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727.ゼフィロスの卒業式2

さあゼフィロスの卒業式二話目。誰がはなしかけてきたんでしょーか。

「えっと、そのー、ほのかさん? お久しぶり?」

 声をかけてきたのはまりえさんである。その後ろでは、二年前の憧れのお姉さまである、沙紀お姉さまの姿がある。

 あ、コート着ててもわかります、足下はタイツが見えていますので、きっとスカートかワンピなのですね! 久しぶりのお姉さまスマイルを撮りたい所存です! 普段の焼きそば小僧も美しいけどね!

 いや。焼きそば焼いてたのはレアなのか……普通の学生生活を見てると、貴公子って感じはするらしいです!(学年違うからね! イベントごとで見かけることのほうが多いのです)

 

 さて、そしてまりえさんは警戒感満開という感じで、どうしてここに居るんですか? という空気を隠す気もないらしい。

 笑顔を浮べているけれど、それでも目は笑ってないというか。

「えっ、ちょっ、まりえお姉さま。私なにか変なことしちゃいました?」

 え、えっ、と、ほのかは困惑した声をあげていた。出会い頭にここまで警戒される心当たりが全くないのだから当たり前だ。というか同じ大学に通ってるのにあんまり交流はないのだろうか。

 確か春先に一回、ほのかと大学内で撮影してたらまりえさん達にばったりってのはあったんだけども。

 学年が違ってサークル繋がりもないと案外会わないものなのかもしれない。


「写真部のOGとして今日は参加してくれてる感じだよ? ほら、あたし写真部の顧問なので」

 それで一緒に居るのです、としれっというと、そういえばそんな話もありましたか、とまりえさんは少しだけ力を抜いたようだった。

 それでもまだ緊張感はあるようで、すこし沙紀ちゃんを身体でかばうようにしているようだった。

 これ、知り合いに会いたくないとかそういう感じなんだろうか。ルイさんを見かけて声をかけたものの、おまけもついていたって状態なのかもしれない。


「まりえ、さすがにけんか腰になる必要はないのではないかしら?」

 さてそんな状況を指をくわえて見ているだけの我らが沙紀お姉さまでもないので、ずいと前に出て仲裁を始めてくれるようだった。声音もそれなりの完成度で違和感はそんなにない。

 久しぶりの沙紀お姉さまの姿に、ルイはもうテンション爆上がりである。

 カシャリとシャッターを切ると、凜々しいお姉さまの姿が写し出される。

「ちょっ、ルイさん!? 出会い頭の撮影はちょっと……」

「だって、最近お食事会もあまりできてないし、撮影ご無沙汰なんだもの」

 大人になったお姉さまを撮影したいと思ってもバチはあたらないと思います! というと、ええぇ、と怪訝そうな声を上げられた。

 んー、大学だと撮影自由にどうぞって感じなんだけど、さすがに女子高生時代はともかく今のお姉さま姿は撮られるのが嫌らしい。

 むしろよく参加したよねっていうくらいの話である。

 まりえさんが後輩に会いたいから来たというところだろうか。さすがに卒業して二年も経っているのにお姉様をしようというのは、咲宮家の考えってわけではない……とは、思う。


「ええと、ルイ先生? いまお食事会と聞えましたが?」

 お姉さまがたと何をやってんですか? とほのかが疑問の視線を向けてくる。

 敵意を向けられていたというのに、その話題でころっといってしまうのは、どうなのだろうか。

 仲良しだよ? という話は前にしておいたつもりではいるのだけど。

「んー、秘密を打ち明け合ったマブダチなので、時々友達のうちでホームパーティーをやる間柄だね」

 当番制で手料理を振る舞う会です、というと、えっ、とほのかは思い切り目を見開いていた。

「んはっ、なんといううらやまけしからん会ですか!? ゼフィロスの子たちみんな鼻血出してうらやましがりますよ!」

 あの沙紀お姉さまとご一緒できるとか、あまつさえ手料理とかっ、と思い切り前のめりである。

 そりゃ、ほのかさん沙紀お姉さまが全力で学園で輝いていた頃の在校生だものなぁ。気になる被写体と一緒にご飯食べてますーって感じだよなぁ。

「そうはいっても、なりゆきと共通の友人ってところからの関係だしなぁ。なんならほのかも参加してもいいけど」

 そうなるとちゃんと料理できないとアレかもしれんというと、うぐっと彼女は押し黙ってしまった。

 いや、別にそば粉からそば作れとか、自家製パスタマシーンが……いや三枝家の厨房にはあるんだけど、スーパーで具材買って調理するだけの簡単なお仕事で、超高級お肉を食べましょうというわけではないのです。

 というか、沙紀矢くんは焼きそばとか焼いてたわけだし。庶民メシでいいんだけどほのかさんは、む。むりぃー! と拒絶モードである。

 

「そんなわけで、わたくしたちはルイさんと個人的な交流があるのだけど……ほのかさんはカメラつながりなのね」

 ふむ……と沙紀お姉様が妖艶にあごに指をあてる。お化粧の力もあって普段よりも透明感のあるお肌がきらきらしている。

 そんなキラキラしいお方の隣で、まりえさんは少し考えてこれかと思って口を開いた。

「じゃあ、奏さんとは今も仲良しなのかしら?」

 どうかしら? とまりえさんは、にんまりと悪い笑みを浮かべながら反応を伺っている。

 あーこれ、ほのかの審査してるじゃん。

 たしかに沙紀矢くんの内緒話は、触れるとやべー系のことではあるのだけど。春先に内緒にしますと話はしてあるはずなんだけどな。

 というか、咲宮家のやべーこと、ルイさん知りすぎではないだろうか。というか、一番上のにーちゃんのこじらせとか本家も知らないんじゃないかなぁと思ってしまうほどである。


「なっ、なんのことですか? っていうか! まりえお姉様! 奏のこと知ってるならむしろ教えて欲しいって前から言ってるじゃないですか」

 ふむ。ほのかも察したようで、模範解答というような反応を示していた。

 奏さんのことは極秘扱いなのでそれをどうかわすのかというのを見たいのだろう。

 まるで役員面接である。

「別に後輩をいびってるわけではないの。でも、安全管理は必要だから確認しているだけ」

 最初に比べればマシだけどまりえさんの言葉はちょっと固い。そりゃま、「約束の期間が終わっていた」としても、特に学院生に沙紀矢くんの女子校潜入の話がばれるのはよろしいことではないので、表情も言葉も固くなることはしかたないことだ。

 でもね、今日は卒業式で、明るくて、脳みそもぺかーって明るくなる日だとルイは思うわけで。

 ちょっとだけ年長者として助言をさせてもらうことにする。ええ、年長者として。


「それをいうなら、こんな人通りが多いところじゃなくて、人通りの少ないところに連れて行っていただけると嬉しいのですけれども」

 ほのかの手を軽く握りながら、そんなことを言うとまりえさんは思いっきり狼狽を始めた。

 さきほどどや顔で安全管理といっていたあとの失態である。ああ、もちろん片手でしっかりとその姿は撮らせてもらいました。

 とてもかわいらしい! やっちゃった! って顔は良いです。


「うっ、もう、ルイさんの意地悪……次は、庶民のナポリタンを食べさせてくださいよ?」

「はいはい、スーパーの食材でできる、お口べたべたナポリタンを作りますので」

 とりあえず、落ち着いてくださいな、というと、それはそれでお子様扱いな気がーと、まりえさんがぶつぶつ言って、沙紀ちゃんは口に手を当ててくすくす笑っている。優雅である。


 さて、そんな流れで、人が少ない職員室が入っている管理棟わきの、まりえさん曰く、生徒はまず近寄らないよ! という場所に移動して話を再開することになった。


「例の件でぴりぴりしてるんですよね。わかります」

 場所が場所ですし、私の信用スコアって、そこまで高くないとは思っているので。

 でも、大学では春先に一回お会いしたきりで、その後は距離をとってますよね私、とほのかが言った。

 ああ、なるほど。ほのかとしては顔は合わせたけどあえてお姉様たちと友誼を結ぼうという考えにはならなかったということなのか。

 触らぬVIPに祟りなしを貫こうとしたらしい。

「いっつもイベントごとになると担ぎ出される、同じサークルの先輩と比べると、私は本当に目立たない一般人です」

 ただのモブですというないなや、あれ、モブって通じる? みたいにあわあわしはじめた。


「大丈夫ですよ。私たちの共通の友人は、そういうスラング? というのも日常で使うので」

「あ、あたしも割と庶民の言葉で接しているから、そこも影響あるかも」

 でも、それはほら、相互理解というか、経験値アップというか、この二人ならTPOを考えて使い分けできると思っているというか、とあわあわルイが弁明をする。思えば二人とも上流階級ですまん! という感じの人達である。ずいぶんと庶民メシに引っ張り出してしまっている感じだ。あまり悪影響とは思っていないけれど、ちょっとは気にするところである。

「あら、ルイさんがあわあわしてる。それこの学院の顧問としてもここ一年間でやらかした自覚でもあるのかしら」

 ふふっと沙紀ちゃんに言われて、今思えば『撮影とは』みたいな価値観の話はしたけれど、淑女教育という点では思いっきり距離を置いていたような気がいたします。

 外部顧問なので、そっちは気にしないで良い! といわれたけど、礼儀で悪いところとかを覚えられるといけないかもと今更ながらに思ったルイである。

 まあ、さすがに、がはー! なまちゅーうまい! がっはっは! と、おっさんぽい生活をしているわけではないし、特に日常のコミュニケーションでは、ゼフィ女にいるときは丁寧な所作と言動を心がけている所はある。

 え、撮影してるときは別だけど? いちおうTPOは考えるけど、安全だって思ったら撮りますばい。

 それに、鹿起館の寮母さんよりは丁寧な言葉遣いをしているはず。うん、そうだと思う。


「それで、ええと? なんの話してましたっけ?」

 スラング話で話の腰がぼっきぼきに折れたので、まりえさんですら毒気を抜かれたような顔を浮かべている。ここは一旦話題修正をしないといけないかなと思うところだ。いやぁ女子同士で話してるとなんやかやな会話になってその場の雰囲気ができたりするもので。結論でないけどなんか話して満足みたいになることもあるのである。

 でも、ここで聡明であらせられる沙紀お姉様が整理をしてくれた。

「ほのか嬢が、まりえの学校の学友だったっていう話で、その学校にスターのような、どこのイベントにも顔を出すヤ……問題児? いえ、なにかしら? 破天荒?」

 ん? と沙紀ちゃんがいろいろ、解説をしてくれようとしていたんだけれど、どうにも大学でイベント参加した、木戸さんの表現にとても苦労しているようだった。そもそも、最初の、ヤ、ってなんなのさ、やべーやつってことなのかい!? つぎのナポリタンにはハバネロいれてやるからね!


「……ええ、まぁ、間違いではないので、話を続けます」

 ほのかはぷるぷる体を震わせながら、ルイの方は見ずに弁明を始めることにしたようだ。お前さん笑いを堪えてるよね。まりえさんに詰問されてるはずなのに、まったくもって堪えた感じがない。

 ふむ。撮影者はときに交渉力も必要になるので、その胆力はとてもいいと思います。

「まりえ先輩、なら、分かっていらっしゃると思いますが、例のなかったこと(、、、、、、)になった件から、いろいろと考えさせられました」

 先輩と、あえて言っているのに、まりえさんもぴくんと反応している。

 その背後でカシャリと音が鳴っていたりするのだが、当事者は話し合いを続けている。

 沙紀ちゃんが、あんたはそうっすよねと、じとめを向けてきてるけど、ふいっと目を背けておいた。

「あの件で、古い風習を絶って、新しくする部分もあるべき! ってことで、活動しましたが」

 めいいっぱい活動して、わーいって好きな写真撮ってみんなで、見たり見せびらかしたりしました!

 けども、とそこで、ほのかはうつむいた。しょぼーんという感じを見せていたのに。

「大親友の奏だけが帰ってこない……って思ったら、そのDNAを継ぐルイさんが、なんと! 私の! 卒業後! 写真部の顧問になるとか! お二方! この時の気持ちを原稿用紙五枚にはまとまりませんから!」

「あぁ……そういう言い方するんだー」

「ほのかちゃん、もうすっかり毒されてるじゃん」

 わぁ、とまりえさんだけではなく、沙紀ちゃんまで素でうわぁといっていた。

 お嬢様の仮面がはずれてましてよ?

 でも、DNAを継ぐ、か。継ぐというか同一人物だけどこの言い回しだと関係者って感じになるよね。

 っていうかたしかに去年顧問やれなかったのは申し訳ないとは思ってるけど、それでもほのか達の活動の軌跡っていうのは楽しく拝見させていただいておりますとも。


「それで? 二人の、疑念? というか責めてる的なことは、これで氷解でいいの? それともお食事会で盤石にする感じ?」

 いや、端から話を聞いていただけでは、奏さんの話がでたのはわかったけど、それの評価がどうなるかは、面接官のまりえさんなのでね。

 表情の変化がたのしーっていうのに、気をとられていたわけではないよ? ほんとほんと。


「お食事会については主催者にも話を聞かなければならないので後で相談ですが、ほのかさんが約束を守れるというのは納得しました。けんか腰になってしまって申し訳ありません」

 私としたことがちょっと余裕がないみたいですと、まりえさんは謝っていた。さすがにちょっと頬を染めていたので、シャッターを切るのはやめておきました。というか、沙紀ちゃんがわかってますよね? って感じの笑顔を浮かべるんだもの。むしろそっちを撮りましたよ。

「まりえさんがこんなにテンパるのは珍しいよね」

「実はその、今日はおじいさまもこちらにいらっしゃっていて」

 変な問題を起こしたくないというのが正直なところなんです。と沙紀お姉さまが小声で言った。

「なんかそれ、私が聞いちゃいけない話のような気がします」

 やぶをつついたら、むしろそこらへん全部焼け野原になる案件でしょう? とほのかがいうと、そりゃなーと他の三人はうなずいた。

 下手をすると、親の職場がそのまま会社ごとなくなる、なんてことが無いとは言えないのである。

 やらないって信じてるけど、できるできないでいえば、ねぇ。だから、やぶごと焼け野原なのだ。


「ルイ先生なら藪の中にカメラつっこんで、わーいって妙なものを撮りそうですけどね」

 ほんと、卒業式なんだからおとなしくしててくださいよといわれて、へいへーいと答えておく。

「ふむ。なるほど……カメラ仲間は懐にいれる、と……」

「鉄壁だと思ってたけど、そういう感じなのか……」

 ほほう、とお姉様方はなぜか、生暖かい視線を向けてきた。

「あ、お姉様方、そういうのはマジやめて。確かに奏の後ろ姿を追ってはいるけど、恋仲になろうとかそういうの、まじでないんで」

 お姉様方、それこそこのやぶをつついたら、近隣からいろんな人が躍り出てくるし、命が危ういので勘弁してくださいと、ほのかがなんか必死な弁明をしていた。お姉様方は、お、おぅと、その反応にめちゃくちゃ申し訳なさそうな顔を浮かべていた。


「いちおう詳しい事情は聞かないでおきます。でもご当主のおじいちゃんそんなに怖い人でもないんだけどなぁ」

「そんなことを言えるのは一部の人だけですって」

 そうはいっても花火見るための会場貸してくれたりとかしたし、いい人のイメージのほうが強い。でも沙紀お姉様的には生殺与奪の権が握られてるっていう思いもあるのかもしれない。

「いちおうお会いしたら挨拶くらいはしますので、そこは許してほしいかな」

 さすがにいきなり撮影しまくるとかはしないので、安心してくださいというと、本当に? と二人の目が言っているようだった。信頼がないにもほどがある。ルイさんの信用スコアはダダ下がりである。

「はいはい、でもそのかわり、二人の艶姿はばんばん撮らせてもらうのでよろしく」

 在校生の撮影は生徒さん達にゆだねてるので、ここは是非にというと、はいはい仕方が無い人ですねと、二人はため息混じりに答えたのだった。

 とりあえずほのかさんの信用問題はクリアできたようだ。腹を切ってお詫びいたします、にならなくてよかったと思えた。

わーい、沙紀ちゃん撮り放題である。

やっぱ、女子校といえば女装したお姉様ですよね! かわゆい!

沙紀矢くんが女装してる理由は、いちおうのちのちの話とさせていただきたいところ!

まりえさんは余裕がないという珍しい状況でありました。

うっ、よもやほのかさん、大学で沙紀矢くんと会ってただなんてねっ。

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