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687.エレナさんちのキャンパス祭2

やっとできたー。

そして本日、木戸くんの誕生日ですー。おめでとーかおたーん。

 さて。凜ちゃんを引き連れて学校の敷地の中に入る事にした。

 警備のおじさまも、楽しんでいくといいよとにこやかである。

 これがゼフィロスなら……きっと。いや、凜ちゃんもそのまま素通りできてしまいそうな気がする。

 そんな事を思いながら、周りをきょろきょろと見回す。

 都心にある学校ではあるけれど、やはり無機質なそれというよりは、ある程度の環境を整えるためということもあるのだろう。緑の景色もそれなりに用意されているように思う。高校のそれとは施設が段違いである。

 

 エレナさんはどこだろうか。

「パンフレットだと……ああ、あの角を曲がった辺りですね」

 道案内に感謝をしながら、エレナさんがお手伝いしているブースに向かう。

 会場が広いイベントみたいな感じで、お気に入りのサークルを探すみたいなのにも似てるなぁなんて思ってしまう。

 その途中途中で、テントを張って出し物をやっているけれども、とりあえずは今は素通りだ。


「……まあ、エレナさんならやってくれるとは思っていましたが」

「いらっしゃいませー、喫茶・のばらへようこそ!」

 なんというか、外のスペースなのだけど、和のテイストでまとめられたお茶屋さんが現れたのだった。

 以前、ゼフィ女の茶道部がやっていたような、お庭でお茶会をしましょうね、みたいな感じで、長椅子に緋色の敷物をしいているスペースが作られ、庭を見ながらお茶とお茶菓子をいただけるスタイルになっているようだった。

 テーブルはなく、長椅子の隣にお茶などは置かれるスタイルである。


「あっ、ルイちゃんだ! いらっしゃーい!」

「いらっしゃいました。なんか、これまたすごい感じに仕上げてきたね……」

 なかなかに、完成度が高い、と眺めていると、へへーんとエレナさんはドヤ顔を浮べた。

 というか、接客をしている子達のクオリティが半端なかったのである。

 確かに、空間作りも成功していると思うし、ゆっくりとお茶を飲めるというのもとてもいい。

 でも、それ以上に驚きなのは、接客をしてくれる人達がみんな和装だ、ということなのだった。

 かなりしっかりした作りで、それこそ卒業式とかに着ちゃう? ってくらいな感じである。


「衣装はちょっとしたツテがあって、貸衣装でそろえたんだけど、着付けは……頑張って覚えてもらった感じ」

「これで、普段の着物の着付けもバッチリだね!」

 やったね! といいつつ、普段から着る機会はあんまりないよなぁとルイは思う。

 ルイとて和装は、お正月くらいなものであって、しかもじいちゃんの家に行ったときに、といった感じなのだ。え、大学の卒業式はまだ先の話だから、あんまり考えておりません。


 さて。そんなことを思いつつも、お店のスタッフを観察していく。

「着物にエプロン。和風カフェでさらには、コンセプトは……若衆?」

「っ! さすがルイちゃんだね! そこに気づくとは……っ」

 おぉ、隠しコンセプトだったんだけど、しっかりと拾ってくれるのはさすが、とエレナさんはにっこりさんである。

 良い笑顔なので撮らせていただいた。


「お店の、のばら、は薔薇の暗喩なのかなぁって。そしてスタッフ全員和装で女装な男の子ってなると……ねぇ?」

 でも、スタッフの子達はそこらへんわかってるの? とこそっと聞くと、気づかないというか、本当に遊び心で付けただけだからぁ、とエレナさんは思い切りのとぼけ顔である。

 え、若衆とはなにかって? それは江戸時代にあった衆道の文化の一つの単語である。

 昔は、若い男性を年上の男性が導く、という過程で男性同士のあれそれがあった、なんていう時代もあったのだそうだ。

 その教えを受ける側が、若衆といわれていて、まぁ、受け役という感じだったそうなのだ。


「楽しく女装してわーいってやるのが、メインのコンセプトなのには変わりはないからね。わかる人だけわかるエッセンスって感じ」

 衆道のほうはそれぞれの感性というか、拒絶反応出ちゃう人もいるだろうしね、とエレナさまはお困り顔である。

 可愛いのでもちろん撮った。

 でも、彼女の言うように、女装してるから男好きとも言えないし、女装してないから男好きじゃないとも言えない。

 そこはちゃんと分離して考えるべき事柄なのだとルイも思う。


「普段あれだけよーじ君とイチャイチャしてるなら、気づく人はいそうだけど」

「そういえば、よーじ先輩は一緒じゃないんですね?」

 どもどもー、エレ先輩、と凜ちゃんも会話に参加してくる。

 最初は再会シーンの時間を取ってくれたという感じなのだろうか。

 いちおう、公式ということもあって、名前はエレ先輩呼びである。


「今回は別行動だね。可愛くなってみる? ってそそのかしてみたんだけど、やだってさ」

 ほんと、可愛い格好も似合いそうだけどねぇとエレナさんはにこにこしていた。

 小悪魔に振り回される男の子の図である。


「よーじ君わりと華奢な方だし、やろうと思えば美しく仕上げられそうではあるよね」

「そうそうっ! しゅってしてるし、身長もあるから美人系を目指せそうだよね」

「個人的には、足を際立たせたいかなぁ。ああでも、ロンスカとかも捨てがたい」

 くぅ、と拳を握りしめていると、凜ちゃんにぽんぽんと肩をたたかれた。

 いや、人様の彼氏を女装させるのはどうなのかっていうのは、そのお相手がこれだからいいんじゃないかなぁと思うんですが。

 ダメでしょうか。


「それで、エレ先輩はこのあともお仕事なんですか?」

「あー、あと三十分ってところかな。最初だけ看板娘して欲しいって言われてただけで」

 コンセプトとか指導はしたけど、別にボクのサークルってわけじゃないしね、とエレナ様はしてやりましたという満足げな顔を浮べていた。もちろん可愛いので撮りました。


「だからお二人様は、のんびりとお茶でものんでいってね。特にルイちゃん? ふらふらしちゃダメだからね?」

「えええー、なにその落ち着きが無い子みたいな扱いはっ。これでも三十分くらいじっとしてられますってば」

「えぇー、ほんとかなぁ。お祭りの雰囲気に当てられてあっちにあれがあるーって、ふらふらあわあわしちゃうんじゃないの?」

「そして、若い男性の口車にのって、サークルのマスコットになる、と」

 ぽそっと、凜ちゃんがそんな一言を付け足した。

 う。一番、凜ちゃんのがなにげにひどい。


「ねー、凜ちゃんもそう思うよね。あとは、迷子かい? 写真ちゃんを上げようとか言われて、人気の少ないところに連れ込まれて……」

「大撮影会? それなら望むところです」

 さぁ、バッテリーの予備は充分だ! と言ってやると、これだからルイ先輩はーと、凜ちゃんに呆れられた。そして、本当に変な人についていっちゃダメですからね、とマジで注意された。

 ちょっと、おどけただけだというのに!


「そんなわけだから、お客様のご案内をよろしくお願いします」

 ちりんと、エレナが鈴をならすと、はーいとお店の女中さん? が現れた。

 一番卓にー、と案内をお願いしている。

 なんというか、まだまだあどけない感じの女中さんという感じで、入りたての子というイメージあふれる方が席まで案内をしてくれた。

 案内といっても、ものの数歩なんだけどね。


「それではご注文がお決まりになりましたら、この鈴でお呼び下さい」

「はーい。でも、鈴でわかるものですか?」

「あはは。それ、店長にも言ったんですけど。雰囲気で! と押しきられちゃいました」

 実際は、どこかでなってる! ってのを把握して、そこに向かう感じですと苦笑気味だ。

 そんな顔が可愛いので、一枚撮ってしまったのだけど。


「ええと、撮影しちゃってよかったかな? 嫌だったら消すけど」

「そこらへんは大丈夫です。店長から、変な角度で撮られないように指導を受けてますから」

 変な顔で撮られたら後で反省会ねと言われてるらしい。いや、さすがに全方向に集中は無理じゃないでしょうか。


「ずいぶんと、自信があるというか、やりたてだと人前に立つのもびくってしちゃいそうですけど」

 姿勢も良いし、すっごくご立派ですと、凜ちゃんはキラキラした眼を向けていた。

「っ? そこは、店長がいろいろと指導をしてくれましたので。自信がつくまでカメラでねめ回すって」

「なん……だとっ」

 女中さんから聞かされた台詞に、ルイはがびーんと体を硬直させていた。

 なんという面白そうなイベントを。


「あー、ルイ先輩? さすがにその用途だとプロは呼びませんよ?」

 写真集を作る訳じゃないですからね、と凛ちゃんがかわいそうな子に向けるようなトーンで言った。

 いや。でも、そうはいいましても。

「本人をその気にさせて撮るのは楽しいんだよ? だんだん表情がね、こう、フワッとはな開くというか」

 むしろ今度凛ちゃんを撮らせてよというと、はい喜んでといわれてしまった。

 

「なんというか、話以上ですねルイさんは」

「あれ? あたしの話、聞いてたりするの?」

「姉者から聞いています。写真大好きなルイさんが遊びに来る予定だって」

 それで、三分の一くらいは、あーあのルイさんかーってなったんですよと彼女は言った。

「さすがの知名度ですね。三人に一人が知ってるってかなりですよ」

「それが写真の方で知られてるならいいんだけどねぇ」

 あたしなどまだまだです、というと、カメラマンとしても崇拝してる勢もいましたよと彼女は言った。そっちはおそらくコスプレを嗜む人たちだろう。


「でも、悪名じゃなくてよかったです」

 ルイ先輩ったらほんと危なっかしいんですから、と凛ちゃんにまで言われてしまった。

「うちの店ではどんなお客様も、営業妨害にならない限りはおもてなしいたします。ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 ぺこりと頭を下げると彼女はしずしずと別の卓の様子を見に行ったようだった。


「さすがというか」

「しっかり教育が行き届いていますねぇ」

 そんな様子をほのぼの見つつ、ルイたちはお茶菓子を選ぶことにしたのだった。

 

 エレナさんのほうがやらかしてるはずということでこんな感じになりました。

 よいですよね峠の茶屋的な。

 なごみますー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 江戸と言えば男の娘の町でございますからね、こんな感じの茶屋とかもあったかも!なんて妄想が出来てしまいます。幕府の規制とかはありますので、もう少しアングラ感はあったのかもしれませんが。 ルイ…
[一言] 屋外でのお抹茶の茶会=野点(のだて) 茶屋の長いす=床几(しょうぎ) 赤い布=緋毛氈(ひもうせん)(フェルトで代用することも)(厚さは1㎜~5㎜が一般的だとか) 女装と言われると尻込みする…
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