720.さくらさんとまったり銀香町
い、一日おくれたのは、リハビリが長引いたのですぜ。
というわけで、投下。
やっぱ、事件というよりは、あたま空っぽにして撮影わーいがいいなぁ。
「なごみますなぁ、さくらさんや」
「そうですなぁ、ルイさんや」
ずずぅーと、お茶をすすりながら、ルイたちはのんびりと過ごしていた。
さて、こんなばばぁと、ばばぁ?な話をするようになったのは、さっきまでがっつがっつカツ丼んまい! をしていたから、最後のお茶は年月を感じさせる感じでいこうか、なんていわれて、こーなったわけだった。
ある意味ではコントである。それでも、お茶を飲みながらまったりできているのは、銀香町の食堂がそろそろ三時の休憩時間に入るからであり、他のお客さんもあんまりいないという状況だからである。
というか、昼時の忙しいときには、ルイさんこれで、ちょっとこないでおくんなせぇといわれてまして。時間をずらしての入店なのである。
店員としてずっと居てくれるんならそんなに良いことはないのに、ちくしょうという声はルイには届かなかった
さて。時は二月。
とりあえず、大学の単位関係は問題なしということで、さくらに連絡を取ってたまには一緒に撮影にいきませんか!? とお誘いをしてから二週間ほど経ったころ。ようやく久しぶりに撮影をということになったのだった。
そして場所はといえば、ある意味で古巣でもある銀香町を設定させてもらった。
なんというか、お正月のことがあって、久しぶりに友人となにも考えないで撮影に行きたいなと思ってのお誘いなのだった。
個人的にはちょこちょこ銀香にもきていたけど、さくらと一緒というのは割と珍しいことである。なんとなく所属している写真館が違うからということもあって、ちょっと遠慮していたところはあるけれども、さすがにお互いそれなりに落ち着いてもいるし、ルイとして会うというのをやってもいいのかなと思ったのだ。
前の、石倉さんのところの社員旅行に連れて行ってもらったのは、あくまでも馨としてだしね。あれはあれで大変楽しませていただきました。
「安定の優しいお味。私あんまり最近銀香きてなかったけど、ここは残っててありがたいなぁ」
「まー、新しい家がちょこちょこ建ったりはしてるし、町の食事処としてはまだまだ安泰なんじゃない?」
銀杏の木を撮りにくる人達もいるみたいだし、というと、あー、割とあんたが町興ししてるところはあるのかー、と呆れたような声を漏らされた。
でも、銀杏の木自体は、あいなさんたちも撮影スポットとして好きだし、時々来る観光の人達にも人気の場所なのである。
「あとは、あれだよね、興明さんの子供がですよ。いろいろとあたしのこと担ぎ出して町の観光マップみたいなのつくってやがったりしまして」
「あはは。憧れと現実はほんっとうに上手くいかないわね」
「そりゃ、首くくられるよりはいいけど、あの人じみーに絡んでくるんだよなぁ」
木村っちのクマの件も絡んできたしね、というと、ぶふっとさくらが軽くお茶を吹いた。
「ちょっ、クマってあのクマよね? 制作者さんゴスロリきてた美人さんの」
あれ……あんた絡んでいるの? とさくらが言った。
「あの撮影したのあたしだし。可愛かったでしょ?」
「……つまり、本人か。あかん。女子力で負けそう……」
「おやおや、さくらさんや。もともと貴女の女子力は……」
くっ、と少し目を伏せて残念がると、ぐぬぬぬとさくらから声があがる。
「最近はちゃんと自分で自炊もしてるし、家事力はちゃんとあがってるわよ」
というか、石倉さんのところみんな自炊とかしないから、必然的にですよと言い始めた。
「ええと、一人暮らししてるんだっけ?」
「ううん。さすがにちょっと生活厳しいから、実家暮らしだね。こどおばというやつですよ! こどおば!」
「あー、じゃあ、あたしもかなぁ。お金は貯めておきたいデス」
機材購入は、沼にはまるといくらでも行ってしまう……というと、ふふっとさくらに何故か笑われた。
首を傾げていると、いやーと彼女は話し出す。
「昔も、あんたすっごい貧乏性でお金貯めてたなぁって思って。ちょっと懐かしくなっちゃった」
「あー、その節はいろいろとありました」
とはいっても、機材と衣類にはお金掛けなきゃなのです、というと、わかるのはわかる、とさくらは答えた。
機材はちゃんと選ぶというのは、もちろんのこと、衣類や見た目に関することも割と撮影には重要な要素である。
結婚式なんかでは場の影になるような感じで目立たずに撮りたいところだし、他でもその場に調和するようなTPOというものはある。
町中の撮影でも、やはり第一印象がいいと、撮影許可は出やすいものなのである。
というか、最初の事件で思い知らされたからこその今のスタイルである。
さて。お茶もいただいたので、お会計を済ませて外に出た。
冬とはいえまだ日も出ているので回りも明るい。
これならまだいろいろ撮れそうだなと思いながら、歩いているとさくらのスマホに連絡が入ったようだった。
歩きスマホよくないということで、ルイも道の端によって少し待機。
「あ、そういえば確認なんだけど、春先のイベントは参加するの?」
さくらがスマホから顔をあげると、唐突にそう聞いてきた。どうやらレイヤーさんとかそこらあたりの人からの連絡だったようだ。
「それねー、いちおー大学時代最後の春というのもあるから、参加はしたいなーとは思ってるよ」
少なくともカメコとしては参加予定です、というと、お? ということは? とさくらさんはキラキラした目を向けてきた。
「いちおう極秘情報だけど、エレナさんのコスROMを販売できたらなと思っています」
「……っ! きたこれー! 極秘情報!」
「っていっても、最近男の娘ものの作品よりTSの方が勢いがあるからー! あー! とも言っていたけどね」
「それはわかるかもしれない。でもTSものでもあの子ならやりこなせそうだけど」
突然女の子になっちゃった! どうしようって表情も可愛いのではっ、とさくらが目を輝かす。
「ポリシーの問題がどうのってことなんじゃない? 結局親御さんばれしたにも関わらず、あくまでも女装の子と言うことで行きます! って感じだからね。なりたいのは女の子じゃなくって、男の娘だって堂々といってのける人だしなぁ」
「そうして、ルイさんはしれっと自分は女子ですって言い張っちゃうわけだ」
「そこはー、まぁーそのー、ご想像にお任せします」
内緒内緒、としーと人差し指を口に当てると、さくらにカシャリと一枚写真を撮られた。
「おおぅ、今のを撮りますか」
「いや、そのポーズ好きなんだよね。秘密の香りはミステリーってね」
「あはは、佐々木さんにもぜひ、会いたいところだね」
最近あんまり会ってないからなぁというと、そーなのかーと言われた。
といっても高校時代の女子との接触が少ないだけで、青木とはときどき出くわすし、女装の沼に落とした八瀬とも何度かあっている。
あとは、斉藤さんとは先輩絡みで交流という感じだろうか。
「またみんなであつまれるといいよね、っていうか同窓会とかやるんじゃないかな」
ルイのクラスはどうなのと聞かれて、今のところはそういうはなしはないかなと答えておいた。恐らくはもう少しして、ある程度みんなの進路が決まってからということになるのだろう。
「うちの学校わりと進学の人おおかったし、就職決まってからって感じになるんじゃない? 秋口あたりとか」
「わたしも半分フリーターみたいなもんだしなぁ」
最近いろいろ仕事はさせてもらってるけどそれだけでは食ってはいけませんとさくらが言った。
「ほほう、つまりどこかでアルバイトをしていると」
ウエイトレスさんとかだと、はぅーっていっちゃいますぞ、でゅふふというと、アーそういうのじゃないよとあっさりいわれてしまった。スルーである。
「それよりルイこそいつまでコンビニのシフト入れるつもりなの?」
「いちおーは徐々に入る時間は減らしてはいるんだよ。ただ、店長が変わって初っぱなのバレンタインの売り上げ落ちたら、干されるのでそれはお願いしますと泣きつかれたけど」
販売イベントはやる予定ですというと、それは楽しみとさくらは楽しそうにいった。当日撮影にきて冷やかして帰っていくかもしれない。
「えっと、その今の段階でルイとして働くのか、あっちとして働くのかどっちなんだろ」
前にも聞いたことあったかもだけどその時は考え中とかいわれたようなと、さくらが周りをちらりと見ながら聞いてくる。他の人には言えない内容だという認識はあるのだろう。
「一応はルイとしていまのまま佐伯さんのところでご厄介になろうかと思ってるかな。大騒ぎになっちゃうってなると考えなくはないけど芸能界の話はまた別の人を追うだろうし」
まあ、マネージャーさんはいまだにデビューをーとか言ってそうだけど、残念ながら芸事をするにしてもそれはカメラの技術でというはなしになる。色物になるつもりはまったくないのだ。
頑張って目指したいのはあくまでもカメラマンである。
「仕事としてまずはやれるだけやって、だめなら関連したところで働くとかでもいいとは思ってるかな。絶対に芽が出る自信はあるし、しがみつくだろうとも思うけどね」
何気なくそういうとさくらは、はぁーと肺の中の空気を空っぽにするかのような深い息をはいた。
「どこまでいっても写真バカか」
「それでもどうなるかはわからないから、両親が大学出ろっていったんだろうとは思ってるよ」
逃げ道というか生存可能性をあげる選択ってのをちゃんとやってくれてたんだと今だと思うよ、というと、なに、ルイパパ、ママ有能っと驚いた声が上がる。
んー本人は平凡とはいってるけど、子供二人を育てた家でもあるし、最近はちゃんとエレナパパとも仲良くしているみたいなので、父上はすごいなぁと思っている。
パパっすごいねっとかいったらどういう反応をするのかは正反対だろうけどね。
母上さまの気配を感じて、ちょっとびびる姿が簡単に想像できた。
「それで、そっちは石倉さんのところで三年過ごして、なにか見えてきたことはあるのかい?」
「んーどこかの美人有名人だと、いろいろ世の覚えはよかろうけど、一般人。とても一般人は、名前を覚えてもらうのがまずたーいへんなのです」
付き合い先には、あいつの弟子かと爆笑されたりもするけど。
と、さくらがちょっとにやにやした顔をしていたので一枚撮った。
普通に石倉さんのことをー好きとかそういうのではないだろうし、ただ師匠が知られているのは嬉しいのだろうなぁと思った。
「で、ま、あんたみたいな変なイレギュラーなことはできないから、普通にコンテストとかにちょことちょこ応募してみようかなと思ってる感じ」
「名前を売るのにはそういうのになる、と」
「にゃーー最初からいろんな武器をもってるあんたとは違いますー」
ぷんすこしているさくらに、えぇーという顔を向けておく。
確かに女装という特別な事はしているけれども、いまの認知度というのは自分の活動の結果だし、さらに言えば芸能人とのツテがあるからである。
「っていうか、さくらだってコスプレ業界だとかなり認知度ある方だと思うけど? 一般のお仕事では確かにそれが使えるのかは疑問だけど、結局はお仕事やって積み重ねてくしかないんじゃないかな?」
それに見た目は自分で作る物だから、清潔感を失わずーなスタイルでいけばいいと思うけど、というと、さくらはそういうもんかなぁーと言った。
「っていうか、あんたこそコンテストとかって興味ないの? 馨として登場してもよさそうだけど」
「んー、自然の写真を中心に応募ってのは考えたこともあるんだけど、あくまでもこう、コンテストに向けて! って感じでは撮ってないし、珠玉のーっていうのもね。今のところ本業とアルバイトとで忙しいってのもあるし」
そこまで調べたりしてないかな、というと、さすがはルイせんせーでいらっしゃると茶化されてしまった。
うむむ。そういうことならば、やってやろうではないか。
「それじゃ、今日一日二人で撮ってみて、なんかいいの撮れたら応募とかどうかな?」
目標意識は大事、でしょ? というと、さくらは、おーいいじゃんいいじゃんと声を上げた。
ま、その結果がコンテストの内容に合うのかどうかは、調べてもいないのでわからないのだけど。
いったん話はそこで終了して、撮影をスタートすることになったのである。
安定の、さくらさんとの撮影ということで、ほっこりしました。
さて、次はサンガツ! あたりのお話になりそうであります。