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689.エレナさんちのキャンパス祭4

おかしい。もっとシリアスな話になるはずだったのに。

「いいねいいね。やっぱりこう、プライベートな感じがたまらないね」

 んふーと、声を漏らしながらシャッターを切ると、私服に着替えたエレナさんはさりげなくポーズを変えてくれた。

 まあ、ポーズと言ってもコスプレイベントのそれとは違って、木に手を当てたりといった程度のものだ。

 前に町中でポートレートを撮ったことがあったけど、それを大学の中でやってしまおうという感じなのである。


「ちゃんと、男の娘っぽく撮れてる?」

「ふふ。そこは保証いたしますよ」

 こんなに可愛いコが女の子のはずがない! といってやると、ぱぁーっとエレナは表情を明るくした。

 わかってますねぇという、ドヤ顔である。うん。かわいい。


「じゃ、次は凜ちゃんと一緒に二人でいこうか。先輩と後輩みを出してもらっても良いし、学校のお友達でもいいけどね」

 さぁ二人で絡むが良い! というと、え、わたしもですか? と凜ちゃんは口をぽっかりあけて驚いていた。

 まあ、今までは好き勝手撮ってただけで、モデルって感じにはしてなかったからね。いきなり二人でなんて話になってびっくりしているんだろう。

 もちろん、その顔もいただきました。


「こ、こんな感じでしょうか?」

 二人で一緒にお手々でハートマークを作ってるあたりは、のりがいいなぁとは思ってしまう。

 いえーいと、そんな姿を撮影しつつ、ポーズではない写真も撮らせてもらう。

 それこそたわいもない二人の会話風景や、えーって驚いてる顔など多種多様である。

 うんうん。可愛い子たちの日常風景はご褒美かと思います。


「あの……ちょっとよろしいですか?」

「ん? なにか?」

 さて。撮影大会を堪能していたルイだったのだが、そこに不意に声がかけられた。

 聞き覚えの無い声に手を止めて、声の主を見る。

 どうにも同年代くらいの女性のようで、コート姿の女性は一見、おとなしそうなお嬢さんに見えた。

 そんな彼女は、うつむきながらもじもじしつつ、声をかけて来たというのにもいまいち、どうしようかと困ってるようだった。


 ふむ、と思いつつルイは彼女にカメラを向けて見ると、ひわっ、撮影は駄目ですっ、とおろおろされてしまった。

 なんと。撮影がNGとは困ったお嬢さんである。

 はいはい、撮りませんってー、というと、彼女は覚悟を決めたようでずいと距離を縮めてきた。


「あのっ! あなたは三枝くんの彼女さん、なのでしょうか?」

「はい?」

 え? と突然でてきたコトバに、ルイ達は驚きの声を上げた。

 エレナだけは、あんまり驚いていないようではあったけれど。

 

「友達ですよ? というか、被写体と撮影者の関係?」

 あー、でも友達の度合いも強いしどっちだろうねぇ、というと、エレナさんは大切なお友達っ、とルイの手を取っていた。それこそ恋人結びな勢いでの手の握り方である。

 女の子同士ならやることはあるだろうけど、なかなか男同士でやることはない。

 

「ちょっ、いきなりそんな……」

「友達同士、なにもおかしいことはないんじゃないかな」

 ね? とエレナさんはにっこりだ。手くらい握ってあたりまえという態度である。


「それよりなにかようでも? そうじゃなかったら僕たち撮影に戻りたいんだけど」

 あんまり長く待てをされると、このお友達は手がぷるぷる震えちゃうんだ、とエレナさまが言う。

 あんまりな言いぐさである。

 ちょ、凜ちゃんまでお隣で思い切り首をうんうんとやっているんだけど、さすがにちょっとくらいは待てるルイさんである。


「えと……じゃあそちらの方が彼女さん?」

 うーん、と今度は凜ちゃんの方をみて、そんなことを言い始めた。

 何が何でも、エレナさんを彼女持ちにしたいみたいだ。


「こっちは可愛い後輩。ほんときっといろんなところで告白されるであろうこと間違いなしの可愛さだよね」

「ふふ。先輩に褒められちゃいました」

 やったー、と凜ちゃんは素直に返している。本当に仲良しである。

 そんな姿も一枚撮影。


「それじゃ、三枝くんはいま、つきあってる人はいないの?」

「んー、彼女はいないけど、それがなにか?」

 しれっと本当のことをエレナが言うと、彼女はそっか、そうなんだとすごく困惑した様子だった。

 いるに違いない、とでも思っていたのだろうか。


「それで、いなかったら告白でもしようかなとか思っちゃったり?」

「えっ、わわっ、そんなことはないです。そんな恐れ多いこと」

 エレナさんがいたずらっぽい微笑を浮かべながら、鎌をかける。

 彼女は思わずのけぞりながら、あわわわと震え上がる感じだ。可愛いので一枚撮らせてもらった。あとで嫌がったら消して上げよう。


「それじゃあ、純粋に僕に彼女がいないかどうか知りたかったと?」

 ほほう、そんなに慕われちゃってるかぁーとエレナさんがにこやかに、目だけ笑ってない笑顔を向けた。

 美人なだけにそうとうな迫力のある笑顔である。

「ううぅ、別に私だって好きでこの話をしに来たわけじゃないです。ただ友人たちが三枝くんの話で盛り上がって、あの女装王子に彼女はいるんだろうかってなって、じゃあ聞いてきてよって流れになって」

「うわっ、罰ゲーム方式、中学生か……」

 それはまた、とルイがいうと、エレナさんは先ほどのおっかない笑顔を引っ込めて、思い切り肩を落としてため息をついた。


「あの、先輩、女装王子なんて呼ばれてるんですか?」

 この人を王子呼びなんですか? という疑問込みで凜ちゃんが首をかしげた。

 確かにその通りである。大学に入った頃からエレナさんはこんな感じだったような気がするのだけど。

「あー、一部ではそう呼ばれてるみたいだね。特に女の子からはそういう感じにとられてるみたい。ほら、僕って入学当初は一応、男装だった時もあったし」

 お父様の問題片付いてなかったしさ、とエレナさんは肩をすくめた。

 エレナパパとの和解は二十歳の誕生日パーティーの時のことだ。となるとそれ以前は、大学で全力で女装というわけには行かなかったのではないだろうか。


「それでベース部分が男子だからファーストインプレッションがそっちで固定されたって感じ。新しく入ってきた子たちはそうでもないんだけどねー」

 ああ、あと同学年の男子はあんまりそっちの意識はないんじゃないかな、というと、凜ちゃんが、確かに普通に接していたら王子って感じはしませんよね、と言った。

「ほらリボンの騎士っているじゃないですか。男装王女の。その逆だったら女装王子かなって感じでみんな言うようになったんです」

「リボンの騎士ってこれまたずいぶんと古いところからとってきたね……」

「お母さんの本棚に置いてあった感じです。あとは懐かしのなんたらーって番組とかで出てくるのを見たりとか」

「時代を先取りしているとは、さすがに漫画の神様だよねぇ」

 あんな昔に、男装王女を書いてしまうだなんて、とエレナさまはにっこりである。


「でも、そういう古典のコスプレもありなのかなぁ、うぅ、でも中身が女の子となると、僕のポリシーが……」

 あのタイツの足の感じとか綺麗で好きなんだけど、むぅーと、エレナさまは少し考え込む。

 基本エレナは男の娘キャラしかやらないから、そこを外すのはどうなのかとでも思っているのだろう。


「あの、エレ先輩に彼女が居なかったら、告白してみたりとかな展開はまだですか?」

 さて、そんな風に悩み込んでいる先輩の隣で、後輩さんはきらきらした目でこれから楽しいもの見れるでしょうかとわくわくしているようだった。さっきその展開はないと言われてるにもかかわらず、さぁ、はよ告白っ! といった感じである。

 凜ちゃんは人並みに恋愛にも興味があるようで、告白イベントも大好きらしい。

 どこかの残念美人とはまったく違う感性である。


「わわっ、だから告白だなんてそんな。ただみんな気になるよねーって言っててそれで。自分がつきあいたいとかは、その、恐れ多くて」

 尊くて無理! と彼女は言い始めた。

 ふむ。尊いという単語は一般人でも使うものなのだろうか。


「うーん、わざわざ誰と誰がつきあってるってそこまで気になるもの? エレ様かわいー! きゃーでいいと思うんだけど」

「うわ、ルイ先輩はそういうのほんとポンコツですね」

「あー、ルイちゃんにそういうの求めても、無理かなぁ。自分の恋愛も撮影ベースだから」

 なぜか、声をかけて来た女の子にまで、えっ、という顔をされてしまった。

 くっ、どうしてそんなにアウェー感がでてしまっているのだろうか。


「割と誰と誰がつきあってるってのは、話題としては普通のことだよ? 芸能人だってそうでしょ? それで自分のお眼鏡にかなわないと騒ぎ始めるみたいなね」

 これで僕がどこぞの馬の骨とつきあってるってなれば、話題の一つとして、えーさいあくーとかいいながら、グループの結束を固めるんじゃないかな? とエレナさまは苦笑を浮かべる。

 少し疲れたような顔をしていたので、今回はシャッターを押すのを止めた。珍しいこともあるものである。


「それ、相手がすっごい美人で良い子でも、自分たちとは違う世界だねー、ほーっていって、グループの結束を深める感じになるんじゃないですかね」

「同じであることが大切ってこと? それ面倒くさくない?」

 人と合わせることがあまりできないルイさんには、残念ながら理解できない考え方である。

 自分の中で好きなものは、他人関係なく大好きでいいではないか。


「協調性というか、仲間でいるにはそういうのが必要ってことじゃないのかな? オキテ? カラテ? ニンジャ?」

「どうして、最後片言日本語ですか。エレ先輩ハーフだから片言でしゃべるのも可愛いですけど」

 ぷふっと凜ちゃんが吹き出して笑っている。

 しかし、同族の中での掟と考えると、確かにグループを作って、他を区別することで仲間意識を高めるというのは、方法論としてはよくあることなのかもしれない。

 分断と仮想敵である。


「そういうのがわかんないルイちゃんはどこでも愛され系だから、わからなくて済んでるってことだと思うよ」

 いつまでもいまのままでいてね、と頭をなでなでされて、にゃーと変な声がでた。

 頭なでられるのは、たとえウィッグごしでも気持ちいいものなのである。


「うわ、なんだかいけないものを見ているような……」

 自然に女の子の頭をなでなでする王子とか、尊みしかない……と彼女は言った。

 見た目、女の子同士なので違和感はないと思うんだけどね。

 エレナの場合はウィッグに影響を与えないので安心もできるし。


「でも、話の流れ的に、こういうのって他の子たちがのぞき見してたりしそうなものだけど、本当に一人で来たの?」

「えっと、はい。みんなはまだ宴会してるので」

「宴会……昼間から?」

 え? とエレナさんは驚きの声を上げる。

 まだまだお昼ご飯すらまだのお時間だ。

 この時間から宴会というのは、さすがにどうなのだろう。できあがるのが早すぎだ。


「リボンの騎士はけして、おっさんぽくなれって言ってるわけじゃないよね? そこ大丈夫なの? 女子大生が昼間から大宴会はまずいんじゃ」

「せめて、こう、お茶会とか言葉を濁した方がいいのでは……」

「そうはいっても、実際みんな結構酔ってるし、なんというかお祭りが始まってから、陽の気が漂っておる! とかなんとか言いながら、酔っ払いな感じです」

「……えと。君、友達は選んだ方がいいのでは?」

 昼間からお酒を飲むというのが悪いことかといわれれば、そんなことはないのだろうと思う。

 昼飲みの町はそれなりにあるし、漁師さんとかが一仕事を終えて宴会をする時間でもある。


 あるのだけど、女子大生がそれというのはどうなのか、というお話だ。

 イメージ的にものすごくおっさんくさい女子大生たちである。


「そこは、その。昔からのつきあいで仲良くしてもらってるし、基本みんな良い子なので」

 明るい話があると、ダークサイドに堕ちるだけですと彼女は言った。

 学園祭は明るいお祭りという感じで、それがやってられんというところなのだろうか。

 それなら、欠席してしまえばいいのに。


「そして、お酒の勢いで僕に突撃しよーってなったわけか」

「私だけしらふだったので、じゃー、いってこいーってわいわい盛り上がってしまって」

「罰ゲームっていうより、酔った勢いか……」

「お酒って怖いですねー」

 宴会より少人数でゆったりご飯と一緒に楽しみたいです、と凜ちゃんが言った。

 確か凜ちゃんは、澪と一緒に飲みに行ったりしてるって言ってたっけね。


「ええと、エレさんや。女子大生っていうのはこんなに残念なものなの?」

「んー、一般的には夜に大宴会で救急車を呼ぶみたいなのはあったみたいだけど、昼からってのはちょっと珍しいんじゃないかな?」

 いろんな人がいるのが大学だから、そういうグループもあるのかもね、とエレナさんは困った顔で言った。

 若者のお酒離れなんていう言葉がある世の中だけど、おぼれてしまう人たちも居るというわけだ。


「そういうことなら、んー、あれだね。ちょっと君がかわいそうになってきたから、サービスしてあげよう」

 ふむ、とエレナさんは彼女の方に近づいて、こそっと耳打ちをしていた。

「えっ、好きな人? それって……」

「ふふっ、別にお友達に伝えてもらっても良いよ。盛り上がるネタがないと困るだろうし」

 話題にだして、あーだこーだと想像してもりあがるといいよ! とエレナさんがいうと、こちらに近寄る影があった。


「おまたせ。あれ、みんなして集まってなにやってんの?」

「おお、よーじ先輩だ。お久しぶりです」

「凜も相変わらずかわいいなぁ。そしてルイさんもご無沙汰です」

 そう。お昼には合流するといっていたよーじ君が現れたのだった。


「今日はこんな美人たちに囲まれてお祭りを回れるんだから、大変ありがたがるようにね」

「おわっ、いきなり腕を持っていくな腕を」

「別に、減るもんじゃないし、いいよね?」

 そしてエレナさんはそんなよーじ君の腕をとると、にまっといい顔を見せてくれた。

 もちろんそこは一枚撮らせてもらいました。


「これは、答え合わせまで行っちゃってるけどいいんだろうか」

「まあ、良いんじゃないですか?」

 ルイがつぶやくと、凜ちゃんは彼女の様子を見てくすくすと笑っていた。


 そう。さきほど声をかけて来た女性はというと。

 尊みが……尊みが……と必死に手を合わせて拝んでいたのである。

 腐っているのに、あの二人を見ていてつきあってるとは気づけないとはどういうことかと思ったけれど。

 そこは、三次は惨事の格言のごとく。二次元だけのお楽しみだったのだそうだ。


「ちなみに、好きな相手は、ナイショ、だからね?」

 誰にも教えないよ? といい顔でいうエレナさんに、彼女はこくこくと首を縦に何回もふっているようだった。


リボンの騎士。さらに古い作品を出してしまったー! でもあれの本懐は女性活躍的なものだと思うので。

昼間から酒浸りになっちゃいけないのだぜ。

なんというか、いろいろあるんだろうけど。


楽しいキャンパスライフをお楽しみください。

さて。次はよーじくんと合流したので、そっち関連です。

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― 新着の感想 ―
[一言] よーじくんまた男の娘ハーレムに!作中最も羨ましい男ですな。凜ちゃんにまでかわいいとか言っちゃって、ただイケめ! あの二人つきあってるんじゃ?みたいな妄想トークはするけど、現実だとは思わないパ…
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