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722.斉藤さんと志鶴先輩の場合2

なんか、話をしていたら長くなってしまったですばい……

R6.10.11 志鶴さんの秘密の件。一部は12月のときに伝わってたので、そこだけちょこっと修正です。

 さて。斉藤さんの勇気の結晶。

 バレンタインチョコドーナツがどうなったのだけど。

 意外な形でそれを知ることになった。


 そう。翌日の朝に、「緊急消臭! 直ちに部室に集まれたし!」

 なんてメールが来たのである。

 ラインじゃなくて、メール。一斉送信で、いっぱいの人に一気に送ったのだろう。

 しかもほかに送ってる相手の名前も見えるのだけど、在校生だけじゃなくて卒業生まで消臭! をかけてる感じである。

 ファブ〇ーズなのかしら。


 でまあ、そりゃ、そこに参加はしますよね、という感じで。部室にはきたのだけど。

 結構な人数がいて、驚いた感じでした。

 正直、事情を知っている上級生ばかり呼んでると思ったのに、新入生まで集まってて。

 むしろ部屋が手狭というかなんというか。


「みんなに、集まってもらったのは……その、僕の圧倒的手違いであって、そのーこのー、撮影的なことについてなにかがあるわけではないです、ごめんなさい」

 最初にジーパンにセーター姿の志鶴先輩が集まりすぎた会員に困ったような顔をして、みんなに頭を下げていた。

 かなり混乱しているようで、集まりすぎた人たちをどうしようかと悩んでいるようだ。


「えっと、先輩? 消臭ってことは、まさかおもらs」

「僕のおしっこ無臭だから! 甘い匂いとかしないから!」

 馨はどうしてそういうところに突っ込むのか、と先輩にジト目で見られた。

 いやぁ、今のはちょっとしたジョークでありまして、空気を変えたいと思っただけなのですよ。


「なぁに、卒業生まで呼び出すとか、部室じゃなくて高級ホテルの個室とかにしなさいよ」

 まったく、とあきれた声で言っているのはお久しぶりに登場の、桐葉花実元会長である。

 ちなみに今日は、卒業を控えている奈留先輩と朝日先輩も集まっている。 

 なんか入学当初みたいな気分になってちょっと懐かしい。


「先輩、理由知ってる人にだけ送ってる、と思わせつつ、知らん人にも送ってるからね! そこ、わかってらっしゃる!?」

 今年の一年生とかほんっと事情全然わかんないんだから、勘弁してくださいよ、というと、先輩はちょっと申し訳なさそうな、それで情けない声を上げた。

「それは、うん。ごめん。あわててた。でも、ここで、下級生来なくてもいいよ! とも言えないし、僕の女装姿知ってる子で、相談に「時間を割いてくれる」人がいるなら招集です。うん」

「あー、これ、意見だせなくても気にしないで良いよ! っていう意味合いが九割。あとの一割は。「へっ、女装やめた自分が彼女と上手くやっていく上で、なにかあった!」から、焦っているのだろうと、思われーーー!」 

「ちょった、馨!? おまっ、全容知ってるとか!?」

 ま。おま、ちづちゃんと夜通し話したとか、そんなことは……

 と、事前に情報を持ってないか、彼は戦慄しているようだった。


「やだー、しのさんなんにも知らないですわ?(にこっ)」

 知りませーんと、女声で答えると、おまー、と志鶴先輩に肩を掴まれて揺らされた。

 そうはいっても、斉藤さんからは特別なんの反応ももらってないし……と、タブレットを見ると着信が一件あったようだった。

 そっちは、緊急招集! これたら来て欲しい! みたいな斉藤さんからのメッセージが入っていた。

 反応は、あったのはあったのか……ちょっと落ち着いたら、今日はいけなさげですと返事をしておかねばならない。

 

「ああ、そういうことなら! 下級生たち引き連れて、撮影会って感じはどうでしょうか?」

 一年生とか事情わかんないし、正直私もよくわかってないので、と花ちゃんがしゅびっと手をあげた。

 せっかく集まったんだから活動しちゃおうという感じである。

「賛成です! あとは先輩方でいろいろとやっていただけるといいんじゃないかな」

 どーせ、木戸先輩がなんかうまく解決してくれますよ、となぜか自信満々にほのかが言い切った。

 くっ。そこで、奏なら大丈夫よね!? という謎の信頼感を出してくれるのはどうなのだろうか。

「全員集合の結末は、ちゃんとあとで教えてねっ」と、すれ違いざまにほのかに言われた。

 なので、こちらも撮影の成果を見せてくれるようにお願いしておいた。


 さて。そんな感じで部室が三分の一以下のメンバーになったのである。

 二年生以上である程度事情を知っている人ということで、二年生からはさゆみちゃんが参加をしている状態だ。

 三年は、モデル組でもあった鍋島さんが参加している。


「なんか、私的に部活を使うようで申し訳ないね」

「そこは別にいいですよー。なんで先輩が女装やめちゃったのか、とかは気になってましたし」

 男装コスも嫌いではないですけどねーと、鍋島さんが言った。ほかの下級生もうんうんと頷いている。

 そう。本人からは彼女ができたから、と言われたけれどそれだけで納得はしていなかったわけである。


 実際、あんだけ普段学校で女子大生をしていた先輩が、男装してくるようになった!? と大騒ぎになったくらいなのだ。

 女装イベントもことごとく参加しなかったし、なにがあったんだ!? と聞いてくる人もちょこちょこいたりもした。

 まったくお騒がせな人である。(あんたが言うなという幻聴は放置だ)


 木戸としても女装しない志鶴先輩のことについてはずっと、頭にはあった。

 けど、正直、斉藤さんが見てるなら、いつかは心を開いてくれないかしら、とも思っていた。

 斉藤さんはみなさんもご存知の通り、澪の良き理解者である。いまさら女装についてぐだぐだ言うことはないだろう。

 そんな彼女のことだから、目の前にいる「女装大好きで顔はそれなりにいい唐変木」を、自然体にもっていってくれるかな、なんて思っていたのである。実際、志鶴先輩が恋愛脳で「君のためなら、俺は自分の趣味を一切捨てるんだ!」ってことなら、それでもいいんだけど……

 無理してませんかね、という印象はずっとあった。

 

 そして、今日のこれである。

 きっと、素直に話をして解決ってことではなかったのだろう。 


 一般論としての「女装」のイメージは、それなりに木戸とて調べてはいる。

 そしてこの人が、それに縛られ過ぎているのもわかっている。

 親の影響もあって、かなりいびつな精神状態になっているし、たぶん一般の人よりも性別っていう、くそどーでもいいことに振り回されてるように思う。

 もっと、楽に生きればいいのに。

 

「おや、馨は微妙な顔をしているね」

「ん。守秘義務を行使いたします。っていうか、宣言しておきますけど、俺、先輩の味方はしませんからね」

 旧友の味方をしますよ、と宣言をすると、馨はそうだよなぁ……という顔をされた。


「はいはい。そこの現役生さんたちや。二人だけで秘密の会話はやめて欲しいかなー」

 はぁと、桐葉元会長が額に手を当てながら、ため息をついた。

「いちおー、私達も詳しい話は知らないんですよねぇ」

「志鶴先輩、最近サークル活動もあんまりだしなぁ」

 ま、俺達もあんまり来れてないですけどねー、と朝日先輩が言う。

 確かに、実質四年生になったならサークル参加するっていうのはそんなに多くもないだろうし、志鶴先輩の生活スタイルがおかしいわけではないのだけど。

 だとしても。あれだけそれまでの二年間にいろいろやってきたのを、すっと止めてしまうのはどうなのか、とは思うのである。


「そこからになるか……ねえ、志鶴。まずは、緊急消臭した理由を教えて欲しいんだけど?」

 何があったのか、まずは説明をと桐葉元会長は昔みたいに会話の流れを作ってくれる。

 仕切ってくれるのはありがたい。

「その……昨日、彼女とぶつかったというか、抱えてるものを半分背負わせて欲しい的なことをいわれて」

「そして、なーんにも答えられなかった、と」

 ふむ、斉藤さんが半分背負う系乙女になってしまったか、と木戸は内心で思った。


「ほー、そういや、先輩彼女いたんすね。あれ、だから女装やめたってことで?」

 ん? と朝日先輩が首を傾げている。

 四年になってしまうとむしろ就職活動とかが忙しいし、大学の方にそんなに視線がいかないところもあったのだろう。


「ま、いつかは夢も覚める、って考えれば妥当な判断って思うんだけどねぇ……そう思えなくなっちゃったのは、うーん」

 ちらり。と奈留先輩が木戸の方を見て言った。

「若いうちだけの遊び、という感覚の方が一般的、とは思うのだけど……なんかこう……彼女ができましたが、なにか? って感じで続ける未来しか想像ができない」

 ちらり。と今度は桐葉元会長の視線が木戸に向けられる。

 むぅ。二人とも人の事を常識はずれみたいな感じで認識しているのはどうなのかと思う。


「そうか。すべて馨が悪い、と」

「ちょっ、志鶴先輩それは理不尽ってもんですよ!」

 僕が普通なの、と先輩に言われてぷぅとほっぺたを膨らませてみる。

「まあ、木戸がちょっとおかしいくらい女装廃人なのはともかくとして、俺も同じくらいに廃人だった先輩がいつのまにか女装イベントでなくなったのは、疑問ではありましたね」

 四年になって引退したって言っちゃえばそれまでなんすけど、と朝日先輩が言った。

「ほほぅ、朝日たんにまで、そう思わせるとは……ほんと、馨は罪な子だね」

 性転換したいーってんならアレだけど、一時期女装して楽しんで結婚してってことなら、止めるってことも普通では? と志鶴先輩はまた言った。

 普通……ねぇ。


「特撮研が普通を語るとは、どうなんですかね? 好きな事好きなようにやろー! ってところだと思っていたんですが」

 その単語出してる時点で、なんか違和感あるんですよねぇ、と木戸が言うと、びくっと志鶴先輩の身体が震えた。 

 ふむ。昨日、斉藤さんからもそこらへんは突っ込まれているんだろうか。

「あー、それ言われると、たしかになぁ。どっちかというと特殊な趣味ってだけって言われるかもなぁ」

 レイヤーさんの撮影たのしーみたいななーと、朝日先輩が言う。

 そう。ただ女装をするだけなら、その認識で別に問題などないはずなのだ。


「んじゃ、そろそろ俺も質問させてもらいますけど。先輩ってなんで女装はじめたんでしたっけ?、って話ですね。このサークルに入ると女体化の呪いがかかるーとかって話は別として」

 朝日たん爆誕でもいいのですけどね? というと、やらねーと先輩にぷぃっとそっぽを向かれた。

 着飾ればそれなりに可愛くはできると思うのだけど、残念ながら本人はやるつもりはないそうだ。

「あれ? 留学先で目覚めたとか、俺聞いたような気がすっけど、違うのか?」

 ん? と朝日先輩が首を傾げる。あれ。朝日先輩には特別詳しいことはしてないのか。

 まあ、デリケートな問題だし、あまり打ち明けてない話なのかもしれない。


「んー、言っちゃっても良い? それともまだ内緒にしておきたい?」

 そうなっちゃうと、ここでの相談もストップになっちゃうけどね、と桐葉元会長が肩をすくめた。

「まあ、仕方ないかな。たぶん、一番事情通だろうから、馨から話してみて」

 ほれほれ、と、手をひらひらさせながら、若干不機嫌そうな顔を志鶴先輩がしていた。

 まあ、好んでいうことではないのは、わかる。

 他人からすれば、たいした問題ではないにしても、本人としては重大ということは、よくあることだ。


「それでは、俺が入学したころに聞いた話をお伝えしようかと思います。これは、まぁ。俺も女装しますし、仲間意識的なものがあるので、朝日先輩はあんまり気にしないで下さいね」

 自分には教えてもらえないのね、よよよとか、言わないでもおっけーです、と言うと。お、おうっ、と彼はなぜか、そうか、そういうところか……と声を漏らした。

「それで、俺が聞いた話としては、志鶴先輩のお父さんが、女性化に傾倒してしまい、あたしは女性なの! ってな感じで、家庭から独り立ちしちゃったって話でね。養育費とか、離婚してます、とかは俺は知りませんけど、ようは志鶴先輩、父親にないがしろにされちゃった系の人なんですよ」

 それを思うとうちはこんな俺を放置とか懐が深いなぁと思います、というと、まー、そうでしょうねぇ……と、一年上の奈留先輩がつぶやいた。うん。この人、木戸とルイさんの関係知ってるからね。それを許してる両親、ぱねぇとか思ってるのかもしれない。


「んで、そんな父親に、ざまぁするために女装してたら、ドツボにはまったんですよねぇ。でも、彼女できたからってそれを止めちゃったわけなんすよ」

「ははっ。馨はやっぱりすごいよね。そこであの人を、父親父親って連呼するんだから」

「でも、事実でしょう? いくら性別変えたからって父親は父親。個人的に参考にさせてもらったところはあっても、交友はないですしね」

 別に、あちらさまの肩を持つつもりはないですよ、というと、みなさんがきょとんとした顔を浮べた。

「あー、志鶴先輩の父親ね、いちおー俺の女声の参考にさせてもらった人なんですよ。なので知ってる人ではある感じです」

 もちろん自分流にカスタムはしてるので、まるっきりってわけでもないですけどね、というと、そんな繋がりがあるのか……とみなさん納得してくれたようだった。


「ま、概ね私も知ってる話だね。お父様に反抗するって話で女装を始めたら、ドツボにはまったってのは、実際見てきたからその通りだと思う」

「ですねー、ドツボです。ほんとマジで」

 だからこそ、ほんとここ一年が謎すぎると、奈留先輩が言った。

 ほんともー、まったく動き無かったからね。


「ちょっ、みんなドツボドツボって。そりゃまあ、楽しむことが意趣返しみたいなところはあったけど、言い過ぎじゃない?」

「そんだけ、先輩が楽しそうだったってことですよ。いいんじゃないですか? 自分は若いときからこんなに可愛い格好してるんだぞーって、パパさんに見せびらかせたかったわけだし」

 実際、美人さんなわけだし、楽しまなきゃ損というものでしょう、というと下級生からも、うんうんとうなずきをいただきました。

 だよねー、志鶴先輩せっかくなんだからもっと着飾るべきだと思います。


「先輩はさ、女装と、女性化をごっちゃにしてると思うんですよねぇ。パパさんのは女性化で、先輩のは女装。んで、それならお相手が良ければ問題なしだと思うんです」

 で。

「お相手はあの斉藤さんですよ? 俺と高校時代を共にした、ね」

 おわかりですか? というと、上級生から、あー、と声が漏れた。

「確かに、しのさんを間近で見ていたら、今更女装でぎゃーぎゃー言わない子になってるよねぇ」

「いまさら、実は……とか、言われても、あーそうですかーになるかなー」

 っていうか、女装コスとか業界では普通だしなぁ、と奈留先輩が付け足した。


「……たしかに、ちづちゃんなら、女装の件でどうこう言わないとは思うけど……でも、その」

「なにか引っかかるところがある、と」

 ふむ、と桐葉元会長が言った。

「馨はさ、例えば女の子になりたいとかって思いは、ないの?」

「んー、ないですね。ってか、俺、女装してるの結局撮影のためなんで。まあ、可愛い格好するのは好きですし、ドツボにはまってるわけでもなく、自然にそうなってるだけですけども」

「ま、木戸くんはそうだろうなぁ」

 ドツボより自然っていうのが、ほんとまぁ、と奈留先輩が苦笑を浮べる。

 

「逆に、先輩は、女性化したいという思いはあるんですか?」

「ない。ないんだけど……うちの父親も最初はそうだったんだろうと、思って」

「いつか、そっちに流れるのではないか、と?」

 ふむ。と木戸が声をあげると、こくりと先輩は頷いた。


 確かにそういうのがない、とは思わない。入り口としてはたぶん同じものなんだろう。

 でも、内心はどうなんだろう?

 外から見えるものは同じでも、内心というのは別なのではないだろうか。


「斉藤さんなら、そっちに流れても別に、なーんも言わないでくれると思うけど……」

「なにその、完全な信頼感」

 ちづちゃんのなんなのさ、と言われたけど、友人というか、親友ですねぇと答えると、こんの性別迷子さまめーと志鶴先輩に言われた。

「男女の友情はあり得るのか……ってやつか。まあ、木戸ならどっちもいけるよなぁ……」

 実際、特撮研でも女友達大過ぎだろおまえ、と言われて、そりゃーカメラ仲間と被写体仲間だから、そーなりますが? と朝日先輩に言うと、一線がなさすぎだろうよぉ……と、なぜか呆れた声が返ってきた。解せぬ。


「ま、俺にとっては性別自体がもー、どーでもいい概念なんですよね。いちおうTPOを無視するといろいろ面倒だから使い分けはするけど、わーいって楽しめればそれでいいかなって」

 被写体の性別は、それなりに考えますけどねー、というと、今度はカメラ脳めーとみなさんから言われてしまった。

 照れるっ!


「逆に、先輩なんで、一年も斉藤さんにカミングアウトしてないのかが、疑問すぎる感じです。待たせすぎ」

 いくら辛抱強くて包容力があったとしても、さすがにねーというと、普通にデートしてただけですぅと言われた。いや、実際父親の事と女装コスの事はなし崩し的に伝わってはいるんだけど、それ以外の部分については、あんまり伝えていない志鶴先輩なのである。

 そして。

「……うん。それ木戸くんが一番言っちゃいけねぇ言葉だと思うんだよね……」

 奈留先輩が、うへぇーとひどい顔をしながら言った。

 そ、それはまぁ……

「う、そこはちゃんと、こう、アンサーはしましたよ? 回答保留みたいなことはしてないデスヨ?」

「ほー、そこあとで詳しく!」

「報告の義務ないですし……それに、今は俺のことじゃなくて、志鶴先輩のことですって」

 ほれほれ、実際、斉藤さんもじれて昨日、バレンタインでアタックしてきたわけでしょう? というと、志鶴先輩ががばっと立ち上がった。


「って、やっぱ馨、いろいろ知ってるじゃん」

「いちおー、チョコドーナツの監修の仲介はしましたけどね。俺の口からはなーんも言ってないですよ」

 斉藤さんも、本人の口から聞くからって言ってたし、というと、やっぱり深い関係じゃん! と嫉妬混じりの声をかけられた。

「でも、おいしかったでしょ? プロ監修のチョコドーナツ」

 ふふっと女声で言うと、あーもー、と志鶴先輩は頭をかいた。


「まあまあ、木戸くん。あんまりいじめるものではないよ。結局は志鶴が覚悟完了してないだけだから」

 普通の恋愛は、そういうもんみたいだよ? と桐葉元会長が言った。

「いろいろうだうだ言ってるけど、結局は、その斉藤さん? だったっけ。その子に嫌われるのが嫌なだけでしょ」

「……なっ」

「ほんっともう、不器用なんだから。確かにパパさんのことは同情するけど、自分もそうなるかも、なんて、言い訳して向き合わないの、ダメだと思う」

 いくら何でも甘えすぎでしょ、と桐葉元会長はばっさりと言い切った。

 いろいろと言い訳しても、結局はこいつがヘタレなだけなの、という話である。


「なので」

 ふむ。と、花実元会長は、そこで。そう。素っ頓狂のことを言い始めたのだった。

「木戸くん、同い年で体格も同じくらい? なら。そうね。せっかくだから、木戸君がさ、さいとーちゃんだっけ? その子のコスプレして、カミングアウトの練習をするといいんじゃない?」

 ひどい話である。リアルの人のコスプレとはこれいかに。

「俺が女装するのはいいですけど、斉藤さんにはなれませんよ?」

 眼鏡外す気はないし、というと、まあまあそれでも練習台にはなってあげてよ、とぽんぽん肩をたたかれてしまった。

「むしろ鍋島さんあたりを代役にした方がいいと思うんだけど」

「いやぁ、それじゃ斉藤さんみがだせないでしょうに」

 本人を知ってる人がやるのが一番! とか言われてしまったのだけど、これは、桐葉元会長さまの木戸くんの女装姿が見たい! って話でもあるのだろうか。


「いちおー言っておきますけど、衣装はあっちのサークルにお願いする感じでいいんですよね?」

「すでにメッセージ送って、お待ちしてますと返事が来てるから、行ってらっしゃいませ」

「はぁ……どーなっても知りませんからね」

 まったく桐葉会長は強引なんだから、と木戸が言うと、手をひらひらさせながら、まってるからねーといい顔の元会長の顔が見えた。

 その顔はちゃんと撮っておくことにした。

空間消臭! ということで。

チョコドーナツを美味しくいただきながら、斉藤さんがんばりました!

そしてその結果については……まあ、こんな感じと。


次話は、かおたんが斉藤さんの代役をするのが冒頭で、そこがあんまり長くならなかったら、女子会の方もセットでアップ予定でございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ベテランの両声類さんが、同時期に始めた人は皆タイに行ってしまったと言っていて、行かなかった側の視点からはそう見えるのか―って思ったことありますね。 人を形作るのは周りの評価だったりしますから…
[良い点] 実はほのかさん好きなんですよね……後輩でありながら、同級生でもあるという……絶妙な距離感。 先輩後輩のちょっとした乗り越えられない壁みたいなものが、あったりなかったり……。 そしてまさか…
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