701.青木さんちでクリパ!1
一か月更新がされてない……だとっ。
さーせん。
「やー、楽しかったねぇ」
「久しぶりにのびのーび撮れた感じですねぇ」
「のびのび過ぎて、こっちで二人の自由人を抑えるのとか、勘弁してほしかったですけど」
ぷぅとほっぺをふくらませているさくらに、ごめんごめんとあいなさんが苦笑気味に謝っている。
たしかに、今日はちょっとばかりはしゃぎすぎてしまって、さくらにどうどうと止められる場面が多かったような気がする。
ここは、青木家。
本日は高校時代のカメラメンツで、撮影&クリパをしようよー! ということで、昼間は銀香町を回って大撮影会をしてきたところだ。
銀香での撮影は、三人カメラマンが集まれば、わいのわいのと盛り上がるのは当然のことで。
三人そろってるなんて、すげぇと町の大人には驚かれたくらいだった。
なんだか久しぶりだねぇなんて、コロッケ屋のおばちゃんにも言われたものである。
ちなみに小学生からは、るいちゃーとか、ルイ姉ー、とかぽやぽや声を掛けられる感じである。
ここにきてもう五年にもなるので、顔なじみはかなりできた結果なのだろう。
あいなさんはもっと昔から来てるとはいっても、やっぱりお仕事の方で忙しいのでここばかりというわけにもいかないし、さくらもここ2~3年は、石倉さんのほうについて回っているので、大銀杏さまのふもとの町の撮影にこれていないのだった。
頻度が多いのはやはり、ルイだけなのである。
「それでは、おじゃましまーす。ええと……青木家というと、弟くんは今日は大丈夫なので?」
さくらが微妙な顔を浮かべながら、あいなさんに問いかける。
うん。一応、おバカな青木との面識もあるし、風評もいろいろと聞いているから、さくらさんもちょっと警戒気味なのである。
「そこは、ほら、あっちもクリパやってるわけですよ。将来の嫁と一緒にね」
「クリスマス当日じゃないんですね」
「そこは舌先三寸で言いくるめました。クリスマス当日だとホテルもレストランも特別料金だよ! ってね」
「しがない学生相手に、ずいぶんですね……千歳ちゃんかわいそうに」
クリスマスだから、価値がある! って考える女の子は多いんですよ? とさくらがいうと、あー、じゃあちーちゃんは少数派だねぇとあいなさんが余裕の返しをしている。
確かに今のあの子だったらイベントに合わせてほしいというより、格安! とかそっちのほうを取るだろう。
いい雰囲気になるのは、もうちょっと後の方がむしろいいのだろうしね。
「それはどこかの誰かさんの貧乏性がうつったんじゃないかなぁとは思うんですけどね? どうです? ルイさん?」
「確かにこだわりをなくしてあげた部分はあるけど、貧乏性までは教育してあげた覚えはないよ」
むしろ青木くんが甲斐性を発揮して、イブのイルミネーションの前で、国に帰ったら結婚しようとか言えばいいじゃないか、というと、うちの弟にその甲斐性はないわー、とあいなさんが苦笑を浮かべた。
「っていうか、なにその死亡フラグ的なのは……」
「あー、ほら、ちーちゃんそろそろ手術しに海外に高飛びするから、それで無事に帰ってきたら、的な?」
二十歳になれば、戸籍も変えられるわけだし、若いうちにできちまうのも、いいのではないですか? ルイがいうと……あいなさんとさくらは、顔を見合わせて、なんかこう……ルイちゃんに言われるのはちょっとなぁと、微妙そうな顔を浮かべていた。
「海外でやるのは確定なの? 国内でもやってるとはいうけどさ」
「最近、あんまり詳しい話は聞いてないけど……んー、安全性と実績だと海外なのかなぁ。FTMとMTFで話は違ってくるっていうし」
正直、最近あんまりそっち方面の知識を集めていないのです、というと、あいなさんにルイちゃんは必要なものじゃないもんね、とさらりと言われた。
実際その通りで、ここのところは、苦手な動物さんと仲良くなる方法とかを模索している最中なのである。
「ただ、ちーちゃんの場合は長いこと国内で診察とか受けてる絡みもあるから、国内のつてもあるんだろうけど……処置件数とか考えると海外の方がいいのかなぁとか、いろいろ考えるところかな」
「おぉ、自分で受けるわけじゃないのに、ずいぶんと悩むじゃないの」
「情報が古いからこそもんもんとするというか。100%成功するもんでもないから、失敗リスクを減らすにはどうすればいいのかなぁと心配するわけですよ」
ずーっと毎日おりものが続くとか、やばすぎるーというと、ああー、そういうのもありなのかーとあいなさんたちは心配そうな表情を浮かべた。
日常ではあまり話題にはならないし、そもそも医療から遠い世代の人間としては手術が失敗する可能性なんてものは考えないものである。
「まあ本人としてはいろいろ考えてるだろうから、そこは信じて待ってあげようかなと」
それよりは今は目先のことですよー! と、居間のテーブルにばーんと、ピザとチキンを並べつつ言った。
クリスマス当日だったら鳥の丸焼きなんかも売っていたかもしれないけど、これはこれでおいしそうである。
さて。さきほどからちらちら匂わせているけれど、本日はクリスマス当日からさかのぼること一週間前である。
なんで、こんな時期? というのは、クリスマスはおのおの予定が入っているからで、それこそイベントの撮影に駆り出されているから、のんびりしていられないのだ。え? 木戸さんだけはコンビニでケーキ売ってる予定ですけどね。ミニスカサンタで。
「でも、あんたが料理しないって割と珍しいわよね」
「時間があればむしろ、丸ごと鳥さんをオーブンで焼いたりできたけど……ほら、やっぱり撮影優先でしょ?」
エレナのとこだったら、わいわい言いながら一緒に作ってたかもだけど、とルイは苦笑を浮かべる。
このメンバーが集まってしまったら、家事関連よりも撮影の方が優先になるなんてのは当たり前のことだ。
「なので、サラダくらいは作らせてもらいますよ。あ、さくらも手伝ってくれる?」
「りょうかーい。あいな先輩は座っててくださいね」
「あのさくらが、キッチンに進んで立ってくれるとは、成長したものです」
とてもありがたい! と野菜を取り出しながら言うと、私だってやるときにはやりますよー! とさくらがぶつくさ文句を言った。
それでも野菜をカットしてくれるのはありがたい。
そしてルイはといえば、お皿を取り出すことにする。
前にもお世話になったことがあるので、キッチンはなにがどこにあるのかは把握済み。
自由に使っていいといわれているので、そこはお借りすることにする。
お箸だけは割りばしを購入済みである。
「ドレッシングはどうするの?」
「そこは市販のものを使わせてもらおうかと」
好みの問題もあるし、そこは冷蔵庫の中のものを使わせていただきます、というと、珍しいといわれてしまった。
そうはいっても、せっかくのカメラマン同士のクリスマスパーティーである。
少しでも長く語らうためには、ある程度既製品を使うことも大切である。
「では、お待たせしました」
「お待たせされましたー! そしてすでに始めておりますー」
んー、お酒がうまい! とあいなさんはにこやかに酎ハイを掲げた。
これも帰り際に買ってきたもので、お酒はわりとしっかりと準備をしている。
あいなさんがお酒だい好きで、いつも酔いつぶれるまでは飲むからである。
それに比べて若者二人は深酒はしないので、介抱要員という部分もあったりする。
「やっぱり、待てませんでしたかー」
「家に帰ったらまずいっぱい! ってね。弟にもよく飲みすぎって言われるんだけど、ぽへーってなれる瞬間はやっぱりサイコーだよー!」
わーいと、あいなさんはご満足そうに酎ハイの缶を傾ける。
本当においしそうにお酒を飲む人である。
「では、改めまして乾杯でもしましょうか」
「それじゃ、二人ともお酒準備をどうぞー!」
というわけで、あいなさんに進められて各自お酒も準備である。
さくらはいちご味の軽めのチューハイで、ルイさんはオーソドックスにレモンサワーを選ぶことにした。
チキンを食べるのならばやはりレモンである。といっても、から揚げにレモンをかけるかどうか問題もあるし、ドリンクでそれを補おうという感じなのだった。
「それでは、よい撮影会に乾杯!」
「乾杯っ。て、そこはクリスマスにじゃないんですね」
「そこはほらー、昼間楽しかったからそっちがいいかなぁって」
クリスマスにロマンチックな空気を出したりとか、キリストさんの誕生日に乾杯するのも、ちょっと違うじゃない? とあいなさんは笑いながら言った。
確かにこのメンバーだったらそちらのほうが正しいようにも思う。
「でも、二人ともずいぶんと上手くなったよねー。最初会った頃はこんなに小さかったというのにー」
「小さいって、さすがにそれは言い過ぎじゃないですか?」
「なんか、それこそ小学生のころに出会ってるような感じになっちゃいますよね」
そのころからわーいって遊べてたらそれはそれで楽しかったかもしれないですが、というと、んー、まー、とあいなさんには濁された。
「学生時代から始めるってので、悪くないと思うかなぁ。小さい子がカメラ持ってるのもかわいいとは思うけど、自分の子供にいつからカメラ持たせたいかーとか、そういう話にもなってくるし」
まー、子供ができるかどうかは、とりあえず横に置いておいてね、とあいなさんが苦笑を浮かべる。
「あたしだったら中学にあがったらコンデジとかは持たせてもいいかなぁって思いますよ。とりあえずなんでも撮るみたいな感じで」
「くぅっ、中学の頃……かぁ。コンデジ一回持ち出したっきりだったんだよなぁ」
木戸家は基本的に、じいちゃんのせいでカメラの扱いはかなりの低レベルである。
家に古いコンデジが一台あるのみというのは、なかなかに珍しい家ではないだろうか。
いや、スマホがあるじゃんっていうのは、今だから言える話で、当時はガラケーだったわけである。
「あー、中学の頃って、一回家のコンデジで撮りにいっただけだったんだっけ? ルイなのに珍しいなっていうか、あの頃はルイじゃなかったのか」
「いろいろと模索をしたうえで高校デビューだったしね。でも、そういうの気にしなければ早いころからやりたかったです」
くぅ、うちがカメラOKな家庭だったらよかったのにー! というと、あーとあいなさんはため息をもらした。
「環境と希望が合わないってことは多々あるのかもねぇ。でも木戸先生がおじいさまってのはすごいと思うけど」
「木戸先生?」
ん? とさくらがアンチョビピザを食べながら首をかしげる。
チーズがとろーんとお皿の上に落ちた。
「あれ、さくらには言ってなかったっけ? うちのじいさま写真家だったみたいで、佐伯さんとかとも懇意でね。それで時々父方の実家のほうにお正月の挨拶しにいったりとかしてるくらいに交流があったっていう」
石倉さんもだそうだよ、というと、さくらが、え? えええ? といいつつ。
「くぅ、ブラッドには勝てぬというのか……」
ぐぬぬ、とさくらはピザを持ってない方の手を握りしめていた。
「あー、遺伝はさすがにないんじゃないかな? 環境の方が大切だと思うよ?」
「そうそう。しっかりした撮影環境と仲間と、あとは良い師匠ってね」
さくらだって今とても恵まれた環境にいるじゃん? というと、それはそうだけどー、と不服そうな声を漏らした。
「そういえば、さくらはあのバカ兄弟子と一緒に活動してて、最近どう?」
「石倉さんとはまあそれなりにうまくやってますよ。弟子としてって感じが強いですが」
ほんと、付き合ってはいるけど恋人って感じではないですからねーとさくらが明るく言った。
まあ、さくらも恋愛についてはあんまりこだわらないタイプみたいだし、撮影の方が優先なのだろう。
「そんなこと言って、甘い夜を過ごしてたりするんじゃないの?」
どうなの? ととりあえずサラダを食べながらあおると、ほー朴念仁のルイさんがなにか言ってんなーとげんなりした顔を浮かべられてしまった。
そりゃ朴念仁ですけれども。でも他人の恋愛についてはそれなりに思うところはあるものである。
「今でも石倉さんは自分のオフィスに飾られた男性写真群を見て、いいなぁやっぱりとか言ってますよ」
「あー、あれねー。いい写真だよね」
「それは認めますけど、むぅー」
「っていうか、あっちの事務所ってかなり男所帯だと思うけど、そこらへんは平気なの?」
最近あんまりお話しできてなかったけど、大丈夫? とあいなさんが心配そうに尋ねる。たしかにあっちの事務所はさくらが紅一点という感じだ。
「全然平気ですよー。みんな撮影できればいいやぁって感じなので。っていうか紅一点ってことだとあいな先輩だって似たようなものだと思いますけど」
佐伯さんのところも奥さんがいたとしても写真家はあいなさんだけじゃないです? とさくらが言った。
一瞬、あいなさんがぱちくりとまばたきをする。
「あ、あー。うん。でもほら今はルイちゃんもいるしさ。いちおう女性として活動、活動、あれ、性別の登録とか基本しないような」
名刺に性別いれないし、見た目だけの問題では、とあいなさんが言う。
「佐伯さんのところからはゼフィロスでバレたら自己責任ねとは言われてますけど」
一般的には女性カメラマンって思われてますよねーとルイは気軽に言った。そこらへんもう気にしませんという感じだ。
「いいなぁーゼフィロスのお仕事ー」
むぅーとさくらがあいなさんに視線を向ける。なんであの時誘ってくれなかったんですかーと言わんばかりである。
「で、でもさくらもほら、最近お仕事もしてるんでしょう?」
ただ教育だけするなんてことはないだろうし、とあいなさんは話をそらす。
少し後ろめたさはあるらしい。
「そりゃまー、助手として機材の管理とかいろいろやってますし、撮影を任されることもありますけど」
むぅーと言いながら、さくらはチューハイに口を着けた。
お仕事できてるのはいいことだという思いがあるのだろう。
「はいはい、さくらも拗ねないの。それよりほら、サラダのおかわりはどうだい?」
ほら草をお食べというと、さくらは、はぁーマイペース天才おつ、とため息を漏らしながら言ったのだった。
さぁ心機一転、ということで今回は青木家でのクリパです。
やっぱりわいわいと女子会やるのは楽しいですね。
あいなさん最近ご無沙汰だったので、一緒にお酒のんで楽しめてよかったかなと思います。
そしてー、次話はお酒が進んで、思出話に入って参ります。
いつ書きあがるかはー、作者のメンタル次第ですー!