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673.さくらさんと田舎周り2

「おばちゃーん! コロッケくださいなー」

「はいはいっ。おお、ルイちゃん。それにさくらちゃんも。久しぶりだねぇ」

 二人一緒は珍しいねぇと、コロッケ屋のおばちゃんはにこりといい顔をしてくれた。


 少し前に腰を痛めて入院をしていたおばちゃんだけど、今ではもうすっかり退院して、働いているようだ。

 重いものは小分けにして運ぶようにしたとかで、大量のジャガイモは千紗さんが手伝っていたりもするらしい。

 あの人、結局今なにしてるんだろう。今年になってからあんまり絡んでないから、実はどうなったのかってのはあんまり聞いてない。

 というか、あえてプライベートな進路とかは、ぽろっとイベント撮影時なんかにこぼすものであって、あえて教えてくれるものでもないしね。

 ルイのほうも春の濃密なイベントと姉の結婚式でわたわたしたので、今年になってからあまり会えてないというのもあるのだった。


「ちょっとルイが最近へこんでるっていうので、久しぶりに撮影会しよーってなったんです。なので、ぜひとも牛すじコロッケを!」

「おおっ。今日は作ってる日でよかった。ええと、ルイちゃんはどうする?」

「んー、クリームコロッケあるなら、それを」

 よろしくです、といいつつシャッターを切る。

 正面の顔は撮るのは確定でも、働いている姿というのもまた味があるものである。


「なんか、安心しますね。おばちゃんがこうしてお店にいてくれると」

 日常に戻ってきた感じ、というとそういってくれると頑張らなきゃって思うねぇとおばちゃんは言ってくれた。


「故郷の味ってやつ?」

「それもあるけど、おばちゃん腰痛めてしばらくお店しまってたからさ」

 そういう意味でも再開してよかったなって話、というと、えええぇっ、とさくらが驚きの声を上げた。


「それ、大丈夫なんですか?」

「まぁー、ちょっと年取ったなぁって思ったけど、今は大丈夫よ」

 はいよー、とおばちゃんがさくらにコロッケを渡した。

 湯気がたっていてほっかほかである。


「無理しなければ大丈夫ってくらいみたいだけどね」

 ありがとうございます、といいつつルイもクリームコロッケを受け取る。

 その代わり、小銭を渡す。

 一個だけなのでかなりお安いのだけど、買い食いなのでこんなもんである。

 というか、この町で買い食いできるお店があまりない、というのもあるけれども。

 都会と違って、食べ歩きができる町ではないのだ。


「あんまり無理しないでくださいよ? この町で貴重なお店ですし」

 居酒屋と飯屋さんはあるけど、おやつがいただける場所は貴重です、というとおばちゃんは、あーそうねぇーと目を細めた。

「私が嫁いだころには、おやつとか軽食って感じのお店もあったんだけどねぇ……隣の町にスーパーができてからはぱったりって感じかね」

「へぇ。昔は駄菓子屋とかもあったんです?」

 ふむ、とルイは顎に手を当てながら尋ねる。

 エレナに薦められて見たアニメに、駄菓子屋が出てきていたんだけど、そういえば行ったことないなぁなんて思っていたのである。

 駄菓子といえば、最近の子供にとってみれば、コンビニやスーパーで買うものというイメージのものなのだ。


「一軒やってたかなぁ。でもかなりご高齢のご夫婦が趣味でやってるようなところでね。駄菓子がおいてあるのと、あともんじゃ焼きの台があって、そこでおやつって感じで」

「おおっ、もんじゃいいですね。最近だとおやつっていうか主食って感じですが」

「昔は、小麦粉といてネギいれてくらいでおやつだったころもあったんだよ。あとは駄菓子トッピングしたりとかね」

「へぇ。もんじゃはいまでもインスタント麺入れたりしますもんね」

 そういうB級グルメもいいなぁとルイは、ちょっと思考を巡らせる。

 あの咲宮の焼きそば小僧こと、沙紀矢くんにもんじゃを食べてもらったら果たしてどういう感想になるのだろうか。

 さすがに、ラーメン以上に食べたことがない料理なのではないだろうか。

 下町の味を伝えるのは、ルイの使命みたいなものだ。


「なんなら、今度千紗もいれて、おばちゃんちでもんじゃパーティーでもやるかい?」

「旦那さん、大丈夫なんですか?」

「ああ、平気平気。っていうか良い豚バラ仕入れてもらうようにするから」

 おばちゃんはニヤリと良い顔をして言うけど、その平気っていうのは果たしてどちらの意味でなのだろうか。ご挨拶したほうがいいのであれば、その流れからのもんじゃというのはできるだろうけれども。

「それに関しては千紗さんと連絡をしあってって感じになりますかね」

 自宅でもんじゃパーティーというのは楽しみですというと、ちらりとさくらもいいなぁーというような顔をしていた。


「じゃあさくらもそのときは同席ね。部外者があたしだけだとちょっと怖いので」

 一緒に練り物を食べましょうと腕をつかんでいうと、お、おうとさくらが答えた。

 急に腕をさわったのがよくなかっただろうか。

 別に、友達同士でからだが触れるのは良くあることだし、今までもそれなりにさわったり、さわられたりしてきたような気がするのだが。


「ほほぅ、さくらさんとしては彼氏と一緒に鉄板を囲みたいとかそういうことですか」

「だーっ! 違いますー! 前に、あいなさんに連れられて行ったときの惨状が思い出されただけですぅー」

 あのときは、ほんと、たいへん、だった、とさくらは遠い目をして言った。

 ああ、あいなさん酒癖悪いから、それでいろんな意味で残念な会になってしまったのか。


「一緒に撮影にいくのはいいんだけど、もうちょっとお酒抑えて欲しいよね。まだ二十代だっていうのに」

「ルイも犠牲者か……うん。あれを見て、私は酔っ払いにはならんと決意をしたよ!」

「弟くんの犠牲話もわんさか聞いています」

 別に晴らすウサがどこにあるのか……と二人でいうと、おばちゃんは、あぁとちょっと納得顔だった。


「他人から上手く行ってるって思えても、実際その当人が悩むことはあるんじゃないかい? うちなんかは、よそ様からは上手く行ってるって思われてるけど、実際、どうなのかなぁとは思うし」

「おばちゃん的には、もっと大きなお店で、チェーン展開してコロッケ売りたいと?」

 ん? と首を傾げて言うと、おばちゃんはどうしてそういう発想なのー!? と頭を抱えていた。

 いや。そうはいってもお互い、バックグラウンドが違うので、それだけでおばちゃんの理想とか後悔は想像できないです、はい。ルイ的な発想だと現状じゃ我慢しきれませんぜってことかと思ったのだけど。


「仕事じゃなくて、家庭の話なんだよねぇ。二人の子供は立派に育って、みたいな感じで周りに言われるの。でも下の子はまだまだ学生してるし、千紗にしたって最近ようやくお店を手伝ってくれるようになったっていうか」

「そういえば、千紗さんとは仲良しですけど、妹ちゃんとは会ったことないですね」

「あの子は、その……ゲームにどっぷり漬かっているのさ。ēスポーツ! とかいってね」

 どうしてうちの子供たちは、特殊なのだろうとおばちゃんはとても心配そうだった。

 そんな姿を見てさくらが口を開く。


「ジェネレーションギャップかもしれないですけど、最近はēスポーツはかなり健全な方だって言いますよ。それに特殊というかチャレンジャーって思えばいいと思うんです」

「千紗もコスプレ? にどっぷりだし」

「その件につきましては、我々も撮りに行っているのでなんともですが……」

「自立してれば、問題ないと思いますよ? うちではよく言われるんですけど、自分で稼いで自分で生活できれば、趣味で何をやってもいいって」

 カメラマンになろうっていうのは、父はちょっと渋い顔をしましたけど、と苦笑を浮かべると、え? そうなのかい? とおばちゃんは思いきり驚いていた。


「こちらにもいろいろとありましてね……それより、おばちゃん! 駄菓子屋の話に戻しましょう! おばちゃんの幼いころってやっぱり、そういうところに行ったりとかあったんですか?」

「そうねぇ。もう四十年以上前の話になってしまうけど。私が生まれ育ったところにもあったよ? そこはそれこそうちの店より狭いところでね。そこにぎっしりお菓子が詰まってて、そこに子供がお金握って遊びにいくって感じで」

「へぇ。なんか発掘って感じで面白そうですね」

「実際、何を買おうかってわくわくしながら、探したよ。特に遠足の時なんかは、300円まで! とか言われてその中に入るように考えたもんだよ」

 かなり昔の話だね、とおばちゃんは少し恥ずかしそうに言った。

 当時は、バナナはおやつにはいりますか!? なんていうテンプレートもあったそうで、300円枠のおやつ購入は一つのイベントだったのだという。

 

 ちなみにルイたちも幼いころの遠足におやつを持っていくというイベントはあった。

 駄菓子屋がなくなっても、お菓子はスーパーやコンビニで販売しているのである。


「おやつは300円まで、ってところで、あんたがどんなものを買っていたのかちょっと気になる」

「うちは、食べきれる量でってことだったから、食べたいもの中心かな。今みたいにコミュ力が高いわけでもなかったし」

 さーせん、アホな子でしたというと、あ、ああ、とさくらは何かを察したようにしあさっての方を見ながら、はむりとコロッケをほおばった。

 あれ? それだけで察するってどういうことなんでしょうか。


「あらあら。ルイちゃんの小学生の頃の話はおばちゃんもちょっと聞きたいかも。さぞかしかわいらしい子だったんだろうねぇ」

「んー、どうなんでしょう? 今とは全く違ったので……」

「ん? かわいいは正義って感じで、お姉さんたちの着せ替え人形になってたんじゃなかったっけ?」

 しかも、あんまり嫌がらずに、とさくらはにんまり言って、はふはふコロッケを口に入れていく。

 最高級品の牛すじがおいしいのか、とても幸せそうな表情である。


「あの頃は、なんというか、割とぼーっとしてた感じだったかもしれないですね。やることはやるほうではあったんですけど、周りとはそこまで親しくやってたわけではないですし」

 ほんと、中学生くらいまではアホな子だったんですよー、というと、おばちゃんは信じられないという顔をした。

 そうはいっても、ほいほい姉たちの玩具になっていたことを考えると、それは正しいのだろうと思う。

 

「でも、アホな子ってことなら、今も変わらないんじゃないの?」

 ねぇ、ルイ先生? とぺろりと人差し指をなめながら、さくらがにまにましてくる。

 いや。今はアホとはさすがに言われるのはどうなんだろうか。


「これでも顧問をやってるので、アホではないと思いたい」

「学力というか、判断基準がアホなのよね、あんたは。無鉄砲というか危なっかしいというか」

「えー、これでもいろいろ自衛はしてるつもりだよ? 満員電車にのらない、とかさ」

 最近はあんまり痴漢に遭いません、というと、そんなに頻繁にやられてたまるかいっ、とさくらのつっこみが入った。


「無鉄砲ってことについては、おばちゃんもちょっと心配になるねぇ。ほら、テレビにでるくらいにはやらかしてるからさ」

 千紗は大丈夫だってと緩く言ってたけど、おばちゃんあれ見て腰を抜かしそうになったよと、言った。

「って、それが原因で腰やられたわけじゃないですよね?」

「あはは。もちろんさ。重い荷物を持ってぐきっとやっただけだから」

 ルイちゃんのは文字通り驚いただけと、おばちゃんはフォローをいれてくれる。

 いや、うん。さすがに春先のHAOTO事件はお茶の間でもやってしまったし、見てる人は見てるのである。


「いちおう、芸能関係のスキャンダルは今後はあまりない……と思います。原因は薙ぎ払ったし」

「薙ぎ払うってすごいわよね。でも、あ、なんでもない」

 うん。気にしないで? とさくらがちらりと何かを思い出して口を閉ざした。

 さすがに、円卓会議の話をするわけにもいかない。


「それで二人とも、今日はどうするんだい?」

「これから、町を回って撮影ですね。いつも通り大銀杏と……場合によっては神社かな」

 階段を上るのはちょっと大変ですが、と言うと、あー、あそこねーとおばちゃんは納得したようだった。

 銀香町観光案内にも載っている場所で、ルイが頻繁に訪れる場所として裏マップの方にも載っている場所なのである。

 もちろん、時間があればいかないという手はない。


「順番的には、大銀杏、お昼ご飯、神社って流れ?」

「そうだね。そのあとは居酒屋に行って酔っ払いさんになります?」

「ならんです」

 そこは見習わないのですーと、さくらが言ってコロッケの包み紙をくしゃっとつぶした。

 ルイもクリームコロッケを食べ終えて、ウェットティッシュで指をふきふきしているところだ。


「ま、今日は夕焼け撮って解散みたいな感じかな」

「その時にテンション高かったら、反省会でいいんじゃないの?」

 とりあえずは、大銀杏様にご挨拶にいこう! とさくらがカメラを握った。

 そういうことなら、反省会ができるようにたくさん撮ろうではないか。


「気を付けていっておいで。あまり危険はないと思うけど」

 おばちゃんに見送られながら、こうして二人の撮影会は始まったのだった。

この町だったら、ここにいかないとね! ということで懐かしのお店に!

ここは全体的に過去話の補填というか、そんな感じで考えています。

しかし、かおたんの小さいころか……ショタ少年も、いい……じゅるり。

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― 新着の感想 ―
[一言] さくらさんは石倉さんとのやり取りでルイ=馨を意識してしまっているという感じでしょうか。 さくらさんは意外と馨君のことは男性として意識してるフシがありますね。 ショタかおたんはもはやショタで…
[一言] 一回でいいから酔っぱらいかおたん見てみたい……どんな酔い方をするのか……
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