表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/793

078.

なっ。予約更新の日付を一日間違ってました! すみません。

とりあえず、朝更新予定分がこちらであります。

「それで? ルイちゃんはチョコは誰にあげたの?」

 二月も中旬を過ぎた頃だろうか。

 なんとか蠢に関わる騒動も一段落して終わった日曜日に、久しぶりにコスプレ撮影に来ているのだが、エレナがとろけるような顔をしてそんなことを言ってきた。

「そういうエレナこそ、手作りとかして凝っちゃってそうだよね」

「んー。うちはほら、あんな学校だしさ。みんなにせがまれて義理チョコはあげたけど……」

「本命は? あげないとよーじくん拗ねちゃうよ?」

 カップル誕生してから初めてのバレンタインである。そこでチョコが貰えないとなるとさすがにガクンとくるのではないだろうか。

「あはは。それはだいじょぶ。放課後に待ち合わせして、ちゃんとあげたから」

 なるほど。義理チョコは男子制服状態でクラスメイトなどに20円チョコあたりをあげつつ、本命は放課後デートしたときに渡すとか、さすがはリア充カップルである。

 それよりルイちゃんはー? と聞かれたので答えておくことにする。

「あたしはクラスメイトと一緒にチョコつくって、せんせい、お願いシマス、みたいな悩ましい展開だったけど」

「それは目に浮かぶかなぁ。さくらちゃんとかも一緒だったの?」

「さくらは別のクラスだしね。ほら、文化祭のときの演劇やってた子。あそこらへんのグループに誘われて見本を見せてください的な流れになってね」

「ルイちゃん器用だもんね。それで手作り義理チョコかぁ。なにげにクラスメイトさん大喜びなんじゃないの?」

 ルイちゃんの手作りとか、きっとここにいる人達みんな欲しがるよーと言う彼女の口に一つチョコを放り込んでおく。いちおう友チョコ用として持ってきたものである。

「んむっ。とろけておいしいねー。さすがはルイちゃん」

 ごちそうさま、とぺろりと舌を出しつつ、軽く唇を舐める。さすがに仕草がかわいくて癒やされる。

 ここのところ本当に不埒な真似をするやからがおおかったので、久しぶりのコスプレ撮影にも癒やされるしなによりエレナのこのほわんとした顔を見ていると、日常に帰ってきたという感じがしてありがたい。

 非日常のコスチュームを着てポーズをきめているのに日常というのもどうかと思うけど、こういうのが我らのリアルで別にかまわないのである。

「それで? そろそろ着替えにいかないとじゃないの?」

「そうだねぇ。衣装何着か持ってきたけど、ルイちゃんもやらない?」

「さすがにコスプレデビューはちょっと無理かも」

 撮る方専門ですというと、えぇーと不満げな声が漏れた。最近ちょくちょく彼女はルイにいろんな服を着せようと躍起なのである。私服やドレスならまだしも、さすがにコスプレ衣装までは難しい。

 というのも、その作品への造詣が深くないとやりこなせないからだ。ルイ自身は別に本人達が楽しんでいればそれでいいのだけど、完成度が低いと作品を冒涜しているとか言い始める人もいるというから、最低限のクオリティは保っておきたいところである。

「あはっ、今日もふられちゃったなぁ。それじゃ行ってきます」

 そいじゃ、と、手を上げて彼女は更衣室に向かっていった。

 最近のエレナはこういう公園系でのコスプレイベントの場合、特別室の一角を借りて着替えているのだという。大きなイベントだと便宜は図って貰えないけれど、こういう所ならその話題性もあって、なら特別にというような扱いなのだそうだ。そうなる前は着替えはどうしていたのか聞いたら、ナイショーとゆるっくはぐらかされてしまった。

 男女の更衣室を交互に使うとかいう真似をしてそうだけど、あれで男子更衣室とか周りが可哀相である。

「さて、じゃあ騎士どのの着替えの間は撮影をしておきますかね」

 今日彼女がやる新衣装は、守護騎士ニルファのものである。

 来年は受験だから活動を自粛しなきゃいけないし、ちょっとタイヘンなのをつくってみたんだよーと言っていた。 騎士というからには、しっかりとした甲冑姿で、公式設定では胸もある。あるけれどもちろん男の娘なので詰め物であるという設定まで入っているのだった。女装している理由はなんだったか。姫のそばにいるためには男であることを隠さなきゃいけないとかそういうのだったような気がする。

 着替えにはそこそこ時間もかかりそうだし、せっかくなので周りの風景の撮影を始めた。

 公園でのイベントは時々行われるけれど、冬の少しくすんだ景色というのも、どこか寂しげで撮影していて飽きない。もちろん雪景色なんかもきれいだと思うけど、ざわざわするような冬の景色もルイの大好物である。

 そんな中に、更衣室から着替えを済ました人達がぽつぽつと出てきていた。

 今回のイベントは、小規模のオンリーイベント。乙女系の作品なので、圧倒的に女子参加が多い。

 女性でカメラを持っている人達も何人か待ち構えているけれど、その中に男性の姿はほとんどない。カップルで参加しているようなのはいるようだけれど。もちろん女装カメラマンなんてのはルイだけである。

「ああ、ルイさん珍しいっ。時間あったらあたしのことも撮ってくださいな」

 周りの状態を観察していると、声をかけられた。

 夏のあの日、サークル参加をしてエレナのコスROMを販売したとき、お隣になった青葉の会のおねーさんだ。

 確か名前は、サチさんといったか。

 今日はかっちりと衣装に身を包んでいて、すでに撮られる準備はばっちりといった様子である。

 エレナが西洋の騎士甲冑なのに対してこちらは和装のお姫様という感じで、白地の服に細かい刺繍がされていたり、織り込んである紐がリボン状にたなびいていたりと、黒髪のウィッグも相まってかなりの完成度だった。

 主人公が逃げ延びた先の主が彼女であり、いろいろ助けてもらったりするサポートキャラであり、そしてライバルとなる相手でもある。

「とってもお似合いです。もちろん撮らせていただきますとも」

 嬉々とした声を上げながら彼女にカメラを向ける。

 オンリーということもあって、そこそこキャラクターについては知識を入れてきている。ポーズやキャラ設定。けれどもそれに追加して、相手がどう撮られたいかという要望もしっかりと聞いて撮影をしていく。

「あはん。ルイちゃん前にあったときよりも粘着して撮影するようになったねぇ」

「ふふふ。撮り方はいろいろ研究してますからねー。エレナは撮って撮ってオーラが出るからある程度言葉無しでがんがんいけますけど、他の方の場合は無理ですもの」

「ほんともー二人とも仲いいよね。できちゃってるんじゃないかーってくらい」

「そこらへんはご想像におまかせですね。でもイベント以外でお買い物とかは行きますよ?」

 それくらいにはつきあいはありますと情報の開示をしておく。ルイとエレナの関係性だとそれくらいはしてそうだと思われてるだろうし、それ以上だと思われるのを回避するための策である。

「私服のエレナたん……ボーイッシュなのかガーリッシュなのかが気になるけど……着替える前ってだいたいその日やるコスのイメージでせめてくるから、私服も両方なのかしらね」

「それもノーコメントですね」

 エレナの私服姿は、ここのところ圧倒的に女子である。以前は男同士で出かけるということもないではなかったのだけれど、圧倒的に女子同士に落ち着いている。それはもちろんルイの方が休みはカメラを持っていたいから男女のカップルになるより女子同士のほうがいいじゃないという感じなのだが、それでもエレナは女子っぽさが数割ましたような気がする。まったく恋人ができるとこうなのだから困ってしまう。

「つれないなぁ。私たちの間柄なのにー」

 あーでも、いろんなエレナたんを想像するだけで……はぁはぁとサチねーさんは怪しく目を濁らせていた。

 そんなとき、まだまばらな人の中で、黄色い声がいくつか上がったのだった。

 こういうことがないではないけれど、いつもよりもボリュームは大きい。

 男装コスのレイヤーさんがすさまじい完成度だとざわつくのだけど、今回はどうしたのだろうか。

 そう思って視線をやると、そこには場違いなあいつが興味深そうに周りを見回していたのである。

「どうしてあなたがこんなところにいるのです?」

 そこにたっていたのは息子を人質にとられた男性アイドルユニットの一角、(ショウ)だった。この漢字でそうは読まないのだが、翅で飛ぶで飛翔のイメージでショウにしたのだろう。いちいちこのユニットみんな虫っぽい名前なのはなにか意味でもあるのだろうか。

「休みは自由につかっていいっていわれているし、それなら豪胆な君にまた会いたいって思ってなにかいけないかな」

 こちらにすんなり話しかけてくる彼の歩き方は、あの情けなさをひとかけらも感じさせないほどに洗練されていて、周りの視線を受けなれてるかのような堂々としたものだった。

 隣にいるサチさんは、えっ、ええっ、と声を詰まらせながらルイと翅の顔を交互に見比べていた。

 どうしてこんな人がこんなところにいて、声をかけてきてんのとでも言いたいのだろう。

 それはこちらも聞きたいくらいだ。

「いけなくないですけど周り沸騰してますよ。みんなアイドルもそこそこ好きなんですから」

 先ほども言ったように、ここは乙女系ゲームのオンリーイベントだ。エレナは男の娘が出てくれば乙女だろうが、男性向けだろうがやりこなす猛者なのでイベント参加は多種多様だけれど、他の人達はイケメン目当てでやっているような人達が多い。

 そんな中に、ぽいと男性アイドルが投入されたらどうなるだろうか。

 出会いと始まりがああいう最悪な状態だったので、第一印象は最悪のさらに下なわけだけれど、こうして明るいところでまじまじと見ると、翅もそうとうかっこいいし被写体としても好ましい。

 がっちりしている感じではないけれど、身長もそこそこあるし、足も長いしほっそりしている。

 それこそ今日の乙女ゲームの攻略対象のコスプレでもやればそうとう似合うだろう。

「さわがしいですね。何事です!」

 そんな騒ぎが大きくなってきたころ、場のきらびやかな声をかき消すかのような凜々しい声が響いた。

 視線の先にいたのは、鈍いシルバーに輝く鎧を身に付けた女騎士だ。

 金色のウィッグが風になびいて思わず、ほぅと嘆息してしまうほどだった。むしろその立ち姿がゲームから浮き出たようですらあって、思わずシャッターを切っていた。新作はこれ、と聞いていたけれど半端ない完成度だ。あの金属っぽい甲冑はどう作ったんだろうか。

「見学者がきておりまして、つい騒々しくなってしまったのです騎士さま」

 すでに役に入っているエレナに、恭しく声をかける。

「そうですか。これはお客様。本日は遠路はるばるこのようなところへお足を運びいただきありがとうございます。よろしければお客様も、このような催しなので着飾ってみてはいかがでしょう」

 ちらりと周囲をみまわしてから、きりりとした相貌を崩して彼女はそんな提案をしていた。

 なかなかに無茶ぶりである。

「ちょ、さすがに芸能人にコスプレさせるのはどうなの」

「いえ、我が国の衣類がとてもお似合いになると思うのです。幸い何着か持ってきておりますし」

 いかがですか? と言われると翅は慣れているのか笑顔でうなずいたのだった。

「こんなかわいい子に言われてしまったら断るのもなんだからな」

「では、参りましょう! さぁ、この場になじむためにもぜひっ」

 あちらへと更衣室に案内されていく後ろ姿を見ながら、みんなはどう思っただろうか。

 つきあいが長いルイだからこそわかるのか、それともみんながそう思っているのか。

 いいや、周りの反応を見る限りでは、彼の末路がわかっているのだろうな。

 そう。彼だけがしらないのだ。目の前の相手はこよなく「男の娘」を愛する人間だということを。

 フラグ回ではあるのですが。純粋にひどい男子ってだけにしちゃうのももったいないですし、ワンチャンスでございます。もちろん、明日どうなるかは、ご想像の通りです。

 ホントは一気に行くつもりだったんですけれど、諸事情によります。

 日曜出勤とか……ほんとこまないでおくれよと言いたい。


 しかし、久しぶりのエレナたんコスプレ回でもありますが、あいかわらずかーいいです。女装の騎士さんとかゲームとかだとけっこういたりするんですけど、かっこかわいいは正義だと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ