学園祭二日目2
今日は短めです。あんまり筆がすすまんくて。
さて。そんなわけで木戸くんが通ってる大学の学園祭に来たわけなのだけど。
本日の行動は、クライアント様にゆだねられているので、あたしはついて行くのみである。
「それで、サキさんはどこから見ようとか、目標はあるので?」
「特別にこれってのはないわね。沙紀矢くんがいたら声をかけようかってくらいで」
「咲宮の御曹司と仲良しとは、さすがにやりますねぇ、サキさんも」
「特に仲が良いってわけじゃないわ。どちらかというと馨がらみの付き合いの方が多いし」
そもそもまだ学生だから、仕事同士のお付き合いがどうのってのもないわ、とサキさんは言った。
「ちなみに、彼、御曹司扱いすると嫌がるから、気を付けた方がいいわよ」
「へぇ。そうなんですね。個人として見て欲しいみたいな?」
「ま、気持ちはちょぴっとわかるわ。そして肩書きをまるっと無視して動くあいつみたいなやつに、コロッとだまされるわけよ」
「あー、木戸くん誰に対しても態度変えないからなぁ。はっ、まさかそれで行きすぎた友情にっ!」
おおっ、御曹司と木戸くんなら、きっと絵になるぞーと思っていたら、思いっきりサキさんににらまれてしまった。
うぅ、美人のにらみ顔はすごい迫力でございます。一枚いただきました。
ここらへんを撮ってしまうのはきっとルイの悪影響なのだろう。
「ないっ。それはないからっ。恋愛感情というよりは年上を敬うというか、先輩を敬うというかそういう感じ」
どこでどう知り合えば、先輩扱いができるのかはわからないけど、とサキさんは言った。
確かに男子状態の木戸くんは結構若く見えるから、一つ年下くらいの子からすれば、自分と同じかもっと下というように見られることが多い様に思う。ルイなら年相応なのに、本当にわけのわからない人だ。
「ま、女子の後輩からは慕われますからね。先輩先輩って」
「そうなのよね。特撮研でもそんな感じみたいだし」
でも当の本人は友情として疑いようもないから、安心ではあるんだけど、とサキさんは言う。
あの恋愛興味ゼロの木戸くんをまだ諦めていないのだから、ずいぶんとタフである。
「なら、今日はあいつの痕跡がどれだけ残ってるかチェックしてみましょうか」
「痕跡……本人は大学では普通だとか言っていたけど、そんなわけはないのだし」
絶対やらかしてそうと彼女は言った。というか、すでに昨日やらかしているということをさんざん聞かされていた。
そう、サキさんは昨日もこの学校のイベントを見にきているのである。
あいつったら思いっきり可愛い格好して、わーいと撮影していたとため息交じりに言われてしまったら、そりゃあもう撮るしかなかった。
「演劇の方は痕跡は無かったんですよね?」
「いちおう接待係みたいなのやってたけどね。ああ、でも澪は痕跡といえば痕跡なのかしら」
「舞台の出来はどうだったんです?」
さっきは、あいつの話ばっかりになっちゃいましたけど、というと、あー、とサキさんは頬を緩めた。
もちろん、そんな緩んだ顔も一枚いただく。
「いい舞台だったわ。役者さん達もみんなしっかり育ってるなぁって感じで。澪の件もあるから少し色物扱いはされてしまうけど、それは関係無しにちゃんと面白いし」
どうして石毛さんはああまでできるのに、貧乏劇団なのか、とサキさんはため息をついた。才能はあるのにプロデュースする力が弱いんじゃないかとつぶやいている。
「でも、今回のが上手く行ったら学園祭系でいろいろお呼ばれするってのもあるんじゃないです?」
「可能性はあるわね。というか、咲宮家のバックアップが入ったはずなのに、あんまりそこが役に立ってないのがつらい」
はぁ、ハナさんもうちょっとなんとかしていただきたい、とサキさんが言った。
誰かわからないので、とりあえずスルーしておくことにする。
でも彼女はすぐに表情を切り替えて言った。
「ま、さすがはあたしの古巣ってところね!」
えっへんと胸を張ったサキ様の写真も一枚いただいた。これは彼女的にはサービスなのだろう。
これだけ強気でかっこいい人なのに、どうして木戸くんの事になるとへにゃへにゃになるのか、本当に世の中ミステリーである。
「痕跡……ああ、あそことか痕跡ありそうじゃないです?」
特撮研は最後に行くにして、どうです? と看板を見て誘ってみた。
そう、その看板には、『LGBTとみんなの会』という看板が表示されていたのだ。
テントの上のところには、一緒に知ろう! とかそういうキャッチコピーがついていたりもする。
ちょっとふわふわした感じがする可愛い看板の仕上がりだった。
「これ、あいつの場合は性別迷子の会とかじゃないの?」
「たしかに迷子ですよねぇ」
本人的にはどうでもいいってスタンスみたいですけど、といいつつ、その看板の隣の長机で店番をしている人に声をかけた。
「こんにちは。ちょっと見させてもらってもいいですか?」
「あっ、はいっ。まったく問題ありませんっ」
おお、お客さんだと、スタッフの方はわたわたし始めた。いや、お店広げてるんだからそこはちゃんと対応できないといけないと思うのだけど。
あんまり人気ないのだろうか。
「LGBTとはなにか、か。ちゃんと研究する会なんですね」
「ええと、ちょっとしたきっかけでそういう方向になりました。同性愛サークルだと評判がいまいちで」
もっと幅を広げて、いろんな人に参加して欲しいなって事でこうなったんです、と彼は言った。
「人を増やすならLGBTTQQIAAPまで広げてしまった方がいいのでは?」
サキさんが突然なにやら呪文のようなことを言い始めた。
いきなりなにごと、と思っていると、あー、とその学生さんは言った。
「お客さんかなり詳しい方みたいですね。たしかにそこまで広げて行った方がというのはありだと思いますけど、あまりやり過ぎるとわけわからなくなるかもっていうのがあって」
「たしかに呪文みたいですよね、それ」
「がんばって覚えたわ。ちなみにAはアライさんのことなので、みんなの会という名前にするなら、入っていてもいいんじゃないかしら?」
あたしは、アライさんにもパンセクシャルにもまだ至ってはいないけど、とサキさんは表情を曇らせた。
至るというのが、どういう状態なのかはわからないけど、悩ましい人である。
そんなやりとりをしていたら、足音が近づいてきた。
明らかにこの会の出し物の場所に向かっているようだ。
「あら、お客様ですの?」
「朝から順調ですね」
さて。合流してきたのは、男女の二人組だった。片方は日傘を差しているお嬢様って感じの人で、もう一人はちょっと軽そうな印象の男性だ。
「お二人もこの会の方ですか?」
「ええ。紆余曲折があって参加することになりましたの。海斗さんがLGBTな方なので、一緒に盛り上げていきましょうということで」
「……アウティングやめろと言っているのに」
「会に入る時点で公表してるようなものですわ。だったら堂々としていればいいのです」
二人はあーだこーだと言い合いながら、自己紹介をしてくれた。
基本アウティングはダメだけど、確かにこの会に入ってるならなにかしらの接点はあるよねって思ってしまうよね。
例えば、このお嬢さんはLの方なのかーとかね。
ちょっと気になってしまうところだ。
「ああ、私はアライとしてここに居ますわ。好きになった相手から、俺は男しか好きになれないんだ! といわれた身としては、いろいろ知ってからじゃないと諦めがつきませんもの」
「わかりますっ、その気持ちっ」
お嬢様がそんなことを言うと、思い切りサキさんは彼女の手を握りしめて同意の気持ちを表現していた。
好きな相手が、自分になびかない根本的な理由というのが、相手にあるというのはやはり辛いものだ。自分の魅力が足りないとかなら納得はできたとしても、そもそも最初から挑戦権もありませんとなってしまっては、気持ちの置き場所がなくなってしまう。
「あらっ、あなたも好きな相手がゲイの方なんですの?」
「あたしの場合は、ゲイというよりは……あれは、なんなんだろう。敢えていえばアセクシャルなのかな……」
うーん、あのぜんっぜんなびかない感じ、そこに分類されるに違いないとサキさんは言った。
「確かに、一緒にお風呂に入っても無反応ですからねぇ、あいつは」
「……ちょっ、さくらさん!? 一緒にお風呂って貴女」
「学友ですから。でも普通にお風呂入っておしまい。特別なーんにもございませんでした」
同性のノリでしたしね、というと周りがみなさんはてなマークを浮べている。
「と、まぁそんな感じで特別な友人がいるので、この会に興味を持ったのです」
「そういうことでしたら、もっと詳しく中でお話を伺いたいわ」
是非とも、奥の方へどうぞとテントの中の方に通された。
他のスタッフさんは、えっ、いいの? という戸惑い顔だったのだけど、彼女はそんなことを気にせずにぐいぐいと話を進めていった。
後ろの男性は、さーせんとちょっと謝り気味な態度だった。
絡ませるならまずここだろう! ということで、学校での関わりが深いここに来させてみました。
まだまだ中では話が広がりますが、今のLGBTとみんなの会がどうなってるのかは書きたいなとおもっていたので。
まだまだ続きます。