【悲報】崎山さん、男の娘さんを呪物認定してしまう・後【しゃーない】
最近は妖怪と宇宙人が流行っているそうで! やらかしました。はい。
打ち上げである。
ドラマが一本できあがって放送される。
それまでの間には当然、シナリオから撮影から、いろいろとあるのだけど。
まー、一本ワンクールのドラマを撮るのはかなりの労力がかかるもので。
一通り撮影が終わったところで、昼にはパーティーを開いてからの、二次会にはシフォレを借りる事ができた。
例のHAOTO事件があってから、珠理奈の仕事はちょっと減った。
というか、ドラマのベクトルが恋愛要素を減らした作品に呼ばれるという形になったのである。
そしてそれにHAOTOのドラマ復帰が思いっきりかぶったわけで。
話題性もかっさらえるし、あとは良いドラマにすればいいとマネージャーさんには言われていた。
初めてのホラーサスペンスに参加させてもらったけど、視聴率はまあまあ取れたみたいで、昼のパーティーはみなさんいい顔を浮べていた。
こういう風景をあいつなら撮るのだろうなぁなんて思いつつ、一次会はそつなくこなしてきたのである。
「ま、無事に復帰おめでとうって言っておくわ」
「その節は大変にご迷惑をおかけいたしました」
虹さんが苦笑気味にそう答えてグラスを打ち鳴らす。おつかれさまと挨拶である。
さて。珠理奈のほうは公開キスっていうやらかしだったので、そのとき撮影していたものはちょっとシナリオに変更が入ったものの継続することができたのだが、HAOTOはそのときの仕事から三ヶ月程度謹慎期間をおいていたのである。
もちろんその間にレッスンとかはしていたというし、お騒がせをしたペナルティというか一種の禊のようなものということで、お休みをしていた。
そして復帰第一作目が今回のドラマというわけだ。
新規の仕事となると「疑惑の相手を使うのか?」というのがかなりついてしまうので、仕事選びはかなり大変だったようで、いろいろなところにあのマネージャーさんが頭を下げて回ってやっと取ってきたのが今回の件なのだそうだ。
そして今回のドラマが上手くいって、大丈夫なことがわかっていけばだんだんCMも戻ってくるだろうと言われている。
ちなみに珠理奈のCMは今もテレビに流れている。ブライダル関係はさすがに無くなったのだけど、まあこれは、女性同士コンセプトのブライダルCMをやらないか? という提案を本人が断ったからだ。
むしろ、批難の的になっているルイという「可哀想な娘」を守ったナイトとしての、かっこいい女性というイメージが着いてしまっている。
本人涙目である。
「では、せっかくなのでシフォレでの打ち上げができたことに、かんぱーい」
「はいはい、かんぱーい」
「初シフォレ。感慨深い……」
「話題にはけっこうでるからなぁ。ケーキ美味しいし」
さて。この店初めては苦労人の蜂だけで他はちょいちょいと顔を出したことがあるので良い感じにリラックスはできているようだった。
食事はある程度済ませてしまっているので、一口ケーキを中心にデパ地下メニューをおつまみにしながらお酒を飲む会になっている。
大人なんだから節度を守って飲みなさいねと、この店のオーナーには言われているのだが、それはそれ。復帰一発目の打ち上げでしかも慣れ親しんでいるここを貸し切りである。むしろ一次会よりも羽目が外せるマイホームに近い感じである。
「で、珠理ちゃん。初めてのホラーはどうだったの?」
蚕が人なつっこそうな顔を浮べて、感想を聞いてくる。
舞台とかでサスペンスをやったことはあるけれど、ホラーものは確かに初めての挑戦だった。
「撮影がうっそうとした森とかだったのがちょっときつかったけど、いろいろ勉強にはなったかしら」
そういうそちらさんがたはどうだったの? とちらりとHAOTOのメンバーを見て言う。
「僕は素直にあんまりホラー得意じゃないから、こわっ、て思ったけど、翅はどうよ?」
「演技やべーとは思ったな! あとは合成技術ってすごっ、みたいな」
「よくある怪談をCGで再現してたよね」
シナリオも毎回飽きさせないというか、次がどうなるの!? ってところで止めてたし、アレは気になるよなぁと蜂が言った。
「でも、ヤマノケの話になったときには、ちょっといろいろ考えたわ。いえ、もちろん素直にとりつかれたシーンは邪念とかなしに演じたけれども」
「あー! あの、いきなり、すんって感情なくなるところから、奇声を上げるところとか、やるわー! って思ったよ。てん・そー・めつだっけ?」
「そりゃどーも。いろいろ調べて、監督さんとも設定については話したから、オファー通りの演技はしたと思ってるけど、やっぱり考えちゃうわけよ」
ちらっと視線をメンバー全員に向けると、あー、まー、そのーと、みなさま苦笑気味である。
「あー、俺もっつーか、みんなも思っただろ。アレ、ルイさんに入ろうとしたらどーなんの? ってさ」
「女性を狙うのか、女子供を狙うのかってのでも変わる気はするけどな。ハコの話もだけど」
女性限定の怪異と男の娘の関係性については、ちょっと思うところはある、と蚕が言った。
話にあまり乗ってないのは、蠢くらいなものだ。
「では、第7851回円卓会議のネタはそれでいくか」
「ちょ、また円卓会議やるの? しかも回数減ってるし!」
「は? ちょ翅おまえ、何の話?」
「いや、目を閉じればそこに円卓はあるだろ? みな公平に好き好きに意見を言い合う会議が円卓会議だ」
上座下座を廃して同列で話し合いをするのが、円卓会議というものだと翅が満足そうに言い放った。すっかりエレナさんにオタク沼に落とされているようである。
「今回のドラマの主人公がルイさんだったら、どうだったかについて!」
検証をしていこうじゃないか! と少し酔いが回った翅が言った。
その瞬間である。
ぞくりと背筋に冷たいモノが走ったかと思うと、ぽんと翅の肩に少し大きい手のひらが置かれていた。
そしてその隣に座っている珠理奈の肩にも手が置かれている。
「ふむん。その会話はちとうちでは見過ごせないわね」
教育的指導を受ける準備はできてるかしら? と、肩に込められる手に力が入る。
まさに、ぐわし、という感じである。翅が少し顔をしかめて、いででと声を漏らした。
「あたしだって、オカルトにポリコレをって言わないわ。ってか、当事者にネガティブイメージを生むくらいの過剰な配慮とか、誰得なのとかも思うし」
そもそもポリコレ自体LGBTの印象を悪くするネガキャンなんじゃないの? とすら思うし、と苦笑を浮べる。
「でも。コトリバコの話はあたしの前ではさせないからね。あんたらそういうところが抜けてるから、やらかしちゃうんじゃないの?」
結構あたしにとっては、ざくざく刺さる話でマジデやめて欲しい、と目の前でいわれて、は、はひと、翅は頷いた。
「せめて蠢くん、君がとめないとダメでしょうに。あんたはもう襲われないだろうけれども」
それでもそれなりに会ってきてるじゃないのよ、といづもさんが言った。
「で、でもルイさんならこういう話したって、別に怒ったりは……」
「あの子はそうでしょうよ。性別とかちょーどーでもいいんだし。森にいったら、わーいカブトムシだーとかいってカメラいじるわよ」
でも駄目な人もいるんだから、そこはちゃんと察しなさいといわれて、HAOTOのメンバーはしょぼーんと肩を落とした。
「あたしもその……止められなくて、ごめんなさい」
珠理奈もいづもの手を軽く握りながら謝罪の言葉を述べた。
「ま、人外からも勘違いされそうとか、宇宙人に連れ去られたら女体化して帰ってきそうとか、あたしも思うけどね。でもじわっとこーお前は人間じゃねーって言われてる感じして嫌なのよね」
やれやれ困ったといづもさんは首をすくめる。
「人間じゃないなんて、悲しい事言わないで下さいよ」
立ち上がった虹さんが翅の肩に置かれた手に自分の手を重ねた。
「いづもさんは素敵な女性ではないですか。こうやって叱ってくれたり、面倒見てくれたりとか」
「んー、ちょっと飲み過ぎたかしらね。顔が赤くなってないか心配」
じぃっと虹に見つめられて、いづもはぱたぱた手うちわで顔を扇ぐ。
そして、他の話題で盛り上がってくれると嬉しいわ、とだけいっていづもは元の席に戻っていった。
「まさかメチャクチャ地雷だったか……」
「やっちゃったなぁ……」
んー、ちょっと最近感覚がおかしくなってたかもしれないと、翅がぐにゃーっとテーブルに体重を預けた。
ルイさんはもとより、エレナだってこの手の話題についてあまり、怒るっていう状態が発生しない。
というのも、翅たちが男の娘とトランスの人をごっちゃに捉えてしまっているせいというのもあるのだが。
ここに、従業員の千歳がいたらメチャクチャこのネタは嫌がられたはずである。
いづもみたいに怒るまではいかないだろうが。
「こういう考察は人前ではタブーだな。個人的にはめっちゃ気になるけど」
「個人でやる分にはいいだろうけど、お叱りを受けたらある程度自粛必要だろうな」
くぅー、人間関係が難しい! と翅が言った。まあ、正直今までがイージーだっただけなのかもしれないが。
ただ、その言葉を受けて蜂が悩ましげな声を上げた。
「ポリコレ……なぁ。そういや監督がちらっと、最近そういう規制が多くて撮りたい映画撮れないっていってたっけなぁ」
「いろいろな価値観を認め合うっていうのなら、わからないでもないけど、同じ価値観で地ならしするみたいな話っぽいし」
やらかしはよくないのは身にしみたけど、好きな表現できないってのもなんかなぁと虹が言った。
「そういう相手に配慮をしたいって個人レベルではできるけど、100%全部の個人の性質の違いに配慮して映像は撮れないよね」
ホラー嫌いな人に配慮してたらホラー映画なんて撮れないし、なんもできなくなってしまうと、蚕がいった。
「蠢はその……さっきの話題嫌だったのか?」
蜂さんが心配そうな顔を蠢くに向ける。体格差があるので子供を心配するような絵面になってしまっているようだ。
「いづもさんは嫌がるだろうなぁとは漠然と思ってた。でも俺は別にそこはあんまり気にならないかな」
男と女の違いもあるんだろうけど、いづもさんの場合は年齢とかそっちの話もあるのかもと、蠢は言った。
結局のところ、全部に配慮なんていうのはできるわけもないので、個別に話を聞いて相手とすりあわせることしかできないのである。
「あーもう! こりゃもー飲むしかねーじゃん!」
「つきあいましょう」
なんか胸のあたりが、うぞうぞするから付き合うわ、と珠理奈もお酒に付き合うことにした。
ポリコレとか、男の娘の話をしていたけれども、その話題を聞いていて少しばかり馨が遠く感じられてしまったのだ。
このさみしい感じはなんなんだろうか。
いづもさんにはダメ出しをされたけれど、怪異というものが「理解の及ばないモノ」であるのならば、馨はそのものではないだろうか。
グラスの中のハイボールがするすると消えていく。
本当に。
誕生日や、バレンタインには贈り物とかもした。
お礼の電話もきたし、ホワイトデーはちゃんとお返しするね! っていわれた。
もちろん、恋愛関係は無理って突きつけられてはいるし、望みがとても薄いと思われる。
それこそ、恋愛ハイレベルの魔王というか、鈍感魔王なのか。
撮影魔王か……なんて、お酒の入った頭で珠理奈は考える。
炭酸がうまい。グラスにほっぺたをくっつけて、ひっやーって感じで楽しみもできる。
飲み物の温度が変わるから味が悪くなる! なんていってくる人もいないところである。
「怪異……それは、人智の及ばない存在……」
うぅと、珠理奈がグラスを指でこすりながら、つぶやいた。
だんだん思考がぐちゃっとなって、訳がわからなくなってくる。
「人様を転じさせて、操って……破滅させるんだーー!」
もう、普段表に出さない顔も、今はいいやと思った珠理奈である。
転じさせるは、いちおう「女装させる」の意味を持たせているのだけど、果たしてHAOTOのメンバーは気づくだろうか。
「うっわ、珠理ちゃんそれは酔っ払いすぎでは?」
「うるさーい。歩み寄ろうとするといつもするっと逃げちゃうんだから! 相互理解ダイジー」
「だよなぁ。もーちょっと俺達の方も見て欲しいよなー」
ネー、と翅と珠理奈の声が重なった。
そんな感じで愚痴合戦が始まったのだが、そこからは大人からのお叱りはなく。
わいのわいのと、ルイさん話で盛り上がるみなさんであった。
翌日、ずきずきと二日酔いになるわけなのだけど。
(介抱されて、おかゆ食べさせてくれないなら、飲み過ぎ止める)
そんなことを、彼女は思ったそうな。
というわけで参考にしたのは今話題のアレではなく、裏世界ピクニックでした!
いやぁー最初はもっと﨑ちゃんたちやりたい放題してたんだけど、これじゃねーなってなって、今の形に落ち着いた次第です。
大人になるってこういうことか……
タイトルの件は、呪物というか妖怪扱いだよなーと思うけど、このままいきます!
あ、次話は元旦あたりを予定。ゼフィ女の卒業式です。