。あ、でもシフォレにも行ったりするし、となると試しに一回というのがよいのだろうか。
むむむ、と少し悩むような仕草をすると、店長がこいつはこういうやつだよな、とうんうんうなずいた。
「だよなー、木戸はコンビニカフェすらろくにつかわんしな」
カフェとか無理だよなーと店長が言い始める。さっき悩んでいたのを勘違いしたらしい。
確かに普段のコンビニカフェを木戸が使うことはほとんどないのは確かなのだが。
「いいんですよ。水筒持参派なんで」
たまーに、ごくたまーに、コーヒーが飲みたいときは使わないでもないです、というと、むしろ売り上げのために毎日でも飲んでクダサイと店長に言われてしまった。
黒羽根店長もそうだったけれど、コンビニの店長のノルマ圧というものは大変そうだなと、じわりと思ってしまった。
「主婦目線だと、たまの贅沢って感じかな」
「売上大変だろうけど、ちょっとそこまで協力はできないね」
おいしいのは重々承知しているのですけどね? とパートさん組が苦笑を浮かべる。
結婚しているというのもあって、自分の好きにお金を使えないというところがあるのだろうか。
その点、大学生の田中さんは頻繁にコーヒーのんでるような気がする。
「田中さんをぜひ見習っていただきたく!」
「やぁ、そこは店舗の売り上げ貢献とかじゃなくて、好きで飲んでるだけなんで」
スタバとかで飲むよりリーズナブルだし、おいしいから飲んでるんですと、田中さんが言った。
うぐっ、金銭感覚の違いというやつが思い切り現れてしまった形である。
いや、でもそこは好みの問題というか、お金の割り振りの問題であると思う。
そこらへんの割り振りが撮影に全振りの木戸にとっては、撮影に必要なものにはお金は使うけど、それ以外にはお金は使わないのである。
「ちなみに今日はコーヒーマシンは持ってこれなかったので、コーヒー飲みたかったらペットボトルかレトルトになります」
いちおう持ってきてはいますというと、食後のって感じになるのかなぁとみなさん似たような反応である。
通常の食事ならコーヒーはありだけど、宴会でとなるとあまり頼まれないものである。
大学の飲み会とかだとカルーアミルク飲んでる子とかもいたけれどね。
「んで、メニューはどんな感じだ?」
「まずは、前菜からですね。生ハムとチーズとトマト、キュウリとタコ。と、まぁいろいろもろもろつまようじで一口で行ける感じに仕上げます」
コンビニで販売されている材料を使って、軽くつまめるものを用意。
人数もいるのでそれなりの量を作っていく感じだ。
ま、つまようじで一つにするだけなので、正直誰でもできる作業である。
「次はポテトや、チキンですね。ここらへんは普通に店のフライヤーであげてきたんで」
提供前に軽くトースターであぶります、と解説をしておく。
他にはサラダは店で販売しているものを、大皿に乗せ換えて、あとは粉チーズかけたりとか、すこしアレンジすればおしまい。それなりの雰囲気は出るだろう。
基本的にコンビニに並ぶ味でほぼほぼ問題はないので、追加するのはせいぜい温玉とかクルトンくらいなものである。
クルトンもお店に売ってたので、作らないで済んだので助かった。ないならパンを切ってフライヤー行きというのも考えていたのだけれど。
「あとは、餃子とか、ピザとかですね。今回は大皿からつまめる系を集めてるので」
ピザもいろいろトッピングしますよ、というと、お前相変わらずまめだよなーと、店長に感心されてしまった。むしろ店長的にはわざわざ一人分になってるのを大皿に移すのはどうなのかと、思っているくらいだった。
いや、みんなでなに乗っけようかとか、わーわー話しただけで、調理済みをちょっといじるだけなのでそんなに大したことはないのだけれど。
「あとは、時間に向けて盛り付けと温めで完成です」
簡単にできるというのが今回のウリです、というと手慣れてるよなぁおまえと、店長にあきれ顔をされてしまったのである。
さて、ではみなさんでパーティーの準備を始めようではありませんか。
コンビニオーナーのカフェって、ずーっと前に建設中に一回行ったきりなのですよね。
というわけで、そこを会場にしようということで!
しかも貸し切りでございます。メニュー考えるのに、あれやこれやとちょいと時間がかかってしまい……
そして次話では、パーティー本番です。新人さんたちがどうなるのやらーということで。