ep_14_3.律さんとデート?大作戦3
なかなか、話が進まない! けれども、いろいろ葛藤もして欲しい!
「不思議な街、ですね」
「そうだろう? 表通りはきらびやかなビルやお店が並んでいるけど、こうやって裏通りに入ってくると、見え方が変わってくるんだよ」
表通りから二つくらい先の道に入っていくと、裏路地のようなところを進むことになった。
こーさんは慣れたような様子で、周りの景色を見つめている。
道路を歩いているのは、ちょっと表通りと客層が違う感じだろうか。
「下町だとこういうところに民家が並ぶんでしょうけど、この街はちょっと入ってもお店があるんですよねぇ」
「小さめなショップがこういうところに入ってるって感じだね」
背後から弟くんがそんな声をかけると、こーさんはそうなんだよねぇと嬉しそうだ。
友達? なのかはいまいちわからないのだけど、それなりに似たような趣味を持っている関係なのかもしれない。地味仲間である。
「弟くんはこの街にはよく来るの?」
「時々ですね。友人の付き合いで買い物にきたり、ショップに来たりとかもあったし」
割と、この街を好きな友人が多くて、そのお付き合いってことが多いです、というと、あー木戸くんの場合はそうだろうねぇとこーさんが言った。
「ちなみに、あたしはさほどこの街には詳しくないわよ」
だから、こーさんエスコートしてー! と甘い声で言っているのはいづもさんだった。
木戸くんから、まだ交代の時間じゃないですよー、となだめられている。
たしかに、いづもさんはこぎれいにしているし、この街っぽい感じかといわれたら微妙なところだ。
あちらはあちらで、弟くんがフォローする感じになるのだろうか。
「奥の方に入れば入るほど、電子機器系のパーツとか、ジャンク品とかが売られるようなところになるんだよね。電子系の工作が好きな人にはたまらない場所だと思うね」
まあ、僕もそこまで詳しくそういうのができるわけじゃないけど、なんか新しい場所っていうか、普段はあまり近寄らない雰囲気ってのが好きなんだよね、と彼は言った。
確かに表通りの華々しさとはちょっと違う、落ち着いたような、それでいて熱気があるというか、不思議な印象を受ける道があった。
「虹さんの場合は、もっぱら裏道でもメイド喫茶とかでしょう?」
「ぐっ、木戸くん? そういう本当の事はあまり大きな声で言っちゃだめだよ」
ほら、しー、とこーさんは後ろを振り向いて人差し指を口に当てると、しーっという仕草をした。
それ、いただきます! と弟くんは写真を撮りまくっていたけど、こーさんはその連写にひるむことなく、ポーズをしっかりと取っていた。
なんだか、写真を撮られ慣れてるという感じだ。
「はぅ、イケメンのしーってポーズは、なんというご褒美……いけないわ……是非とも壁ドンとかされながら、二人だけの秘密だよ、とかやって欲しい!」
「ちょ、いづもさん? それはあまりにもミーハーなんじゃないですか?」
「木戸くんは良いわよね。どうせイケメン達に壁ドンされまくって、口説かれたりしてきたんでしょう?」
「一回だけですって。あれだってトラブルの元でしかなくて、とても迷惑だったんですから」
はぁと、弟くんは心底いやそうな声を漏らしていた。
確かに男の子が、男性から壁ドンされても、嬉しくはないかもしれないけれども。そのもさっぷりで壁ドンをされるのは一体どういう状況なのだろうか。
「あの、なんだか後ろが騒がしいですが、その……弟くんがモテるって話は本当なんでしょうか?」
「あー、今のああいう感じを見てると全然だけど、ちゃんと着飾ればライバルは多い、かなぁ」
僕は別に、そういう思いはないけどね、とこーさんは苦笑気味に言った。
恋愛対象というよりは、目の保養でござるっ! と拳を握っての宣言に、なんですかそれは、と苦笑を浮べてしまった。
うーん、こーさんにそこまで言わせるとなると、弟くんが言っていたことは本当だと思って良いんだろうか。
着飾るだけで変わる、というのがそこまで威力があるのかと、ちょっと不信には思ってしまうところだけど。
「信じられないって顔してるね。でも、人は外見を自由に着飾ることで、メッセージを届けることができる生き物だからね。今の彼は、穏やかに過ごしたいっていう主張の姿ってわけ。まあ、今の僕もそうだけどね。レディも普段はそういう感じじゃないかな」
「それは、否定はしませんけど」
「そして必要な場所では必要な装いをする。それだけで回りの反応はかなり変わる」
木戸くんの場合はそれが顕著なだけかな。それでお近づきになったら、性格もほんと、面白くてねとこーさんはどこか自慢げだ。
なんというか、いづもさんにそういう視線を向けるならまだわかるけどそこで弟くんに優しい視線を向けるのはなんだかもやっとしてしまう。
ううむ。実はこの人、男の人が好きとか言うことなのだろうか。もしそうだとしたらちょっと腹立たしいところだ。私は別に同性愛者にネガティブなイメージはもっていない。でも自分がそうなんじゃないかといわれたら、いらっとしてしまうのだ。
あえて別のくくりになっている意味をちゃんと理解してほしいものである。
「おや、レディはご機嫌斜めかな?」
なにか失礼なことでもあっただろうかとこーさんは少し表情を曇らせる。
「いいえ。特には」
そういいながら、いらいらする理由を自覚した。
わたしが一番嫌なことは男扱いされることに他ならない。もしこーさんがそういう意味で優しいなら勘弁してほしいのだ。
「なら、きっとお腹でもすいてるんだろうね。そろそろいい時間だし、レディを昼食にお誘いしてもいいだろうか」
「それは構いませんけど、おすすめのお店でもあるんですか?」
このこーさんが選ぶ店というのはどういうところなんだろう? と思っていると、期待してくれていいよと、彼は胸を張った。
絵画関連で年上の方と食事をするときは格式張ったところが多いものだけど、彼は果たしてどういうところに連れていってくれるのだろうか。
「どこに行く気?」
「俺もコースについては全部虹さんにお任せなので」
どこに行くかは知らされておりませんと弟くんはいづもさんに答えていた。どうやら完全にこーさんのおすすめのお店に行くらしい。
「できれば、お手頃価格のところがいいですけどね」
「はは、あの木戸くんがいるんだし、高級店はさすがに避けるよ」
それに、ああいうのは会社のお金で行くべきだ、とこーさんはクツクツ笑っていた。
会社のお金で豪遊できるって、ほんと、この人はどういう仕事をしているのだろうか。
そんな事を思いながら、路地をいくつか抜けて到着した場所。
そこは、雑居ビルが立ち並ぶうちの一つ。
一階部分にはPCパーツを売っている店が入っており、二階への階段が横に付けられていた。
そして、その階段のところにはカフェのコンセプトみたいなものが書かれていたのである。
「男の娘……カフェ?」
「そう。僕の行きつけのお店だね。木戸くんはよく来たりする?」
「俺は……二回目ですかね。前に大学の先輩たちに連れてこられたことがあって」
それ以来です、と弟くんはちょっと悩みながらそう答えた。
ええと、どうして二回目なのにそんなに悩む必要があるのだろうか。
「でも、意外ですね。てっきり執事喫茶とかに連れて行って、お嬢様扱い攻めするのかと思ってましたけど」
「そこはだって、結婚式のブーケを受けとるにふさわしいと自覚してもらう、が今日の主旨だろう? ならこういうところがいいんじゃないかな? なかなか完全に同じって人に話を聞くのは難しいけど、この店だったら、近い人達がいるだろうし、それに前にお店の人同士で結婚とかもあったから」
大丈夫、っていうのをちゃんと肌で感じてもらえるといいかなと思って、とこーさんは言った。
「あー、そういえばその流れでここにいるんでしたっけ」
ブーケね、とこーさんに言われて、なんで自分がここにいるのかを私は思いだした。
牡丹の結婚式から結構時間も空いてしまっているのもあったし、そもそも男の人とデートもどきをするというので、テンパっていたので、そのことについてはちょっと忘れていたのだった。
忘れたかったというのもあるけれども。
「まさか忘れていたとか……あのブーケ、まだうちにあるんですから、ちゃんと引き取ってもらわないと困りますよ」
いつまでもうちに置いておくと、うちの両親がいろいろとうるさいんですから、と弟くんは言った。
あれ、でも……
「ブーケってそんなに長期間もつものなの?」
「そこはしっかりと、保存加工しましたからね。10年くらいは持ちますよ」
インテリアに最適といわれると、がくっと肩が重たくなったような気がした。
そんなに長期間、家にアレを置いておくのは精神的にかなり苦痛のような気がする。
だって、牡丹の結婚式をずっと思い出してしまうから。
そして、それがどれだけ遠いことなのかを思い知らされてしまうから。
「だからこその、この店ってわけ。まあダメで元々だし、肩の力ぬいて楽しみましょう、レディ」
こーさんは手すりに体重を預けている私に、さっと右手を差し出してきた。
エスコートさせてください、という視線と一緒にそんな仕草をされてしまっては。
私は、再び彼の手をとるはめになったのだった。
そんな瞬間を撮っていた者がいることも知らずに。
というわけで、律さんと虹さんの疑似デートは、お店へと舞台を変えるところで終了です。
このお店、最初に高校の頃ルイさんが男性不信になってから登場して、そのあと男三人? で志鶴先輩達とかおたんが遊びにきて、さらにはルイさんとして結婚式のうちあげの撮影を依頼されていたりするところです。
幸せにやってるTの人を生で見られるのが一番なんですけどねぇ……でも。話よりは体感って感じがする作者でございます。次話は楽しいパーティータイムになるといいなぁ。