【悲報】崎山さん、男の娘さんを呪物認定してしまう・前【しゃーない】
タイトル回収は後の方なので。
っていうか、タイトル変えるべきと幾度と思ったくらいだけど、これでいくます!
その店の外にはクローズの看板が掛けられていた。
そしていつもは貼られていない、臨時休業、貸切の張り紙が貼られている。
中には数人の人が集まっている様子もあるのだが、窓もカーテンが閉められていて中をのぞくことはできない。
「今回は、打ち上げにお付き合いいただいてありがとうございます」
「臨時休業でみんなに迷惑かけちゃうところあるけど、さすがに今回は協力せざるをえないというか」
あ、名刺をどうぞと挨拶をされているのは、いづもさんだ。
その向かいにいるのは、崎山珠理奈のマネージャさんである。
「ある意味、彼らにとって居心地もいいところでしょうしね」
こっそりうちの子も通ってるお店と聞いてますしね、と彼女は苦笑を浮かべた。
たしかに月一回くらいは変装をしながらケーキを食べに来てくれる珠理奈さんは、常連と言ってもいい相手だ。
あとはHAOTOのメンバーは蠢こそときどき顔を出すけれども、他のメンバーはそうでもない。虹さんもモブ姿で来たのが何回かといった程度である。
今回、シフォレに集まっているのは崎山珠理奈とゆかいな仲間たち、といいたいところなのだが、イケ……ナイ男性グループ扱いになっているHAOTOの五人である。先ほどまで、ドラマのクランクアップ打ち上げ会に参加していたところから移動しての二次会会場として使われているところなのだった。
ここを会場として選んだ理由は、ずばり一つだけ。
HAOTOの翅と珠理奈がここで打ち上げやりたい! と言い始めたからである。
というか、久しぶりに集まって作戦会議をしたいと言い始めたのである。前回「第18621回 円卓会議」を数ヶ月前にやったときは、あくまでもルイさんの知り合いを集めるという意味合いが強かったのに対して、今回は他のメンバーはなしでHAOTOと珠理ちゃん+マネージャーさんという構成になっているわけで。
どこにカメラがあるかわからないと思ってる芸能人どのたちは、セキュリティを万全に!なんていう無茶な依頼をしながらこの場にいるわけであった。
HAOTOのあのマネージャーさんについては、今回はお留守番である。
ルイさんについてぶっちゃけた話をしたいメンバーからすれば邪魔な存在なので。
ついて行きますと言い続ける彼をなだめるには、嫌な仕事を受けるとかそれなりの犠牲はあったのだがそれはそれ。
珠理奈のマネージャーがついていると言うのもなんとかなったところである。
「たしかに撮影所とか以外で打ち上げをするとしたら、うちが使いやすいのはわかるしね……」
ちゃんと報酬としてお店の宣伝もしておくね! と虹に言われてしまったらいづもとて断れないのだが、変に噂にならないのかというのが心配なところである。前回、翅と珠理奈とかおたんのお友達の時は、そのときだけならいいと二つ返事で答えはしたけど、常習化されてはたまらないのが、いづもの気持ちだ。
え、これで終わりだって言われた? いつだって嫌な事を続けたい人は「これで最後」と言い続けるものだ。
コレの終わりは、「ルイor木戸馨争奪戦」の決着が、「成功」か「敗北」かのどちらかになりそうだけど。
ほぼ全員敗北の目しかないのが、若干同情の余地もあるけれども。
そんな話を虹さんにしたら、突き破れない壁に挑むのも、蛮勇? だから、年上のおねーさまはそこらへんは、しー、だからね♪といわれて、今回のことも引き受けてはいるのだが、それは表に出せない内緒の話である。くっ、イケメン卑怯である。
なので虹さんの説得もあって、今回だけということでお店の場所の提供となったのだ。
「ええと図面も見せてもらった通り、今座ってるところならよほど大声を出さなければ大丈夫そうですね」
「はぁ、ほんと、ご苦労なことですね。ここまでマネージャーのお仕事なんですか?」
「あれ? いづもさんはうちの子の恋のこと、知ってるんでしょう? だったら、私がこう動くのは……ビジネス8割ですよ?」
「いや、そこでビジネスなの、わかんないなって。……いや。いやいや。もういいやじゃない?」
「うちの子、美人でいうことないけど、高飛車でお友達なんてあんまりできたことがないんです。それが、こんなに殿方とも議論を交わす仲になるだなんて」
よよよ、とわざとらしく言うマネージャーさんに、それはわからないでもないといづもは答える。
「結構早い段階から、うちは、ルイちゃんとの関係はフリーにしてます」
「それ、芸能人のマネージャーとしては大丈夫なんですか?」
スキャンダルで大騒ぎしてたのを見ると、心配といづもは思っているのだが、相手は、まぁそこはむしろプラスかなぁといいはった。
「社会的にやばいことしてるんなら叩かれますけど、あの子がやってるのはたんなる恋愛なわけで。そりゃHAOTOの輩みたいにエロいビデオ撮ってたとかならフルボッコしていいと思いますけど、ただ気になる相手と一緒に居たいっていうのは、推してもいいかなって」
「あのビデオはフルボッコなのね?」
「さすがに私の目はごまかせませんって。っていうか、珠理ちゃんがめきょめきょペットボトル潰してたのを見れば、わかるかなって」
「演技でアレ事件でアレ、けしからんと」
ふむ。と、いづもはちらりと打ち上げのテーブルに着いている女性に視線を向ける。
こう見ると、男五人に囲まれるオタサーの姫みたいな感じである。
その姿を見ながらいづもは、グラスとアイスペールをテーブルに置いた。
中にはたっぷりの氷が入っているのが見える。
「職務中なので、ほどほどにしておきますね」
こくっと、マネージャーが喉を鳴らす。
「若者は若者で、こちらは年長者同士でちょっと、口がなめらかになるようにいただきましょうか」
実は、虹さんから差し入れされたウイスキーがありまして、といづもが言う。
すでに冷えているグラスに氷を入れて三分の一ほど琥珀よりも少し深めの色の液体を注ぐ。
「わぁ、ありがとうございます。打ち上げでウイスキーロックは初めていただきます」
わーいと、マネージャーは氷を揺らしながら、グラスに唇を付けた。
「家でも強いお酒ばかり飲んでいるの?」
いづもも自分用にウイスキーをすすぐとちびりと少しだけ口に含む。
さすがに40度オーバーなお酒だけあって、唇が少し熱くなる。
「お酒に強い体質といいますか。ウワバミっていうんですかね。ビールとかだともう水みたいなものみたいな」
これをいうと、北欧の血が入っているんだろう! なんて言われるんですけど、純ニホンジンですとマネージャーが言った。
「ストレス発散にどうぞ、と虹さんにもらったのだけど……これ、割とすすみそうで怖いわね」
お水も適度に飲んでいきましょう、といづもが別のグラスにミネラルウォーターを注いでおく。
「ありがとうございます。あ、じゃあ、おつまみは私が見繕ってきますね」
さて。今回店は貸してはいるものの、料理の類いまで受け持っているわけではない。
デザートはお願い! といわれているけれど、それはもう作ってあって一口ケーキがショーケースの中に何種類か入っている。
それ以外の料理については、お酒のおつまみ系を中心にマネージャーがデパ地下で買ってきたお惣菜がほとんどである。
量はそんなに多くはない。というのも、一次会の方でHAOTO+珠理奈はそれなりにご飯を食べているからであって、これが二次会だからだ。
一次会だったら、それなりにケータリングサービスなんかを使ったところだけれど、そこまでの規模の食事は必要ないのだ。
珠理奈からのお願いで、たこ焼きは買ってきてあったりするのだが、いちおう手を伸ばしてよろこんで食べてくれてる姿は確認できた。
HAOTOのメンバーから、うまそう! なんて言われて横取りされているあたり、ずいぶんと仲良くやってるなという感じだ。
「おぉー、肉豆腐チョイス! グッド!」
「いや、もともと、大人組だけのご飯は考えて買ってきましたからね。いづもさんも割とお酒飲むってきいてたので、嗜好は似てるかなぁって」
テーブルに並んだのは、居酒屋もかくやという、おつまみチョイスである。
肉豆腐は話題の通りで、枝豆、サーモンマリネ、アンチョビキャベツ、チーズセットと、ちょこっと塩辛い系のメニューがそろっている。
「じゃ、あちらは若い者だけに任せてこちらは年長者同士でゆっくりいきましょうか」
「おっけーです。その瓶、二人だったら空けてもあの子達の面倒は見れます」
ふふふと、マネージャーが楽しそうな声を上げる。
「いちおう、珠理ちゃんだけは連れ帰ってもらわないと困るわよ。やろーどもは店の床にでも寝かせておけばいいけど」
「ふふ。それでいづもさんは、美男子五人のハーレムエンドと」
「乙女ゲームとかにあるやつよね。でもどちらかというと、おかんの心情よね。あ、虹くんは除くだけども!」
「お。いづもさん、虹くんラブですか?」
おぉー、とすでにお酒の効果がでているのか、マネージャーが身体を乗り出して聞いた。
「他のメンツが、弟分と、やんちゃ坊主って感じだから、オカンな心情ってだけよ。若くてかっこいい男のコにときめかないわけではないわ」
いちおう、HAOTOのメンバーを見ればいわゆる、いろんなベクトルのイケメンが集まっていて、虹さんはいうまでもなく、蜂さんは体格も良くていいし、蚕くんもやんちゃ男子って感じで可愛いと思う。
「それよりマネージャーさんは、芸能界でいい人できたりとかないのかしら?」
「あ、それ聞いちゃいますかー、お酒の魔法ってことで」
さぞかし、人と関わる仕事をしてたら出会いも多かろうと、いづもはすこしわくわくする。
「基本、珠理ちゃんのお世話が一番なので、そっち優先です」
「オカンだ……あんたもオカンだ……」
仲間だー、といづもはグラスを差し出すと、ちんっ、と乾杯と声が上がった。
お互いに保護者的な立場で今までやってきたらしい。
「でも、じゃあ会見でのことはどうなのかしら?」
「あー、そこついてきますか。正直あれで恩を売ってあわよくばと思ったんですけど、なっかなかルイさんは手強いというか」
「あれだけの美少女に言い寄られたら普通はちょっとぐらっときたりもするモノだけど……そんな相手だから、好きになるっていうのは贅沢っていえば良いのかしらね」
それだけ珠理奈の理想とポテンシャルが高い証でもあるのだろうけど、それでもあそこまで袖にされても諦めないのは、ある意味すごいと思う。
一般的な女性の恋愛観なんて、自分にはわからないけれど結構現実主義というか、これが母性の正体かと思った事は、ここ数年でいくつかある。
男は過去を引きずり、女性は未来に進むというのが、いづもが持っている感覚である。自分がどちらなのかについては、玉虫色の回答になってしまうのだが。
「珠理ちゃんが新しい恋をするとか、あんまり想像つかないところがあるので、そこらへんは好きにやれば良いと思ってます」
「あら、子供ができたりとかは、気にしないの?」
「事務所としては、二世より今の売り上げですね。実際、いろいろな経験ができて演技の幅も広がったみたいだし、いろんな表情みせてくれるようになったかなとは思ってます」
チーズを爪楊枝でくちに放り込んで咀嚼をすると、塩味と脂分が口の中に広がっていく。
橙色の乾いたチーズは口の水分をもっていくけれど、次第にほろっと溶けて風味が口に広がっていく。
「あー、いちおう聞いておくけど、同性愛者疑惑は平気なの?」
「そこは、関係者の中ではちょっと調整が必要だったってとこはありますね。ドラマで恋愛系から干されるとかね」
まー、そこは本人の演技力が上がれば頭下げて出て下さいっていわれる問題だろうから、ガンバレって感じです、としれっと言われて、いづもは言った。
「ルイちゃんのこと、恨んでるとか、そういうのはないのね?」
「まさか。恩人と思うことはあっても、恨むってのはありえないですよ」
感情の幅が広がれば、演技の幅がそれだけ広がって、そうすれば役の幅もひろがる可能性がありますからね、とマネージャーは言う。
「可能性なのね」
「そりゃ、そうですよ。いろんな演技ができても、使う側が見初めないと表にでることはできないですから。私は珠理ちゃんにちゃんと大人の女優になって欲しいって思っています」
長く、稼がせて欲しいものです! とくぃっと、グラスを煽ると残っていた液体はカラになっていた。
いわゆる、ワンショットというやつくらいの量である。
そのとき、若者組の方から、声が上がった。
「今回のドラマの主人公がルイさんだったら、どうだったかについて!」
ちょっと酔っ払った声で宣言されたそれは、またやっかいごとの匂いがして。若者の相手は大変ですねと、いづもとマネージャーさんはアイコンタクトをしたのである。
大人な時間!
家のみだともっと豪快レッド! って感じかもしれませんけど。
いづもさん仲良しできて良かったよね! ってね。
次話は、明日の夕方公開予定だよ! 18時にセットして、美味しいパエリアができるとよいですなー。
てね。(いや、次話はスルーしてもいい案件な人も……)




