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686.エレナさんちのキャンパス祭1

「んん。なじみの街もいいけど、見知らぬところもやっぱり珍しく楽しいなぁ」

 十月も末のころ。

 ルイは一人、薄手のコートを羽織りながら、初めての駅に降り立っていた。

 当然ながらカメラも装備しているのはいつものことで、新しい場所にきても、やることは基本的に変わらない。

 駅の撮影もしっかりしたし、目的地につくまでに時間的余裕も作ってあるので、撮影していても大丈夫だ。え、時間忘れるだろうって? そこがほら、ちゃんとタイマーをつけてあるので大丈夫です。

 自分の欠点をちゃんと見据えて、対処をすることはやっぱり大切なことだ。


 さて。

 本日、なんでこんな見知らぬ駅に降り立っているか、というと、日曜の散歩、というわけではなく。

 友人からのお誘いで他大学の学園祭に参加する予定だからだった。

 どっちでいくの? と話をしたら、是非ルイちゃんの方でね? と可愛い顔で言われてしまったので、はい喜んでという感じなのだけど。

 エレナとは、外見の性別は合せる約束を昔していたのだけど、それはもういいのだろうかとも思ってしまう。


 というか、大学でのエレナさんはどうしているのか、というのを実はあまり聞いたことがない。

 よーじ君といちゃついてて、周りの人達はきゃーきゃー言ってる、みたいな感じというようなのは聞いたけれども。お父さんにはカミングアウトを済ませて、いわゆる女装だって公認されているし、会社のパーティーでお披露目をするくらいだ。

 そうなってくると私生活がどうなっているのか、というのは楽しみだった。

 まあ、どんな状態でもあの子は楽しくやってるだろうなとは思うけれど。

 

「割と、大学自体は普通?」

 ふむ、と敷地の外から眺める学校の感じは、木戸が通っている大学とそこまでの差はないように思われた。

 両方とも総合大学であり、いろいろな学部があるわけで、広さもそこまで差があるようには見えない。というか、差を感じられないくらい両方とも大きい。規模が大きすぎて視界に収まるのが一部だけなのだ。

 ただ、エレナの通う大学は別の場所にもキャンパスがあるとのことで、他の学部はそちらで学ぶことになるのだとか。そうなるとこちらのほうが規模は大きいということになるんだろうか。


「あれ、もしかしてルイ先輩ですか?」

 さて、そんな感じで学校の正門のあたりを撮影していたのだけど。

 いきなり声をかけられてびくりと体を揺らしてしまった。

 そのときはシャッターを押してないので大丈夫だ。


「あー! 凛ちゃん。久しぶりだねー」

 さて、先輩と声をかけてくる人というのは、実はかなり少ないのだけど。

 そんな少ない相手はどちらさまかと思えば、エレナの高校時代の後輩の凜ちゃんなのだった。

 こんなところで会うなんて奇遇だと思っていたけど、彼の目的もエレナがここにいるからなのだろう。


「これでもエレナ先輩の後継者ですからね。例年遊びに来てるんですよ」

「毎年かぁ。凜ちゃんはここに通ってるってわけではないんだ?」

「……ちょっと学力が足りなくて。だから憧れっていうのもあるんですよね」

 ほんとはエレナ先輩と同じ大学ってのもいいなぁって思いもあったんですが、と凜ちゃんは苦笑を浮べた。実際受験してみて、ものの見事に落ちたのだとか。

 まあ、学校選びはそこで何が得られるかというのを第一に考えるべき事だから、憧れの先輩がいるので! という理由はそこまで重要じゃないようにも思うけど。

 

「ちなみに凜ちゃんは大学だと、そっちの格好なの?」

「いちおうはそうですね。ただ、千歳っちとは違いますし、日によって変えたりですね」

 かわいいは正義ですけど、男の子として可愛いってのもありなんですよ? と凜ちゃんはにこにこしながらそんなことを言った。

 ふむ。確かに凜ちゃんは小柄な方ではあるし、少年風味にしていっても可愛くまとまりそうな気はする。今日はエレナのところに来るというのもあって、思い切り女装だけれども、そうではない日も作っているわけか。


「完全に女性の格好しちゃうと、周りからそういう人って思われるから?」

「それもありますね。エレナ先輩みたいに周りの目は気にしませんっていうのは素敵ですけど、そこまではちょっと思えないし、あとは……そういう人ってアピールは大切かなって」

 男子校だったら女装してるだけでも良かったんですけど、大学ってなるとほんと変に誤解されるのもいやなんですよね、と凜ちゃんは言った。


「ならば、今日はそんな凜ちゃんをばしっと撮らせていただいても?」

「うわぁ、ルイ先輩に撮られるのって久しぶりで、どうなるか気になります」

 是非っ! といわれたので、学校に遊びに来ましたという感じの写真を何枚か撮らせてもらう。

 うんうん。表情がこう、好奇心にあふれる感じでとてもいいかと思います。


「ルイ先輩は大学は……あっちなんでしたっけ?」

「ま、日常は日常で、こっちは放課後生活って位置づけなので」

 学校は穏便に過ごすのです、というと、あぁーと凜ちゃんは不憫そうなまなざしを向けてくれた。

 うっ。そんな可哀想な子を見る目を向けなくても。

 別に学校でやらかしてる自覚はあるけど、学業の方はちゃんとしているつもりです。中退とかになったら親に放課後生活を止められてしまうし。


「じゃあ今日はあながち非日常で思いっきり楽しむ日といったところでしょうか」

「普段からそうでしょって知人に言われそうだけどね」

 でもやっぱり、こっちの格好の方がテンションは上がるんだよねぇというと、やっぱりかわいい格好はいいものですと凛ちゃんは言った。


 さて。そんな感じで入り口付近で話していたからなのか。

「学園祭どこ見に行くか決まってないようなら俺たちが案内するけど、どう?」

 二人組の男性に声をかけられた。

 学校の人なのかどうかは正直よくわからないけど、ルイと凛ちゃんの二人組と見て声をかけてきたのだろう。


「そうですね。目的なくぷらぷらして撮影するのがスタイルではありますが」

「お誘いはありがたいですが、目的地は決まっているので」

 凛ちゃんはふわりと二人組に笑いかけると、そんなことをいって少し二人から距離を開けた。その笑顔がとてもかわいかったので、一枚撮影。え、そこで撮影なの? という感じで二人は驚いていた。


「ルイ先輩はどこにいっても変わらないですね」

 そんなぶれないところが素敵ですと凛ちゃんが誉めてくれた。

「ルイ先輩って……まさか、あの」

「息子さんをあずかっちゃうルイさんですか」

 うわぁーと二人はちょっと引きながらそんなことを言い出した。

 確かに息子さんは預かったけど、できれば笑い話で済ませてほしいところだ。  

 

「もうだいぶ前の話なのに、まだ風化してないんですね……」

「あー、春先にニュースでやっててそれから、ネット上でそれについて扱ってるところがあって」

 ほらほら、とその男性はスマホをいじると、ルイさんまとめみたいなサイトを出してくれた。

 春におおっぴらになったHAOTO事件と、あの動画について語っている内容のようだ。

 事件当時も、こういうのは結構上がっていたけど、終息してからは円満に終了みたいな感じのところが多かったのだけど。


「……あぁー! あんの藪記者、個人的感想とかいらないから! っていうか、そんなにいうなら本当に誘拐してやろうか」

「ルイ先輩……藪記者って初めて聞きましたよ……お知り合いですか?」

「あたしが敬愛する興明先生のお子さんです」

 昔、首つりしそうになっていたのを助けた経緯があるというのに、どうしてこう、この人は恩を仇で返すようなことをするのだろうか。

 銀香町のルイさん徘徊マップとかは別にかまわないんだけど、あの事件について掘り起こすのはちょっとやめて欲しい。


「敬愛……むしろそっちのほうが新鮮」

「カメラ始めるきっかけになった写真集を撮った人だからね。あたしの中ではすごい人扱い」

 なので、その息子さんのことならある程度我慢はするけど、HAOTOのみなさんに迷惑になることはやめて欲しいんだよね、と困ったように言うと、かわいそかわいそですと、凜ちゃんに頭をなでられた。

 ほっこりである。


「ええと……ルイさん。学校の案内が必要だったら、協力はできると思うけど、どうします?」

 さて、そんなやりとりをしていると、声をかけてきた男性達は、ちょっと口調を変えてそんなことを言い始めた。先ほどは誘うって感じだったけれども、なにやら完全に案内員のそれである。

 ナンパから完全に別方向に話が切り替ったようだった。


「申し出はありがたいですが、この子、去年も来てるみたいなので、案内は任せようかなって」

 なので、大丈夫です、にこやかにいうと、はわぁーっと、その二人は少し呆けたようになってしまった。

 そして、それではーと、校舎の方に向かっていく。

 もう、ナンパ活動はいいのだろうか。


「……相変わらずルイ先輩の笑顔は破壊力がありますね。あれはもう、今日は他の子に声をかけるどころじゃないですよ……」

「えええ、そういう話? っていうかそういうことなら、もっとぐぐいとくるものじゃない?」

「いいえ。そこでぐぐいといける人はかなり限られると思いますよ。うちの母校でもルイ先輩に声をかけるとかむり! みたいな声って上がってましたもん」

 よーじ先輩は、英雄扱いですから、と凜ちゃんは言った。

 ううむ。そこまで高嶺の花って感じに扱われたことは銀香ではないんだけども。


「まあ、直接にこにこした視線を向けなければ大丈夫ですから。今日は存分楽しんでもらえばいいと思います」

 まずはエレナ先輩のところでいいんですよね? と凜ちゃんはすっと手を差し出してきた。

 エスコートしますよ、ということだろうか。


「では、よろしくお願いします。凜ちゃんさま」

「そこで、ちゃんさま付けはどうなんでしょうね」

 いまいちしまらない人ですよね、と凜ちゃんが笑顔を見せたので、片手でカメラを使ってシャッターを切った。

 今日はまだ始まったばかりだけど、たくさんの写真が撮れればいいなと思ったルイだった。

さぁ、そういや来てなかったエレナさんの大学でございます。

芋とか売ってるといいですね!

そして、エレナさんといえばこの子だぁ! ということで。お久しぶりでござる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 男の娘好きが女装したいかっていうと微妙なとこですよね。 長身の美人さんになりたいんじゃなくてかわいい男の娘になりたいんや!みたいな感じで理想と現実のギャップがすごくありそうで。それが少なかっ…
[良い点] 一番かおたんの間隔に近いのは、凛ちゃんなのかもしれないですね。 そしてまだまだ風化しない息子預かっちゃうぞお化け。 すごく有名人です……これで男ってバレたら、一体どんなことになるのか……想…
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