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675.さくらさんと田舎周り4

友達と思い出話ができるっていいですね

「高い! すごい! 景色がすごい!」

「語彙力w」

 さて、高台にある神社に顔を出すと、眼下には銀香町の景色が広がっている。

 銀杏の姿も見えるし、学校なんかもここからだと見下ろせるのである。


「人は感動しすぎると言葉がおぼつかなくなる現象というモノがありましてね」

「あんた、これだけ頻繁に来てて、そうなるの?」

 ん? とさくらに呆れた声を出されたものの、この時期の銀香町はルイが大好きな一場面というやつである。

 そこらへんは、語彙力がおかしくなるくらいに、わーいとなっておく方がいいのではないかと思う。


「いちおうは、お参りをしてからにしましょうか」

「そして、すぐに切り替えるこの感じ……」

「そこはほら、この景色の素晴らしさを表現するための、新しい手法といいますか」

「はぁ。そういうのは写真で見せればいいでしょう?」

 ま、言わなくても撮ってるだろうけど、とさくらは肩をすくめた。

 そして、財布から小銭を取り出すと賽銭箱に入れる。チャリンというよりは、ごろんというような音が鳴った。


「なんだか、この季節にお参りってのも新鮮かも」

 ぱんぱんと手を叩きながら、さくらが神妙な声でそう言った。

 

「一般的には、お正月に来ることが多いしね。ちなみにあたしが前に来たのは雪が降った日の朝です」

「ぬなっ。それはなんというか、すっごくきれいだったのでは?」

「すごかったよー。町中白くきらきらしてて、朝日がそこに差し込んで、なにこれ! みたいな感じで」

 新しい町の景色が見れて大変満足です、というと、ぐぬぬと、さくらは悔しがった。


「あれ? 朝日って事はバイクかなんかできたってこと?」

 確か免許は取ったのよね? とさくらが首を傾げてきいてきた。

 バイクか、と、ちょっとルイもいろいろと考える。

 一般的なかっこいいバイクとなると専門に免許を取らなければいけないけど、スクーターなら普通自動車免許でも乗れるのである。そういうの使って、お出かけをしてみるのもありなのかもしれない。

 え? 運転中はちゃんとよそ見しないで集中しますよ?

 

「免許は取ったけど友達と海に行ったときに乗ったくらいかな。家の車はこっちのかっこだと使わせてもらえないし」

「へぇ。相変わらずご家族は、あんたの事は認めてないというわけね」

「絶賛放任中! かな。ふらふらしてもう、って感じみたい」

 ふらふらしてないで、どっちかにしなさいって言われるというと、あー、まあ普通はそうかもね、とさくらは言った。


「ころころ性別変えてる人なんて世の中にそう居るものじゃないし。そもそもそれができるっていうのが、どういうことなの? って感じじゃないの?」

「んー、でも身近に割といるよね? そういう子」

「エレナたんとかは、確かにそうなんだけど、少なくとも親世代だと珍しいんじゃないの?」

「あー。たしかになぁ。いづもさんとかいっつも、あんたらうらやまっ! って言ってるし、性別を一方向に変えるだけで大変だった時代なのかも」

「そういうこと。あ、でも、いづもさんの前で親世代って言ったら全力で泣かれるから、気を付けてね」

 女性に年齢の話と年代の話をするのは、やぼってもんですぜ、とさくらは言った。


「で、話を戻すけど、バイクでも車でもないってことは、まさか自転車? あんたんちから結構ここまであると思うけど」

「あー、っと、千紗さんちに泊めてもらいました」

 言うまでもなく、コロッケのおばちゃんちね、というと、さくらは、はぁ!? と驚きの声を上げた。おまけに、え? ええ? とさくらは驚いた声を上げている。

 いや、おばちゃんが泊って良いよっていうんだもん。そりゃ泊るでしょうに。お友達のお家にご案内ですよ。


「いろいろな事情説明みたいなところもあったんだけど、遊びにおいでー、あいよーみたいな感じで」

「千紗さんって、あんたの状態っていうか、そういうの知ってるのよね?」

「おばちゃんは知らないけど、まぁ千紗さんは知ってるね」

 割と初期のころというか、高校の修学旅行の時に知り合ったお相手だからね、というと、さくらはずいぶんと昔なじみ、と驚いていた。


 といっても、ルイ=木戸というのは初期の頃の人間の方が、知っている可能性が高いというのも事実である。

 芸能関係で追い回されてから、性別の件を公にできないようになっただけで、最初の頃はむしろ気づかれそうになったら自分から明かしていたくらいである。青木には言わないけども。内緒だけども。

 HAOTO事件の時は自ら名乗り出ようとしたけれども、いろんな方面から怒られた。それは軽率だの、人生を壊す気かだの。

 多くの人間の夢も壊す行為だ、とも諭されたのである。


「千紗さんもなー。活動的なレイヤーさんだから、そりゃルイのこと大好きなんだろうけど。家に泊めるってのはどうなんだろうか」

「一緒に旅行に行った仲だというのに、さくらさんがあたしに塩対応だ……」

 友達の家に行くくらい普通のことでは? というとあー、まぁそうなんだけどねぇ、とさくらは複雑そうな顔を浮べた。


「私の中ではルイはルイで、木戸くんはモブのMなわけよ。結構あんたと一緒に活動している期間が長いから、なんとなーく普通に女友達に思っていたわけで」

「生理用品ないかって聞かれたこともあったしね」

 そういう風に思ってるだろうとは思っていました、というとさくらは、こほんと咳払いをした。


「それでさ、春先にうちの写真館のメンバーと旅行に行ったでしょ? そのときに……あー、えっと。うちのボスがね。あんたがルイだろって見破ったわけよ。それからなんというか、もやもやするというか」

 実際、最近あんまり一緒に活動してなかったってのもあったし、意識の中でこう、ルイって結局なんだったっけ? みたいなのがもやもやしちゃってとさくらは困ったような顔を浮べる。夏に海でばったり会ったときはそこまで長時間一緒に撮影したわけではないし。

「え? いま、なんと?」

「だから、石倉さんがあんたのことを見抜いてたよってね」

「まじか……次会ったとき、どんな反応されるのか、怖いなぁ」

 石倉さんは相手が男か女かで顕著に反応を変える人だ。ルイに対してはちょっと意地悪で、木戸に対してはダダ甘である。

 それが同一人物だとわかったのなら、果たしてどうなるのだろうか。


「んー、ま、あの人はカメラマン相手だと性別関係ないから、たぶん普通に話してくれるんじゃない?」

 最近、あたしにもそんな感じだし、とさくらはふんすと胸を張った。

 なるほど、さくらもあれからしっかりと育っているらしい。


「それで? 今日実際、一緒に撮影回ってみて、その印象はどうなりました?」

「んー、朝はちょっといろいろ意識はしたけど、やっぱりあんたはあんただわ……」

 いろんな情報が入ったけど、やっぱり、あんたはあの(、、)ルイだとさくらは言った。

 どのルイだよ、と思うのだけど、彼女的にはその前のわちゃわちゃしたイメージの産物より、実際に会った方が納得ができるらしい。 


「考えるより感じろって言葉があるから、そういうことなのかな。一緒に活動すれば意識が上書きされるというか。やっぱり頻繁に撮影会したほうがいいんじゃないの?」

 ほれ? 是非ともわいわい撮影しようよー! というと、んー、んー、とさくらは悩ましげな声を上げた。


「……ほら、あたしが石倉さんのところに行ってからちょっとギクシャクというか、疎遠というか……ね」

「でも、今回ご一緒なのは、それがなくなったって事なんでしょう?」

「ま、別にあんたとの交流を禁止されてたわけじゃないのよ? ほら、春先は忙しそうだったってのもあったし、さそえないなーって」

「それは、本当に申し訳ない」

 はい。さーせん。スケジュールの調整とか難しくて、一人で撮影に出ることも多かったです。 

 夏のイベントだって、今年はそこまで参加できていない。それこそ小さな会場でやったオンリーイベントくらいなものだ。


「来年! 来年はきっと、いろんなイベントにいっても、ルイさんだー! わーいな人しかいないと信じている!」

「人の噂も七十五日っていうしね。でも、そろそろそれくらいになりそうだけど」

 最近は、テレビでもあの話題は過去のものになってて、どんどん新しいスキャンダルが流れているしね、というと、まあそういう業界なんでしょうね、とさくらは肩をすくめた。


「そういえば、考えるより感じろで思い出したけど、さくらにはお正月に聖地巡礼してきた話ってしたっけ?」

「え? そうなの? 女子会の時は聞かなかったような気がするけど」

 あのときはコスROMのほうばっかりみてたし、といわれてそうだっけなぁとルイは思い出す。

 その中には、聖地をモチーフにしたものもあったのだけど、そのときは実家の話はスルーしたのだった。


「もともと、お正月に父方の実家に行ってきたんだけど、そこがほら、エレナが巫女さんのコスやったところの聖地でね」

「あー! 男の娘が巫女さんやってるってやつよね。ほー! まさかの親戚のおうちって感じかぁ」

「昔、健たちが一時期過ごしてたところでもあるんだけどね」

「クロくんたちね。でも、聖地っていっても背景とかそういうやつでしょう?」

 あの曰く付きの大きな岩みたいなやつ、とさくらが言うものの、ルイはあまいですぜ、とにまりと笑ってみせる。


「あそこは、巫女さんもちゃんと男の娘でね。とある理由で女装させられて生活しているのです」

「まじか……」

「宗教と女装は親和性高いってことですよー」

「禁止してるところもありそうだけどね」

 でも、そういう町もあるのかーと、さくらは何かを思ったようだった。


「ちょっと特別というか、学校でも女子制服を着用しちゃってOKみたいな感じになっててね。お正月の段階だと特別扱いすぎて、親しい友達いませんみたいな感じだったみたいなんだけども……」

「そこをあんたがなにかやらかした、と」

「あの町、巫女様にあやかって孫を女装させるじじいどもが多いんですよ……」

 クロやんも被害者ですというと、あら、でも嫌がらなさそうとさくらは言った。

 でも、当時は女装レイヤーじゃなかったわけだし、やだ……やだったら、じーちゃんとか言いながら、振り袖着せられてたんじゃないかなと思う。うん、かわいい。

 木戸は姉たちに反対はしなかったけど、クロの性格だと嫌がりそうである。今もレイヤーとしての女装はOKでも、町中でというのはちょっとという感じなわけだし。


「それで、女装な友達を巫女様に献上してあげて、学校でもちょっとずつ友達が増えてるっていう話でございました」

 修学旅行は大部屋でみんなで泊まれるかもね、というと、ん? とさくらは首をかしげた。

「巫女様って普段は女子の格好なのよね? あんたみたいに男装してるわけじゃなくて」

「男装て……まあでも、はい。女子です」

「その子は、男子部屋なの? 女子部屋なの?」

 ん? この場合、どうなるの? とさくらが首をかしげている。

 まあ、こうなるから職員と一緒にというような話がでていたわけだけど。


「女装はしてるけど、お役目のためだからね。あの子はいちおうノーマルなはずだよ。だから男子部屋でいいんじゃないかな?」

「男子部屋で男装状態なのにトラブルを起こしたやつが、目の前にいるんだけど?」

 だいじょうぶなの? それは、とさくらさんがやたらと真剣に心配してくれている。


「あー、まぁそこはお友達がどれだけ増えるかって感じじゃない? エレナみたいに姫プレイ状態になってればみんな紳士的に対応するだろうし」

 あたしだって、あのアホが変なことしなかったら大丈夫だったんだから! とルイは拳を握りしめる。

 せっかくのお風呂が。お風呂が!


「それに巫女様に手を出したら村八分になるのはみんなわかってるはずなので」

 わかっていてもやってしまうのが、男のサガだ! とかは思いませんからというと、あー、うん、はいはいとさくらに軽く流されてしまった。


「でも、巫女様かぁ……ちょっと巫女服はいいものだなと思います」

「コスプレっぽく見えちゃうしね。実際、レイヤーさんでも巫女服キャラのコスもいるしね」

「そうそう。冬のイベントでもたぶんそれなりにいると思うから、是非とも冬はイベント参加ね? 来年だなんて言わずに」

「わかっております。早めに行きたいのは確かだし、その頃になればきっといけるようになると信じたいので」

 約束しておきましょう、というと、さくらは楽しみにしてるからね! といい笑顔をふりまいてくれた。


「さてと。おしゃべりはこれくらいにして、撮影にはいりましょうかね。こっちはこっちで撮るものいっぱいだし」

「町の景色が一望できるスポットとかもあるからね」

 是非とも、撮りましょー! と二人でテンションを上げながら撮影が始まった。

 やっぱり二人での撮影は楽しくて。

 かなりの枚数を撮ってしまったことは、予想通りの結果なのだった。

 神社で語るといったら、巫女さまでしょーって思っていたらさくらさんのほうに文字数がさかれましたとさ。あっちはあっちでepでやれるとよいですね。。

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― 新着の感想 ―
[一言] 巫女さん、振袖クロやん、ぎゃあああ。という感じで語彙力を喪失しました。和装も好きです。 男の娘巫女様と高校生活という時点で天国なのに、手を出すなんて・・・けしからん! ルイさんみたいに全身…
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