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669.青木さんがおろおろしているようです4

「悲報、彼氏がVTuverだった件について!」

 ばばん! と話を始めると、下におりてきた青木は、すさまじく嫌そうな顔をしていた。

 

 それ、さっきもやっただろ? というのはあるだろうが、残念ながら、友人が彼氏に変わっているわけである。

 そして、その彼女さんは木戸家のリビングにいるわけなのだ。

 妹さんはドールさんを抱っこしながら、じぃーと青木を見ている。


「言っとくけど、我が家でけんか腰はなし。それと、お茶が切れたら言うこと。というかイラッとしたら、お茶! と是非言いましょう」

 この俺が自ら給仕いたしましょうというと、女性陣はなんかスミマセンとぺこりと頭を下げた。

 青木だけは、ん? お茶? というはてな顔である。


 そもそも、なんでココに呼ばれたのかもわからない! というような青木のテーブルの前には、実はほうじ茶が置かれているのだけど、これは何茶が良いか確認をした上でのチョイスである。本人はまったくもって、どうしてここでこうなっているのか、全然わからない状態なのだ。


「まず、当事者同士でやりあうのは後にして。現状理解として俺から説明するよ。青木は女声の歌を世間にアップするために女性アバターを使った。本人がいうには説明する部分が男なのは、違和感すげぇーから、そっちもボイチェンとアバターで女子で統一しました、ということらしい」

 これで間違いはないか? というと、青木は素直にうんとうなずいて、お茶をふーふーしはじめた。


「おつぎ、千歳は彼氏が、VTuberとして美少女受肉していて、おめー、なにやってんだよこのやろー! しかも歌くっそうまいだろー! まじきも、うわやば、やってらんねー! っていうか、自分より歌上手いとか、もう、おわた……もやー、という感じで?」

「異議あり!」

 びしっ、と、千歳から手を上げられて、はいどうぞ千歳さんと指名をする。

 ああ、はいはい。ここはちゃんと、本人の声を届ける場所。

 特に、よくわかってない青木に、千歳の言葉を届けることが大切な場所だ。

 断罪ENDも、世の中にあるのだろうとは思うのだけど、個人的には、木戸としても二人には上手くいって欲しいのである。


「木戸先輩の言い方には悪意が感じられます。確かに信さんが美少女受肉していたのを見た時、ショックは受けましたけど、歌は素敵だったと思います」

 羨ましいというよりちょっと聞き入っちゃった感じというか、というと、だろー!? と青木はドヤ顔をした。

 どうにもこれからイチャイチャタイムが始まるのでは!? というような感じである。


「むぅ。お姉ちゃん甘過ぎ。青木さんと話するために、乗り込んだのにあっさり許しちゃダメだと思うな」

「そうはいっても、ほら、悪い事してるわけじゃないわけでしょ?」

 そりゃ、そこから浮気したとかだったら怒るけど、と千歳は言う。先ほどの木戸の説得でかなり気分は軟化したようだ。

 彼女の不安っていうか、不満みたいなものは、性別を変える行為そのものに向けられていたからね。

 単なる女装ですよとわかれば、納得もしやすいのではないだろうか。


「でも……青木さんは、ああいうアバターに憧れたりしないんですか? その、リアルでもああいう格好したい、とかは?」

「んや。千恵ちゃんさすがにそれはなぁ。やるならそれこそ着ぐるみみたいな感じで、中にボイスチェンジャーつけて、口当たりのところからスピーカーをつけないと無理じゃん?」

 最近のゆるキャラはしゃべるのですといいつつ、でもそれって美少女受肉じゃなくね? と青木は言った。

 もちろんその通りである。


「木戸先輩としては、どうなんです?」

「やってやれなくはないだろうけど、まずはお肌のケアをしつつ、日常会話をしっかり女声だせるように努力してもらって、半年コースでどうだろうか?」

「ちょっ! どうだろうかではないですよ。なにあっさりとお姉ちゃんの彼氏を女装の道に進ませようとしてますか、このカメラ馬鹿はっ」

「やー、カメラは関係ないじゃーん。っていうか、青木はその気はないよな?」

 どうよ? 親友と矛先を青木に向けると、彼は、まぁなあとちょっと考えながら言った。 


「まあ、そだな。バーチャルで受肉して動かすのは楽しいけど、なんつーかあれって創作物みたいな感じっていうかさ。特に歌を自然に聴いてもらうためにやってるってのがでかいからさ。リアルで女子やろうっていう気はないな」

 つーか、払う努力と結果が見合わないだろ、と青木はあっさり言った。

 うん。それでもやりたい人はその努力を払うわけなのだが、青木にそういう願望はないらしい。


「だ、そうだけど? ちーちゃんからなにかご意見は?」

「私は……そうですね。歌はその、一緒に居るときも歌ってくれると嬉しいなって」

 二人きりの時とかに、といいつつ千歳はほっぺたを赤くしていた。うん、可愛いから撮ります。


「うぅ。お姉ちゃんが青木さんにベタ甘すぎる……私はまだ許してないですからね」

「えぇー。千恵ちゃん的にはどこらへんが不満なんだ?」

「なんというか……うー、ああ、そうだ!」

 円満解決に全力で進んでいるところで、千恵ちゃんは一人、反撃の機会を手に入れたようだった。


「ほらっ! コメント欄結構女性の書き込みもありますし! ここから発展して浮気になるとかそういうのは!?」

「……うーん。いちおう俺、千歳一筋だよ、今は」

「今は、ですか……」

「そこは、信さんは誠実だと思うし、千恵もそんな顔しないの」

 浮気とか信さんはしないよ、と千歳はあっさりと言い切った。仲良くやってるから大丈夫、とでも言いたいらしい。


「コメント欄のメッセージくらいなら、別に大丈夫です。ルイさんが出てきて信さんをユーワクするとかになってくると、焦りますけど」

 さすがに太刀打ちできるか、微妙ですと千歳がチラリと木戸に視線を向けた。

 いや、そんなに怯えなくても、彼氏を取ったりはしませんって。撮ったりはするけど。

 そんなやりとりをしていたら、十時を告げるアラームが鳴った。

 母さんがセットしていったもので、あんまり遅くにならないように、という配慮だそうだ。

 

「千恵ちゃんは青木がアホやらかすんじゃないか心配で、青木は問題ないという感じかな。だとしたらいい案があるんだけど、どうだろう?」

 聞く? と三人に言うと、どういう提案でしょうか、と千歳が首を傾げた。

 三人が上手くやっていける名案である。是非とも話に乗って欲しいものだと、木戸は口を開いた。




 数週間後。

 タブレットで動画をチェックすると、その動画は結構な視聴回数を稼いでいた。

「なかなかアバターの方はいいできかなぁ」

 ぬるぬる動く2Dのアバターが、二体ほど増えていた。

 青木が使ってる美少女の隣には、新キャラが居るのである。


「演技もなかなか。ちょっとちーちゃんが固いかもしれないけども」

 初めてにしてはなかなかではないだろうか、というしゃべりだと思う。

 さて。木戸が考えた三人が上手くやっていける作戦は、ずばり、「浮気を疑うなら一緒に居ればいいじゃないプラン」なのだった。

 千歳はもっと青木の歌を聴きたいわけだし、千恵ちゃんは青木を監視したいわけだから、これが最適解なのではないかと思ったのだ。


 初回のタイトルはこれ。

『美少女受肉した俺、それが彼女にばれて、共演することになりました』

 初回は、三人での掛け合いの時間がちょっと長め。

 

 お話としては、最初に青木のアバターが、(><)な顔をしながら、彼女にばれたーと言うところからスタートしている。

 そして、そんな青木に、千歳のアバターがじぃーっと視線を向けるのである。


「別に内緒にしてたわけじゃなくて、その……言い出す機会がなかったといいますか」

「ほんとに、あなたはダメダメですね。こういう楽しい事するなら、巻き込んでくれなきゃ」

 困ります、えへへと千歳のアバターが言う。

 コメントには、可愛いw、彼女可愛いと声が並んでいった。

 え、この子も男なの? というコメントもちらちら出ているけれど、牽制する形で、青木は言った。


「ちなみに、私はトークは声変えてるけど、こいつは素の声なので! 変な誤解しないように!」

「そうです。うちの姉は可愛いのです。その相手が美少女受肉してるだなんて、本当に悪夢でしかない……」

 最後にひょこっと表れたのは、千恵ちゃんのアバターである。

 それがその……本人の依頼通りのできにはなってるのだけど、なんと美少年眼鏡キャラなのだった。


 ええ。はい。木戸さんのモブ眼鏡とは違う、とてもショタっぽい感じの眼鏡なのだった。

 しかも半ズボン装備である。

 声はというと声変わりしたて、くらいの感じとでもいえばいいだろうか。

 まだまだ少年っぽさを残している感じが、むしろ可愛らしいとすら思う。

 これの調整、けっこう大変だったんじゃないかな。演技の練習もしないといけなかっただろうし。


「そういう妹氏もどうしてその受肉になったのかなぁ?」

「女性三人のアバターでは、変な虫がつくかもしれませんからね。うちの姉は可愛いので変な虫がつくかも知れませんし」

 ああ、虫ならそこにいましたか、と冷たい視線を青木のアバターに向ける。

 あ、この前話し合いしたときみたいな表情で、思い切りこの子、千恵ちゃんじゃんというのがわかる。

 毒舌ショタっ子爆誕である。

 

「うぅ。虫じゃないしー。もう、あんまりしゃべってると時間なくなるから、歌いっちゃうよ」

 感想はあとで受け付けます、といいつつ歌パートに切り替る。

 この場面もちょっと前の、一人オンステージみたいな感じとは違って、千歳達が観客役をやっているような状態だ。

 先ほどまでは正面の絵だったけど、思いっきり後ろ姿なのである。

 あまりこういう動画だと背中側は作ってないことが多いと思うけど、二人は視聴者でもあるということで、この作り込みなのである。


 歌を聴いてる内は、二人の反応は自由にやっているらしい。肩を軽く揺らしてたり、千歳の方はかなりのりのりだ。

 千恵ちゃんの方は、最初腕を組みながら見ているけど、だんだん歌が佳境になっていくと、わずかに体を動かし始める。

 べ、別に、あなたの歌がすごいだなんて思っていないんだからねっ! とでも言いたい感じが伝わってくる。


 そして、歌が終わってから、ぷち感想大会という感じで締めくくりである。

 三人でやるにはいいバランスがとれているなと木戸は思っている。


 ちなみに感想はというと、彼女wwwとか、おお、尊い! とか、彼女? え、ついてるの?(どきどき)とかあったけれども、千歳の生声を聞いてると女性のそれにしか聞えないので、ついてる疑惑は割と早めに鎮火した。

 まあ、もう半年もしたら、ポロリと取れるよ! ということなので鎮火してくれてなによりだ。


 そしてあとは……なにげに毒舌ショタっこの人気がめちゃくちゃあって、女性のチャンネル登録者の方が増えたというのは、補則事項だろうか。

 なんにせよ、三人楽しく活動できるならそれに越したことは無い。

 

 え、サムネは木戸さんが撮るんじゃないのかって? 残念ながらそっちもCGなので出る幕はあまりないのでした。

 外の画面でばーんと、やる方向になるなら、是非ともという話をしているのだけど。

 今のところは、そっとしておこうと、木戸は思ったのだった。

 受肉祭! というわけで動画配信続けるならこれかなーという形に収まりました。

 千恵ちゃんが姑モード発揮で、青木をいびり続ける方向で!

 二人はべたべたしてるといいと思います。


 次話は今のところノープランなのですがそろそろ季節を進めたいなーと思っています。

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