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729.ゼフィロスの卒業式4

気がつけば10周年となりました!

みなさま長らく読んでくださってありがとうございます!

「いやぁ、さすがに卒業生が校庭一杯に広がると華やかだねー」

 笹沢先生と別れて校庭やら校内やらを周回していると、至る所でお姉さまのお見送りで涙ぐむ姿や、保護者の方が先生がたにお礼を述べている姿というのが散見することができた。

 もちろん、直接の撮影はしなくて、撮影している子を撮影するというスタンスに変わりはないのだけれど。

 時々、出会うほのかの知り合いの後輩とかは、ほのかさんに撮ってもらいました。

 

「今までしっかりと生活したーっていうところもあるんじゃないですかね」

 充実した学生生活ができていたのなら、姉としてとても誇らしく思います、とほのかがドヤ顔をしたので一枚撮っておいた。

 きっと去年の卒業式のことでも思い出しているのだろう。


「そんな中でぽつんと一人きりーな子とかにも声かけて写真撮ってるあたり、写真部の子たちも成長したなぁって思うかな」

「それはルイ先生の影響が色濃く出た結果のような気がしますけど」

 ゼフィロスは確かに恵まれた環境と、惜しみない資金が投入されている学校ではあるけれど。

 だからといってみんながみんな、わきあいあいとやってこれるわけでもなく、性格がドライな子というのももちろん居る。

 さらには、超絶奥手で仲良くするにも、あわわほわわとなってしまう子というのも居る。

 そんな子は、若干ぽつんと一人で居たりすることもあるわけで、そういったときに写真部は声をかけるのである。

 

 それは、そう。姉妹の関係ではなく、カメラマンと被写体として、高校生活をなんとなく取材するといった感じだろうか。

 その結果どんな表情が引き出せるのか、というのも楽しみの一つだ。

 無味乾燥で卒業するのではなく、三年間になにか一つでも思い出が残ればいいな、というくらいの話だ。

 そういうのを期待して、親御さん達もお嬢様学校に通わせているのだしね。いや、一つじゃなくて、いっぱいですか、そうですか。

「否定はしないけど。でも、みんなでわーいっていう写真は割と誰でも撮るけど、一人でいる被写体に絡むのって、ある程度の度胸がないとできないじゃない? まー、断られたらそれで残念無念ーってなるけど、なかなか友達同士とかクラスメイト同士だと、無念ーを感じたくないから声かけないみたいな」

「そうですね。短期間の転入生とかだとみんなめっちゃ絡みますけど、何年も一緒にいるとだんだん距離感がちょっと遠くなるというか」

「おっぱいの大きさでいじってきたりしなくなるんですね、わかります」

 ふふっと、そう言ってやると、もぅ、まだ根に持ってるんですかーとほのかは頬を膨らませた。

 可愛いので撮らせてもらいました。


「それでルイさんはこれからなにかする予定でも?」

「あー、一応下校が四時なんだよね。で、三時半に学院長室にお呼ばれしています」

「うええ、あともうちょいじゃないですか。お呼ばれって、またなにかやったんですか?」

 このトラブルメイカーさんめーとほのかは心配そうな表情を浮べた。

 いや。またって、そんなに頻繁にトラブル起こしてないですから。

 むしろ周りに勝手に集まるだけなのですよ。

「一応今日が卒業式っていうのもあって、学院長先生と面談だってさ。来期も雇ってもらえるかどうかみたいなところかな」

 たぶん、辞めて下さいって話にはならないとは思うのだけど、いちおう形式上話は聞いておきたいんじゃないかなと答えておく。

 いちおう、女学院に女装したカメラマンが、写真部の顧問をやっているというのは、文字面だけ見たのなら結構アレな感じなわけで。

 学院長先生も理事長である沙紀矢くんのお母様も、実害はないというのをわかってくれてはいるだろうけど、定期的な面談というのはしておきたいというのはあるのだろうと思う。


「ってことは、品評会は明日以降ですか?」

「まー、お別れのアフターとかもある子もいるし、そこはね。参加したいのなら次期部長に交渉してください」

 そこは私の裁量じゃなくて、現役の子達が許可するなら、OKですと答えておく。まぁ、卒業しても姉として慕ってくれてるかどうかの試金石だね? というと、金的がどうかしましたか? と返事が入って、軽くショックを受けるルイさんであった。

「そこは、巾着包みとか、栗きんとんとか、ご飯系いって欲しかった……」

 淑女を育てる場にいる身として、さすがにその発言を許すわけにはいきません、公立高校ならいいけど! というと、ほぉと、ほのかがルイの顔をのぞき込んでくる。

「えー、でも、一番似てません? それにほら、うちのがっこって護身術の授業あるけど、そのとき相手が男性だったらまず狙うべき場所って教わってますし、そんなに恥ずかしがることではない……ん? あ。うん……」

 経験がおありで? とこそっとほのかが耳元でささやいてくるのだけど、それについては、NOである。

「話を聞くに、悶絶する痛みだっていうよ? あたし体育の授業の時にクラスメイトが死にそうになったー! やべーみたいなのは聞いたことあるので」

 高校体育の授業というとクマ小僧の木村氏なのだけど、彼がやらかしたわけではない。

 野球の授業中にぐうぜんにも、あたってしまったという悲劇があって。

 で、まあ、マンガとかだと翌日おねぇ言葉で話し始めたりするのかもしれないけど、完全復活して、「やべー」って言葉の洪水を聞くはめになりましたとさ。そんな冗談でる余裕もねぇと言っていたので、「素手でぶちちぎろうとした」っていうかつてのMTFさん達は、どんだけ病んでいたんだろうと思うばかりである。あ、シフォレの某オーナーさんが「引きちぎろうとしたけど、激痛」「刃物でってのも、オペ後のことを考えると素直にそっちを待ちました」なんていうのを、千歳に言ってるのを聞いたことがあるルイさんである。

 

「じゃ、急所ってことで、金的を認めていただいたところで、そろそろお時間ですかね」

「いやー、試金石の言い間違いの話をしてたのだけどねー」

 どうして、男性から身を守る話になるんですかねー、といいつつ時計を見ると。

 確かにそれは、三時半の五分前といったところなのだった。 



 さて。集合時間の二分前。

 学院長室の前で息を整えると、扉をノックして返事が来るのを待った。

 すでにほのかとは別れているので、ルイは一人での面接である。

 すぐにどうぞと声がかかったので、扉を開けて中に入った。

「……うわ」

 学院長室の中にいた人物を見て、不覚にも声を上げてしまった。

 学院長先生はいい。さらに沙紀矢君のお母様である理事長の呉羽さんも同席すると聞いていたので、そこに驚きは無い。

 問題なのは、もう一人の人物である。


「こんにちは! ご無沙汰しています咲宮さん。以前、離れのお屋敷をお借りして花火の撮影をさせていたいた、豆木ルイです」

 覚えていらっしゃいますか? と意を決して声をかけると、あ、ああ! おまえさんかと咲宮家のご当主は表情を明るくした。

「おぉ、あのときの嬢ちゃんか! こりゃ、ますますべっぴんさんになってるのう」

 ほぅ、とやはり優しい視線をルイに向けてきてくれる。これで怖いとか、生殺与奪の権がとかで怖がるのはちょっとどうなのかと思う。

 あれかな、まりえさん達は幼少期のときのイメージが強く残ってるのかもしれない。なんかいろいろ指示を飛ばしまくって、部下をしかる姿とかをばりばりと見ていたら、怖いご老人という印象にもなるだろうか。


「さて。では関係者そろいましたし、豆木先生の面接を始めようかと思います。咲宮さんもよろしいですか?」

 こほんと、場を改めるために学院長先生が咳払いをしてから、話し始めた。

 いきなり挨拶を始めたルイに、なにやってんすかとでも言いたげな顔である。

「いや、まってくれ。関係者というが……話では、ゼフィロス女学院の今後のために、男性の教諭を臨時で雇っている、見定めてくれって話じゃったろう?」

「教諭というか、コーチですけどね。それがなにか?」

「……嬢ちゃんは嬢ちゃんじゃろ。さっさとその担当のコーチ? を呼んでこんか」

 まったく、待ち合わせの時間を守れないとはけしからんやつめ、とご当主は不満の声をもらした。

「いえ、お義父様。間違いではありません。ルイちゃんがその、男性の教諭です」

 採用したときに私が面接をして、まりえさんにもいろいろ確認をしていただいたので、間違いありませんと、理事長から声がかかる。

 ああ、咲宮の家に伺って、お風呂に入れっていわれたときのお話ですね、わかります。

 あのお風呂は広くてとても素晴らしかったですとも!


「……またまた、変な冗談を」

「ご当主でもその反応とは……いや、分からないでもないですが」

「んー、どうすれば信じてもらえるんだろう」

 触ってもらうとかでも、今はタックしているしなぁとつぶやくと、ぴくんとご当主の体が震えた。

「その単語が出てくるとなると、話は本当なんじゃな……」

 そうか、そうなってくると崎山の嬢ちゃんの行動もあながち……とぶつぶつつぶやき始める。

 世間では同性同士の友達と思われて、私的にはデートというわけかと、納得を得たようである。デートかどうかでいえば、ルイとしては友達同士で遊びにいく感覚なのだが。


「そういうことなら、了解じゃ。では、面接をはじめてもらおう」

 すまんね、余計な水を差してとご当主がいうと、こればっかりは仕方ないと思います、と学院長が答える。

 どうやら、面接のメインになるのは、学院長先生ということらしい。

「ではまず豆木さん。来年もうちで写真部の面倒を見てもらうことはできますか?」

「はい。今年と同じくらいの参加でしたら、是非」

 今のルイの契約状況というのは、月二回以上写真部の顧問として、指導にあたるというものである。

 合宿にも参加するし、イベントごとがあれば写真部のバックアップもする。

 ただ、本業はカメラマンということもあるので、ずっと常駐するということは難しい。

 そこは去年と変わらない条件である。


「そうよね、ルイさんまだ大学生だし、沙紀矢も言ってたけど、忙しそうだって」

「いちおう来年必須の講義ってそこまでないし、院に行くわけでもないので、そこまで大学での活動をするわけでもないですけどね」

 木戸さんは高校の頃から親に、成績下がったら女装禁止! とか言われて育っているので、学業はそれなりにまじめなのである。

 あとはどこまで特撮研に参加するのか、イベントはどうするのか、そしてコンビニバイトをやるのかといったところで、自由時間の捻出は変わるのである。

「ふむ。嬢ちゃん、就職活動とかはどうなんじゃ?」

「そこは内定というか、すでに半分在籍してるようなものなので」

 本来はコーチというよりはイベントのときのカメラマンとして採用してもらったので、というと、そうじゃったかとご当主が目を見張った。

 この学院のことは責任者に任せているというのは確かなことらしい。


「ここ一年の活動を見ていると、我々としても続けてやって欲しいと思っているのだけど……」

 写真部の活動の仕方が変わったことというのは、職員会議でも話題にあがることがあるのだとか。

 おおむね好評のようで、すごく前向きになった生徒が増えたというのである。

 

「あとは、豆木さんの性別を公開するかどうか……」

「ちょ、それは無理じゃろ……さすがにトラブルになる」

 そこでご当主が焦ったような声を漏らした。

「咲宮さん、さすがにここで思いっきりスキャンダラスに公開するつもりはないですよ。さすがに無茶ですから」

「そもそも、ルイさんを顧問に据えようって思ったのは、今のこの女性だけで運営されている現状になにかの風を入れたいってところから始まってるんですけど……そういう意図の方向にはいかなかったということもありまして」

 あのときはなにかもうちょっと突飛なことでも起きないかしらと半分思っていたのですけど、と理事長が苦笑気味に言う。

 ちょっと沙紀矢くんのお母様!? いつだって事件起こしまくりなルイさんではないのですよ。


「それでも志農さんとこの嬢ちゃんもおるし……」

「まーそうなりますよね。今年卒業ではありますけど、変につつくとそっちに弊害が行くかもしれないし」

 というか、この学院に男性がいるなんていう噂が立ったら生徒達の中で疑心暗鬼になりそうだし、本人達は肩身狭くなりそうだし、と理事長はさらっと言った。

 そう、さらっと咲宮の家の秘事を言い放ったのである。


「志農さんって、明日華ちゃんのことですよね。写真部でいろいろ仕切りをしていただいて、有能な子だなと思っていたのですが」

 さて、しれっとそんなことを言ってきたので、ルイとてしれっとこんな風に返しておく。

 がっちり関わっている相手なので、知らない相手ですという対応は悪手だ。

「おや、嬢ちゃんはしらんのか。あの子はその、心は女性というやつでの。特例で学院に通ってるものの、実は男性では? という疑惑がでてしまってはひどいことになるからのう」

「今年卒業としても、たしかに学院でざわざわしそうですね」

 公開してないってことは、ある程度の反対が出る可能性を考慮してってことでしょうし、といっておくと、うむとご当主がいった。

「あの子は、小さな頃から、わしのことをじいじって言って慕ってくれてのう。もー昔っからめろめろじゃよ」

 卒業式もよかったのう、とご当主は満足げな顔を浮かべていた。


 ふぅ。これは乗り切れたかな。

 志農さんの姿に違和感を覚えるレベルとなると、若葉ちゃんのことも見破れるでしょ? ってことはばれちゃったら後継者レースの話が大変なことになりませんかね? ということへの配慮の一つである。

 まあ、一年間無事に過ごした上で、もう一年過ごすという追加タイムなので、判定がどうでるかはわからないけど、それでもここはいちカメラマンが暴いていい問題ではないのである。


「ふむ。最後のほっとした顔というのが、ちといただけないが及第点かの」

「ええー」

 にやりとご当主が笑みを浮かべたところで、思わず声をもらしてしまった。

 なんということでしょう。さきほどのやりとりまでもどうやらテストだったようです。

「ルイさんには悪いと思ってるけど、学院としても貴方のコンプライアンスを確認させてもらったの」

「コンプライアンスときましたか……」

 だって、男性としての視点でうちの子達をみてないのは知ってるけど、守秘義務とかそっちの感覚もチェックをしたかったのと理事長が言った。

 ふむ。

 ルールを遵守するとかそんな意味合いだったっけ?

 たしかに、この男性を雇うということについて、ルイが口を滑らせれば一気にスキャンダルである。

 さすがにそれを言ったら大問題になるという自覚はあるので、最近のルイはなるべく性別について触れないようにしているのだけど。

 高校の時よりも、ルイさんの正体については厳格に秘密にしているところである。

 特撮研の人達ですら、よっぽどのことがない限り同一人物であるということは、漏らしていない。


「そんなわけで、とりあえずルイさんについてはまた一年契約をしていただきたいです。新しい風に関してはあんまり気にしないでいいので」

 そこはちょっとずつ教員の意識改革からしてかないといけないので、と学院長が言った。

 まあ、そういうことなら、喜んでと契約書を読み込んでからとルイはサインすることになった。

 

 性別について身バレしたら責任とりませんというようなことも書かれていたけど、まぁそれはそれである。

いやぁ、咲宮のご当主が学校に居る理由が分かって良かったね!

明日華ちゃんの卒業式のお祝いをしたかっただけっていうね!

そして、ルイさん一年間のお仕事をゲットです。


次話は鹿屋敷に行く予定でございます。

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