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731.ゼフィロスの卒業式6

遅くなりました! 卒業式やっと終了でござる。

「では、いただきます!」

 卒業おめでとうございます! と在校生からは明るい声があがっていた。

 寮母さんは、あとは若い奴らでやんな、と言いながらすでに撤収している。

 学生寮はあくまでも学生の自治によって運営されるべきということもあって、寮母さんは住み込みではなく近くのアパート暮らしで、通いでの業務をしているのである。

 まあ、徒歩数分ってところに住んでいるそうなのだけどね。


 さて。その代わりというとなんなのだけど、卒業パーティーの参加者には去年の卒業生のお姉さま方が数名参加という形になっていた。去年寮監をやっていた絵里子さんの姿もある。

 高校を卒業して一年。かなり大人びた姿になったお姉さま方の姿はばっちりと撮らせていただきました。もちろん許可は取得済みだ。


 さて。料理なのだけど。去年は在校生が張り切って作ったわけなんだけど、今年は寮母さんにお任せで一品だけ在校生が担当したのだそうだ。

 意外にあいつら料理が上手いとか去年寮母さんがいっていたんだけど、あれは素直に明日華ちゃんのスキルのおかげだったのではないか、と思ってしまう。家事スキルがメチャクチャ高いからね、あの子。そんな子が卒業生側になってしまったら、あとは推して知るべしである。

 

「本日はお招きいただきありがとうございます」

 ぺこりとルイが挨拶をすると、いえいえーと在校生達から声が上がった。

「去年はサプライズで撮影係になっちゃいましたから、今年はもう堂々と居てもらおうって話になったんですよー」

 寮母さんも是非いらしてくださいとのことでしたのでーと、声が上がったのだけど、あの寮母さんなら、ルイのじょーちゃん今年は招待してやるよ! くらいな言い草なような気がする。この学校の卒業生のわりに、お嬢様っぽさが皆無なお人なのである。

「いちおう一年生達にお伝えするけれど。とにかく撮りますので、あとで残したくない写真があったらガンガンお知らせ下さい」

 事後承諾ということで、よろしくお願いします! というと、あのルイせんせー直々にたくさん撮ってもらえるなんて、ときゃーきゃー言われてしまった。ここ一年は指導中心で学校での撮影はそこまでしていないのだけど、どうやら話題の種くらいにはなっているようである。


「あの、ルイ先生は去年はこういう感じの参加ではなかったのでしょうか?」

「去年は、寮母さんがカメラマンとして呼んだって感じだったかしら。確か報酬は……」

「ライスバーガーかき揚げでした! あれはうまかったです!」

 実は、あのあと家でもやってみようって感じで試したんだけど、あのぱりっふわな、ライスの感じが上手く再現できず……しかも油モノはハードルが高く……というと、ドンマイと彩ちゃんに肩をぽんぽんされた。

 いや、コンビニでは一杯揚げ物はやってるのですよ? でもお家だとどうしたって油の処理が面倒なのです。 


「うわ、ご飯でルイ先生使い放題なんですか?」

「まぁそこは、あのときの特別って感じかな。そもそも卒業式の撮影依頼を受けてたついでだったし」

 そこで新たに契約っていうのはちょっと、二重契約になっちゃうかなって、というと、確かにお仕事中ではありましたよね、と彩ちゃんに言われた。

 あのときは、雇い主のほのかにも了解を得たしむしろ一緒に行きましょう! って流れになったからできたことである。さすがにお仕事中にわーいって他の写真撮影にいったりしないルイさんです。


「でも、今年はどうなんです?」

「今年は素直にご招待にあずかりましてって感じだね。お仕事っていうよりはプライベート」

 いちおうこの寮との縁もあるし、お誘いをいただければはせ参じるのは当然のことです、というと寮生でよかったといくつか声が上がった。

 まあ、明日華ちゃんがどうなるのかーとか、若様もお別れだよねって考えると抑えておきたい場所だよねって言う思いもあったので参加した次第だ。

 明日華ちゃんは嫌がるかもしれないけど、学生生活の一コマを写真で残しておくことは、とっても嬉しいことだと思うので。実際、沙紀矢くんも高校時代の写真については、大切にしまっていますって言っていたしね。

 いちおう、来年もお仕事をしているようであれば、彩ちゃんの卒業式までは関わろうかななんて思っている。よーじくんがエレナとどうこうなるとしたら、将来的にもお付き合いが続く可能性は十分あるわけだしね。


「にしても、相変わらず豪華なご飯だよねー」

 さて。卒業式の本日の夕飯は、取り分けスタイルのオードブルという感じだろうか。

 トマトとベーコンのサラダから始まり、サーモンのカルパッチョ、バゲットと牡蠣のアヒージョが並んでいる。

 ちなみに、生徒さんが作ったのがラザニアなのだそうで。まだ熱々で湯気がでているところである。

 他にも、果物や常備菜がちょこちょこ箸休めでおかれているようで、好きにやっておくれという感じである。

 あとは、落ち着いたらデザートがでてくるというお話だった。

「寮母さんの作って下さる料理は、洋風も和風もありますけど、今回はお嬢様学校の卒業ということもあって、洋風にしてくださったみたいで」

 ちょっと豪華で特別なご飯って感じです、と生徒のみなさんからも高評価のようだ。

「ルイ先生は普段をみますと、お弁当が多いイメージですけど、こういう料理はお口に合います?」

「合いますとも。というか、友人の誕生日パーティーとかを思い出すかな」

 まあ、そんなにパーティやる友達はいませんが、というと、そちらにも顔が利くのですね、と明日華ちゃんがぼそっといった。

 将来的にどこまで進出するのやらとでも思っているのだろうか。

 残念ながら咲宮の家のパーティーには参加できていませんです。

 

 そんな話をわいわいしながら、食事は進むわけで。

 いったんテーブルが綺麗になったあとで、デザートがサーブされていく。

 給仕をしてくれているのは一年生の寮生だ。

「では、デザートが行き渡ったところで、私、若葉から卒業生のお姉さまに送辞を送らせていただきます」

 僭越ながら在校生を代表して、と若葉ちゃんがみなの注目を集める。

 ん? と思ってカメラを反射的に向けると、明日華ちゃんに撮っちゃダメと、視線で合図をされました。いや、それはゴメンなのだけど、なんで若葉ちゃんが代表みたいな空気になってるのだろうか。

 確かに若様って呼ばれてるけど、それは明日華ちゃんが言っているのが染みついているだけで、お姉さまの様と違う、ニックネーム的なものだと思っていたのだけど。


「今まで、我々妹を導き、身をもって規範を示して下さってありがとうございました。私達も来年最高学年になるにあたって、お姉さま同様、いいえできれば少しでも良くあれかしと思い、精進していこうと思っております。お姉さま方もますますのご活躍を祈りながら送辞とさせていただきます」

 今までありがとうございました。

 大切な事なので感謝を二回重ねて、若葉ちゃんの送辞は短いながらもしっかりと終わった。


「まあまあ。ご丁寧な送辞ありがとう。私達も若葉ちゃん達に負けないようにがんばらないとね」

 ふふと、ほんわかした卒業生達の笑顔が浮かんだ。

 はい? という顔をしているのは彩ちゃんくらいなもので、みなさんはがんばりませんと、とにこやかなものだ。そっちの卒業生の顔はもちろん撮らせていただいたよ。若様のはダメだけど、他まではダメといわれていないからね。


 さて。

「あの……若様? えと……来年もということは、どういうことで?」

 我慢できなかったのか、彩ちゃんはこそっと若葉ちゃんに問いかけているようだった。

 さすがに、大事にはできないから、こそこそという感じである。

「あ……その、せっかくだから来年もお世話になろうと思っていまして」

 住めば都、と申しますでしょう? と若様が変な事を言い出した。

 まあ、二年も住んでいるのだからあと一年せっかくだから、という申し出なのだろう。


「ん? 彩ちゃん。若様ってなにか、事情があったのかしら?」

 確かに寮監を断られたのは、もったいないと思っていたのだけど、と三年生のお姉さまから声がかかる。

 本当に何気ない一言なのだけど、彩ちゃんは、ちょっと困ったような顔を浮べて、ルイに視線を向けてきた。なにをどこまでいって良いかわからないって感じなのだろう。

「ええと、彩ちゃんからさっきちらっと聞いたんだけど、お家の事情でもしかしたら今年で別の学校に行くかも、というお話があったそうで」

 それが急に覆ったからびっくりしちゃったんじゃないかな、というと、そうっ、それですと彩ちゃんが頷いていた。

 まあこれくらいの説明が一番不自然ではないだろう。半分以上事実で、本体の事情はすぱっと言わないで済ますのがポイントである。


「どうなるか確定してなかったので、お姉さま方には内緒にしていました」

 でも、話し合いの結果なんとか、残れることになりまして、と若葉ちゃんはテレ顔を浮べていた。

 可愛いので一枚撮影。明日華ちゃん的にOKだったのか、妨害は入りませんでした。

 一応後で写真のチェックはお願いしようかと思います。

「……わぁ! じゃあっ! えっ。もしかして私達一緒に卒業できちゃったりする?」

「うあっ、そ。そういうことになる、ね」

「やったー! うわぁー嬉しいなぁ」

 もうお別れだと思ってたから、まだ一緒に居られるの嬉しい! と彩ちゃんは思いっきり横から抱きつきをかましていた。そちらのほうは、はい、撮ろうとしたら明日華ちゃんに睨まれました。これはNGなんすね、はい。


「あと、私からもご報告があります」

 さて、そんな同級生同士の微笑ましい光景を脇にみながら、明日華ちゃんがすっと手をあげて申し出た。

「若様の従者である私は、来年度はここ鹿起館の使用人として給仕する形になります」

 就職ですね、というと、みなさんぽかーんとした顔を浮べました。

 ああ、今初めて聞きましたって感じで、そんな光景を少しのけぞりながら全体を撮らせていただきました。

 ルイさんは硬直しないのかって? だって、あの明日華ちゃんだよ? 若様と別れるわけないじゃん。となるとあり得ることかなーと思っていれば、止まったりはしないのである。

 しかもここの経営は咲宮家のグループなわけで、そこに所属している明日華ちゃんなら、初の試みであっても割と通ってしまうのだ。どこまでいっても明日華ちゃんは若様の従者なのである。


「ですので、若様の同級生の皆様、妹様方、一年間全力でご奉仕してさしあげますので、よろしくお願いいたします」

「……うわぁ。それはそれで怖いような、悩ましいような」

 明日華ちゃんは、なにげに優秀なお姉さまである。きりっとした美人さんで、後輩さん達からはちょっと怖そうなお姉さまと思われている人である。

 まさに、そう、きりっとした眼鏡メイド長といったイメージなのである。

 お手本にはしたいけれど、そこまでは頑張れないという微妙な目標という感じが明日華ちゃんにはある。

 というか、本人がストイックだからそうなってしまうのだけど、まぁそこまで頑張れないっていう人が多いということなのだろうと思う。


「ふふっ。明日華さんは若様にべったりね。まるでお付き合いしてるみたいだわ」

「主従というのとも、またちょっと違いますよね」

 とっても仲良しで羨ましいです、と、ほんわかした空気の中デザートをいただくことになった。

 本日のデザートはフルーツポンチ。しゅわっと炭酸がきいた果物達はちょっと甘酸っぱくて。

 いっそう二人の関係について微笑ましく思う空気が食堂に広がった。


「私たちは、別にそのような関係ではありませんよ」

 ただ、付き従うだけです、と明日華さんがいうものの、周りは言葉通り受け取るわけでもなく。

 まあまあ、そういうことでしたら、と女子高生が一気に近所のおばちゃん風に変化した食卓になったのでした。

 ルイさんとしては、ちょっと困ったような、いつものきりっとしたお顔が崩れたところを撮影ができたので、とても満足な瞬間となりました。


 あ。そのあとはちゃんとその日撮った写真の品評会もさせていただきました。

 いちおう明日華ちゃんからもしぶしぶ、合格です、あとでデータくださいと申し出もいただきました。

 若葉くんのこの選択が果たしてどう出るのかは、将来のお話ということで、とりあえずあと一年、この環境で成長していっていただきたいな、と思ったルイさんでした。

いやぁ、なかなかここの話がまとまらなくてお時間いただきました。

はれて、女子高生として卒業することを決意した若葉くんは、進路とかどうするんだろうなぁとかいろいろと妄想がはかどります。


さて、次話は四月。コンビニのお話になりますよ!

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