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690.エレナさんちのキャンパス祭5

今年もよろしくお願いします。

そしてよーじくん関連まで行かなかったでござる。

「というわけで合流できたわけだけど、うちの彼女さまはどういう騒動を起こしていたので?」

 わー、とほおを押さえながら、尊い尊いいいつつ退場した彼女の後ろ姿を見送りながら、げっそりとよーじ君は言った。

 ちょっと話をしたらあんな風になるという現場に居合わせたのなら、さすがに驚きもするだろうし、こういう声を上げても仕方のないことだろう。

 ちなみにエレナの呼び方が彼女なのは、エレナさんがただ可愛い系の男の娘ではなくて、女装もしている系だからその呼び方をしているのである。二人きりだと名前呼びだったりだし、そもそも二人称を使う機会がそんなにないのだとか。


「よーじ先輩はちょっと驚き過ぎです。いつものように、エレナ先輩とルイ先輩が合わさればいろいろちょっと考えれば起こることかと」

 悪いことではないから安心してください、と凜ちゃんが言うもののよーじ君は相変わらずげそーっとした顔を直す気はないようだった。

 そりゃ、わかっちゃいるけどさ、とぶつぶつ言葉が漏れている。


「彼女はいないのかって聞かれたから、彼女()いませんって答えたんだよ。ほら、僕の恋愛立ち位置って周りの子からいうと、すごい微妙でしょ? で、男子からはこの歳になると、というかこの歳だから距離を置かれてる感じかなぁ」

 まじで、つきあって欲しい! みたいなのって一目惚れで僕の性別わかってない人の反応なわけだし、というと、まぁそうだが、とよーじ君は腕を組んでうむむとうめいた。

 いろいろと、心配というような感じの様子だ。


「ええと、実は男ですっていえば、もてなくなるもの?」

 そんなエレナの言葉を聞いてルイが、首をかしげる。

 それさえ言ってしまえば、いろんな疑惑がぱーっとはれるのでは! とも思いつつ、それでも思い切りエレナから止められた身である。

 やっぱりルイの思った通り、一般的に男同士だから安全! って考え方はあるのではないだろうか。


「あー、はいはい、ルイちゃんのその話はまた別だからね。この歳だからといったよね。それにあいつら弟子の仲間どもとの関係だったら、一般の人はそれもありかもって思っちゃうからね」

 というか、当事者だったらなしだけど、第三者だったら応援するっていう空気になってるからね! とエレナさんは言い始めた。


 ああ。なるほど。恋仲の二人がゲイだったりビアンだったりするのは、友達としてはOKだけど、自分もそこに巻き込むのは駄目というような感じだろうか。

 そういうことなら、「告白をしてきた相手」を正気に戻すのと、他人の恋愛がらみで盛り上がってる人たちの感情を抑えるというのとでは、性別の件での威力は段違いということはあるのかもしれない。


 逆に第三者視点ならば、希少性のある、ドラマティックな恋の方がウェルカムなのかもしれないと思って、ルイはちょっと背筋をひんやりさせた。秋の風が身にしみるところだ。


「もっと歳を重ねれば、男同士だろうと本人たちで受け止められるくらいにはなる。でも若い身の上だとなかなか、自分の常識と本能がエラーを起こして、それが受け止めきれないんだよね」

 ま、とエレナさんは、さらに続ける。

「それも、僕がとてつもなく愛らしいということが原因ではあるんだけどね!」

 どやぁ! とエレナさまはあえて胸を張ってえっへんと言った。

 うん。言葉にだして、えっへんである。

 胸を反らす姿が、ちょっと背伸びしてる感じで可愛かったので数枚撮った。

 反復横跳びもかくやという感じで、いろんな角度でである。


「そういうことだから、ルイちゃんも下手なことすると危険だから、気をつけてね?」

「気をつけるもなにも……そもそも恋愛関係はお腹いっぱいなので、いいです」

 というか、最近はそんなに告白とかもないし、いいのですと答えると、またまたと三人がルイに生暖かい視線を向けた。

 そうはいっても、中学生の頃に比べれば今のほうが平和である。

 その話をしたら、中学生の子だと逆に、男女のあれそれがわかってないから、うっかりやられてしまうんじゃないの? と言われた。

 小さい頃って、ほら、パパのお嫁さんになるーとか言っちゃうでしょ? といわれてルイは思い切り首を横にぶんぶか振った。さすがにそんな幼女時代を過ごした記憶はない。


「エレナの家の場合は……ああ、うん。何でもない」

 ふと、言い返そうとして、ちょうど幼い頃にお母様が亡くなってたんだよなと思い出した。

 そこに触れるには、まだまだ難しいお年頃である。


「さて。それじゃあお昼ってことになるだろうけど、おすすめはある?」

 ん? と首をかしげてよーじ君に声をかけると、あ、ああと彼はうなずいた。

 このレベルになると、男女関係ないようにも思うけどな、とぼそっと彼はつぶやいていた。




「ふぅ。なかなかに楽しいご飯でありました」

 満足です、とお腹をさすっていると、食べてもお腹ぽっこりしなくてうらやましいなぁと、凜ちゃんに言われた。そこらへんは腹筋とか鍛えておくといいのかも、と言うと、そういうもんですかね、と脇腹をぷにぷにつまんでいた。

 いきなりそんなやりとりを見せられて、よーじ君が固まっている。

「うわっ」

 そんな彼の脇腹を、エレナがむにむにしていた。

 あんまりつまめるお肉もないので、ただじゃれついてるだけだ。


「仲のよろしいことで」

「もー、ルイ先輩。いっぱい撮っちゃってくださいよ」

 お二人ったら、そんなに仲良しでうらやましいですー、と凜ちゃんはキラキラした目を向けていた。

 エレナさんたちも撮ったけど、そんな凜ちゃんもたっぷり撮らせてもらいました。


「それじゃ、この後はどうしようか?」

「ちょっと気になるイベントがあるんだけど、ルイちゃん的にはどうかな?」

 たっぷり撮影できて満足していると、エレナがパンフレットを片手にそんなことを言い出した。

 今日は大学側の人間としてお客様達をご案内という感じらしい。

 

「えっと……クマさんイベント? 午後二時から外のステージでやるの?」

「みたいだね。ルイちゃんもつけてるその子のイベントみたいよ」

「あー、なんかいまだに人気だよねぇ」

 ほー、とバッグにつけてるクマさんの頭をなでなですると、クマさんはぽけーっとその場でそのまま変わらない顔を浮かべていた。

 まあ、表情が変わったら逆に怖いしね。


「っていうか、ルイちゃんその子……結局まだつけてるんだね」

「まぁ、こっちの時だけね。可愛いのは確かだし、友達にもらったものだし」

 そもそもおそろいかどうかってのは、意識してつけてるわけじゃないしなぁ、とルイがいうと、あ、哀れ……とよーじ君が反応した。ん? なんでよーじ君なのだろう。


「ちなみに定期的に手洗いをしております」

 持ち出す頻度は少なくても、汚れたりすることもあるからねぇというと、ルイさんに手洗いしてもらえるクマさん……とよーじ君が言い始めて、ぐぶっとエレナにどつかれていた。

 今晩、手洗いだから、とその後ささやかれて赤面しているところを撮らせていただいた。

 頭でも洗ってもらうんだろう。仲良しさんである。


「それで、イベントってどういうのやるの?」

「ステージかな。小さい子も結構くるようだから、あんまり大きなお友達にならないように注意ね」

 ルイちゃん、良い被写体見つけると自制できないかわいそうな子だから、とエレナから注意が飛んだ。

 うう。さすがに小さい子がいるならこちらは自制しますよ。

 犯罪者にならない行動をすることはとても大切なことなのです。


「もう、エレナさんちょっと口うるさいおばさんみたいになってるよ?」

「ちょっ、おば……」

「ふふっ……エレナ先輩を捕まえて、おばさんって言い切るルイ先輩ってすごいですよね」

 仲良しなのは良いことです、と凜ちゃんはうんうんとうなずいていた。


「まあ、二人もつきあい長いしな。十年後もこんなつきあいやってて欲しいとは思う」

 うんうんとよーじ君がしみじみとそう言うので、よーじ君もなんか若さが足りないよね……なんて思ってしまうルイだったけれど、さすがにそれを言うとエレナに怒られそうなので止めることにした。

 今は、クマさんイベントに向かうことの方が先決なのだ。


「外のステージって、特設ステージみたいな感じなんですかね?」

「うん。今回のイベントに合わせてグラウンドに作った仮設ステージだって話だけど……ああ、あれだね」

 室内のステージは別のところが使う予定だから、こっちが外になったんだろうね、とエレナが言った。

 なんというか、よくある遊園地とかのショーみたいなものだろうか。

 テレビスタジオの中での撮影なんていうのもあるのだろうけど、屋外でもクマさんショーなら十分にやれるのだろうと思う。


「うわ、これ設営大変だったろうなぁ……」

 もともとステージとして作っているわけではないので、仮設したステージの前面にずらりと椅子が並んでいるのだ。

 最前列には背丈の低い長椅子がおかれてある。ここらへんは小さなお友だち用なのだろう。


「あれ……?」

 さて、そんなやりとりをしていたのだけど、ステージの脇を見ていたらなにやら見知った人の顔があった。

 こんなところで、まさかばったりと会うだなんて思わなかったけれども。

 でも、クマさんイベントとなればこれはもう、そこに居るのは必然な人なのかもしれない。


「き……ルイさん? こんなところで会うなんて、その……ご無沙汰しています」

 じぃーとカメラを向けていると、視線を感じたのか打ち合わせを一区切りさせた彼がこちらに近寄ってきた。

 周りの人たちのことも考えて、いつもの感じのやりとりではなくて、かなりよそよそしい感じの話し方だ。


「こちらこそ、ご無沙汰です。木村さんも変わらないようで」

 そう。こちらに近寄ってきたのは、クマさんの発案者である木村なのだった。こいつは以前大きなクマさんなんかも作ったりしているので、今回もイベントの手伝いをしているんだろう。

 でも、クマの制作者はゴスロリの女の子って設定だったような気がするのだけど、そこらへんは大丈夫なんだろうか。


「あれ、ルイちゃん、知り合い?」

「うん。こちら木村さん。ええと……幼なじみ? です」

「幼なじみといえるのかは謎ですけどね。うちの姉とルイさんのお姉さんが友達といいますか」

 そのつながりで仲良くしてもらってるんですよ、と木村はにこやかにそう言った。

 うわぁ、エレナさんたちを前にしてるから、すっごくよそ行きの顔をしている。

 おもしろいので、一枚撮らせてもらった。


「……おまえは、そういうやつだよな……」

「いちおう、合わせはしたけど、こちらの友人方は事情をいろいろ知ってる人だしねぇ。あ、でも、そちらの事情については内緒にしてます」

 写真を撮っただけで木村は素に戻っていた。

 いちおうこちらもすりあわせだけはしておくことにする。


「……この状況で、ルイちゃんの幼なじみってなると、うっすら事情は透けて見えてしまってるけど……」

「えと、女優の澪さんとは仲良くさせてもらってます。だから、その……別にそういうのに偏見はないですし、あと……むしろあの服装もかわいらしかったです」

 ちらりと、凜ちゃんがクマさん制作者のインタビューの話をほのめかす。

 明確な単語を避けているのは、周りで誰が聞いているかわからないからだ。


「澪の知り合いか……あー、えーと、そういうこともある……のか」

 うわぁー、と木村は怪しい声をあげつつ、頭を抱えた。

 そっちの兄さんもか? と言い出す始末である。


「こっちの兄さんは僕の彼氏なんでそちら方面はあんまり」

 今日は学内デートなのです、とエレナが言うと、ほー、それはうらやましいと素直な反応を返していた。

 そこらへんは、あまり偏見もポリシーもないやつである。人それぞれ好きにやればいいと思っているのだろう。


「それで、木村氏はここで何を?」

「イベントの手伝いにちょっとね。それとまぁ、中の人に話を聞こうってところがあって」

 今度新しく大きめなのを作るんだけど、動きによってどうなるのかとか、着てるときにどうなのかとか、そういうの知りたいんだと木村は言った。

 大きいなんなのか、は内緒である。後から新キャラを作ってるって話を聞いたくらいだ。


「それでイベントも見つつ、ってわけか」

「そんなところ。ルイさんは、その……また妖精やってくれたりすんの?」

「……それは知りませんー。一回だけの臨時だし。それにほら幻の二人目って言われてますから」

 それに、今日はちゃんとスタッフさん来てるんでしょう? 妖精っぽい格好してる子ちらって見えたし、というとその点は大丈夫なんだけどな、と木村は残念そうに言った。

 そりゃ、似合うか似合わないかで言われたらああいうひらひらした服装も着こなせるわけだけれど、だからといって嬉々としてやるかといわれたら、ちょっとやっぱり恥ずかしいのである。

 それも小さなお友達がいっぱいだった前の会場と違ってこちらは学生さんの観客が多いわけだし。

 

「それに、今日は妖精さん役、学生さんがやるっぽくない?」

「あー、そこは予算の問題らしい。っていうか、見てわかるのさすがだな」

「いちおー、番組もチェックしてるしね。というか未だに続いてるのってすごいなぁって思うよ」

 まあ、可愛いから続くっていうのはわかるんだけど、というと木村がすごくデレた。

 まるで、自分のことのように嬉しいようである。

 そんな姿も一枚撮影。


「おっと。それじゃそろそろ俺はいかないと。また、その、連絡するので何人かで集まってメシでもいこう」

「はいはい。最近、同窓会的なものもしてないしね。時間ができたら……青木を慰める会でもやろうか」

「おふ、おまっ、いきなりあれなこと言うなぁ」

「千歳がそろそろ、いろいろ準備しててね。場合によってはそっちにも連絡いくかも」

「ああ……まだ内緒にしてるんだっけ? やっぱ、わからんものなのかな。ってか青木だからか?」

 おまえら二人は速攻で読み取ったっていうけど、青木だしなぁ、と木村は言った。

 青木評価は、やっぱりアホなクラスメイトという感じらしい。


「それじゃ、お友達のみなさまも。こいついつまでも写真馬鹿ですけど、仲良くしてやってください」

「そこらへんは、十分わかってます」

「それでこそルイ先輩ですしね」

 会話を見守ってくれていたエレナたちから声があがる。

 そして軽く手を振ると木村は仕事に戻っていった。


「なんというか……ルイ先輩って大柄な人でも女装させられるんですね」

「って、一言目がそれってなんか複雑。でもエレナだって大柄な人、女装させるスキルはあるよ? 声はちょっとって感じみたいだけど」

 だから、よーじ君も是非に可愛くなってみるといいよ? というと、そういうのは間に合ってます、と思い切り断られてしまった。


「僕としては本人の意思を尊重したいと思っています」

 こういうのはやる自由とやらない自由両方がなくちゃね、とエレナさまがいい顔で断言した。

 最初の一回目のお試しはともかくとして、一度試して駄目なら相性が悪いということなのだろう。


「そしてクマさんとここの学生さんも相性が良いみたいで。よかったよね」

 バッグについているクマさんの頭をちょこんとなでなですると、三人は、はわぁと表情を緩めていた。 

「ぬいぐるみをなでるルイ先輩。くっ。こんなレアな光景を独占してしまっていいのでしょうか……」

「是非ともルイちゃんはレイヤーとしても覚醒するべきだと思う。ゴスロリ系キャラで」

「スマホカメラ……くっ。起動が……」

 三者三様。なんか、一人スマホをいじってる人がいるので、なでるのを止めた。


「やっぱりちゃんとカメラ持ってた方がいいですね?」

 にやっとそう言うと、エレナは待ってくれるし……と言い訳をされてしまった。

 そんなやりとりをしていると、アナウンスが鳴り響く。


 では、クマさんとコトバ遊び、はじまるよー!


 ステージのスタートである。

祭りといったら、イベント。そしてイベントならこれだーー!

というわけで、久しぶりの木村氏登場です。

彼も彼でちょっとずつ前に進んでいる感じですね。


そしてお昼ご飯何を食べたのかは、みなさんのご想像におまかせいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] ルイさんが実は男ですなんて言ったら、ルイさんMTF疑惑、ルイさんFTM疑惑などなどが追加されるだけで、何も疑惑は解決しなさそうですね。本人だけが「普通の男が女装してるだけ」とか思ってそうで、…
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