717.巫女さん達とお買い物4
「映画館……だと!?」
次はここだよ! と笑顔で巫女さんに言われた先は。
ルイにとっての鬼門。
映画館である。
その一角だけ少し照明が控えめになっていて雰囲気はとてもいいのだけど、残念ながら映画館といえば、そう。
「お察しの通り、撮影はだめですから」
「っていうか、書店もアウトだったじゃん。外出るときにチェック受けてるとか」
映画館となると、例の顔がビデオカメラになって踊り狂うおじさんが居るのである。
盗撮絶対ダメ! っていうやつだ。
それに、映画の画面は明るいから撮れたとしても、あの暗さで人の顔を撮るのはちょっと難しい。
「でっ、でもっ、みんなの表情だけで背景飛ばしたし、著作権とかは守りましたしー!」
次からはちゃんと許可をとって本屋ガールをとりますー! といってやると、苦笑気味に巫女さんは言った。
「それ、何かの撮影とか、そういうのじゃないとダメってやつでは?」
本格的に写真集を撮ります、とかじゃないと許可されないんじゃないですかね? なんて言うのは、ちょっと意地悪さんではないでしょうか。まあ、この町だったら巫女さんの写真集を撮ります! ではなくて「成長記録を撮ります」といえば、神社の氏子のじじいさん達が仲良く集まりそうな気はするのだけど。
「ぐぬぬ。世の中コンプライアンス意識が高くて、辛い」
この良い子ちゃんたちめー! と巫女さんにくすぐり攻撃を仕掛けてみることにする。
まあ、ちょっとした八つ当たりというやつである。
「うわっ、突然にゃにをひゅあー」
「……うわぁ、緋榊くんで遊んでる……」
「とても百合百合しい光景だなぁ……じーちゃんたち喜びそうだけど。あっ」
ぼそっと沢村くんがなにかに気づいたような声を上げた。反応にタイムラグがあったのは、うん。仕方ないことだろうと思う。巫女さんが可愛すぎるのである。
「ちょ、ルイさんっ。成人女性が男子高校生にいたずらするのはダメだと思います!」
不純異性交遊ダメっ! と蓮見さんを筆頭にみんなが真剣な顔を浮べている。
「えー、フレンドリーなスキンシップなのになぁ。というかめぐくんは、あんまりこういうボディータッチ的なのは、受けてないのです?」
「あー、父や母とのふれあいはありましたけど、友達となるとなかなか……」
そういったのはあんまりないですねー、と巫女さんが言った。
そういや、前に神社でお茶したときも似たようなこと言ってたっけね。
まあ、町の住人達からすれば、緋榊神社の巫女さまー! って感じだし、男同士なんだからいいだろ! なんていう人が居たら村八分どころか、八つに裂かれてしまいそうな勢いである。
じゃあ、女同士ならーというのも、巫女さんが男の娘なのはみなさんご存じなのであって、気軽にふれあうこともできないという感じなのだろう。
「む、むぅ。じゃあ握手くらいなら、いいかい?」
ほれ、お手々だして、みんなでずっともだよ! とかやろうよーというと、うえぇ、触っていく方向なんですか? と巫女さんが驚いた顔を浮べている。
いや、なんというか高校生ってそういうものじゃないのかな?
「ルイさんって、もしや……対人関係ポンコツな人なのでは?」
「……なかなか、いえーいっていうテンションにはならないかも」
「くっ、これは……あえて、やってみるべきでしょうか」
こそこそと、みなさん微妙そうな反応をしているようだった。
うーん、とりあえず巫女さんのすべすべお手々をぎゅっと握っておく。
手と手を合わせて、幸せ、でございます。
「えっ、えいやっ」
と、そんな中で最初に手を出してきたのは、沢村くんだった。
いちおう、女装してる子同士でもあるから、一番やりやすい人でもあったのだろう。
「さすが、手が小さい……」
自分の手の大きさがばれるーと、なぜか沢村くんはしょんぼりしていた。
ここ一年で、女装を突き詰めていろいろと思うところでもあるのだろうか。
ま、女装は手の大きさとの勝負みたいなところもあるから、気持ちは多少わかるところはあるけどね。エレナたんのお手々とか華奢可愛くて、本当にすごいなぁと思うことはございます。
「さて。ルイさんには悪いけど、そろそろお目当ての映画始まっちゃうから、中入りましょう」
手を繋ぐとしたら暗いところがいいなーと、社くんがぼそっと爆弾を仕掛けたのだけど、それに乗る人は一人しかおらず、ばたばたとルイ達は薄暗い映画館の中に入って行くことになってしまった。
いつだって、タイムリミットというものはあるのだ。
映画の上映が終わった。
お手々がどうのというのは……まあ、なんだ。
映画の内容にとってかわったようで。
みんなは真剣にそれを観て、わぁーと目を輝かせているようだった。
社くんと紀人さんは、もしかしたらお手々ぎゅーだったかもしれないけど、そこには触れないでおくようにしよう。まるで小学生みたいですね、とか言われそうだ。
ま、ルイさんもあの海辺の景色は。ロケ地として撮影に行ってみたいなとも思ったのだけど。
「わぁ。真ん中で話が変わるって聞いてたけど、こうなるとはっ」
「だよねっ。前半のあの、自殺希望者を守る-! って感じの町も好きだけど、後半! 後半がいい!」
「自分の生き方? それを貫いてるというか……ああ。だからそう動いていたのか! って最後でばっちりきました!」
映画の内容は、自殺旅行にきた女性達を、思いとどまらせる町の人たちの奮闘と。
なぜそこが自殺スポットになっていて、なぜ長い間死者がでないのか、というミステリ部分とで語られる。
とある港町の物語だ。ホラーなのかと言われたら、どちらかといえばやはりミステリに分類されるものだと思う。
そもそも脅かし要素がちょっとあっても、それは自殺をしたいと思い詰めた人の妄想である。
ちなみに、その脅かし要素すら原作にはなかったらしい。
ほのぼのとした、港町のハートフル自殺防止物語である。
なかなかないジャンルなのではないだろうか。
「僕としては、同じ巫女としてはこう、なんというか……不思議な気持ちになりました」
「めぐくん、お役目ヤになっちゃった?」
んー? と紀人ちゃんが顔をのぞき込む。
ふむ。こういうところはさすが社交的なお方である。
「ううん。そうじゃなくてね。どんな役目だって。ううん、あれはむしろ呪いとかのたぐいだと思うのだけど、それでも自分のために利用をしよう! っていうのは、すごい志だなぁってね」
しかも、今時でもあの呪いを自ら受け入れようという人がいるかもっ! って思いながら自分の地位を守ろうと頑張る姿というのは、清々しいなと思いました、と巫女さんは言った。
「うちは、確かに変わっているし、古文書の……いわゆる古くからの習わしではあるんだけど、そうだとしても、嫌々やるよりは楽しくやったほうがいいのかなって」
心配してくれてありがとねー、と笑う巫女さんの撮影をとりあえず。
しゃーないなぁという態度すら巫女さんはしなくなったので、これは撮影フリーパスをゲットしたということでいいのだろうか。
「それにほら。うちはお役目ちゃんと町の人達に認められてるし、むしろ守られてるから。そういう意味では特別こう……この生き方が嫌ってわけではないよ」
「ほんとー? 他の男の子みたいに、生活したいとかはー?」
「そこは私も気になります!」
ふんすと、蓮見さんが、巫女さんに興味をしめしているようだった。
お? これはまさか興味があるのではないか、と思って口を挟もうとしたのだけど。
「あー、ルイさんは私の撮影をお願いしますー」
沢村くんがそんなことを言うので、反射的に沢村くんの撮影をしてしまった。
うん。可愛い。だんだん慣れてきた女装姿で、町を歩くような感じの出来である。
「んー、沢村くん、ちょっとこう、うつむいた感じとかどうかな?」
「……ポンコツさんは、ちょっと、後は若い者だけでおほほとでも言っているといいと思います」
うん。と沢村くんに言われて、周りをちらりとみると、隣に居た社くんがうんうんと深々と頷いていた。ど、どういうこと?
「はいはいっ! いろいろとみなさん思うことはあるかと思いますが! そろそろお昼の時間帯となりました! お正月明けでフードコートの具合もわからないので、移動しましょう!」
「はいよー! いいんちょの仰せのままにー!」
いえーい、と社くんが、いいんちょさん。つまりは巫女さんの思い人の付添人さんに言った。
自己紹介が頓挫してしまった兼ね合いで、彼女の名前だけわからなかったけど、なるほど。
ちょっと、真面目そうな雰囲気がしてたけど、「おさ」の方でありましたか。
彼女の言葉に従って、みんなでいそいそとフードコートに向かうことになった。
といっても映画館とは同じ階にあるので、移動もさくさくで、わいのわいのと話していたらすぐの場所である。
というか、もともと映画の感想を言い合うスペースとしてフードコートを設置しているっていうところもあるのかなと思うくらいの距離だ。
「くっ。私は置物、オキモノ、お着物……」
沢村くんに体よく扱われたことで、本来の目的を忘れていたルイさんはがーんとしながら己の立ち位置を再認識すべく独白をするのだった。あくまでもフォロー。巫女さんたちの自発的な活動を優先!
「大丈夫です。ルイさん、危険物だけど、廃棄されない系なので、一緒にご飯食べましょう?」
「沢村氏がやさしい!」
あんまりにもルイがしおれていたからなのか、ちょっと言い過ぎたかなと思った沢村くんは、よしよしとルイをフォローするのだった。
そしてフードコートで席を取りつつ、みんなそれぞれのお昼ご飯を確保しに行く。
フードコートには十店舗くらいのお店が入っていて、和洋中はもとより、それらのジャンルの中でも選択肢はさらに細分化される感じで、和食なら定食と、そば、天ぷら、とんかつ、洋食ならオムライス、ピザ、ステーキ、ハンバーガー、中華からは中華惣菜のお店と、ラーメン餃子といった感じだ。
他の階に行けばカフェのようなところもあるのだそうだけど、そちらは休憩に使う人が多いとのことだ。
ちなみにルイさんはオムライスのプレートにすることにした。
そこまで並んでいなかったので、一番乗りでテーブルにご到着。
そして、なんか空回りしてるなぁと、ため息をついた。
ある意味、保護者みたいな感覚できたのだけど、どうにも今回はうまいこと流れに乗れていないような感じがするのである。
ゼフィ女だと、写真部の顧問という立場があるから、後輩というよりは先生と生徒という意味合いの方が強いし、高校の頃の後輩ず達は、女装での繋がりの方が強かったりする。
まあ、写真部の後輩もいるのはいるけど、あっちはあんまり参加していなかったので、悩ましいところなのだ。
正直なところ、撮影ばかりしてきた身としては、いわゆる普通の高校生の休日なんていうのは、とても縁が遠い物であって、ちょっとしたギャップに悩み込みそうな勢いなのである。
「ルイさん、それ、コミュ障の挙動では」
さて、一番最初に合流してきたのは巫女さんである。
いつも和食中心の食事なので、この際中華にいこう! という感じで中華惣菜を選択。
油淋鶏のセットだそうで、香ばしい油の香りが周りに漂っている。
「い、いな! はーい、めぐくんさんよう。これは、未知と触れあうための、配慮なのです」
べ、別にコミュ障じゃないでーす、というと本当ですかねー? と言われてしまった。
ううぅ。
「なんというか、ルイさん一対一だと割とフレンドリーだけど、一対多だとちょっと苦戦気味ですか?」
「ちょっとそれを実感したところはあるね。なんか撮影っていう共通目的があるとすぐにその話題で盛り上がれるところあるけど、みんなの好き嫌いとか、わかんないしなぁ」
そういうのは普通探り探りやるものだろうけど、正直高校生活だとトラブルに首を突っ込む系が多かったからあんまりやったことなくてねぇ、というと。
なんかこう、ありがとうございます、と巫女さんにお礼を言われてしまった。
「それでも心配でついてきてくれるっていうのは、ありがたいなって」
お節介な新米先生みたいですっ、といわれて、そういうところもあるかもーと、言っておく。
そう。巫女さんのことは、心配な後輩っていう部分が強くて、放っておけないんだよね。
「おまたせー! さぁ、肉だ! 肉を食べるのだー!」
「嬉しいのはわかるけど、あや。あまりがっつかない」
「えー、社っち、おっきいお肉なんて、お正月にしか食べられないしー」
「そこは同意だけど」
さてと、ぱっちぱっちとお肉が焼ける音をさせながら合流したのは、社くんと、紀人ちゃんのカップル組。
二人ともお肉のお店にしたようで、すさまじく香ばしい油の匂いが周りにまき散らされている。
ふむ。匂いは雑じる物の、そこらへんを気にしないのでこういうところの流儀であって。
一品で、数々の食品の匂いをくんかくんかできるのは、幸せだなぁと思うルイさんであった。
ちょこっと、気分もあげあげである。
「おー、ルイさんはオムライスですかー! ここのは、ふわっふわで美味しいですよー!」
んはーと、紀人さんがぐいと体を乗り出してそんなことを言ってきた。
おめめが、食べたいです! と言ってきているように思う。
「良ければ、ちょこっと食べても、いいけど……」
「うはーい、やったー! ありがとー! ルイさーん!」
と、ノリノリなあやちゃんのおでこをぺちんと、社くんがひっぱたいている。
あんまり回転数を上げるな、というお達しなのか、へーいと椅子に座っていた。
「ふふっ。じゃー、みんな来たら、あやちゃんに、あーんの刑をしてあげよう」
「ほっかほかが欲しいけどなぁ」
「そこは、お行儀が悪いのでね」
ふふっと、笑ってあげると、はいはい、ガールズトーク乙と社くんは肩をすくめていた。
「お待たせしました!」
さて、最後に合流したのは、和食組の三人だ。
いいんちょと、沢村くんと、蓮見さん。
巫女さんちとは違って、お正月でおせちにも飽きたので、こういう和食が食べたい! という感じで選んだそうだ。
じぃーっと、巫女さんが沢村くんを観ているのだけど、まあまあと彼は手を振ってアピールをしているようだった。
「それじゃ、みなさん集まりましたので! いただきましょー!」
巫女さんの号令に、はーいと、みなさんは手を合せて食事を始めることになったのである。
今回のお話があんまり進まないのって、結局キャラが多くて、キャラの個性があんまりかたまらないからなのかなと思ったとですよ!
巫女さん組と、かっぷー! はいいんだけど、彼女さんたちがこう……
まあ、そもそも「今回のイベントでもっと仲良く!」みたいなところは、あるんだけども。
いいんちょと割と仲良し澤見さん(巫女さんが気になってる子)で、いくらかキャラがぶれなくなりましたが。
あ、作中劇については、むかしの拙作よりです。
いちおう、コミケとかで、ちょこーっとうれたんだぞう!(初出展で、いくらか売れたのは絵師さんの……もごもご)そして、ちょこっと売れたからネットに上げるのも……ねぇ。
絵をかけるってすごいスキルだなぁと、思います!