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676.学園祭公演のリハーサル1

さぁ、劇団としのさんの初? 交流です。

今回はちょっと時間なかったので短めです。

「ちょっと寒くなってきたかな」

 ふむ、とカメラを構えつつ、ぞろぞろと集まっている劇団のスタッフを遠目に撮影する。

 今日は、学園祭のイベントである劇団による演劇のリハーサルの日だ。

 講堂の前で、機材などを車から運び出している人達の姿が見えた。


「あ。かおたん先輩だ! お久しぶりですー」

「えっと、たしか、脚本志望の結理さんだっけ?」

 そして、その集団の中から一人の女性が木戸に近づいてきた。

 そんな彼女に、かおたんいうな、と一応注意しておく。

 

「そうはいっても、完全に女装してるじゃないですか。それならかおたん先輩って呼称が正しいかと」

「あの学校出身ならそうなっちゃうけど、いちおうこちらの格好の時は、東雲しので通しています」

 しのと呼んでいただければと言うと、ほへーと彼女は目を丸くしていた。

 さて。知り合いがいるのはわかっていたことだけれど、そちらと雑談するのはほどほどにしておかなければならない。


「いちおう、団長さんにご挨拶しないとなので、またあとでね」

「了解です。あ、あと澪音(れお)くんはちょっといま、着替えに行ってます」

 ちゃんと来てますから、後でかまってあげて下さいと彼女は言って荷物の搬入の手伝いに戻っていった。


「ええと……団長さん……石毛さんはと」

 ふむと、回りを見回していると、一人の男性がしのの方に向かってきた。

 この人が団長さんでいいのかな? と軽く首を傾げておく。正解なのは知ってるんだけどね。


「こんにちは! 本日は案内よろしくお願いします」

「はい。こちらこそ不手際があるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 初めまして、と挨拶をかわした相手は、以前ルイとしてお世話になったことがある石毛さんだ。

 今日はシルバーフレームの眼鏡をかけているし、ウィッグも付けていないのでかなり別人の印象は与えられていると思う。

 実際、あちらは初対面ということでのご挨拶である。


 ちなみに、リハーサルと本番のお手伝いはしのがやるけれども、事前交渉などはさすがに実行委員会で担当してもらっている。

 もちろん、演劇の仕切りだけが彼らの仕事ではないけれど、それでもしの一人で交渉までやる、というのは無理な話である。

 予算のこととかさっぱりわからないしね。


「しかし、まさか依頼が来たときは驚きましたが……直接見てみるとさらに驚くものですね」

「ああ、私の話もすでにご存じな感じですか?」

「それはもう。若干、それを理由にした公演か……と思うともやっとはしますが、うちみたいな弱小貧乏劇団としては依頼が入ること自体がありがたいので」

 もう、この際、四の五の言ってられませんと彼は言った。

 ふむ。確かに今回の企画は、彼らの劇団のことが直接大好きだ! という意見から始まったものではない。

 起点は、しのさんファンクラブの人達が、女優の男子がいる劇団ということで探してきた結果実現したことなのである。

 しのとしては演劇も好きだし、そこの役者さんの撮影も大好きなので大歓迎なのだけど、今回はよこしまな考えというものがこんもりと入っているのだ。


「うちの馬鹿達が失礼をしてすみません。でも、私は演劇のほうにも大変期待していますよ」

 その後の進化が気になりますからね、というと、おや? と彼は首を傾げた。

「以前、うちの公演を見たことがあるのですか?」

「ええと、正確に言えば澪の進化ということなのですけどね」

 最近、ちゃんと演技を見てなかったので、どれだけ成長したのか楽しみです、というと彼は、ほほう? と興味深そうにこちらを見つめてきた。


「あーー! 木戸先輩! お久しぶりです!」

「澪っちおひさー! でも、今日の案内人は東雲しのなのでよろしく」

「うわぁ、また名前増えてるんですか? なんですか七つの顔を持つ何かにでもなるつもりですか?」

「数千数万の仮面を付ける貴女に言われたくないです。それで着替えてきたっていうから、てっきり舞台衣装なのかなと思ってたけど、変わってない気がするんだけど?」

 ん? と首を傾げていうと、澪は、え? といまいちその話の内容がわかっていないようだった。

 澪の姿は、他の役者さん同様に思いっきり普段着なのである。リハーサルだから衣装までは着ないのかなと思ってたのだけど、どういうことだろうか?


「え? 知り合いなの?」

「ああ、団長。この人、私の声の師匠なのです。かなり親しいというかいろいろ面倒みてもらってるというか」

 面倒ごとを引き寄せてくれるというか、と最後一言小さめに言っていたけど、しのさんはきちんと聞き取っていますよ?

 というか、澪に関しての問題ごとというのは、あんまり木戸もルイも関係してないように思うんだけどね。どちらかというと時々シフォレでケーキ一緒に食べてわーいってしてるくらいなものだと思う。


「ほほう。そうだったんだ? それは素晴らしい」

 声の演技もばっちりというか……女性の特徴をしっかり捉えてしゃべっているという感じだね、と団長さんはざっくりそう言った。

 演技をしている人ということならではの視点なのかもしれない。


「最初のうちは一般的な女性がどういう動作をしていて、どういう動作をしていないのか、と研究しましたね。でもそこらへんは澪さんの方が詳しいんじゃないかなと思いますけど」

 声については基礎を教えたけど、女装のいろはに関してはそこまで教えたわけではない。

 演劇部として、女優としていろいろ教わって考えて育ってきているのである。


「しのさんは役者として活動しようとかいう気はないの?」

「あー、高校の頃も言われましたけど、そのつもりはないですね。というか私なんて大根ですよ大根」

 ほっこりゆで汁の中でほくほく美味しくなるだけなのです、というと、そういうもんかね、と石毛さんは言った。


「そういう切り返しを自然に女性として返せるっていうのは、すごい演技だと思うけどね」

「んー、シナリオに沿ってというのができないんですよね。演じるというよりはなりきる感じですから。そのとき思った事をベースに話をしていくって感じで」

 逆に台詞とかがあったら、なかなか難しいですというと、そういうタイプもいるかと団長は引き下がった。

 え、おまえイベントの仕切りの時は台詞があるだろっていう話だけど、あれは、カンペも見たしかなりアドリブも込みなのであんな感じに回せるだけだ。それに演技をするというのと司会をするというのでは、話が違う。自分のままで情報を発信すればいいのが、司会というやつなのだ。


「にしても、澪さんや。着替えてきたっていうのは、まさかここで女優に変えたということでしょうか?」

「う……そんなこといっても、女装で外にでるのは抵抗が」

 普段だって、現地に行って着替えているんです、と澪が答えた。

 そりゃ、前にシフォレに女装で行きましょうな時も、クロやん同様にすこし緊張していたみたいだけれども。


「それにあんまりやりすぎると、結理に怒られるんです。女優は舞台の上でだけ輝くものだーって」

「あー、そんなこともあったねぇ。あの子、このまま澪たんが女子として覚醒するのではないかーってすっごく心配してたしね」

 世の中には、男だから好きになったんじゃない! お前だからだ! という台詞があるけれど、さすがにそれがこなせるのは一部の人だけということなのだろう。

 そういえば、翅はどっちでも好き! って言ってたけどね。


「女優にはなりたいけど、女性になりたいわけではないんですけどね」

「女の子しか女優になれないだなんて、因果なもんだよね。さぁ、その因果! 断ち切るがいい!」

 ふはははっ、と笑い声を上げると、先輩やっぱ、棒ですね、大根ですねとさらっといわれた。

 うぐっ。だから演技は大根なのである。


「なんだか、ちょっと聞いていて頭がばぐりそうな会話が目の前で展開されてるが……ま、男優も女優もないって考えればいいのかな。っていうか、澪が映画とかで主演やったら、主演男優賞なのか、女優賞なのか」

「そこは、最近、男優賞、女優賞の区別やめましょうって流れも一部あるみたいですよ? ま、良い演技しましょう! っていうのが一番だとは思いますけど」

 そういう意味では最高に女性役をやりこなせるように、演技を磨くしかないのですと澪は言った。

 それこそ、そのキャラの朝食が、ご飯なのかパンなのか答えられるくらいにはね、と澪が言うと、ぐむぅと団長は押し黙った。

 当然、しのさんは、そんなやりとりをきょとんとした感じで見ているだけだ。

 

 あとあと、そういう演技だけは得意ですよね、と澪に言われたのは内緒である。

なんか、澪さんの恋愛事情ってあんまり書いてないんですけど、高校生の頃に結理さんっていうシナリオ希望の子から熱烈アタックをうけていたという事実がございまして……

一緒に劇団に来ちゃうくらいな感じなんですけど、そこらへんどうなってるのか楽しみでございます。

それと、次話もこの続きです。しのさんの服装描写次でちゃんとやるので。。


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― 新着の感想 ―
[一言] 歌舞伎の女形(おやま)、宝塚の男役、ともなんか違う気がしますが・・・ 複数の顔を持って活動するっていうと、キューティーハニーが思い浮かぶ自分は古い人間なんだろうか・・
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