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677.学園祭公演のリハーサル2

お待たせいたしました!

澪たんの劇団を学園祭に呼ぶことになった、かおたんは、果たしてどうなるのか!

そして、かおたんが選んだ衣装ってのはなんなのかっ! ってことで。

ゆるーっといきますー。

「でも、先輩の今日の女装はなんというか、また一線を越えてきたって感じですね」

 触れて良いのかちょっと悩みましたが、普段とかなり違うので、やっぱり興味はつきませんと澪が言った。

 まあ、普段のルイさんの姿を見知っている人からすれば、今日の「女装」は奇特なものに見えるだろう。見慣れてない人は……ああ、普通に女性スタッフさんかと思うだけかな。


「一線もなにも、こういうのだって時にはやるよ? ただ普段がスカート派なだけで」

 高校の制服だったり、町中だとわりとスカート派だけど、別にパンツスタイルができないわけではないよ、というと、それはまあわかりますけど、と澪は苦笑ぎみだ。

 そう。やるやらないではなく、できるできないの壁がボーイッシュ女装にはある。

 というか、スカートスタイル、さらにいえばワンピとかの方が体のライン的には、女装の難易度が低めなのである。男女ではそれなりに体格に違いはあるので、カバーするべきはそこの引き算だ。

 男女の体が違うというのはあるにしても、それをカバーするには、服装というのはとても大切なことなのである。


 最近の女装なれしている若者ならばともかく、田舎のおじいちゃんおばあちゃんなんかは、髪を伸ばしてスカートをはいただけのノーメイクの男性であっても、女性だと認識するとかしないとか。ちなみに木戸のじいさまの町はみなさん魔眼をフル装備なのでそういう勘違いはほぼ起きない。

 その目の肥えたじいさまがたに、女装っていって、女の子連れてくるのってどうなの? という扱いになる木戸は、なんかちょっといろんな意味で逸脱しているような気がしなくもないのだが。

 うん。そういうのは深く考えない方向で行こうと思っている。女装がすんなりできることのほうが、メリットは大きいわけだしね!

 最近は、男状態でも相手をリラックスさせて撮れるようにはなってきたけど、やっぱり「ルイ」のほうが、のびのび撮影デキる感じがある。あっちが日々、「えっ、女装の人なの? やだー」とか言われるよりは、「ルイ」という人物になりきれる方が、撮影はかなり楽なのだ。

 うん。しかも楽しいし!


「しの先輩ならそうだとは思いますが……ううむ。この人水着とかも普通に着るだろうしな……えと、しの先輩? 今までで着た上で嫌だったものはあります?」

 あー、私は女優としてなら、なんでも着こなしますよと、澪がふんすと胸をはった。

 今日は下見ということで、胸の膨らみはなく真っ平らだ。

 それでも、女性に見えるのは、女優としてがんばってきた成果というものなのだろう。


「ショートパンツだけはちょっと、嫌な思い出があるかな」

 二度と着たくないってことはないし、技術的にも大丈夫なんだけど、さすがに悪い記憶がね、と苦笑を浮べると、澪はあー、あれかー、と昔の記憶をたぐったようだった。

「痴漢されたあげくに、告白されたんでしたっけ?」

「って、なんかドラマティックな展開なのかな? ちょっとその言葉だけ聞くと状況がよくわからないけど」

 いままで、旧交を温めていた二人の間に、石毛さんは不思議そうに会話に混ざってきた。

 表情にあるのは、困惑なのだろうか。たしかに澪の言葉だけみれば、情報不足で何があったのかわからないかもしれない。


「夏にショートパンツってやったことないから、はいておでかけしよーって思ったことがあったんですけどね、そのときに電車で思いっきり痴漢にあいまして。それで、そのあと助けてくれた人が実は知り合いで告白されたとかそういった話です」

「今は撮影が楽しいのでって断ったみたいですけどね」

 相手の夢を壊さないその姿。なのに演技は大根というのだから不思議ですよね、と澪はちょっと意地悪なことを言い始めた。うふふと悪い顔をしている。


「なるほどね。そういうことがあったのなら、苦手意識もあるかもね。ショートパンツって結構自信のある子が使うイメージがあるけど」

「あとは、夏の暑さが嫌なおばちゃんなイメージ!」

 夏は、アツイのですというと、え? と石毛さんにドン引きされた。

 いや。でも、ほら、若い子は見せびらかしたいのかもしれないけど、ある程度年齢がいけば、快適さ優先だと思うのです。

 ばーちゃんは、服装は快適さだねっていってたし!


「いや……都会の女性は生涯女性です。いいですか? 他の子にそんなこと言ったらドン引きされますからね?」

 ショートパンツは美貌を保つためのアイテムだからっ、女捨ててる対応は駄目、と石毛さんに怒られてしまった。

 あ、まぁ……都会の女性は自分磨きを続けるものなのかもしれない。

 うん。ミナサマオツカレサマデゴザイマス。


「痴漢っていうとしのさん結構おしりむっちりだよね。それで男の子だなんてちょっと信じられないんだけど」

「そこはほら、女装のテクニックなのですよ。お尻の小さな女の子ってのもいるにはいますが、やっぱり尻は大切です。もっちりとした感じで尻パットをつかっています」

 以前、この学校でもこの手の女装をしたことはあるので、ノウハウは持っています、というと、ほほーと石毛さんは関心したような声を漏らした。彼は、女性にいったらセクハラだなーとも言っていたけれども。


「でも、やっぱりしの先輩なら特に何事もなければ、スカートでわーい、ってしてるイメージが強いというか」

「こっちにもいろいろあるのです。あ、ほら、あれが実行委員会の人間ですね。そして私の非公式ファンクラブの会員だそうで」

 ほれ、と講堂の入り口の方に待っているスタッフを見て、嫌そうに言っておく。

 今回のことも私を女装させるがためにこの企画を立ち上げたというのだから、みなさん本当にすみませんと再度頭を下げた。

 演劇を楽しみにしている人もいるけれども、しのさん目当てでこの企画を立ち上げたおバカさん達もいるのである。


「それについては、澪からも聞いてるのでいいですよ。でも話半分だったけど、これ、全部だな……」

 あの視線は、アイドルに対するモノだよなぁと、石毛さんは困ったように頭を掻いた。

 こちらに近寄ることもせずに、にこやかに笑っている他のスタッフの方々を見ての判断のようだった。

 むぅ。いつものイベントの時は見られるのが当然って思っていたからあまり気にしてなかったけど、下準備の段階でそういう視線を向けてくるのはちょっとむずむずしてしまう。

  

「過去のイベントでいろいろやってるので、それで今回もかわいい姿を見せてくれ! みたいな感じで。だったらみせてやろうやないかいっ、てな感じで美しい女装を目指してみました」

 ほうら、大人っぽいだろう? というとまー確かにそうかもしれませんね、と澪に納得顔をされた。

 可愛い乙女系だとどうしても年下に見られることもあるので、今回はデキる大人を目指したのである。

 女性用スーツとかでもよかったのだけど、学校なので、そこまではしなかったのだけど。

 

「しかし、しの先輩を大人っぽいという日が来るとは……」

「それをいうなら、澪だってずいぶんと大人っぽくなったと思うけども? 妖艶な演技とかもできるようになったのかね?」

 泡に消える人魚さん? といってあげると、澪はうわっ、そんな昔の話を持ち出さないでくださいよっ、と恥ずかしそうに手をぱたぱた振った。かわいい。一枚撮った。


「でも、先輩が求められて、わーいと女装しない展開があるとは思ってもみませんでした」

 大抵、頼んでもないのにかわいい格好してるのに、と澪が反撃してくる。

 素直に疑問に思ったわけかもしれないけど。


「んー、着飾ることは好きなんだけど、別に男のためにやってるわけでも、見せるためにやってるわけでもないんだよ」

 純粋にかわいい格好してて、そういうのできゃーきゃー女友達とトークをするのはいいんだけど、見世物にはちょっとなれないかな、と、演劇をやる人たちに伝える。

 舞台の上は君たちにお譲りするところだ。


「女装潜入ものとかなら、いきなり生徒会のメンバーに抜擢されて、いつのまにか生徒会主催の劇のヒロインになってたりするんですけどねぇ」

「なりません。こちらは撮る側。さぁさっさとリハーサルをはじめていただきたいところです」

 もちろん、本日の撮影の許可はいただいています、とカメラを構えると、澪は近づいてきて、こそっと言った。


「そこまでやっちゃっていいんですか? ばれるのでは?」

 ああ。澪としては、ルイとの関係について心配してくれているらしい。

 

 うーん。それに関してはなんというか、あまり心配していなかったりする。前にやったみたいな粘着撮影はするつもりはないし、朝御飯がパンがなくてお菓子だったとしても気にしないで撮影するつもりである。あのときは依頼があったから、最高の被写体と結果を出すためにいろいろやった。


 でも、今は、たんなる学園祭のアドバイザーというか、演劇団のアドバイザーといった感じだ。

 これで、写真家さんみたいな欲をだしてはいけない。

 じゅる……うん。だめ。


「それに、そういうのも込みで今日はこの格好なので」

 ボーイッシュスタイルというのはかなり普段のルイさんとは違った印象をもたらすものなのである。ゼフィロスの引率とかだと大人っぽさを求めてそっちにすることもあるけどね。

 ただの、写真馬鹿じゃないのだぜい、とぱちりと澪にウィンクをすると、えーと、かなり唖然な顔をされた。

 とはいっても、今はただ、求められた仕事をするだけなのだ。

 そんなわけで、一緒に会場に移動してもらっていた、スタッフさんに向かって声をかける。


「ハコはご覧の通り、講堂を使ってもらいます。収容人数は350人だそうです。チケットはわりと売れてますから、当日は結構埋まると思います」

 ちなみに、私も澪の演技は見たいので購入しました、というと、おおぉっ、と澪に手をがしりと握られてしまった。


「あの貧乏カネなしの先輩に買ってもらえるだなんて……」

「う、どうしてその貧乏設定が澪にまで筒抜けなのか」

 というか、カネなしじゃなくて、暇無しだろうが、というと、だって先輩わりと時間的な余裕がありそうだし、と澪に言われた。

 いや、仕事もしてるし暇ってわけではないのだけど……ああ、澪から見れば、いろんな問題に首を突っ込んでいるから時間があるって思われてるのかも知れない。澪の、声のトレーニングとかも確かに暇がないとできないものね。

 木戸的には、アルバイトと学業の空白期間を使っただけなのだけど。


「そこは斎藤先輩からの話でいろいろ聞いてますから。毎日お弁当男子だったとか、コロッケひとつ満足に買えないとか」

「う、昔はそうだったかもしれないけど、最近はちゃんと自分のためにお金使うようになったし。必要なものには使います」

 節約家だとは思うけど、それは無駄を出さないという意味合いでです、とふくれていると、そんな様子を見ながら、石毛さんは嬉しそうに言った。


「ははっしのさんも清貧な暮らしをしてる感じか、うちと同じで仲間意識があるね」

「せいひん……というと?」

「貧乏って言葉の言い換え、っていうのはあんまり使いたくないんだけどね。使うところにだけ使おうみたいなそんな感じ」

「ああ、それなら同じかもです。でも、そちらの劇団の経営状態って?」

「はーい、悪いって聞きましたー!」

 うえーい、と話を聞いていた周りの劇団員が手を上げた。その中には澪もいるのだが。

 それで大丈夫なのだろうか。


「ええええ」

「いや、お恥ずかしながら。しのさんは、演劇っていったら何を思い出す?」

「……シンデレラとか、白雪姫とか……ではないですね、はい」

「うん。そういう意味じゃなくて」

 石毛さんは、こちらが出した答えにふるふると首を横に振った。

 演劇の名作といったら、じゃあ、シェークスピアとかだろうか! なんて名前を出して、首を振る。


「有名な劇団って、言った方がいいかな。宝塚と、四季と、他に知ってる劇団ある?」

「あ、そう言われるとないですね」

 これはそもそも、木戸に劇団の知識が無いからなのかもしれないのだが、残念ながらメディアで取り上げられるのはそこらへんが多いのは事実だと思う。

「……こほん。ま、全国に名が知られてるわけじゃないので、今までの公演も苦労をしてきたわけなんだ」

 そういうわけで、うちは倒産寸前の弱小劇団なのです、と石毛さんは頭を掻いた。

 あー、たしかに、スポンサーが新しくなってなんとか存続できた、みたいな話もあったっけね。

 ハナさんがとある理由で出資をしているのは内緒だけれども。


「実際、講演が決まってからこんなにスムーズにチケット販売がおわるのって、うちではじめてかもしれない」

 あ、いや、珠理ちゃんがいた頃は売れたか、と石毛さんは懐かしそうな顔を浮かべる。

 いちおう、ここ、崎ちゃんの古巣だって話だからね。いつからいつまでいたのか、とかはわからないけれども。


「普段は、チケット販売って大変なものですか?」

 大手なら、チケット販売してるようなところで、依頼して販売してもらうんだけど、うちらみたいな弱小なところだと団員のつてというか、そこらへんで買ってもらうことが多いんだ、と彼は言った。

 ある意味、インディーズバンドのライブのチケットみたいなものなのだろうか。


「なので、今回の件は本当に助かります。というか、これで良い舞台になれば、別の学校にも呼ばれるかもしれないし!」

 これはチャンスだ! と石毛さんは気合い十分の声をあげてくれた。


「それでは、そろそろ施設の紹介をさせていただきますね。先ほど話した通り会場は350人収容です。マイクのスピーカーは後ろの方に設置されていますので、使うようならお声かけください。そして、あとは隣の休憩室ですね。団員の方の控え室みたいな形で思っていただければ」

 こことは別に、休憩室も用意してありますけど、一番近いのはそこですと伝えておく。 


「となると、予定通り機材はそちらに搬入って感じだな」

「衣装部屋は、控え室の方になりますかね」

「ええ。そちらは移動経路も立ち入り禁止になりますから、他の人に衣装を見られる心配もないかと思います」

「舞台装置については、他のスタッフとすでに打ち合わせずみとうかがっていますが、問題はなさそうですか?」

 ちらりとなにもおかれていないステージの上をみて、質問をしておく。

 会場のスペックはすでに渡してあるし、背景をどうするのか、舞台に必要なものはなにか、なんていうのは、別のスタッフが話し合っていることである。しのが確認をとっているのは、大丈夫かどうか、ということだけである。


「そこは大丈夫ですね。奥行きもありますしちゃんと舞台を見せられると思います」

 ぬかりはありませんよ、と石毛さんは胸を張った。さすがはプロである。

 

「照明に関してもそちらのスタッフさんに今日はチェックしてほしいなと思ってますので」

 それなりにちゃんとした照明ではありますが、舞台として使えるのか確認をお願いします、というと、あいよー! と照明係のにーちゃんが元気に返事をしてくれた。

 舞台に必要なのは、役者だけではない。裏方の仕事もしっかりと大切な業務である。

 光の使い方でいろいろな演出ができるわけだし。


「ああ、それと、照明の方! もしよかったらあとでどういう演出にするのか教えてください!」

「ん? そんなの事前に聞いてもしょうがないように思うんだが」

 特別、そんなに変な照明はつかわんよ? と彼は言った。

 彼がそう思った理由は、光の使い方によっては、人体に害が出ることがあるからである。

 テレビの光で小さな子供が失神するという事件があったのである。

 それもあっての、質問なのかな、と判断したようだった。


「いえ、どういう照明が入るかわかっていれば撮影のときにかなり助かるので」

 是非ともご教授をっ、というと、ん? と彼は不思議そうな顔を浮かべた。

「あれ? しのさんは聞いてませんでした?」

「なにをです?」

 きょとんと首をかしげながら聞くと、うーん、いいづらいなぁと石毛さんは前置きをしながら言ったのだった。


「舞台は、撮影禁止なんです」

「はい?」

 いま、なんといいましたか? しのは石毛さんの言葉を前に、呆けてしまったのだった。

なんというか、澪さんとしゃべっててなかなか舞台の方に移動ができませんでした。

そして、学校側の他のスタッフさんはちゃんと仕事をしましょう! と叫びたいのだけど、彼らの仕事はしのさんの観測なので、仕方ありません。ファンクラブって怖い。

むしろ長谷川先生にこっちのファンクラブも制御して欲しいくらいですね。


さて、撮影禁止ですと言われたルイさんは、どうなるのか! というわけで、次話につづきまーす!

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― 新着の感想 ―
[一言] >>714話「当日の劇団員さんたちのお世話をと思っていたんだが、その時撮影もOKって形にすればやってくれるかい?」 まぁ、嘘は言ってないよね、嘘は・・・ お世話中の撮影はできてるし、舞台の…
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