693.エレナさんちのキャンパス祭8
なかなかまとまらず、今日は結構長いですよ!
「これで、二人きりになれましたね」
ふふふっ。
そんな声が隣から聞えた。
「はぁ。そういう悪乗りはエレナの影響なのかねぇ、やっぱり」
凜ちゃん。と声をかけると、凜ちゃんはニコニコしながら、後ろに手を組んで胸をちょっとアピールしながら待機していた。
さぁさぁ、リードしてください、と言わんばかりの、見事な「型」である。
「さすがはエレナの後輩とは思うけど、君は男の娘フェチなわけでもないでしょうに」
「んー、そこはそですね。エレナ先輩みたいに男の娘イズベスト! ってしがらみはないので、逆にそういのが無ければ、可愛さの限界は無限大じゃないです?」
むしろ、ルイ先輩はそこらへんわかってやってるんだと思ったのですけど、と凜ちゃんが首を傾げる。
先ほどまで、気の良い後輩をしていた割に、ちょっと含みの有る言い方をし始めていた。
「いや。確かに純粋に可愛いなってところを考えるのなら、女の子も参考にした方がいいと思うし、そういう撮られ方もして欲しいとは思うけどね」
エレナなら似合う服装一杯あるし、男の娘にこだわらなくても、すっごく可愛くいけるとは思うけど、というと、凜ちゃんはあー、うー、んー。と悩ましげに首を傾げた。
「半分正解というか……これが天然物の恐ろしさというやつですね」
エレナ先輩が、あーあれはねーっていう気持ちがわかります、となぜか凜ちゃんに拳を握られてしまった。
いまいちルイとしては何を言ってるのかよくわからない。
「天然とはよく言われるけど、天然物ってのはどうなんだろう?」
あたしの場合はただ単に、撮影のためにこういう手段をとった結果……あぁ、とそこでルイは閃いた。
「なるほど、自然の結果でそうなってるから、天然物ってことか」
確かに、男の娘になろうとして努力したりってのはしてないしなぁというと、凜ちゃんはそういうところで自然になれちゃうのが、恐ろしいところですと苦笑を浮べた。
「まぁ、あたしの場合そもそも自然写真の方が好きっていうのはあるから、正直なるようにしかーって感じかな」
ある程度情報誌とか見て、気に入ったら真似はするけど、人気だからマネするわけではないしなぁ、というと、そういうところが羨ましい限りですと言われてしまった。
んー、なにからなにまで流行に乗らなくてもいいとは思うのだけど、そうでもないのだろうか。
「最近は量産型女子っていう単語もあるくらいですからね。ファッションリーダーとそれを囲む子達。自分の感覚だけでなんでもできちゃうって人はそんなに多くないと思うんですよ」
「そういう意味では、今日のファッションショーとかやっちゃう人達は自分の感覚を頼りにしてるわけだから、楽しみにしていいんじゃない?」
しかし量産型か……赤の衣装だったら三倍の性能になるんだろうか、なんていうと、ほんとルイ先輩ってオタク知識も豊富ですよね、と言われてしまった。
そうはいってもほら、イベント行ってて話を聞いてると自然とアニメとかのキャラや設定なんかは詳しくなってきてしまうものでして。粘着撮影なんかをやってると特にそういうのには詳しくなっていってしまうものなのだ。
「ま、憧れてるモノに近づきたいってのはあたしもあるにはあるけど……なぁ、でも今の小梅田さんは……なぁ。息子さんのことでめっちゃからかってくるしなぁ……」
撮る写真は尊敬はしてるけど、どうして本人はああなんだろうと、ルイは遠い目をした。
というか、じいちゃんもだけど、写真家としてすごくてもどこか個性的な人ばかりだなと思い知るルイである。
もちろん、自分もその中にカウントされるであろうことは、気づくわけもない。
「あっ、なんか暗くなってきましたね」
暗幕がしゃっと、窓を閉じていく。人力ではなくてリモコン操作一つで自動で暗幕も開閉ができるシステムらしい。スマートカーテンといわれるものだろうか。
「そろそろ始まるかな。それじゃ、ちょっとカメラの設定を確認しよう」
「最前列じゃなくていいんですか? みんなきゃーきゃー前の方にあつまってますけど」
「あっちで撮影もありだと思うんだけど……うーん、ランウェイってちょっと高くなってるじゃない? あそこで撮ると、思いっきりローアングルになっちゃうから」
これが、普通のファッションショーならそういうのもありかもしれないのだけど、イケメン女装ファッションショーなのである。
女装を撮るときはローアングルはなるべくなら避けたいところなのだ。
「あと、ストロボは使わないでやるつもりだしね。ある意味実験ってのもあるかな。この程度の距離でこの照明でどれくらい撮れるのかってね」
「禁止ではないんですよね?」
「多分、最前列の子達はスマホでばんばん光らせてくると思うんだけど、こういう会場だと禁止なところもあるっていうし」
さっき、調べた感じでは、と苦笑気味に言うと、ほんとに初めてなんですねと凜ちゃんにいわれた。
せっかくの機会だし、今後こういうような場所での撮影を任される時に参考になりそうな経験は積んでおきたいのである。
「それで、失敗しちゃっても大丈夫なんです?」
「まあ、依頼じゃないからねぇ。練習というか、試しに自分が着たことないような服きてみて、あー似合わないーってなることと同じ感じかな」
そこから着こなしとか、合せ方とか工夫していって、本番に備えるものでしょう? というと、凜ちゃんはあーそういうことならわかります、と理解してくれたようだった。
たしかに、プライベートだって失敗しないにこしたことはないけれど、プライベートだからこそいくらでも冒険ができるという部分もあるのだ。
「そういうところは勉強熱心ですよね」
「食い扶持でもあるし、それにほら、こういうことはやってて楽しいから」
さぁ、イベントが始まるみたいだよ、とステージに照明が集まるのを見て凜ちゃんに声をかける。
今回のイベントは、ランウェイとステージ、両方ともが舞台と言えるので、正直位置取りには結構なやまされた。ランウェイの一番前のところを基準に考えると、ステージが遠くなるし、ステージ基準で考えると、ランウェイの一番前でポージングするときに背後から撮ることになる。
背後は背後で、それもいい! という意見はあるだろうけれども、モデルさんのどやぁっという顔を撮りたいという思いもあるのだ。
よーじ君だとそこまで表情作って無くて、もじもじさんかもしれないけれども!
そんなことを考えていると、まずは司会の二人がイベントにご来場していただいたことに感謝を伝えて、一人目がスタートした。
今回のファッションショーは女装イケメンがテーマになっているものだ。
ただ、そのコンセプトはざっくりとしたもので、デザイナーさんとモデルでイケメンを女装させるのが原則なのだとか。
市販品を直したりでもOKだし、被服科の生徒さんだったりすると自作していたりもするのだそうだ。
「おぉ……一人目からかっこいいですね」
すらっとしててすごいと凜ちゃんは出演者が歩くのを見て、ちょっと興奮気味だ。
そしてルイもそれを見てシャッターを切っていく。
スポットライトの光をどれくらい拾ってくれるかなと思いながら、それでも躍動感というものが出せるように狙っていく。
そして、ポージングのところはもちろん押さえることに成功した。
一人目は全体的に光沢のあるレザー生地で作られた、スカート姿の男性だった。
男性用スカートというとこんな感じ! というようなイメージなのだろうか。スカート単体ではなく黒いパンツの上に合せる感じなので、かっこいい感じに仕上がっている。
上半身の方はあまり肩幅が大きく見えないようになのか、すっきりしたジャケットを羽織っていた。
「女装といわれると、どうなんだろう? とは思いますけど」
町中に居ても違和感はなさそうかも、と凜ちゃんが言った。
彼女が言っているのは、違和感というか、女装している人を二度見するようなことという意味なのだろう。
確かに、ちょっと路線が違うので、いわゆる女装に向けられる視線とは変わるかもしれない。
「デザイナーさんがコンセプト話してるね。ファッショナブルなスカートというのを目指してるらしいけど……スカートを男物にしたっていう感じな気がするかなぁ」
女を装ってるわけではないような気がするというと、あー、それはわかりますと凜ちゃんが苦笑気味に言った。
まあ、主体はイケメンであるショーなので、その点は深く突っ込んではいけないところなのだろう。
「二人目……ああ、これは割と……」
会場が少しだけざわっとした。
まあ、それもそのはず。二人目のおねいさんは、めちゃくちゃ高いヒールを履いて登場していたからだった。
「身長高めの人にさらにヒールでかさ増しすると、足がすっごく長く見えるねぇ」
うーん、インパクトあるなぁとほのぼの言ってると、凜ちゃんに服の袖をちょいちょいと引っ張られた。
そうじゃないです、と言わんばかりだ。
「ドラァグクイーン系メイクも、イケメン女装としてはありなんじゃない? 芸術品としての面白さっていうか、もう自分の体をキャンバスにしちゃおうぜくらいな勢いでメイクするのは、女形に通じるモノもあるように思うし」
「アイシャドウってあんなに広く塗ってもいいものなんですねー」
「こちらはさっきのと逆で、女装の成分をより強くした感じかな。ボディーラインも女性的になるように服ができてるみたいだし」
胸から腰までのライン、かなり女性的に見えるように作ってるし、多分お尻あたりにも詰め物してると思う、というと、デザイナーさんが、思い切り同じ事を解説していた。
男性×つめもの=大きくなっちゃうのを回避するためにヒールを高くして身長も大きくしちゃえば、バランスとれるんじゃないの? というようなコンセプトらしい。
前にルイが、木村をクマ女装させたときに使った錯覚のテクニックである。
そんな風にしながら、次から次へと女装のイケメンが歩いて行く。
かっこいい系にまとめてるのが多いので、ランウェイを囲む女の子達からはきゃーきゃーと黄色い声が上がっていた。
「あ、次、よーじ先輩ですね。果たしてどんな衣装なんでしょうか」
「あー、うん。予定の衣装だったら多分……」
「って、先輩衣装知ってるんですか!?」
え、なんで? と凜ちゃんから声があがったものの、それは先ほどの前半と後半の間の小休止でサイトをチェックしたのでと答えておく。
さっきのスタッフさんとのやりとりでは、質問はすでに打ち切りという話が出ていた。
となると、イベントの情報はすでにネットに上がっていると思って検索をしてみたのだ。
そこで載っていたのは、モデルになる男性の普段の写真と、それとは別に衣装だけが写されたものがあったのだ。
当日はそれらが一体化した姿を見せます! という意味合いでも宣伝効果はあるだろうし、そこまで情報を出しておけば、質問を集めるのにも問題はなかったのだろう。
「ルイ先輩が情報端末を使いこなしているのに違和感が……」
「って、確かにガラケー派ではあるけどタブレットは使ってるよ? ああ、メールでやりとりしてるからって事?」
「そですそです。なんかメールで連絡をするのってガラケーしか使えないちょっと昔の人なイメージで」
「……ビジネスだと今でもメールだよ? まあ、飲食店とかの予約はスマホのアプリだったりはあるんだろうけど」
そこまでなんか、古風な感じに思わなくても、と言うと、んー? と凜ちゃんに首を傾げられてしまった。
機械音痴とか思われてるんだろうか。
「ま、そんなわけで、あたしはよーじ君の服装は知ってるけど……どうやって見せてくるかまでは知らないから」
そこらへんは楽しみにしているところです、といったところでよーじ君の番が来た。
会場が暗く静まり、そして、そのあとぱっとスポットライトが当たると、よーじ君がステージのところに浮かぶようにして現れた。
まるで誰も居ないところから浮かび上がったように見えるのは、今までそこが暗がりだったからだ。
「わっ……和装ですか?」
「ん。そゆこと。肌はあまり出さないって言ってたのはこういうことだね」
まー、洋服で黒タイツはいちゃうのもすね毛対策のデフォルトではあるけどさ、というと、凜ちゃんが凜々しくて素敵! ときゃーきゃー言っていた。
男子校で、アレだけ女装しまくっている姫が今更、和服女装についてこんなにテンションが上がるのか? と不思議には思うのだけど。そこはどうにもエレナさんたちで他の生徒が満足しちゃってて、後追いで女装イベントを立てることがあの学校には無かったらしいのが理由なのだとか。
某かおたんの跡地にはそれなりに後継者がいるわけなのだけど、なかなかに、男子校で後追いは難しいらしい。
いや、男子校だから、後追い率高くもなりそうなものだけど。
「なんだか、服がふりふり動いて……洋服よりも妖艶ですね」
「そなんだよねぇ。その分ブレないか、めっちゃ怖い」
ふりふり怖い! 動くなこのやろうといいながらシャッターを押していく。
だって、ポージングしても慣性が働いて服は揺れるのです。その揺れ、どうやってこの暗がりでブレずに撮れというのでしょうか。
「でも、よーじ先輩、すごくほっそりして見えます。ちらっと覗く足とか妖艶で……」
「ぐぬっ、そのちらっが撮りたいのだよう! くそう。ここっ、いや、ここかっ!?」
ああぁ、男の人だからこその雑な歩き方と、ちらりちらりと見えるモノがーーー! と言いながら、ルイはシャッターを押し続けていた。
いや、和服着慣れてない女性モデルさんに着てもらってもそんな歩き方になるかもしれないのだけども!
「た、たのむ! よーじ君! そこでポージングあと数秒まって! 動くな! きめろぉぉー! こっちに視線を向けて、動くなぁーーー!」
「って、よーじ先輩、めちゃびくってしてますよ! あんまり脅しちゃダメですよ」
「……なぁああー帰って行くー、被写体が帰って行くぅーー」
くぅ、よーじ君、ステージではあんまり体振らないで止まってくれ! と思いつつ、漏れてますよと凜ちゃんに言われた。うぐぐ。
「あー、無事にウォーキング終わりましたね。よーじ先輩、急遽やったにしてはおきれいでした」
良い物を見せてもらったと凜ちゃんは大満足の様子だ。
まあ、ルイとてその気持ちは同じなのだけど。
こうして、よーじ君の女装デビューは本日のエレナさんと同じく和服で無事に終わりを迎えたのだった。
「それで? 私だけ呼び出してなにかご予定でも?」
二人きりで、星を見ないかい? なんてうさんくさい台詞を言われても、本当にうさんくささしかありませんと凜ちゃんにいわれると、ルイは、あーうー、えーと、と頬をかいた。
後夜祭は六時から。明かりがついたり、花火が上がったりとわりと夜を彩るイベントが目白押しな時間だ。
学外の人が残ってはいけないというルールもないのだけど、どちらかというと学内向けのイベントになるので、昼間に来ていたお客さん達はすでにご帰宅という感じらしい。
というか、もともとの約束でもちょっと出し物の人達に挨拶をしたら、エレナのお屋敷に移動しようかなんていう話になっていた。
夕飯はもちろんセカンドキッチンで、せっかくのお祭りだから、普段よりもちょっとはじけた感じにしたいよね、なんていうことも話し合い済みだ。なので、多少遅くなってしまってもそんなに問題にはならない。
おうちでご飯が用意されてるってなると、早く帰らなきゃって気にはなるんだけど、そういうのがなければ……うん。たぶん、大丈夫だと思います。ちょっと、エレナパパさんの笑顔が浮かびました。
「よーじ君からのお願いで、できれば二人きりにして欲しいなんて言われてたからね。それで二人きりにしつつこちらはこちらで、こそっとちらみをしようかなと思って」
それで、良い感じな場所かなと、この渡り廊下を選んだわけですよ、とルイは胸を張った。
校舎と校舎をつなぐ渡り廊下は、最上階の部分は特に屋根がついているわけでもなく、そこからちょうど二人の待ち合わせの場所がのぞけるようになっている。
のぞけると言っても、肉眼では無理で双眼鏡やら望遠レンズならば、といった感じだ。
「ちらみって……校舎の屋上からですか? はっ、まさかルイ先輩……犯人はこの人ですっ」
「ちょ、人を盗撮魔みたいに言わないですよー! いちおうよーじ君公認だし、他の人は撮りませんから!」
……まぁ、祭の雰囲気で良い感じなところは風景写真として撮るつもりですが、というと、やっぱり犯人じゃないですかと言われてしまった。ううぅ。
「本人からも許可もらってるしね。二人にする代わり、そこでの思い出シーンを撮らせてもらうよってね」
何を話してるかとかはわからないんだけど、表情はわかるからそこをねー、と望遠レンズを付けたカメラを構えつつ、凜ちゃんに伝えた。まあ、エレナには了解は取ってないけど、いないという時点できっとどこかで見てるだろうなと予想は付けているだろうと思う。
というか、さっきちらっとこっちに視線を向けてきていたから、どこにいるのかもわかってるような気がする。スナイパー泣かせな男の娘である。
「にしても二人きりにして欲しいとか、よーじ先輩ったら、なにかやるつもりですかね」
「もしかしたら、プロポーズとかかもね。あの二人、お付き合いの告白とか、めちゃくちゃ雑だったから」
いや、あれで付き合い始めるとか、ムードもなにもないと言うと、きっとルイ先輩だけには言われたくないでしょうねと凜ちゃんに言われた。
「でも、ここからじゃなーんにも見えないですね。ううむ、花火でも見てればいいのかなぁ」
「凜ちゃんはそうしてて。花火を背景にきっと、良い感じに事が運ぶと思うので」
さぁ、そこでゆっくりしててというと、凜ちゃんは了解ですと渡り廊下の壁に寄りかかった。
学校の屋上の柵よりはしっかりとしたコンクリートで作られた壁があるので、ちょっと寄りかかるくらいならば安全面に問題はない。
「話してる内容とかもわかるといいんだけどなぁ……きっとすごくロマンチックな感じになってるんだろうけど」
「ルイ先輩って自分の恋愛は興味ないのに、被写体としてはカップル好きですよね」
「まあそれはねぇ。結婚式とか撮ってると楽しそうでいいなって思うし。二人には上手くいって欲しいし」
なんか、二人が別々にいるのがあんまり想像できないしね、と言うと、まあそうですけどと凜ちゃんも同意してくれた。
「花火を二人で眺めつつ、きれいだねーなんて言いあってそうかなぁ」
「そこは、君の方がきれいだよ、とかいって欲しいところですよね、よーじ先輩には」
「それで、エレナがえへへーって笑いながら、そうでしょー! ってドヤ顔するんだね」
ドヤ顔の先輩は可愛いだろうなぁと凜ちゃんも納得である。
「おっ、よーじ君動き出したよ」
ええと小さい箱かな? と言うと、え? と凜ちゃんは驚きの声を上げていた。
小さな箱。さて、その中に入っているのはなんだろうといったところなのだけど。
「まさかの婚約指輪ですかね?」
「どうだろう。あ、でも、片膝をついて箱を差し出してるね。おっ、いいではないですか」
その姿はいただきますと何枚かシャッターを切った。
花火をバッグにしたものと、上がってないときと両方とも押さえることができた。
「エレナ先輩の表情が気になるところですね。でも、いいなぁー婚約指輪さしだしてプロポーズするの」
「凜ちゃんはそういうの憧れるんだ?」
「もらう方のシチュエーションもいいし、渡す方のシチュエーションもいいなぁって」
今のところ、そんな相手いませんけどね、と凜ちゃんは苦笑を浮べた。
学生時代は男子校で、周りの子たちから姫扱いをされていても、本気になるような相手は居なかったようだ。
本人もどういう相手が好きなのか、というのがいまいちわかっていないらしい。
「あたしは指輪とか渡されても、邪魔って思っちゃうけどなぁ」
両思いならいいけど、こちらが好きでも無い相手からもらっても気持ちが重くて困るし、とルイは言った。
それに物理的にもカメラを握る時に違和感につながるのは避けたいところだ。
「でも、こうやって撮ってみると、今までで見たことないいい顔してるから、二人にとってはとても良いイベントになったんじゃないかな」
あとでこの写真は、二人にプレゼントしなきゃ、というと、凜ちゃんはやっぱり盗撮してるみたいな感じがするなぁと首を傾げていた。
やっぱりこれだけ距離があって撮影をしている、というのがいまいち感覚的に覗き見みたいに思えてしまうのだろう。
「ま、本人が嫌がったらちゃんと削除する予定だしね。それに、ああ、やっぱりなぁ」
カメラの位置はちゃんと把握しているエレナさんは、くるりと体を回転させると、カメラに背後を見せるような感じで、軽く背伸びをした。
そして、よーじ君はというと……そのままエレナさんを抱きしめる感じだ。
そう。撮らせたくない表情は、ご本人が隠してしまう。それがわかっているからこその遠距離撮影である。
「詳しい話は、たぶん夕食会でいろいろ聞けると思うけど」
凜ちゃんも参加だよね? と尋ねると、楽しみです、とのろけ話を聞く準備は万全のようだった。
こうして、後夜祭の花火の中、本日のメインイベントも終わり。
三枝家のセカンドキッチンになだれ込むことになったわけなのだけど。
デザートまでとても甘くて、凜ちゃんはいいなぁと、眼をとろんとさせていた。
そんな光景を撮影しつつ、ルイは、また楽しく集まれればいいな、なんて思ったのだった。
おわったー! ということでキャンパス祭編ですが。今回は最後まで凜ちゃんと絡む感じでしたね。
あんまり凜ちゃん出してないので、ああ、お前さんこんな感じか……って思いました。
割と、ルイ先輩につっこみを入れるのが面白かったです。
そして、メインイベントの指輪の件は、数ヶ月前に買ったあの指輪です。プライベートビーチで渡してたっけ? とかいま読み返してきたところです。(あっちは珠理ちゃんメインだったので、やってなかった)
さて、次話は単話ものをやる予定です。




