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730.ゼフィロスの卒業式5

さぁ、やってまいりました鹿起館。ゼフィロスの寮でございますー。

「彩ちゃん! お久しぶりー!」

「わー、久しぶりの生ルイさんです! 相変わらずお美しい……」

 カシャリ。

 鹿起館で出迎えてくれた彩ちゃんにいえーいと片手をあげつつ挨拶をすると、にこりといい顔をしたのでシャッターを切りました。

 はい、彼女はエレナさんの彼氏のよーじ君の妹にして、お嬢様学校の中でも珍しい寮生なのでありました。

 あこがれのお姉様たちと一緒に過ごすとなると、ここはもっと人がごった返して抽選倍率えぐくなんないの? って、ここの卒業生のとあるお姉様に聞いたのだけど、「遠目から見るだけでも胸が高鳴りますのに同じ屋根の下とは、それを背負えるからこそ特別な方々なのですわ!」

 という意見を聞いたことがある。

 なるほど。近寄りたいけど高嶺の花のそばに立つのにはそれなりの心構えが必要ということだろう。


 でも、以前から、寮生がそう見られていたわけではない、のだそう。

 おおむね咲宮の御曹司のやきそば小僧こと、沙紀矢君が「自宅通勤の人ばっかりの中で寮生活をする」というので話題になり、さらには生徒会長になったっていうのもあって、きゃー素敵-! 寮生すげー! ってなったのから、始まったのだろうなと思う。

 じゃあ彼が去った後はどうかといえば、その影響からか後輩ちゃん達はやる気満々で、お姉様のご薫陶のたまものですみたいな感じで、やる気が強くて寮の生徒は粒ぞろいみたいな扱いになっているのである。嬉しい連鎖というやつである。


 そんな中に身を投じている彩ちゃんなのだけど、この子のことについてはそんなに深くエレナからは聞いていない。

 在学中にお兄様がエレナお姉様とご結婚すれば、エレナお姉様は学園に親族として来られますね? と冗談交じりで言っていたのを聞いたことはあるけれどね。

 それ、一般的な意味では「お兄ちゃん、さっさと結婚しろよこのやろー、ラブラブなの知ってんだぞ-、後押しするよー」位のやりとりなんだろう。

 でも残念、エレナさんは性別不明の男の娘レイヤーさんである。

 そして詳しくは言わないが、日本では男性同士の結婚ができないのだとか。

 となると、これはもう「おにいちゃん、エレナさんと結婚早くするために、同性婚! 同性婚法律ぶちあげ!」か、「エレナさんの性別を女性に……でも、本人の尊厳を考えると云々」と面倒臭いことになる。あのまま二人でするっと結婚できてしまえば楽なのだけど、そうもいかない世の中である。


 そして、当の本人から二人の関係を聞いてるルイとしては、「型にはまらなくても」と思うところなので、その点に関してはなにも口を挟まないようにしているところである。お嬢様風にいうなれば「差し出口はいたしませんわっ!」というものだ。まあエレナさんゼフィロスの中に入れるのめっちゃ羨ましがってるけどね。


 というか、学園祭の時を見てもここって、保護者のパパンとか、じーちゃんとかじゃないと入りにくいというか、兄の婚約者ですって人が入れるのかと言われると、悩ましいところのように思う。

 そういうの改善したいんですけれどね、と学院長とかは言ってるけど、そこはすぐには変わらないところに違いない。 


「ええと、ご招待にあずかり来てみたんだけど、夕食の時間はまだだよね?」

「はい、いま寮母さんが厨房でいろいろ準備してくださっています。パーティーの飾り付けとかはある程度もう終わっているので、あとはお姉さま方がお戻りになるのを待つばかりですね」

「あらら。まだ戻ってきてないんだ?」

「そこは……まぁ寮のお姉さま方は一目置かれる方ばかりですから。いろいろな場所でお別れを惜しまれていると思います」

 ふむ。確かに寮の子達は頑張っているから、割と活躍をしているだろうということはわかる。

 高校三年でどう生活したのかというのは、卒業式という場所での在り方でにじみ出てくるものだろう。


 え、お前の卒業式はどうなんだって? いやぁカメラ握ってましたわー。ルイさんの高校三年間はカメラでしたわー。

 

「あれ、でも若様が人生の明日華ちゃんも帰ってないの?」

「そうなんですよ。まぁでもあそこはほら、お二人の時間を大切にしたいとかいろいろあるんじゃないかなぁ」

 今年で二人とも居なくなっちゃうのさみしいなぁと彩ちゃんはぼやく。

 ああ、彩ちゃん二人の事なにか聞いてるんだろうか。

「ん? 明日華ちゃんは卒業にしても、二人っていうのは?」

 どゆこと? としれっと言ってやると、あっ、その……実は、と彼女は話し始めた。

「若葉ちゃんから転校するかもって話を以前聞いたことがあって。それで若葉ちゃん時々すっごい優しい顔とかするものだから、旅だってしまうのかなって」

 実際、決まったかどうかは知らされてないんですけどね、と彩ちゃんはしょんぼりしていた。


「まー、明日華ちゃんのためにこの学院に通ってたってところが大きいからねぇ。卒業が一年早くなったみたいな感じかなぁ」

「むぅー、せっかく一緒に卒業できるって思っていたのに」

 どこかの伝説の体験入学生と一緒に卒業したいってぶつくさ言っていた、ほのかお姉さまの気持ちはこういうことかと思うばかりですと彩ちゃんが言った。

 うぐっ。すいません、どこかの体験入学生はすでに大学生だったのです。


「おっ、ルイのじょーちゃん。こっちくるの久しぶりじゃん」

 さて、そんな話をしていたら厨房の方から明るい声が聞えてきた。

 ここでその呼び方をするのは寮母さんだけなので、確認しないでもわかるのだけど、ちらりと厨房の方を見るとエプロン姿の彼女の姿が見えた。

「ご無沙汰しています。まー私寮の関係者ってわけでもないから、むやみに近寄らないようにしてるんです」

 いちおう、明日華ちゃんたちが写真部だからこれないわけでもないんだけど、学院長から貴女はどうしたって撮るだろうから、女子寮の中での行動は自重してと言われているのである。

 そりゃ確かに、この建物は被写体としてとてもわくわくするものではあるし、散々沙紀ちゃんが居た頃には撮らせてもらっているわけだけど。

 いちおうは自制はできるルイさんだと、声を大にして言いたいところである。


「で、今日はあいつらの卒業で寄ったってわけかい」

「そうなりますね。教え子の明日華ちゃんと若様からお誘いを受けましたので」

「って、じょーちゃんも若様呼びなんだな。なんつーか、お姉さまじゃない様付けって、明日華はわかるけど、違和感あるっていうか」

「あー、これは明日華ちゃんが言ってるのが移ってるだけなので、あまり気にしないで大丈夫ですよ」

 若葉ちゃんって呼んでも全然問題ないんだけど、あの子ちょっとお嬢様っぽくないところがあるので、ちゃんづけすると嫌がるのです、とルイは答えておく。

 実際は、若葉くんが年頃の男子だから、ちゃん付けされて反発を覚えるって事なんだけど、んなことは公式では言えないのである。


「たしかになー。あたしもお嬢様らしくないって言われ続けてここに居るんだが、まー若葉はちぃとよそよそしいというか、あたしのとも違う壁みたいなのはあるかな」

「えぇー、寮母さんはむしろお嬢様が持ってる壁を、ぶっこわーす! って感じじゃありませんか?」

「ほほー、彩はあたしのことそー思っていたのか」

 これは、デザートの品質を一ランク下げるしかないかなぁ、と寮母さんは脅しにかける。

 そ、そんなことはーと、彩ちゃんは悲しそうな声を漏らした。


「いやいや、事実だから仕方ないと思いますよ。っていうか、寮母さんたしかこの学校のOGですよね? 学生時代どうだったのか、とても気になるんですが」

「んあ? ルイのじょーちゃんまでそんなこと言うとは……これでも二年まではメチャクチャ真面目なお嬢様だったんだぞ?」

「これは、三年になったら衝撃的な出会いがあったとかですかね」

 ほほう、衝撃的な出会いでも? とルイが問いかけると、彩ちゃんがきらきらした視線を向け始めた。

 うん、可愛いから撮りました。


「まさかっ、学外の方と交友があって、ちょっとダーティーな感じの方とお付き合いをされていたとかっ」

「って、どうしてそうなるっ。てか、うちのがっこは、異性交遊禁止じゃんか」

「いやぁ、衝撃的な出会いっていったらやっぱり、色とか恋とかかなぁって」

 良い出会いがあって、がらっと性格が変わるーみたいなことがあるとかないとか、と彩ちゃんが言った。

 そして寮母さんがうぐっと、慌てたような顔を浮べている。

 もちろん、それは撮らせていただいた。


「おおい、じょーちゃん、なに撮ってんだこら」

「ふふっ、寮母さんの慌てる顔、かわいいなーって思って」

 だめでした? と苦笑を浮べると、ぐぬぬと彼女は黙った。


「まあまあ、これがルイさんというものなので。それで寮母さん、もうパーティーの準備はおしまいですか?」

「いんや。今はオーブン使ってて手が空いたから見にきただけだな。いつもは聞えない声があったから」

 そしたら、じょーちゃんだったってわけだな、と寮母さんが言った。

 

「確か数名来客ありって話だったけど、じょーちゃんがそうか」

 なるほど、と彼女はあらためてルイの姿を見る。

 いちおう学内でちょっと会話をしたことはあるけれども、お互い仕事があるのでこうしてじっくりというのは無かったので、ひさしぶりに見られているという感じである。

「ある意味、うちの学校の卒業生っていっても、うなずいちまうよな」

 あたしよりよっぽどうちの学校のOGっぽいよな、と彼女は言った。

「それを言うなら、沙紀ちゃんやまりえちゃんの方が、らしいですけどね」

 っていうか、あの二人は今日はこないんですか? と二人に問いかけると、あーと彩ちゃんが答えた。

「お二人は都合があるとかで今日は参加できないとのことでした。昼は学園にいらっしゃってたとは聞きましたけど」

 ちょっと残念です、と彩ちゃんは言った。


 ふむ。さすがに卒業式の時に若様達へのダメージを与えないための配慮なのだろうか。

「いくら伝説のお姉さまといっても、いや、だからこそなのかな。うっかり学院に来るとみなさん、きゃーって言いそうだよなぁ」

 いや、まじあの子たちは、ザ・お嬢様だろと寮母さんが言った。

「いえ、昼間は割と、普通にきゃーきゃー言われてたみたいですよ。ご想像の通りかなり囲まれてたみたいです」

「あたしも会ったけど、相変わらず麗しくて、ついシャッターを切りたくなりました」

 まー表には出せない写真ですけれどねぇと、ため息を漏らすと、ほーじょーちゃんも自制できるのかと寮母さんに関心されてしまった。

 いや。裏事情とかも知っていますし、さすがにそれは表に出してはいけないやつなのです。


「ま、なんにせよ今日は卒業生のためのイベントですから、それなりにこっそり裏方としてカメラマンやろうと思います!」

 撮影はいいんだったよね? と彩ちゃんに問いかけると、それは大丈夫ですと答えてくれた。

 一応、最終的にみなさんの許可はとりますねーというと、そこはぜひ! と言われた。

 とにかく今日は明日華お姉さまのことを撮って欲しいと言われてしまった。まぁ卒業ということもあって、普段から油断も隙もないあの子の地というか、ちょっと砕けた表情を撮っておきたいというところもあるのだろう。


「ふふっ。それじゃぜひとも撮った写真が、NG判定されないようにみなさんのご協力をお願いします!」

 きっと、若様を抱き込めば明日華ちゃんだって写真を消してくださいとは言わないだろうというと、わかりましたと彩ちゃんはいたずらっ子のような顔で笑うのだった。

 


寮母さんなにげに、しゃべらせやすいキャラよねーと思いつつ。

彩ちゃんとも久しぶりに合流です。

次話は、卒業パーティーになります。

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