678.大自然で休息を1
おまたせしました!
前までのお話で、ちょっとあれな人達につきまとわれたしのさんに、今回はちょっとした休養でございます。
まったり散策撮影スタートです。
「んーーー! 自由さいこーーー!」
わーいと、ルイは思い切り伸びをすると、秋の涼やかな風に身を委ねていた。
ここのところ、大学がらみでの心労が溜まりにたまっていたので、今日は久しぶりにお出かけをすることにした。
しのさんファンクラブの人達のダメダメっぷりに疲れ切ったところ、週末は羽を伸ばしてくるといいでござると、長谷川先生に肩をぽんぽんとたたかれてしまったのである。
学園祭当日までまだ少しある。
特撮研の方の出し物の手伝いをしようかなと思っていたんだけど、そこはデータだけ出してくれればいいと、言われたのである。
ほのかが、だったら、一緒について行きたいです! なんて言ったのだけど、一人にして上げて欲しいでござると長谷川先生が先に釘を刺しておいてくれたのだった。
ま、友達と一緒に撮影会というのは、それはそれで楽しいのだけど、一人でぽーっと景色の撮影をするというのも、またありなのだろう。
長谷川先生的には、今回はお一人様をおすすめという感じだったのだと思う。
学校から少しは離れて、気持ちを休ませてねという配慮である。
「でも、思いっきりお出かけになっちゃったなぁ」
さて。そんな配慮を思い切り受け止めて、もちろんお出かけはルイとして活動中だった。
学校から離れるという意味合いでは、こちらの格好の方がふさわしい……とか、ごちゃごちゃいうつもりは無い! ただ遊びに行くならルイとしての方が絶対に楽しいだろうという判断からである。
おまけに、今ルイがいるのは、都心まっただ中! にある庭園の一つである。
人が多く居る場所では、ルイの方が撮影性能は上だし、人当たりという点であってももちろんこちらの方がいい。男子の方でも撮影できるようにという目標はあっても、それはそれだ。
もちろん、若い子が多い町だといろいろと事件を起こしているルイに対して、絡んでくる可能性はあるだろうけど、今回の目的は若い娘さん達が遊び回る若い町ではないので、トラブルも少ないだろうなと思っている。
というか、そういう町だとしたら、木戸状態で行っても結構浮くのでは無いだろうか。
オシャレに無縁なカメラ小僧としては、ちょっとばかり近寄ろうとは思わない町なのである。
なにか撮影したい対象があれば喜んで行きたいところだけど。今のところはそういうのもないし、しばらくはいいかなという感じである。
特に今は、長谷川先生によれば、傷心撮影外出中である。
なるべく自分らしく楽しめそうな場所として、ここを選んだのだった。
「たまには、こういうのもいいもんだね」
ほへー、と周囲に視線を向けながらシャッターを切る。
知らない土地、知らない景色。
ネットでは写真を見ていたけど、現物を自分で見て好き勝手撮りまくるというのは、なにより幸せである。
都会なんてビルと鉄筋コンクリートばかりでしょ? なんてイメージもあるだろうけど、探せば緑地は割とあるもので。
こう……作られた緑地っていうのが、ぽつぽつとあるのである。
もともとは、江戸時代のエライ人達の庭園だったり、明治に作られた庭園だったり、というのが現代にも残されていて、入場料を取りながらそこを維持管理しているのだとか。
また、そういう庭園以外にも、公園と呼ばれるところは都心にもそれなりにあるもので。
「都会のオアシスっていう感じかな。あぁー、なんか濃縮されてるって感じがして、良い感じ」
普段の銀香町の場合は、自然環境が住人と共存している感じだったけれど、こちらは自然を再現して展示しているというような感じがする。
いわば、併存だろうか。言葉のニュアンスの違いが難しいのだけど、ちょっとお散歩して遊びに来るところ、というような感じなのである。
「さて……どこから撮ろうかな」
すでにもう撮影は始めてしまっているのだけど、まだまだ入り口の辺りを撮っているだけだ。
庭園はまだまだずっと奥まで広がっているし、いくらでもスポットはある。
そんなわけで、入り口のところでもらったパンフレットを見ながら、どっちに進もうかなと少し考える。
散策ルートが案内されていて、見所スポットなんかもあるのだけど……
それは当然行くとして、他にも散策してなにか面白いものが発見できたらいいなと思っているところだ。
とりあえず道順通りに進んで行くことにする。
前を歩いているのは、老夫婦だろうか。
奥様の方が回りにきょろきょろ視線を向けて、旦那さんの方に声をかけてるように見える。
歩く速度は、こちらの方が少し早いので、いずれ追いついてしまうんじゃないかと思う。
「とはいっても、自分のペースで行けばそれでよいという感じで」
特別気にせずに撮影をしながら進んで行くことにした。
近くになったら、挨拶でもしてすり抜ければいいだけの話である。
歩道として綺麗になっている道を進みつつその道の左右にある草花に視線を向ける。
座り込みながらシャッターを切ったり、うっかり脇道にそれそうになって慌てて道に戻ったりもした。
ただの森ならある程度自由に動いていいけれど、庭園の場合は通って良い場所、ダメな場所というのは別れている。そのルールは撮影をする上では必ず守るべきことだし、無用なトラブルを避けるためにも大切なことに違いない。
そう。特に、交番のお世話になるようなことは、しっかりと回避する必要がある。
しょっ引かれてしまっただけで、かなりの身の危険なルイなのである。
「これはもしかして自撮り棒を取り入れて、ぐいっと押し出してレリーズで撮るスタイルにするのもありなのかな」
いや、さすがにそれは目立ちすぎるか、なんてつぶやきながら、まだまだ緑色な木々達にレンズを向ける。
あと一月もすれば、紅葉してくるだろうけれど、まだ温かい今の時期では、葉っぱは夏仕様なのだった。
また、学園祭が終わったあとしばらくしてから、ここに遊びに来てもいいかもしれないなんて思う。
ゼフィロスの方でも紅葉を見よう! 撮ろう! みたいなイベントはあるので、もしかしたらそちらの方での監督者の立場でくることになるかもしれないけど。
ライトアップもするというからそのときは、アルバイトに休みを入れて夜に撮影に来ても良いかもしれない。
そしてそのまま、夜の街の散策なんてのもやれるのならやってみたいところである。
う……ちらりと身近な大人達が、おとなしくホテルに泊りなさいと異口同音に言ってくるのが浮かんだけれども。
こ、これでも大人なんですからね?
「さすがに、学生さんを連れ回すことはできないけどなぁ」
それをいえば、まだ未成年であるほのかさんを連れ回すこともダメである。
うちはお嬢様って訳じゃないと本人は言っていたけど、それでも夜遊びはあまり許可してくれなさそうな気がする。
従姉妹であられる楓香と同い年ではあるけれど、ここらへんは親の教育方針というか、心配度みたいなものもあるんじゃないだろうか。
それこそ、今、目の前に咲いているピンクと白のコスモスみたいなお嬢様方には夜は危険な場所に違いはない。
そんなことを思いながら歩いていると、前を歩いている老夫婦に追いついてしまった。
そのまま無言で通り過ぎるのもなんなので、声をかけておく。
「こんにちは。良いお天気ですね」
「まあまあ。こんにちは。明るくって公園日和で」
そうしたら二人はルイのほうに気づいて声をかけてくれた。
旦那さんの方は、ちらりとこちらを見て軽く頭を下げた程度だったけど、奥様は返事をしてくれた。
身長はルイより少し低いくらいだろうか。公園に二人でお散歩というのはとても微笑ましい感じだと思った。
「公園全体がきらきらしてて素敵ですね。私は初めてなんですけど、お二人はここにはよく訪れるんですか?」
「そうね。ここは思い出の場所なの。現役の時も良く来たし、今は逆に何かあったときに」
「何かあった時?」
ん? と奥様のその声に首を傾げる。
たいてい、何かあったという場合は、ネガティブなことを考えてしまうものだ。
「ああ、えっと……あれよ。孫が結婚することになってね。それで久しぶりに行こうかなんて」
「わぁ、おめでとうございます! そういう、何かあった、なら素晴らしいですね!」
「くっ……めでたいわけないわいっ。可愛い孫が嫁に行くなど……」
ううぅ、じいじのそばにずっといるー、と言ってたあの子はどこに行ってしまったんじゃー! と旦那さんの方が初めて声を出した。
うわぁ。これは孫馬鹿というやつだろうか。
木戸家のじいさまはほどよく写真馬鹿で、ばあちゃんはできた人なのでそういうことはなかったけど。
一緒に住んでいたりすると、孫の結婚には思うところもあるのかもしれない。
「うちの父も少し前にそんな感じでしたね。娘が結婚するとはーーって」
やっぱり一緒に過ごしていたらそうなるものでしょうかと苦笑ぎみに首をかしげておく。
「あの子も会いに来るって言ってくれてたじゃないですか。いくら初孫だからって貴方は依存しすぎなんですよ」
「そうは言ってもまだ二十歳過ぎじゃというのに」
まだ早いと言いながら旦那さんはあぁ、と脱力する。
世界の終わりじゃーという感じである。
普段のルイならここは撮影するところだけど初対面の人にそんな暴挙はできない。本当に残念である。
「おめでたいことじゃないですか。お相手もしっかりしてそうでしたし」
「男なんて表だけ取り繕ってるだけじゃい。きっと裏では三年目の浮気とかするんじゃい」
「どうして貴方はそんなに男性不信なんですか。まったく」
息子たちだってちゃんとやってるっていうのにと、奥様はため息である。こっちの顔はとらせてもらった。
「あらあら、カメラ持ってらっしゃったのね。いきなりでびっくりだわ」
「いきなりですみません。ちょっと呆れ顔が可愛らしかったので」
撮りたいものがあったら無意識に動いてしまうんです、というと職業病かしらと奥様が言った。カメラがごついやつだからそう思ったのかもしれない。
「そういうことなら是非何枚か撮ってくださらないでしょうか。記念に良さそうなので」
「お孫さん結婚記念ですか?」
「いいえ。結婚五十年記念なの」
ふふと笑う奥さまがとても嬉しそうでもう一枚。さらにばつが悪そうにしている旦那さんも一緒にもう一枚撮影した。
まさかの五十年である。金婚式である。
「そういうことでしたら、撮影させていただきましょう。本格的にというよりスナップみたいな感じで数枚でいいですかね? あんまりやり過ぎると、お仕事になってしまうので」
「お仕事って……カメラは本格的だと思ったけど、お仕事されてる方だったの?」
お若いから、そうだとは思わなかったのだけど、と奥様が驚いた顔を浮べる。
うん。いつもなら特別なにもいわないのだけど、お仕事の依頼、しかも記念のものとなると、ちゃんとお金を取りなさいと佐伯さんあたりからは言われそうな案件なのだ。
「はい、これでもスタジオに名前は載せてもらってます。あまり安売りはするなって言われてるので」
こういうものです、と名刺を差し出すと、まあまあ、と奥様は目を見開いて驚いていた。
いや、確かに若いとは思うけど、そこまで驚かなくてもいいんじゃないかな。
あ、それとも、豆木って名前にびっくりしてるんだろうか。ちょっと普通の名字じゃないからね。
ちなみに、隣で旦那さんもえぇーって顔をしている。あまり関わろうとしてなかったのに、その反応ですか。
「活動名というか、カメラネームといいますか。ペンネームみたいなものと思っていただければ」
「あっ、そうではないのよ。名字がちょっと珍しいと思ったけど、うちの孫も琉衣っていうから、びっくりしちゃって」
「結婚された方ですね? おそらく名前の付け方の由来部分は違うんでしょうけども」
「ちょっと親近感沸いてしまったわ。それなら例えば一時間とか撮影依頼したりとかだとどれくらいになるのかしら?」
「出先で依頼を受けるのが初めてなので……うーん。通常一時間だと二万くらいかかるんですけど、出張費込みだったりもろもろはいってますし、4,5千円くらいでしょうか」
もしくは最低ライン三千円で、写真の出来を見てもらって上乗せしてもらってもいいですけど、というと、まぁ! それなら懐に優しいわねと奥様は言ってくれた。
そんなわけで、ゆっくり休むはずがお仕事になってしまったわけだけど。
この価格設定で怒られないかちょっと心配なルイなのであった。
新しい場所にきてみたよ! というわけで。
コロナ禍だとなかなかできない外出を楽しもう! としたら……結構これが、筆がすすまずに……
地の文ってどうかくんだっけ!? みたいな感じになってしまいました。
でも、公園散策は楽しくてよいかと思います。
都内で楽しめるスポットで人が少ないところとか、穴場が結構あると思います。
商業施設も楽しいですがたまにはこういうところと戯れてみるのも一興かと。
最近、いろいろとルイって名前を見かけると反応してしまう作者です。結構男の子で「ルイくん」がいたりするので、はぁはぁこの子女装しないかなとかHENTAIオーラをまき散らす作者でございます。
さて、次話はこのままの流れで、散策を続けます! なるべく更新日はまもる……れると良いな!