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691.エレナさんちのキャンパス祭6

「ルイさん……あの。突然呼び出してごめん」

「いや、別にかまわないけど。連れしょんに行ってくれは、この格好だとちょっと困るかな?」

 ふむ。と校舎の建物の影になるところに連れてこられたルイは、首を傾げながら呼び出した相手に苦言を呈していた。

 まあ、一緒にいたメンバーは特別深読みとかはしないだろうとは思うのだけど。

 それでも、言い方というものはあると思う。


「……うまい誘い文句がなくてさ。お花摘みに行きましょう? とかだとおかしいだろうし」

「お花摘みをする二人の写真なら、思いきり撮る用意はあるけど?」

 花壇で、わーいな二人の写真とか、ぜひとも撮らせていただきたい! とずずいと言うと、よーじ君は春になったら、どこかの公園とかでよろしく、とぐったりした顔で言った。

 たしかに今の季節だとそこまで、お花畑という感じにはならないので、春に仕切り直そう! というのはとても正しい。

 さて。そんな会話を挟みつつ気になるのはやはり呼ばれた理由の部分だ。

 それで? と子首をかしげて問いかけるとよーじ君は緊張した様子で話し始めた。


「実は、その、今日の夜さ。俺たちを二人きりにしてほしいんだ」

「ん? 二人の時間ならいくらでもとれそうなもんだけど」

「そうじゃなくて。その、このまま夕食会までもつれ込むだろ? その途中で二人の時間をその……」

「ええと。学園祭が終わるころに、二人きりにしてムーディーにしたいと?」

「……ストレートなものいいだなぁ」

 あいかわらず、ほんと、とよーじ君は顔を赤くしながら、その通りだといった。

 ふむ。かわいいので一枚撮影しておくことにする。


「ちょ、まっ。こんなところの顔を撮ってもしょうがないだろうに」

「撮りたいと思った時にシャッターを押すようにというのは、先達からの薫陶のたまものなので」

 それに、たぶん今日なにかするなら、その前の写真とかもあの子は喜ぶんじゃないかな? というと、そういうもんかな? とよーじ君は納得してくれた。


「それで、具体的にどういう感じのことをしたいのか、聞いてしまったもいいのかな?」

 どういう環境で、どの場所で、どういう光の入り具合で、なにをするのか、を聞いていた方が、撮る準備はしやすいので、と言うと、よーじ君は……まぁ、あんたはそういう人だよなと苦笑を漏らした。

 恋人の一番の親友。その性格は洋次自身もよくわかっていることだ。

 最初はその美貌にちょっと、ふわふわした気分にもなったのだが、今ではもういろいろと幻想は打ち砕かれて友人ポジションでいいんじゃね? と思っている。

 

「そっちも撮る気まんまん?」

「だって、二人の記念日になる感じでしょう? なら、撮っておくといいんじゃないかな?」

 記憶を揺り起こすための、アイテムの一つとして、ね? とルイがいうと、洋次はそういうことなら、と詳細を語り始めた。



「もう、ルイちゃん達遅いよー! 連れしょんだなんて、普段ボクだってろくにやってないっていうのに!」

 まったく、人の彼氏捕まえて一緒にトイレに行くだなんてひどいんだー! とエレナがぷぅとほっぺを膨らませていた。

 うんうん、これはこれで可愛いので一枚撮影をしておく。

 というか、一枚じゃなくて、ぷんすこな美女の顔というのは何枚撮っておいてもいいものだと思う。

 つい、うっかりシャッターを押す回数が増えてしまった。


「ルイ先輩、ご機嫌ですね?」

「だって、ちょっとじらすだけでこれだけ表情豊かになるとは、けしからんって感じだし」

 凛ちゃんもなにかこう、心が動くようなことがないのかなぁ? と顔を覗き込むと、むしろ美人なお姉さんにこういうことされることの方が、わたわたしますーと言われてしまった。

 漫画で言えば、お目目がぐるぐる描かれるような感じだろうか。                                       

「ちなみにルイちゃん? ちゃんと女性用なり、多目的つかった? それで男性用入ってよーじと並んで男性用使ってたら、いろんな意味で大問題だからね?」

 だいじょうぶ? ほんと大丈夫だよね? えっと、頭だいじょうぶ? とエレナにさんざん言われてしまった。

 いちおう、あのあとトイレにもいったけれど、そこらへんは問題はない。


「このガッコ、多目的トイレが結構ちゃんとしてたから、そこ使ったよ。っていうか、トイレはオアシスなんだから、そこに緊張感をもたらす要因はほんと、ダメです」

 うん。緊張しながらトイレに入るのは、本当によくないことに違いない。あそこはリラックス空間である。


「ということは、ぼっち飯でトイレを選ぶのは、知らず知らずにリラックス空間を求めて……」

「そこは、個室になる場所を求めてるんだと思いますけどね。隔離されるなら、どこでもいいような気がします」

 普通に凛ちゃんにそう突っ込まれて、そういうもんかとルイは思った。

 ルイ自身はぼっち飯肯定派である。友達と和気あいあいとご飯を食べないといけないなんていうことはまるで思っていないし、ボッチスペースの確保だってそれなりにやってきている。

 だから、ただ「なんでトイレなんだろうか?」というのが疑問なだけなのだ。

 

 トイレだとしても、完全に安全かと言われるとそうでもなく、上部分にスペースがあるのでそこから、盗難事件なんてのもあるのだそうだ。出入り口側にかけてあったバッグが盗まれるなんていう話だった。

 そういうのを思うと、ぼっち空間は「人が来ない場所」であるほうがいいだろうし、さらに避難所を求めているのであれば、大人がいる場所、保健室的なところの方が安全性は高いような気がする。


「エレナさんは、多目的ばっかりな感じで?」

「あー、ボクはそうだね。どうしようもなければ男性用をつかうことはあるけど、個室だしね」

 明確に性別をさらさないのは、もうしみついた習慣のようなものです、とエレナはにぱりといった。

「そういえば、多目的トイレの使用について、ちょっと後ろめたさとかあるんですけど、お二人はどうなんですか?」

「んー、普通のトイレ使うと不都合だから使う。必要性があるんだから、いいと思ってるけどね?」

 そりゃ、もっと必要度の高い人がいたら、先に譲るし、パウダールーム的な使い方はしないよ? とエレナは言った。それこそトイレのためだけに短時間の使用をするということである。

「あ、それ、あたしもかな。女子トイレでならお化粧直しとか、そういうのはありだけど、あっちだとさっさと空けようって感じになる」

 いつ必要な人が入るかわからないしね、というと、そうですよねーとよーじ君以外は頷いた。

 

「基本的には、周りから悪意を持たれない、そこそこいい人でいるってのが、敵を作らないためには必要かなって思ってるわけで」

「ボクの場合は味方も多く作る方向かなぁ。まあ学校内ならそこそこだけど、外だったらやっぱり気は遣うけど」

 でも、そこらへんは多くの男の娘達が抜けてきた試練なのですとエレナは言った。


「ま、これから向かう舞台の子たちは、どっちなのかなぁとは思うけどね」

 時刻は三時になる十分前。

 エレナが取り出しているパンフレットは、講堂の中で行われるイベントの内容が書かれていた。

 外で女装喫茶をやっていたエレナさんが、自分のところのライバルと言い張っているイベントである。


「女装イケメンファッションショー、だっけ? なんかちょっと新しい路線かなって感じはするんだけど」

「だからこそ、見てみたいなぁと思ってね。ボクの知り合いはかなり違和感なく女の子っぽさ全開だけど、たぶんこのイベントは路線が違うんだよね」

 うんうん、とエレナさんはパンフレットを片手ににこやかだった。

 三時から始まるファッションショーは体育館にステージを作って行われるそうだ。

 いわゆる、ランウェイって言われるものも作ってその上で、女装イケメンがファッションを見せるのだそうだ。


「女装イケメンって銘打ってますからね。女形とか、ビジュアル系な感じになるんでしょうか」

「そうかもねぇ。かっこいい女装はそれはそれで難しいような気はするけど」

「エレナさん? パスするの前提でなら難しいかもだけど、女装イケメンって銘打ってるからこそ、そこまでクオリティはいらないんじゃないかなって思う」

 方向性が全然違わない? とルイがいうと、まぁそうなのかなとエレナはちょっと納得いかないような顔をしていた。

 というのも、エレナ的には女装しているけどかっこいい系のキャラもある程度抑えていて、もうちょっと身長あるとこういうのもいいなぁなんて言っているからである。

 そして、二次元の作品はどれもキラキラしていて完成度はこれでもかというくらい高いのである。それを三次元に求めるのはなかなかにハードルが高い。

 

「ま、モデルをやるってことであれば、美しく歩くみたいなウォーキング能力とかは必要になってきそうだけどね」

「そこは楽しみ。あとは衣装を着て気分が上がってるかどうかとか」

「ルイ先輩だったら撮影禁止じゃないのも楽しみなんじゃないです?」

 体育館の中でわーって撮影して回りそうと、凛ちゃんに言われた。

 うう。いちおういろいろ移動して撮ろうとかまでは思っていないのだけど。


「じゃ、来年はよーじ君もステージに立つ方向でどうだろう?」

「ちょ、卒業する年にイベント参加はどうなんだ? っていうか、男の娘三人寄れば……これは、姦しいのか、文殊の知恵なのか、どっちなんだろうか」

 さっきから、話にあまり入ってこないよーじ君に声をかけると、ちょっとだけ渋い顔を浮かべていた。

 楽しそうな顔を見れてうれしい反面、なんか珍しいテンションに少しついていけてないというような感じだ。


「そこはもちろん、ファンシー空間なんじゃない?」

 やっぱり、かわいいは正義なのです、とエレナがいうとよーじ君はやれやれと首を横に振ったのだった。

 トイレ……って、作者的にはいじめスポットな感じなんですよね。

 壁をよじ登って、上からのぞき見する的なイメージというか。悪夢というか。

 けれども、トイレ自体はリラックス空間であるはずなのです。

 

 そして、次話でキャンパス祭り編が終わる予定……たぶん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 改めて、事件を検索してみた。 昭和29年に起きた、ヒロポン中毒者による事件だったようで。 覚醒剤取締法の厳罰化につながる事件だったとか。 文京区小2女児殺害事件 - Wikipedia h…
[一言] 昔大学の文化祭に行った時にセーラー服姿のイケメンのにーちゃんたちが一服してらっしゃったんですが、大変似合っておいででした。イケメンは何でも似合うなぁという感じで、女装か?と言われると微妙な感…
[一言] 学校のトイレ、特に小学校の男子の個室ってなぜか使いにくい空気があるんですよね。 女子が集団でトイレに行くのは、昔不審者が侵入した事件があったからって噂を聞いたけど、本当かなぁ?
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