706.お正月の里帰り4
おまたせいたしましたー! 巫女さんときゃっきゃうふふの回でーす。
うおおぉ、まちがえて未完成で更新かけてしまいました!
すみません。
12/2 12:20に更新したのでこれが最新版となります。
「はわー、いいお手前でございます」
出された緑茶を呑みながら、あったかいものーと茶碗を包み込んでほわほわしていると、おいしそうに飲んでくれますね、と巫女さんはにっこりだった。
お茶菓子に関しても、芋なのだろうか? スイートポテトというよりは日本風な感じのものだ。ねっとりとした触感と優しい甘さがうれしい。
「西洋のお菓子も好きだけど、こういうのも好きかなぁ」
ちょっと旅行気分というと、ここらへんでは特別な……いや、でも、若い子はあんまり食べないかも、と巫女さんは自分でも黒文字のつまようじを使って、お菓子を口に運んでいた。
「ここらへんは、お供え物の一つというか。町の人からいただいているものなんです。となると僕としてはちゃんといただくべきかなと」
「おぉー、巫女さんは……一人称、僕な人かー」
んー、おいしーと、芋まんじゅうをいただきつつ、ゆっるい声を出しておく。
ここらへんは、巫女さんがちょっと緊張してそうだからっていう配慮だ。
今回で二度目っていう逢瀬なわけだし、いきなり腹をわってとはいかないだろうけど、少しでもリラックスはして欲しいと思うのである。
え、被写体の表情をおもんばかってるのではないかって? それは、まあ、ありますよ。もっとあけっぴろげた顔ってのは撮ってみたいし、見てみたい。
正直巫女さんは、こう、役割のためにいろいろと頑張ってる子だと思っている。だから、素顔のポートレート的なものを撮れたら、楽しいかなと思ってしまっているところなのだ。
今のままでも十分にかわいらしいし、すでに多くの撮影者さんに撮られているからポージングもばっちりなので。ならば、もちっと踏み込んでみたいなぁと思う被写体なのである。
「いちおう学校でもそうですね。いちおう男子なので。その……木戸さんの一人称の方が僕としてはびっくりですが」
「んー、女装してるときはあたしって一人称だけどね。というか、最近いろいろなしがらみが増えて、お嬢様キャラとかやるときは私だったりわたくしだったりするかなぁ」
「お嬢様キャラって……なんか、ルイさん七変化って感じですね」
「んー、ルイさんは七変化の一つって感じだと思うけどね」
ベースは俺ですというと、んー、違和感すごいなぁと巫女さんに言われてしまった。
ルイとして直接会った人間にはそっちの印象の方が強いかもしれない。
「巫女さん的には、イメージとして振袖のときのが強いのかな。んー、巫女さん的にはどういう格好がいいです?」
「いえ、その、ルイさんとしてくるのかなともちょっと期待していたので」
「あー、それは年明けのお愉しみだねぇ。うちの母親、女装禁止系母親ですから」
もー、別にいいじゃんねーというと、は、はぁととてもに妙な反応をされた。
ま、そりゃ、家の総意を受けて女装している子には、好きでやってる人の周りとの軋轢ってのはわからないかもしれない。
「あー、でもご要望があるなら、声変えたり眼鏡外したりはしてもいいよ?」
「えっ、それは見てみたいかも」
「他の人には内緒だよ?」
しーと、人差し指を口にあてる仕草をしながら黒縁眼鏡をはずした。
「うわ、お化粧してないのに普通に美人さんだ」
「まー、すっぴんで眼鏡外すのはちょと抵抗はあるんだけどねぇ。巫女さん的には話し相手がこっちの方がいいっていうなら、こっちにするけど」
どっちでもいいなら眼鏡かけていこうかなぁと、黒縁さんをかけると、ああああと巫女さんは残念そうな声を上げた。
そしてすちゃりとまたはずすと、ぱーっと明るくなって、またつけるとしょぼーんと肩を落としていた。なんだか反応が面白い。
「じゃあ、中間とってシルバーフレームの眼鏡つけておこうかな」
ほら去年、振袖の時につけてたやつというと、あーそれが無難かもですね、と巫女さんは言った。
誰も来ないという話だけど、案外うっかり親父さんが入ってくるとかいうこともあり得るのだ。
「そっちの姿でも十分ボーイッシュな女性に見えますね」
「声の印象が強いかもね。話し方のイントネーション問題とかもあるけども」
「僕は声って意識したことなかったから、おぉーって思っちゃいます」
むふーと巫女さんは興味津々だ。というか、こうやって聞くと少しハスキーなお姉さんって感じなのだけど、自分では声の意識はしたことがないらしい。
「でも、巫女さんあんまり声変わりしてない感じするよね。それはもともと?」
「意識して少し高めにはしてますけど、特別なにもしてないですね。っていうか時々お客さんの中にもいるんですけど、治療とかどうなの? みたいなこと言われるんですけど、そもそも次世代を残す必要があるので、そういうのはするつもりがないんですよね」
そういう木戸さんこそどうなんですか? と切り返えされて、うーんと答えておく。
「ご存じの通り声変わりはしてるからねぇ。技術でカバーかな。基本ルイさんは女子だと思われてるので治療がどうのーって話はされないってのと、あとは、女装するにしてもイベントの時だけでそんなにほいほい……やってないわけではないけど、ずーっとやってるってわけでもないからなんにも言われないかなぁ」
障害の治療をする人たちがいること自体は、いいぞもっとやれって思うけど、必要がない人はやらなくてもいいのでは? というのが木戸の意見である。というか手術とか痛そうだし、嫌なのである。
ただ、そうなるともちろん、超えてはいけない一線というのがあるので、お風呂の話だったり戸籍の話だったりで権利を主張したりはしない。
お金を稼いで、貸切風呂でひゃっはーするのである!
「そういえば去年最初にお越しいただいた時も、男装でしたしね」
「そうそう。いちおうメリハリをつけた生活をしております」
学校では平凡な男子なのですよ、というと、へぇーそうなんですかー、と不思議そうな声が巫女さんから上がった。
ここで、嘘だっと言ってこないのは優しさなのだろうか。
「巫女さんは普段はどんな感じなの?」
「いちおう、学校と協議したうえで女子制服を着てる感じです。父が歴史と文化という単語を強調して学校と交渉した結果、ですね」
「くっ、あの親父さんなら嬉々としてやりそう……」
もともとそういう素養があった上で、さらにはこの神社の婿になったのなら、特に疑問も抱かずに息子を巫女さんにしたりもすることなのだろう。
何事も前例主義な日本である。
「……なんか、うちの父がすみません。それで、高校に入ってからはちょっと遠巻きというか、微妙なところがあったんですけど、去年沢村くんと友達になってから、いろいろと交友が増えまして」
「えー、遠巻きだったの? だってじいさま世代ががん推しする信仰対象なのに」
「そこは……そうですねぇ。僕が通ってる学校の立地からお話する必要があるのですが」
せっかくだから、地図でも出しましょうか、と巫女さんがスマホを取り出して地図アプリを映し出した。
今いる場所のポインターがついていて、すすいと操作をすると学校の姿も表示されていた。
駅で三つくらいいったところだろうか。田舎ということもあるけど割と距離はあってこの町からは離れているようだ。
「昔は近くにも高校はあったみたいなんですけど、少子化の流れで合併なんかが相次いで少し離れたところに通っているんです。それでこの町の子供たちは神社のことも詳しく知ってるんですけどね……」
他の市とか町とかから来てる子たちからすると、女装してる理由っていうのを知らなかったり、知っててもピンときてない子たちもいまして、と巫女さんは言った。
「あー、まあ確かに家の事情で、みたいな感じの説明されて、なんで女装? ってなる子は多いかもね」
「そんな感じです。というか、ルイさんがそうかはわからないですけど、趣味でやってるんじゃないかー? みたいな声が結構あってそれを家の事情って説明するのはどうかみたいな感じに思う人もいるみたいなんですよね」
ほんと、中学までは女子制服が普通で、みんなもあー巫女さんだー! って感じで仲良くしてたんですけど、高校に入ったら割れてしまったというか。
巫女さんは、昔を懐かしむようにお茶を飲んで、ふぅとため息を漏らした。
「えーっと、去年、好きな相手は女の子って聞いたけど、服装自体は趣味じゃないの? いやいや着てたりとかするの?」
一応、詳しい話を聞いてない木戸は、改めて服装について疑問を投げかけてみる。
家の事情だ、ということがメインであるのならばそれはそれで結構面倒というか、かわいそうなことではないだろうか。
「幼い頃からこうですしね。慣れちゃってるっていうのが大きいです。趣味っていうか服装自体は女物を着るっていうのが日常で、普段着も結局レディースの範囲内で選ぶってのが多いですね」
まー、時々メンズのものを掛け合わせるってこともやりますけど、それは女の子もよくやることだし、ファッションの一つじゃないかなぁと、彼はあっけらかんとしていた。
「というか、木戸さんこそ、服装は小さいころからなんですか?」
詳しく話が聞きたいです、と巫女さんがキラキラした目でこちらを見つめてきた。
自慢話をしたいといってたけど、木戸のことにも興味津々のようである。
「んー、本格的にルイさんはじめたのが高校の頃からだね。でも、放課後だけだよ。学校では平凡な男子高校生をしていました。大切なことなので二度言いますよ」
うんうん。大切大切、というと別に念押しをしなくてもいいのにと、巫女さんは呆れぎみである。
いや、でも、実際問題学校でいろいろなトラブルは起こったけれど、女装したいから学校ともめるみたいなことは一切なかったはずである。これが普通でなくてなにが普通と言えるだろうか。
「ただ、うちの母親が、女装するなら家事全般もやってみせろーって、いろいろやらせるものだから、わりとそっちのスキルも身に付いたりして。家庭科の授業で大活躍とかはしたかな」
まー家事男子は最近では当たり前だから、女装するならって言い分も時代遅れじゃないかと思うんだけどというと、それなら、うちは遅れに遅れてるかもと巫女さんは苦笑を漏らした。
「あとは、女子に交じってバレンタインチョコ作りイベントに参加したりもあったし」
まー、それなりに時々、そういうのに参加したくらいだ、というと、それなりなんですねー、と巫女さんはとりあえず納得してくれた。
そう、ルイさんは今のところパートタイマーなのである。
「で、そんな空気が去年のお正月から変わったっていうのが自慢話なのかな?」
「そうなんですよ。あの写真がきっかけになって、沢村くんと仲良くなって、あともう一人話に加わった子
を含めて、クラブ活動をするようになったんです。放課後女装クラブみたいな感じで、もっとこー女装を気軽にやれるようにしようよーみたいなコンセプトですね」
それから、何人かスカウトしていって放課後にお茶を飲むクラブになりました、と彼はおいもを食べながら、表情を緩めていた。
「お茶の持ち込みはオーケーなんだ?」
「お茶は別に問題なしですよ。自販機で売ってるものを禁止にする必要もないし、それに電気ケトルなら安全ですしね。でも一応使用申請は出す必要があるんですよね。電気の兼ね合いみたいですけど」
昔、電気ケトル大量使用でブレーカーが落ちたことがあったみたいで、と巫女さんはいった。ああいう熱を変化させるものは電気使用量が多いのだ。
「それはちょっとうらやましいかなぁ。うちはケトル系はダメだったから」
ま、いうほど放課後に学校に残ることもなかったのだけど、というと、あー撮影ですか? と巫女さんは聞いてくる。でも残念ながらそうではないのだ。
「コンビニバイトをしててね。カメラ機材とか交通費とか服装代とか結構かかるので」
それで学校が終わったらコンビニにGOですというと、仕事人だーと驚かれた。いや、アルバイトしてる学生さんは珍しくないと思うけど。
「巫女さんはお小遣い制だったりするの?」
「そこらへんは神事をやってますから、ある程度のお金は自由に使わせてもらってますよ。家事手伝いみたいになるんでしょうか」
といっても一日何時間もってわけではないですし、お正月が一番の稼ぎ時ですね、と巫女さんはお正月のお仕事に思いをはせているようだった。
「あとは、僕目的での参拝客さんもいたりするので、そういうときは臨時収入になったりします。まあ、割と学校に残っていても大丈夫な生活ですね」
今のところは、そんな感じで学校生活の方に力を入れているのです、と巫女さんは言った。
中途半端ですけれども、いったんここでアップします。
いやぁ、久しぶりにやらかしてしまったー! すんません!