ep_14.律さんとデート?大作戦1
おまたせしましたー!
月曜更新とかいっていたあの頃は……とほほ。
はい! 本日はちょっと時間が戻りまして、七月頃のお話です。
すっぽぬけてたお話ですね。
R3.11.7タイトル修正。EP14だった……
「こんな感じでいいんだろうか……」
鏡の前で、以前ルイさんに連れて行かれたお店で一式そろえてきた夏物の服を着込みながら、ううむと悩ましい声を上げた。
いつもはラフな格好をしていることが多い自分としては、まずスカート姿自体にちょっと違和感のようなものを覚えてしまう。
そして、メイク。
普段滅多につかわないアイテムを使って、顔を作っていく。
あの日、ルイさんにやってもらったのほどは上手くできていないとは思うけれども、おかしい感じにはなっていないと思う。
どうしてこんな事になったか、といえば、先月、六月に行われた後輩の結婚式でブーケを捕まえてしまったからだ。
特に意識していたわけではなく、ただ偶然自分がいるところに落ちてきた、というのが本当のところだ。
あのときは、あまりの事にパニックを起こして、自分でもあわあわしてしまった。
結婚。それはわたしにとってはちょっと縁が遠いような話に思えたからだ。
別に、良い相手と巡り会えないから、とか、自分に自信は……ないのはないけど、そうではなくて。
普段、そんな面倒ごとなんて絵を描く邪魔になるだけだと思っているのに、牡丹の姿を見て、ブーケを受け取った瞬間に、ちらりと、いいなぁと思ってしまったというのが、パニックの原因だったのだろうと思う。いまにして思えば、だけど。
ウェディングドレス姿の牡丹は、自慢のおっぱいもあいまって、とても美しかった。
さいこーじゃぁーぼたーん! と、新婦のお祖父さん? だろうか。カメラを握ってわほーいと撮影してるご老人の意見もなるほどなと思えるくらいだ。
それこそ、ああいうのは絵として描き起こしても面白いんじゃないか、とすら思う。
そこまではいい。私はどちらかというと、絵を描くときに他人事として描くことのほうが多いと言われる。自分の内面を出した、先鋭アート的なものはあまり向いているとは言えないし、内面のドロドロしたものを絵で表現というのも今はあまり考えられない。
だから、牡丹を綺麗と思って、描きたいと思うのはほとんど日常のそれと変わらないことだ。
でも、そのあとだ。そのあと起きたことが今の状況を作り出している。
その結婚式の時に何があったかと言えば。
「まさか、あのときの約束を実現させるとはなぁ……」
弟くんに、ブーケちゃんと受け取れと追いかけ回されたのだ。
もちろん現実逃避でスケッチブックにのめり込んでいたりもしたけど、まったくもって強引に話を進められてしまったのだ。
あんな、影が薄そうなモブっぽい弟くんがあんなにアクティブになるだなんて、正直思いもしなかった。
しかも、嫁に来て欲しいと言ってくる人が多いとか、虚言癖でもあるんじゃないかと思うレベルだった。
そして少しの合間があって、連絡がきてデートしましょうなんて言われているという。
「まあ、弟くんの友達っていうのだったら、きっと似たような感じの地味な人が来る可能性が高いわけだけど」
いや。でも先日のお誘いの電話の声の感じからすると、なんというか、女性慣れしてるというか、ちょっとキザな言葉遣いにも慣れてるような感じで。
電話をしていてちょっと赤面するようなデートのお誘いで、閉口してしまった。
な、なななんてことを言ってるんですかっ! と内心で思いつつ、あわあわしてしまうほどだったのだ。
それくらいの相手が見た目がどんな感じなのかというのはとても興味があった。
同期の男性は、正直こう……自分と同じく外見はあまりどうでもいいってタイプの方が多いのだ。
自分を着飾るのなら、作品を着飾れみたいな感じの人が多い。大学の頃はお洒落な人も多かったものだけれど。
なので、いわゆる異性との付き合いに慣れてそうな男性と会うということにきょどってしまったのだった。
それじゃ、週末よろしくー! なんて言われながら電話を切ったものの、それからはあまり絵の方もすすまず……
どういう格好をしていこうか、というのでとても悩まされることになってしまった。
自分一人でいるならば、女性に見える格好ならそれでいい。
割とそう思っている自分が嫌いじゃないけれど。
でも、誰かと一緒に歩くとなると、こんな格好でいいんだろうか、なんて思ってしまうのだ。
それでも、ハイヒール姿で歩くーなんていう無茶はしないけれども。
さすがに今のままだと地味すぎるようにも思える。でも、正直着飾るのはどうすればいいのか。
そんなことを悩んで、閃いたのが前にルイさんに連れて行かれたビルの一角に入っているお店をあてにするという案だった。
あそこなら、そこまで気後れしないですむし、値段も良心的だったように思う。
その狙いは当たっていて、夏服としてはぎりぎりですけどねと言われながら、一式……どころかあれもこれもと売りつけられてしまい。
結果的に、その中から何を着ていけばいいかと悩まされるはめになったのだけど。
デートというわけでもないのに、なんだかその前みたいな状態になっているようなのは、弟くんの手のひらで踊らされてるということなのだろうか。
そんな準備期間をおえて、待ち合わせ場所にきたわけなのだけど。
まさか、待ち合わせがこの街になるとは、ちょっとばかり意外というか、すこしざわっとしてしまう。
そんなことを思いながら、待つこと数分。
「あー! 律さんお久しぶりですー!」
おぉ、今日は多少は着飾っておいでだ! とにこにこしながらカメラを向けてくるのは、牡丹の弟くんだ。
なんというか、あのときは正装っぽい服装だったけど、私服だととてもモブ感たっぷりで、目立たなさそうだなぁという感じがしてくる。
身長が高いわけでもなく、顔だって黒縁めがねに覆われ、髪型もとくになにもしないでふわっとしている。髪質は良さそうだけどそのまんまにしてるっていうイメージの方が強くうつってしまう感じだ。
弟系といえば聞こえはいいけど、あれだけ説教をたれておいて、自分はそんなにモブ感を出しているというのは、果たしていいことなのだろうか。
嫁にとか言っていたけど、まったくそんな感じには見えない。
「お久しぶり。それで?」
弟くんが何故ここにいるのか。それは二人の姿を客観的に撮影してあとで見せます! というよくわからない理由からだった。
今日の相手にその話を聞いたら、ああ、あの子はいっつもああだから、客観的なーとか都合をつけて撮りたいだけ、と生暖かい声をもらしていた。
弟くんは、二人きりだと緊張するかもしれないでしょう? とかいいながらにこにこカメラをがっちりホールドしているけれども。
まあ、そういう意味合いでは弟くんがいても、逆に二人きりになるよりはいいのかもしれない。
いちおう知り合いではあるし、キラキラしていない相手がいるというのは大切なことだ。
けれども、その……
そしてその肝心な相手なのだけど。
「こ、これはっ! ようやくお会いできました! ああ、思った通りお美しい」
さて。口上は電話でしゃべったときそのものだ。
ちょっと女性慣れしたような感じの声かけに、どきりとするのものの。
見た目はといえば、なんというか……
この街を集合場所にした理由がわかるような感じとでもいえばいいか。
ここ、秋葉原によく埋もれられる感じのタイプとでも言えばいいだろうか。
地味か派手かで言えば、地味。
ただ、いわゆる典型的なオタクスタイルというものを見事に踏襲しているという感じの人なのだった。
こちらも眼鏡属性ありで、理知的といおうと思えば言えるけど、それでも電話のキラキラしたイメージとはかけ離れている。
ああ、でも最近の秋葉原はお洒落な街という部分も出てきているから、そこまでこの街っぽいかといわれると……むずかしい。
「今日は、おさそいありがとうございます。あの、正直わたしも戸惑ってはいるのですが……今日はよろしくお願いします」
「ふふっ。困惑している顔も素敵ですね」
どうもどうもと、挨拶をしつつ。まぁ、ここまでは驚かない。
うん。というか、期待をするのはおこがましいというものだから、どんな方であれ時間を作ってもらっているので、例え押しつけであってもまぁそんなもんか、と思える。
でも、もう一点、おかしなことがあった。
「あの、弟くん? わたしにはもう一人同行者の姿が見えるのだけど?」
「……実は、つい先日ダブルブッキングになってしまいまして……」
ごめんなさいと弟くんはぺこりと頭を下げた。
そう。なんというか……もう一人の姿というのが、熟成した女性のそれなのだった。
わ、若くないとは言ってないですよ! そんなこと言ったら、トマトの様にぐちゃぁっとされてしまう世の中ですからっ。
それに自分でもその歳に、そう言われたら嫌だと思うし。
「ごめんねぇ。こーさんの時間が取れるっていうなら、あたしもご一緒したいって無理矢理割り込んでしまったのよ。こーさんいっつも忙しくて、なかなかアポイントメントも取れないんだもの」
というか、木戸くんったら全然あたしのほうには紹介してくれないんだもの。この機会を逃したらきっとそのまま放置だったのよと拗ねたような顔を浮べている。
うー。
正直、大人の魅力たっぷりというか、わりときちっとしてるタイプの女性だなって感じがする。
「別にかまいませんよ。わたしもその、別に弟くんに言われてデートっぽいことしてみようよって強引に連れてこられただけなので」
お試しというか、男性と遊んでみようよくらいな感じなのでいいですよ、と伝えると、ありがとー! とその女性には思い切り手を握られてしまった。
なんというか……ちょっとそれで、ん? と思いはしたけど、こちらも正直気にする余裕はない。
女の子同士はよく、手をつなぎ合ってきゃーってやったりするものだけど、わたしはそういうのは苦手なほうなのだ。
手の大きさというか……そういうのが気になって牡丹ともそんなノリになったことはない。
「じゃあ、最初のうちは木戸くんといづもさんの組と、僕と律さんの組ってことにしようか?」
ダブルデートみたいな感じで、とこーさん? が言うと、異議は……あるにはあるけど、といづもさんは了承してくれたようだった。
ああ、いづもさんはこーさんの事、かなり気に入ってるんだなぁというのは感じ取れた。
いきなり、横入までしようとするくらいなのだから、そうなのだろう。
そういうことなら、身を引くどころか完全にお譲りしてしまってもいいとは思うのだけど。
「でも、木戸くんとのデートは前に水族館とか行ったりして、ある程度慣れてるのよねぇ」
異性としての面白みは皆無なのよね、といづもさんは軽くため息を漏らした。
弟くんとデートとは、このお姉さんは一体何者なのだろうか。
年齢差はかなりあるような気がするけれど。
「あのときは、傷心になるから付き合えっていわれただけじゃないですか。そうしたら実はそこまでダメージを負ってないという」
「あらかじめ、予防線を張っておいたんだけど、そこまでがくぅっと来なかったのよね。それなら普通に遊びましょうみたいな?」
でも、木戸くん童顔だから事案になっていたかも知れないなと今にしてみれば思ってみたり、といづもさんは遠い目をしていた。
自分でも年齢差のことは気にしているらしい。
「いいえ、いづもさんは木戸くんと並んでいても、若々しくてお美しいですよ」
まるで、月の女神のようだ、とキザな台詞をこーさんがナチュラルに発している。
そして、いづもさんはそんな台詞に、きゃーっと頬を手で覆っている。
確かにそういう姿を見ていると、若々しいというか、乙女だなぁという感じだ。
自分にはない資質というか、なかなかあんな風にはなれそうに無いなと思ってしまう。
「さて、それでは街歩きといこう。気になったお店があったらみなさん、遠慮無く!」
あ、木戸くんは今日はホストなんだから、好き勝手しちゃダメだからね、とこーさんは苦笑気味に場を仕切ってくれる。
木戸くんに向ける目がすごく優しいのは、結構親しい間柄だということでもあるのだろうか。
牡丹の旦那さんとは接点はなさそうだし、そちらの付き合いというのも考えづらいし。
「律さんは、この街はあまりなじみがない感じですか?」
どういう人なんだろう? と思いながらこーさんの隣を歩いていると、彼から質問が飛び出てきた。
会話をリードしてくれているということだろうか。こちらから話題を出すのも得意ではないので、ありがたい。
「そうですね。普段はここらへんなら上野の方に行きます。あっちの方が公園もあるし、美術館などもそろってますしね。牡丹……弟くんのお姉さんと一緒に美術館の後にアメ横で海鮮三昧みたいなことをしたりもありますし」
「あー、確かに目と鼻の先ですよね。アメ横は仕事で行ったこともありますが、楽しいところですよね」
仕事、と言われて少し頭に疑問符が浮かんだ。
個人的には、お客として行くイメージが強かったので、意外に感じたのだ。
こーさんはもしかしたら、あの街と取引のある会社かなにかに勤めているのだろうか。
「でも、この街もかなりのパワーがあるところなんですよ。最近だと軽食をとれる場所も増えましたし」
「昔は電気街って感じだったといいますよね。今はもう、萌えに満ちた場所というか」
「そうなんです! もし別の世界線で萌えがここになかったなら、今でも電化製品や、電子部品がメインの街だったんじゃないかなぁ」
今も、もちろんそういうお店はありますけど、どちらかというとカジュアルな感じになってきましたよね、とこーさんはにこやかに言った。
この街が好きでたまらないというような感じな笑顔である。
ちょっとその顔は、かわいいとも思えてしまって、どきっとしてしまう。
あんまり男性にそんな印象を持った事なんてないのは、あまり素での付き合いをしてこなかったからなのかもしれない。
「街もかなり綺麗になりましたしね。イベントなんかもやりますし。絵師さんによるものなんかもありますし」
「絵師さん……マンガとかのですか?」
「そこは……そうですね。アニメの原画展とかが多いかな」
萌え以外の絵の販売は、そんなに多くないですね、とこーさんは言った。
あ、でも一軒だけ美術品とか取り扱ってる小さなお店があったっけ、と思い出したように続ける。
これだけ絵がちりばめられてる街で、美術品が扱われてるのは一軒だけなのかと、ふとさみしく思ってしまう。
「律さんが描いてる画風とはかなり違うかもしれないけど、たまには息抜きというか、まったく違うものをインプットするのも大切ってきくよ?」
「そういう視点からすれば、確かにそうかもしれません」
別世界という感じに見えるこの街も、絵という意味合いでは自分の興味をそそられる部分もあるのかもしれない。
弟くんが食わず嫌いとか、いろいろいってた部分も合せてこの街に連れてきたという可能性は充分にあったのかもしれない。
「肩の力を抜いて、もう、物見遊山って感じで楽しんでもらえると嬉しいかな」
ほらほら、せっかくなんだから、手をくんで、前にぐっとと言われて、彼がやるとおり同じ仕草をしてみる。
ストレッチを外でやるのにちょっと気恥ずかしさを感じながら、それでもちょっと力は抜けたような気がした。
「では、今日一日、エスコートさせていただいてよろしいですか、レディ」
「……いきなり、そんなこと言われると……」
にやっと、こーさんは笑みを浮べながら、手を差し伸べてくる。
そんな仕草に、うぐっとなりながら、その手をとるか思い切り躊躇した。
「律さん。ここはアニメの街でもありますからね。少しくらい仰々しくても周りは、あんまり気にしませんよ」
なにかの、アニメのなりきりだとか思われるだけだから、と背後から弟くんのアドバイスが入った。
たしかに。この街は日常とはちょっと切り離されてるようにも思える。テーマパークにいったような感じとでも言えばいいんだろうか。
そういうことならば、この手をとってしまっても、別に問題はないのかもしれない。
「では、よろしくお願いします」
すっと、軽く差し出された手に、自分の手を添えると、自分より一回り大きい手が、失礼と軽く力を入れてきた。
なんというか、先ほどのいづもさんと手を合せたときとは、まるで違う感触にくらくらしてしまう。
そのとき、カシャリとカメラのシャッター音が鳴ったのだけど。
初めてのシチューションにわたしは、戸惑いと、ちょっとした高揚のようなものを感じているのだった。
はい。ながらく時間が空きましたが、結婚式の時に約束していた、虹さんと体験デートしよーぜの巻です。
そして、そんな話をシフォレでしていたルイさんを、いづもさんが放っておくはずもなく。
修羅場……みれますか? おぅっ。て感じですね。
恋仲になりたいか、というよりもっと一緒にいて、おしゃべりしたいくらいな感じなんでしょうけど。
そして場所は、秋葉原でやんす。律さんあんまりいかなさそうだなって思って。
是非とも、この街を好きになって欲しいです。
あと、最初、いづもさんの事を「妙齢」と言おうとしたんだけど、あの言葉って十代~二十代前半くらいの若い子に使うべきことばらしいって知ったのでこうなった!
でも、熟女っていうともっと年上なイメージがおいどんございます。