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072.

「君の瞳はまるで琥珀の輝きだ。美しい」

 なぜだか、麗しい男性アイドルにルイは口説かれていた。場所は崎ちゃんの撮影のスタジオに変わりはない。

 ないのに、どこから顔をだしたのか見たこともない相手が目の前でキザったらしいセリフをいってくるのだ。年の頃はルイと同じくらいだろうか。大人とはまだ呼べないあどけない感じと、どことない中性感はそれなりに被写体としてもそそられる。身長こそルイと同じくらいという低身長なのだけれど、それでもまとうオーラは独特なものだ。

 そしてこの会場の主役どのは、撮影中にもかかわらずすさまじい視線をこちらに向けてるのを感じる。

「業界の方なのはわかりますが、いったい何を企んでいるのです?」

「比較的迅速的に口を封じておこうと」

 口封じという危ない言葉がでて、怪訝な顔をする。ルイにはまったく口をふさがれる理由が思い浮かばないし、そもそも。

「というか、あなたは誰なのです?」

「は?」

 相手が誰であるかすら知らないのである。けれどそんな反応に相手はきょとんとしていた。

 またですかい。

「あーそれ、崎ちゃんにもやられたけど、誰しもテレビの電波受信してるわけじゃないんですよ? 私なんて朝のニュースくらいしかテレビみませんから」

 自意識過剰の芸能人なのか。自意識過剰が芸能人なのか。

 そうはいってもルイは彼のことを見るのは初めてだし、交友関係の兼ね合いからアイドルよりはアニメとかゲームの方が詳しい。あれとて必要だから見ているという部分が大きい。

 基本、ルイは町中や自然の中の風景のほうに興味が行ってしまっているのである。

 それでもまだ女性なら、ファッション誌などで目につくことはある。けれど男性アイドルなんて、男子向けファッション誌は欠片も見ない身としてはさっぱりわからない。

「あの(しゅん)さんがどうしてこんなやつに声を?」

 撮影が一時ストップしたのか、崎ちゃんが睨むように間に入ってくる。

 彼女の話によると、人気アイドルグループのメンバーらしい。そこそこテレビにも出ているし、知名度も高いのだとか。

 あとから知ったことだが、男性アイドルの世界はとても厳しいらしい。というのも根強い人気を持つ男性アイドルはもう不動の王者として君臨してしまっているし、若手に視線がなかなか向かないようなのだ。そんな中で残っているというのだから、そこそこの実力はあるのだろう。

 女性アイドルであればそこそこの年齢になった時点でアイドルを卒業するのに男性だとそれがないというのもあるという。

「この子が僕の柔肌をその眼で見つめてくれてね。それでちょっとドキドキがとまらないというか」

「うそ。(しゅん)さんって肌を見せるのがすごく嫌って業界では有名ですよね」

 なにやってんのよあんたという視線がこちらにびしばしと向けられる。

「おや、珠理ちゃんは僕のこと、詳しいんだね」

 うれしいよ、ときざったらしい台詞をしれっとはいてくれる。それでも低くなりきってない甘い声も相まって嫌みにならないのだから不思議なものだ。

 だが、男の柔肌など……あれ。一瞬白い肌の姿が頭に。

「ああ、さっきの楽屋で」

 ぽんと納得したかのように手を鳴らすと、ようやく気づきましたといった様子で彼の顔を見る。

 たしかに白い肌は見た。みたけれど逆に言えば見たのはそれだけだ。二つのおっぱいをでんとしっかりと見てしまったわけだけれど、目の前の相手がそれを持ってるとは思えない。見事にぺったんこだ。中性的ではあるけれど、あんな豊満なものをどこに隠したのかといいたいくらいである。

「うわ、まいったな。やぶ蛇なんて噂だけかと思ったけど」

 天然さんにはまいっちゃうなぁと、表情には困惑を出さずに彼はさらさらの頭をかいた。

「やぶ蛇ってどういうことです? むしろ楽屋で柔肌って……」

 その言葉の意味を掴みかねて崎ちゃんは困惑を隠せないでいる。

「いやっ。別に何もなかった。なかったよ? 本当だ」

「そのきょどりっぷりが怪しいです」

 つっかかってきたその御仁は何をどう言おうかと悩みながら、崎ちゃんとわいのわいの言い合っている。

「ふむん」

 その姿がどこかデジャブってる感じだ。この人をルイは、いや木戸は見たことがあるような気がする。

 もちろんテレビで見たわけではない、もっと昔に。

「シマちゃん?」

 ああ、と無意識に一つの名前が出た。

 ガキ大将というとあれなのだが。小学生の頃に一人、女友達とではなく男友達と遊んでいた女の子がいたことを思い出した。

 笑顔で、一緒に遊ぼうと手をかざしてくれた人でもある。

 もちろん、素直に手を握ったかといえば、木戸にそんな甲斐性はないのだが。そもそも外でわーって男子とまざって遊ぶタイプではない。小学生のころから木戸は隅っこ暮らし希望なのである。

 けれどもその一言はさすがに意外だったようで彼女は、困惑なのか嬉しいのかよくわからない表情で呟いたのだった。

「かおちゃん?」

 そうして浮かべた顔は徐々に考えるようなものになる。

 過去のことでも思い出しているのか。そうなるとこちらも困るような気がするが。とりあえず性別ばれが困るあいなさんと崎ちゃんには知られているので、その点は心強い。佐伯さんがルイと木戸の関係を知ったらどうなるだろうか。ふーんで済むかもしれない。

「でも、シマちゃん、お、んぐっ」

 そこから先は言葉にさせてもらえなかった。なぜって、シマちゃんがいきなり中指と人差し指で、こちらの唇を押さえたからだ。

 指の感触は温かくて柔らかい。キスとはまったく感触は違うのだが、それでも唇に触られるというのは不思議な感覚だ。

「ごめんごめん。幼馴染みがすっごいかわいい子になっていたからつい」

 ごちそうさま、とそのままその二本の指をちゅっと自分の唇にあてて、こちらにばっちりきまったウインクを飛ばしてくる。

「ちょ、ちょっといったいなにをしてくれちゃってんの!」

 さすがに唖然とはしたようだが、崎ちゃんはすぐに蠢をにらみつける。

「ルイもルイよ。どうしてそんなに乙女チックな顔してんのよ」

「だって、異性にくちびる奪われるの、はじめてで、頭ぽーってしちゃって」

 ほとんど無意識にくちびるの辺りを両手でおおっていた。そのしぐさはたしかに女の子っぽいのだけれどあながち間違った反応ではないだろう。間接キスというものにことさら感慨があるわけでもないが、そのしぐさが妙に色っぽくてつい見とれてしまったのだ。

 しかし、崎ちゃんったら唇を触ったくらいでこんなに驚くだなんて、お子ちゃまである。実際本当に接吻現場なんかをみたなら、赤面してゆだってしまうのではないだろうか。とても可愛らしい。

「うぅ。ひどい。ルイのバカ!」

 崎ちゃんがこのぉーと迫ってくるので、まあまあとなだめる。

 いや、でもなんで崎ちゃんがそんなに怒るのかわけがわからない。

「でもこんなところで再会するだなんて驚いたよ」

 少し落ち着いたのか、シマちゃんは改めてこちらに笑いかける。少年っぽい笑みだ。

 あちらが引っ越していなくなってから初めて会う。

 もう十年ぶりくらいじゃないだろうか。

「それはそうと、かおちゃん女の子だったんだね。あの頃はほら、すっごい男の子っぽい格好しかしてなかったから、いつも遊びにさそったりしてたけど。なるほどたしかに男の子のなかに一人入るのはきっついだろうなぁ」

 あれ? なんかしらんけれど、どうにも相手は勘違いしているようだ。

 たしかに一緒だったのは小学一年の時だけ。当時は眼鏡をかけていなかったから、素顔のままという状態で、たいてい女の子だといわれることのほうが多かった。そんなこともあって親は男の子っぽい服を着させることが多かったのだけれど。

 男女平等なんたらかんたらのために、出席簿は男女混合であいうえお順だったし、低学年となると体育だって男女一緒だ。それを思えばそこで別れてしまった相手は自分のことを女子児童だと思っていたりなんてこともあるのかもしれない。

「かおるー。いったいなにがどうなってんのよ。幼馴染みってどういうこと」

 相手が本名のほうのあだ名で呼んだから、それへの対抗なのか、あっさりと崎ちゃんはこちらの呼び名をルイから変えてくる。

「だから、幼馴染なの。小学一年の時同じクラスだった」

「そうそう。だからさっきのも挨拶みたいなもんで」

 そんなに怒らないと、なだめるもののそのセリフでさっきのことを思い出したのだろう。

 崎ちゃんがきっと相手を睨んでもう一度はっきりという。

「いくら人気アイドルだからってやっていいことと悪いことがあります。いきなり女の子のくちびる奪うなんて非常識です」

「それはかおちゃんがすっごいかわいくなってたからそれが一番の理由だね」

 もとのハスキーヴォイスでささやかれると背筋がぞくぞくする。

「そもそもルイだって男相手にでれでれして」

「いひゃ、いひゃいれす。いひゃいのやめへ」

 崎ちゃんに全力でほっぺたを引っ張られて、ぴりぴり痛みが走る。

「あれ、もしかして二人ってそういう関係? 芸能界じゃよくある話みたいだけど」

「ば、ばばばかじゃないの。なんであたしがこんなやつのこと」

 完全に声が上ずっている。はて。女同士というところで、変な噂がたてられるとか思っているのだろうか。

「ま、せっかくあったんだ。かおちゃんメアド教えてくれないかな?」

 是非、遊びにいこうと手のひらが頬に触れると、さらに崎ちゃんがヒートアップする。

 これで写真集がきちんとできるんだろうかと、不安になりながらも、メールアドレスを交換したら彼は帰っていった。

 ついに幼なじみ登場です。小学一年の頃の方。

 馨くんはさんざん自分は普通といっているけれど、これをみるに小学生のころはエレナばりですよね……声変わりしたから普通って言い張ってますけどね。

 

 さて。今回はスキャンダルなことを知ってしまったわけですが、この後もめます。その話が終わったら日常回になりますからっ。とりあえず三話分だけもめさせていただこうかとっ。そのうち一話だけちょっとR15になります。削るかとても悩ましいところだけれど、数日考えてみる。。

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