696.保育園での撮影2
おまたせしました。
やっと、書けそうな感じになりました……
斉藤さんとの約束のため、以前にも訪れたことのある保育園へと向かっている。
あの保育園は斉藤さんも言っていたとおり、寺からの派生でできたもので、お隣にはお堂が建っていたりする。
前回伺ったときは、そのお堂の方も撮らせていただいたのだけど、あちらが本題ですよと叱られた経緯があったりする。
なので、今回は残念ながらそちらはスルーだ。
ルイと同じような行動を取ってしまうと、それはそれでいろいろとうさん臭がられる可能性もあるわけで。
メンタルは変えず、行動を変えろ! 自分をだませ、世界をだませ! というような感じなのだった。
いや、メンタルを変えるのはなかなかに難しいものなのだ。
カメラは今日は本番ではないので、安いカメラを持参することにした。
というのも、園児が壊してしまうといけないから、という理由なのだけど。
それでも、チョイスが使い捨てカメラなのは斉藤さんにこれを使うように言われているからだ。
いつものカメラだったら、万が一がーというのは表向きで、おそらく枚数制限があるこっちを使わせたいのだろうと思う。
つまりは、ばしばし園児を撮りすぎるな! ということである。
本番ではばんばん撮るつもりなのだけど、その姿は変態的に映るものなのだろうか。
「ああ、木戸くんいらっしゃい。……あいかわらずそっちの格好だとこう……」
「良い感じに無個性だと思っております」
どや、と斉藤さんの前に立つと、それでいいなら、まぁ……と彼女に苦笑を浮べられた。
そういえば、斉藤さんとこうやって会うのもずいぶんと久しぶりなのではないだろうか。
というか、この前は女子会だったし、その前は一年のときにお風呂でお世話になったくらいである。
志鶴先輩と一緒の時もあったっけ。あのときは彼女ですーって言われて正直驚いたものだった。
「それで? 今日はお試しというか、人となりを知る面接みたいな感じという話だったけど」
「あー。うんうん。園児と上手くやれるかどうかっていうのと、変な人じゃないかどうかの確認」
あ、変っていうのは木戸くんみたいな変な人じゃなくて、危険人物かどうかっていう意味合いでの変だからね、と斉藤さんからフォローが入る。
というか、人を捕まえて面と向かって変な人というのはいかがなものだろうか?
「たしかに小さい子を危険人物に近寄らせるべきでは無いよね。かわいいね、あめちゃんあげるーとかで連れ去ったりとか」
「……木戸くんはそれ、ついてったことありそうな雰囲気がするよね」
良い写真とらせてあげるから、おいでーとかさ、と斉藤さんに言われたけどさすがにそんなことはない。一応これでもやってはいけないことはよくわかっているつもりだ。
「それはそうと、今回はさすがに大丈夫だよね?」
スカートじゃないから大丈夫だと思いたいというと、斉藤さんは苦笑ぎみに答えてくれた。
「ん? ああ、ハオくんはもう卒園しちゃったし」
それにパンツスタイルで脱がすのはちょっと難しいんじゃないかなと彼女は言った。
たしかにスカートじゃないとめくれないものである。
「もし万が一があったらくまさんパンツなんです?」
ほれほれハイエンシェントフェアリーさんよと斉藤さんが悪のりしてくるので、知りませーんと答えておいた。
さすがに成人男子がくまさんパンツをはいているのは、ちょっとあれである。
さて、そんなじゃれ合いをしつつ、保育園の中にお邪魔することにする。
いつもならここらへんで、撮影をということでシャッターをきっていてもおかしくは無いのだけど、残念ながら枚数制限があるのでここは我慢である。
くっ、これがフィルムカメラ時代の感覚というやつなのか。ばんばん撮りたいけど貧乏性のせいで一枚ずつがとても貴重に思えてくる。
「ええとー、職員室的なところに向かう感じ?」
「そうね。職員室的なところで、軽い面接。願うことならいつもの写真馬鹿っぷりを少し押さえていただけるとありがたい」
「えー、そのためのこのカメラでしょ? それにちゃんと被写体を見て、良い雰囲気にするのも大切なことだから、園児さんたちとは良好な関係を築きたいと思ってるよ」
そういう感じで行った方がいいってのは、なんとなくわかるし、と苦笑を浮べると、斉藤さんはふむと軽くため息を漏らした。
「それならもうちょっと見た目なんとかすればいいんじゃないの? 例のイケメンモードだったら、先生達みなさん、一目見ただけでOKだしそうだけど」
「うぐっ。そこはちゃんと見極めた方がいいと思うけど。あれ、記者をかわすための苦肉の策だったし、それに俺としてはやっぱり俺自身が目立つのは本意ではないんだよ」
「あれだけやらかしてるくせに?」
「あれだけやらかしてるから、だよ」
はぁと木戸は、ルイのことを思い出しながら悩ましいため息を漏らした。
ルイという存在は、木戸としてはとても複雑だ。普段はろくに考えはしないで、わーいとやっているけれども、それでもやはり撮影より見た目という感じになってしまっているところが気になっている。
かといってやめたいか、といわれたら、女装は女装でたのしーのでそれもまたちょっとという感じなのである。それにやはり、あちらのほうが圧倒的に写真としてもいいものが撮れてしまうのだ。
見た目も武器にはできるということである。
では、男子の時にイケメンモードをやるかといわれると。
正直、あんまり興味がない。というか、ショタ枠扱いされるから嫌なのである。
この歳で童顔の高校生扱いというのはなんとも、複雑なのだ。
まあ、お肌がつるつるでぷにぷにだから、というのも関係はしているのだろうが。
「そういうことなら、先生がたの信頼を行動で勝ち取ってもらうしかないね」
さぁ営業の練習だよと斉藤さんは苦笑気味に言った。
見た目を武器にしないというのならば、あとは行動でなんとかするしかない。
基本的に身だしなみというものは、ざっくり三段階なのだと木戸は思っている。
優、可、不可である。
いわゆるイケメンモードみたいなのが優。見た目で得ができる感じ。可は、清潔感があって悪くない、いわゆる普通というやつである。不可は、清潔感がなく相手に悪印象を与える感じだ。
不可でなければ、初対面でのイメージがマイナスになることはあまりない。そしてそこでなければ門前払いは食らわないと思いたいものである。
イケメンと美女に限る、という世の中は悲しい。
ふぅと息を整えてから職員室のドアをノックする。
「失礼します、撮影の依頼を受けました木戸と申します。入ってもよろしいでしょうか?」
そして、ドアの前でそう問いかける。
部屋はそんなに広くないというからここからでも充分声は届くだろう。
普段よりもより丁寧な配慮をしている木戸に、斉藤さんはへぇと驚いた表情を浮べていた。
さきほど斉藤さんが言ったように、これは営業である。
となると、可の見た目の自分としてはそれが不可にならないように行動しなければならないわけで。
礼を尽くすというのはとても大切なことなのだ。
「どうぞ、入ってください」
「失礼します」
壁の向こうからの声に反応して中にはいる。
部屋に中には、女性の先生九人と、男性の先生三人の姿があった。
ここに斉藤さんがヘルプに入って運営しているという感じなのだろう。
その中の一人、少し年かさの女性がこちらに笑顔を向けて対応してくれた。
「あら、千鶴ちゃんの知り合いっていうから……いえ。今日はよく来てくださいました。撮影の依頼うけていただけてありがとう」
「いえ、若輩の身としてはこういうチャンスは捕まえてそのままずるずるお得意様を作ってくべきなので」
まずは、お知り合いになるところからです、というと、若いのにしっかりしてるのねぇと言われてしまった。
ふむ。もしかして結構年下に見られているだろうか。
「こちら、木戸馨くんです。私の高校の頃の同級生です」
「改めまして、木戸です。今回はご依頼ありがとうございます」
斉藤さんから紹介されると男性の先生が、まじかーと驚きの声をもらした。やはりもっとわかく見えていたらしい。これでも成人しているの、である。
「それで、今日は面接のようなものとお伺いしてましたが、なにをすればいいんでしょうか?」
「そうね。中には人見知りする子もいるし、今日はそれぞれのクラスの子たちと遊んで行って欲しいの」
「遊ぶ、ですか? なんか中学の保健の授業でそういうのやったような気もしますけど」
あのときは、何で遊ぶかとかいろいろ班で計画を立ててやったっけなぁと、少し遠い目になってしまった。ちょっとアレな中学生だった木戸氏は若干周りから浮いていたのである。
「学校の実習ほど厳密にやらなくても大丈夫よ。ただちょっと顔見せをしておきたいだけだから」
みんなに紹介して怖がられないようにしてもらうのが目的と彼女は言った。
「ああ、あと誕生日会をやるのは四歳以上の子だから、三クラスだけね」
「ずいぶんと少ないですね。教室の数からするともうちょっとあるのかなと思ってましたけど」
「うちは、誕生月で四月から九月生まれで一クラス、十月から三月までで一クラスに分けてるの。だから一二月に誕生日になる子は三クラスだけってわけね」
「へぇ、そういう分け方なんですね」
「小さい頃の一歳差はかなり大きいからね。でも、性格の違いなんかで分けたりすることもあるんだけど、今年は素直に基本の分け方ですんなりいったの」
あとは、先生たちのフォローに期待と、彼女はちらりと周りを見ながら言った。
ああ、園長先生なのかなという感じの対応である。
「あと確認なんですけど、撮影はこのカメラでそれぞれお子さんたちを撮るくらいはしていいんですかね?」
「そうね。27枚撮れるんだったかしら。ならなるべくそれぞれのクラスに均等になるように撮ってもらえれば」
「木戸くん、最初のクラスで全部を使い切るとかやっちゃだめだからね?」
本当にそれが心配と斉藤さんがからかってくる。くっ、いつもの行動が随分と印象づけられてしまっているようだ。
でも、今までの木戸ではないのである。
結婚式でのデータ制限などを受けたおかげで、ある程度撮りたいものを決めて撮るようなこともできるようになったのだ。
ひたすらにシャッターを切るだけの男ではないのである。
え、男じゃないんじゃないかって? それは知りません。
「まあ、そこは見て驚くといいよ」
ふふっと意味深な笑みを浮かべると、まぁ頼もしいじゃないと園長先生から花丸をもらった。
そう。今日のミッションは実は二つあるのである。
一つは木戸の人間性。子供への顔合わせ。
そしてもう一つは、木戸の写真の腕というものだ。
これがへなちょこだったら、わざわざ専門の人にたのまないで、職員のみなさんで撮ってしまえばいいという結論になる。
でも、それはちょっとカメラマンとしては悲しいところなので。
クリスマスと被る月の誕生日の子には、ぜひとも楽しんでいただくためにも、いい写真をしっかりと撮りたいものだ。
「じゃあ、そんなに長い時間じゃなくていいから、お願いね。それと担当の先生方も、フォローしてやって」
周りにそう告げると、はーいと明るい返事が返ってきた。
イベントごとだという認識なのか、みなさん楽しそうにしているようだ。
こうして、木戸さんの保育園撮影、採用試験は始まったのだった。
撮影まで行こうかなと思ったのですが、あんがい園長先生との話が長めに。
とりあえず、第一印象はクリアした木戸くんです。成人には見えませんけどね!
おつぎは、おちびたちとわーいな感じ&帰り道な予定です。
あくまでも千鶴さんたちメインのお話なので……