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723.斉藤さんと志鶴先輩の場合3

斉藤さんサイドの女子会まで書きたかったのだけど、時間かかりすぎなので、ここまでで投下いたします!


「はーい、おまたせしましたー、初めましてー、斉藤さんですー」

 みんなが待っている部屋の扉をこそーりとのぞき込みながら、声をかけると部屋のメンバーはぴしりと身体を硬直させたようだった。

「ちょ、まさかの女子高生かい……」

「……斉藤さんぽい衣装というのをあちらのスタッフと相談をした結果こうなりました、はい」

 

 着替えに行った先では、斉藤さんってどんな感じなのー? っていわれて、用意しておいた斉藤さん写真集を参照してもらいました。

 いやね、緊急消臭! を受けたときにどうせ斉藤さんの話になるんでしょってのはわかっていたんで、斉藤さんの写真はピックアップしてもってきたわけです。

 いえ、これで今までの写真はブルーレイに焼いて保管しているので。

 さすがに高校時代の写真が中心になっているのだけど、それなりの数は集められたと思っている。

 写真の公開については、しづさんに見せなきゃいいですーと、本人の了承はさきほどいただいている。

 こっちはこっちで、対策会議やってるからそっちが終わったらおいでー! なんていう風な勧誘も受けたのだけど。

 両方に出入りをするのはどうなのかしらと思う木戸である。


 写真を見られるの嫌がる子もいるのだけど、斉藤さんはもともと舞台役者で人から見られるのが平気な方だ。

 見られるのは好きだし、写真を撮られるのもそんなもんだ! と思っているところがある。

 﨑ちゃんみたいなプロとなってくると、肖像権っていうのが発生してしまうのだろうけど、そこらへんを気にしないでいいのはアマチュアの強みである。

 

「それで、その……しづさん? ちょっと懐かしい服がでてきたんですが、どうですか?」

 卒業してから袖を通していなかったのですが、と恥ずかしそうにいいながら、自分の姿を気にするようなそぶりをする。

「……うん」

 少しだけ、付き合っている男女を意識して、高校生の頃の服がでてきたよー! というような風に話をしてみたんだけど、それに感動してくれたのか、勘当されそうなのか、志鶴先輩は立ち上がって、とことこと木戸の前にくると、ぴたりと立ち止まった。そして。

「……馨ー! どうしてちづちゃんが、そんなこというと思うの!? お前の対人の解像度は、カメラ挟まないとポンコツなのー!?」

 どういうことサー! と思いっきり両肩を掴まれてぐわんぐわん身体をゆらされました。

 ちづちゃん、そんなんじゃないもん! とでも言い出しそうである。まあ、間違っちゃいない。


「だーかーらー! 演技は下手だっていったでしょうよ! あたし見た目をそれっぽくするだけで、中身は違いますもん」

 こっちは自由人タイプで、あっちは……周りの話をちゃんと受け止めるタイプなの! というと、斉藤ちゃんそんなタイプなのかーと、桐葉さんがにまにました顔を浮べ始めました。

 まあ、桐葉さんとか、解決をしようというよりは面白がってるってところもありそうなんだよなぁ。

 一年間、親しい友人があんまり周りに話してこなかった彼女について、根掘り葉掘り聞いて、やだまぁってやつをやりたいのだろう。

 ほんと、やだまぁ。

 人の恋愛をもてあそぶと、お馬さんぱっかぱっかするそうですよ?


「さて。中身はともかく、初志貫徹でいきましょうか。椅子二個用意するから、そっちで向かい合って、告白練習でもしましょうよ」

 シチュエーションいっぱい考えるの、うちらはいままでたんまりやっているので! と桐葉さんが背景状況の設定を作ってくれている。

 ぎろんと、志鶴先輩が綺麗な顔で睨んでいても、やー、木戸君をして可愛いと言い張るとは、さいとーちゃんよっぽどかーと、一人にまにましているばかりである。

 そこはかなり保障するけど、今は現場に貢献をしていただきたい。

 仕切りを是非ともしていただきたいものだ。


「やっぱり、鍋島さん代わらない? こんな面白い場面自分で撮影できないので、結構、手が震えそうなのだけど」

「見た目だけそれっぽくしてるんだし、斉藤さんのこと自体は知ってるんでしょ? だったら代理人としては木戸くんが適役だよ」

 もう準備してるんだし、おとなしく被写体になるがいい! といわれて、木戸はしょぼーんと肩を落とした。

 志鶴先輩も肩を落としているので、仲良くおそろいである。


「……このシチュエーションが自分で撮れないのがつらい……」

 くっ、だから第三者でいたいというのに、とぶつくさいうと、むしろこっちのほうが被害者なんだからね! と志鶴先輩に恨みがましい視線を向けられた。

 はぁ。あんまり気が向かないなぁ。

 さて、そんなテンションのところ、朝日先輩がぬんと立ち上がって言い放った。

 手にカンペを持ってるところをみると、桐葉先輩に、だだこねたら言いなさいとでも言われたんだろうなぁ。

 たしかに、周りから言われた方が説得力ってかわるものな。これを同調圧力とか、言ったり言わなかったり。


「卒業式の予行演習に、校長は参加するか!? 違うだろう。いつだって賞状渡すのは、教務主任とかそんな感じで、本番まではかりそめの相手で練習をするもんなんだよ!」

「って、それじゃ校長に告白するみたいじゃん!」

 卒業式で、賞状渡す相手に告白をするとか、どんだけカオスだよっ、と志鶴先輩が言った。

 うん。モノの例えだとは思うけど、その状況を想像するとちょっと笑えるかもしれない。

 コントとかになりそうな感じだしね。

 実際、あったとしたら……、それはそれで「教師と生徒の禁断の恋」になったり、年齢差恋愛になったりするのだろうか。

 わたし、もう、子供じゃないですっ、なんて台詞は、今ではもう、レトロとすら言えるのだろう。

 でも、ここでそのカンペを朝日先輩に読ませるのは結構鬼だと思います。

 設定が破綻しすぎていて、鍋島さんもうわぁって顔してるよ。


「それに比べたら、一対一の告白なんて、児戯にも等しい! さぁ! 勇者よ! 10ゴールドで目的を果たすのだ!」

 ふっふっふと、桐葉元会長が十円玉をぱちんとテーブルにおいて、元気に言い放った。

「これじゃ、どうのけん、すら買えませんが?」

「檜の棒のほうが、恋愛では役に立つのでは?」

 ふふと、いうと、現実のヒノキなんて、馬鹿高い高級品ですーと志鶴先輩が反論した。

 

「しづさん。ヒノキの匂い好きなんですか? なら、今度寝室にヒノキのボールを置きましょう」

 ヒノキのお風呂は無理でも、それくらいなら、と言うと、かおるぅーと情けない声が漏れた。

 ちなみに、ヒノキの香りが楽しめるヒノキボールは寝室に置いておくと安眠効果があるのだそうだ。

 どこで知ったかって? エレナさんちです。あそこ枕元に香り系アイテム置いてあるからね。ポプリだったりもあるんだけどヒノキボールも置かれてたことがあったんだよね。

 きっと、環境があの可愛さを維持してるのだろうなと、木戸は思った。


「それで? しづさんから話があるなんて、なんのことだろう?」

 さて、聞きますよという感じで居住まいを正しておく。背筋を伸ばして、それでも気持ち上目使いで、心配そうな雰囲気を出すことにする。いまばっかりは、確かに練習につきあってやろうかという気分になった。

 今回の目的は、先輩からの告白を引き出すこと。その告白というのは、お付き合いをお願いします! という感じの愛の告白ではなく、どちらかといえばカミングアウトに意味合いは近いのではないだろうか。それを本番さながらにキチンと言えるように練習しましょうという会なのである。

「う……無駄に上目使いは……くっ。無駄に女装の解像度だけ高いの、なんなの……」

 むぐっと喉をならす千鶴先輩を見つつ、そこらへんは長いこと女装しているからこその熟練度だよねーと木戸は内心思っておく。

 仕草などの研究はしっかりしている木戸さんなのである。


「さぁ覚悟を決めろーしづさんよー!」

「そうだよー! 男を示せー!」

 いけー! とおそらく言葉の綾なのだろうけど、朝日先輩がそんなことを言うので、やれやれこの唐変木と、じと目を向けると、ガチガチに緊張しまくりの志鶴先輩の姿が目に入った。

 目の前、そんな光景を見せられては、木戸としても協力をしないといけないではないか。

 まあ、斉藤さんがどうでるかは未知数なのだけど、ちょこっと協力することは、しても良いだろう。

 ま、マイナスだったら、さーせんってくらいである。


「まったく。しづさんはいっつもそんな顔して。でもなにも言わないなんて、それじゃ私もなにもできないよ」

 ほれ、とりあえず口が開くように。

 ほっぺたを両手で優しく包みこむと、むにむにと揉み込むことにした。

 ここらへんは、斉藤さんだったら、ではなく「被写体の表情を緩める系統」のお話である。

 せめて、表面だけでもなんとかしてやろうという試みだ。


 そして、あとは頬杖をつきながら、待つだけ。

 所詮は身代わり、練習相手である。それがいろいろフォローをしてしまっては、練習にはならないというものだ。

 そして待つこと数分である。


「あのさ……ちづちゃん。実はね……」

 さて。そんな感じで、ようやっと志鶴先輩は口を開いたのだけど。

「もぐっ、んがっ、まっもっ……」

「はい! そこまで! コトバには魂がこもるモノだから! 本番までお預け!」

 ここまでやれれば、予行演習終了です! と花実元会長がストップをかけた。朝日先輩の物理による口封じも炸裂していて、あぁー朝日先輩、あごで使われてるなぁという感じだった。

 なんというか、そこで止められて、しゅーんとする木戸である。

 これからどうなるかを気を張っていた身としては、今までの緊張はなんであったのかという気分である。

 

 そんな姿を見てなのか、花実元会長が言った。

「あれ、木戸くん、告白されるのわくわくしてた?」

 ま、あれの告白だけど、と、部長がおどけて言った。

「そこまで、練習させるものだと思っていたので、リアクションをいろいろ考えていただけです」

 っていうか、ここに座ってから、撮影側じゃないのが、地味にダメージですーというと、相変わらずだなぁー! と 頭をぽふぽふなでてくれた。女子の後輩への対応である。


「で、志鶴さんよ。本番への覚悟って言うのはできた?」

 にひひ、と元会長はずいと、志鶴さんのうつむきがちの顔をのぞき込んだ。


「なんで、そんなに突っかかってくるんだよう。そりゃ、入学した頃からそうだったとは思うけど」

「ん? そんなの。息苦しい顔をしてて、不愉快だったからってのと、学校に戻ってきてからがすごくいい顔だから、では、ダメ、かい?」

 面と向かわれていうと、答えるのはずかしいけど、という姿はさすがに木戸さんも撮りました。

 カメラむんずとつかんで撮ってやりました!

 なんだよ、ちゃんとシャッターポイントあるじゃんかよう!

 

 偽装告白の場面は、それはそれで撮りたかったけれど、旧友のピンチを救う友達、みたいなこっちもとても良いところある。

 うんうん。やっぱりこうやって誰かの物語を写し出すのはとても、幸せなことだ。


 そして、花実元会長のコトバをうけて、呆けている志鶴先輩の姿だって、ばしばしと撮る。

 遠慮無く撮り放題である。


「かおる……」

 やりすぎたのか、志鶴先輩に呆れた顔を向けられてしまった。

 でも。


「あーあ。ここまでされて、父親の事がーって言い続けてたらそれこそ、ファザコンみたいじゃん!」

「おおぉ、さすが志鶴クン! ようやく覚悟を決めたねっ、偉い偉い!」

 ぽんぽんと元会長が肩を軽くぽんぽん叩いていた。


「それじゃ、さっそく斉藤さんに連絡といきましょうか」

 火は熱いうちに打たないとまた弱腰になっちゃいますよ? と木戸がいうと志鶴先輩はしょぼんと肩を落としながら、スマホを操作しはじめるのだった。

 そのときの姿はもちろん撮らせていただきました。

 今度斉藤さんと会うときのお土産にしようと木戸は思いましたとさ。めでたしめでたし。

木戸くんはほんと、演技はだめよなぁとしみじみ思う感じです。女子っていうものだったらできるけど、他人にはなれない系な。

予行演習っていったら、学校のイベントよなぁという感じだったけど、でてきたたとえはお察しでございます。

本番もガンバレ! と。


そして、次話は女子会話になります。斉藤さんの方は正直悲観的にはならないと思われますー。


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