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668.青木さんがおろおろしているようです3

「えっと、さっき、チャイム鳴ってたけど、誰か来たの?」

「んー、そこは本人から聞くといいんじゃない?」

 ほら、チャイムからやり直し、と母様に言われて、えー、と困惑気味な声を漏らす。

 いや、普通誰かが来たのならすぐに引き継ぎをするものだと思うのだけど。

 なんで内緒にされた上に、チャイムからやり直しなのだろうか。


 そのタイミングでまたチャイムが鳴った。

「どちらさまですかー?」

「私、千恵、あなたの玄関の前にいるの」

「ちょっ」

 ばばーんと、インターフォンの画面に出てきたのは、前に千恵ちゃんが買っていたドールさんなのだった。

 その後ろで彼女の声がして、そんな感じになったのである。


 うん。びっくりした。ドール自体は見慣れていても、普通では出てこない場所でいきなり出されると、うおっ、となってしまうモノである。


「あの、これ、母さんとかにもやったの?」

「いいえー! 最初に親御さんがでてくださったらやろうと思って」

 アバター遊びに夢中な姉の彼氏に、がつっと言ってやりたくてこの子も持ってきたのです、と千恵さんはきりっと言い切りました。


「ちなみに、千歳もきてるの?」

「……はい、夜分遅くすみません。ご迷惑になると思いはしたのですが」

「あー、はい。いいよいいよ。入りな。あーでも、うちの部屋にこの人数か……」

 まあ、大丈夫だとは思うけれども。

 とりあえず二人を招き入れて玄関を閉める。玄関でしゃべるにしてはちょっと内容があれ過ぎる。


「馨? お友達がいらっしゃってるなら、リビング使ってもいいけど、どうするの?」

「あー、二人とももう部屋に行くなら、使わせてもらおうかな」

「年頃のお嬢さんたちを相手にするんだから、あまり遅くならないようにね」

「了解。場合によっては送って行くようにします」

 最近物騒ですし、と二人に言うと、何を言ってるんだろうこの人は、と怪訝そうな顔をされた。

 いやいや、いちおう年上なわけですし、二十歳の娘さん二人の安全には気を配らねばならないと思うのです。


「そんなわけで、木戸家へようこそ。まずは手洗いをしてから居間にご案内するよ」

「おぉっ。噂の木戸家ですね! 誰もが妄想する天涯ベッドとピンクのお部屋ですね!」

「……いや、それは妄想しないでしょう。友人におまえはオレンジのイメージって言われたことはあるけど」

 ピンクは着ないではないけど、そこまでイメージカラーじゃないんじゃないかなーというと、そうですか? と千恵ちゃんに言われた。

 一方の姉の方はといえば、あまり元気がないようで、うつむいたまま手を洗っている。

 先ほどの青木の話を聞いた後では、その理由がばっちりとわかってしまう。


「とりあえず、椅子をどうぞ」

 てきとーに座ってて、お茶いれるからといって二人を座らせておく。

 ケトルを火にかけると、とりあえず紅茶の準備に入る。

 ハーブティというのも頭には浮かんだけど、こっちのほうが外れはないかなと思う。

 お湯が沸くまでは時間がかかるので、その間に二階の自室に行かせてもらった。

 青木に一言断りを入れて、部屋に居てもらうようにお願いする。

 カメラは青木にいじられるのが嫌なので持って行くことにする。

 ルイ用の方はしまってあるので大丈夫だ。


 リビングに戻るとちょうど良いタイミングでお湯もできたようだった。

 紅茶を入れると、二人が待つテーブルに合流する。


「さて。ではこんな時間にここに来た理由を話してもらおうかな」

「えと……信さんのことで」

 ちょっと喧嘩しちゃったので、ここに来ましたと千歳が言う。


「喧嘩ねぇ。あいつはなんでこうなったかわかんね、って言ってたけどね」

「あ……やっぱり信さんここに来てるんです、か?」

 そっか、と千歳は少し寂しそうにつぶやいた。

 いや。いやいやいや。


「いや、ちょっと待たれよ! ちぃちゃんどうしてそこでしょんぼりするかな。俺たちは男同士の友人、親友だよ? あんなにふらふら人の家の前で立ち尽くしてたら、声もかけるってば」

「そうはいっても、木戸先輩ったら青木さんの特別じゃないですか。ここにいるってわかったときは、やっぱりって思いましたし」

 実は木戸先輩、青木さんと実は交際してたりとか、と千恵ちゃんが物騒なことを言ってくる。


「ちょっとまって! ここにいるのはわかってたってどういうこと?」

「これですっ。GPSアプリ。うちの姉が変なところに連れ込まれないように入れてるんです。っていっても滅多にチェックはしないんですけどね」

 いわゆる、牽制といいますか、心理的なプレッシャーといいますか、と千恵ちゃんが説明をしてくれる。

 なるほど。スマホそれぞれでアプリを入れておくと居場所がわかるタイプのものか。子供の見守りとかでよく使われてるアプリだったとおもうけど、まさか姉の彼氏にそれを使わせるとはさすがお姉ちゃん大好きな千恵ちゃんである。


「それがついに役に立ったとして、どうする? 青木呼んでくる?」

 実は二階の俺の部屋に待機してもらってるんだが、というとちーちゃんは思い切り手を掴まれて止められてしまった。

  

「まってっ! その前にその……ちょっと木戸先輩と話をしたいのですが」

「そういうことなら、構わないよ。でも青木にメールだけは送るね」

 いちおう、先ほど二階に上がったときに二人が来てることは伝えてあるけど、といいつつメッセージを送っておく。

 タブレットは二階におきっぱなしなので、ガラケーからの連絡である。


「これでよしっと。それでお話って?」

「信さんから話は聞いてるんですよね? その、例の動画の話とかも」

「さっきまでその話してたんだ。あいつが歌が好きなのは前から知ってるし、動画を見せられたときには、うわーとは思ったんだけども……あいつは昔っからアホだからこういうのもやっちゃうよなぁとは思った」

 実際歌はグレードアップしてたし、というと、ぴくっと千恵ちゃんの眉が上がった。

 あんた、どうしてそんなに肯定的なんですか!? という感じだろうか。


 そうはいっても、あの動画見たらどうしても一方的に否定はできなくなっちゃってるし。正直上手く折り合いをつけて欲しいと思ってしまっている木戸なのである。


「ちーちゃんは、あの動画をさらっと見せられて、ぷぃってそっぽ向いちゃったって聞いたよ? 是非とも再現をしていただきたいところで」

 撮影準備はばっちりだぜぃ! といってやると、千恵ちゃんが真面目にやってくださいよー! と不機嫌そうな声を漏らした。

 いや、こういうゆるーい感じなのが木戸の持ち味なのだけども。

 お姉ちゃん大好きっ子には、ちょっとばかり不評なようである。


「その話を先にしておきたかったんです。信さんは、その……動画を見て私がどうしてそんな反応になったのかは、わかってる感じでした?」

「いんや。なんでこれで怒られるのかわからんって言ってたよ。っていうか、俺も女装するし、うちのクラスにいた八瀬ってやつも学園祭で女装してるし、そもそも、我らが母校は異性装に寛大だったわけだし、今更VTuberやっててもって思いはあるんじゃない?」

 いや、確かにあいつの女声の歌声ってすげーとか、やべーとか、思うし、ちーちゃんががっくりくるのはわからないではないけど、というと、千歳はあごに指をあてながら、うーんと考え込んだ。


「信さん、歌が上手いってのは知ってました。好きなのも知ってます。だからそれ自体は……うん。驚いたし良いなぁとは思ったけど、そうでもないというか」

 歌はどちらかというと聴いてる方が好きなので、という彼女の声はエレナさん以上に女の子の声そのものである。

 彼女の場合は、中学から薬物を使ってるというのもあって、男性的な声変わりというのはしていない。歌に興味があるのであれば女性の歌を歌うことに特別負担もなにもないはずなのだ。

 極度に音痴であるということだと、努力は必要になるかもしれないけれども。


「となると、アバターの方にショックを受けた感じかな」

「こんな手段で性別を変えることが簡単にできるんだ、って愕然としちゃったというか」

「想像だにしなかった感じ?」

「はい。まったく。こんなにあっさり性別を変える手段があるんだなって」

 噂には聞いてましたし、テレビとかに時々アバターがでてくることはあっても、まさかそれで中の人の性別を変えてるなんて、考えてなくって、と彼女は言った。


「じゃあ、私がいままでやってきたことはなんだったんだろうって」

 それで、混乱してパニックになって、逃げて来ちゃいました、と千歳はちょっと、とんちんかんなことを言い始めた。

 うん。いや、そこはぶれちゃいけないところだろう。


「あのさ、ちーちゃん。君はそろそろオペするんでしょ? すっきりするんでしょ? それとVTuberをひとくくりにしては駄目だよ」

 そこははき違えちゃいけないんじゃない? というと千歳はきょとんとしながら首をかしげていた。

 う、可愛い。可愛いから撮る。えい。


「ちょっ、木戸先輩!? 撮影は……って、言っても無駄か」

 はぁと千恵ちゃんがため息を漏らしているけれど、まあカメラは装備しているのだから、撮られる覚悟はしておいて欲しい。


「俺が思うにVTuberさんのアバターって、ガワみたいなものなのかなって思うんだよね。もしくはコスプレにも近いのかも。まったくの別人になれちゃうし、周りもそれを見て反応してくれる」

 もちろん、性転換するまではさすがにって人が、代償行為でやってるってこともあるんだろうけど、と木戸は付け加える。


「それにいづもさんの昔話に出てくる、ネカマさんだって大半は、性自認は男性だったって話じゃん? 普段の自分とは違う自分になれるっていうのと、性転換しましょーや! というのは圧倒的に別物だと思うよ?」

 ハードルが高くてやめたとか、諦めたっていう人もいるから、一概にばっさりとはいかないだろうけど、付け加えておく。

 そこで折り合いをつけた、という人は一定数いたのだろうと思う。

 

「木戸先輩はそこらへんどうなんです?」

「俺の場合は、撮影のためのつもりだったんだけど、純粋に可愛い服着てると気分上がるよねってのはあるかな。あっちのほうがぐいぐいいけるというか、人とのコミュニケーションはとりやすいというか」

 でも、女性として生きていこう! みたいな気持ちはあんまりなぁというと、木戸先輩ですしねーと千歳に言われた。

 なんですかね、おかしな人みたいなこの扱いは。


「ま、ああいう文化と思ってしまえばいいんじゃないかな? 女性のアバターを装う、女装みたいなもんといいますか」

 女子には女装はできないんだぞー、というとなるほどと、千歳は自分なりに納得してくれたようだった。


「さて。他に話しておきたいことはある? そろそろ青木呼んで良い?」

「えとっ……その」

 いくらか混乱は収まってきたものお、それでも会うとなるとちょっと勇気が必要、といったところだろうか。


「でも、会うためにきたんでしょ?」

 わざわざこんな時間に、というと、まあそうなんですが、と千歳はうー、とうめき声を上げて天を仰ぎ見た。

 うんうん。可愛いのでこれも撮ります。はい。


「日を開けて話をしてもいいけど、自分の中で何が嫌で何が大丈夫なのかが整理できたのなら、話をしてみてもいいとは思うよ」

 さぁ、どうする? と問いかけると、彼女は妹の千恵ちゃんに肩を抱かれながら、こくりと頷いたのだった。


 姉妹仲がいいね! な写真はもちろん撮らせていただいた。

 千恵ちゃんに、緊張感って言葉をご存じですか? としかられてしまったのだけど、もうここまで話ができていれば、緊張もなにもいらないと思うのである。

 あとは、落としどころを二人で考えてくれればいいだけなのだから。

 実を言えば、ここのお話、木戸くんが女子ノリで青木氏を断罪するっていうのが当初のプロットだったのですが……なんか、ほだされましたよ! やっぱなにか作ってたり、それに真剣だったりって姿の人を前にしたら、そっち優先かなぁってね。


 そして作者なりにアバターとはなんだろうかーというのを考えてみました! いづもさんの昔話(笑)的には昔はMMOとかも性別変更して参戦する人多かったですし、カジュアルに性別かえる文化っていうのは日本にはあるのだと思います。はい。


 次話は、解決編ですね! さぁ青木さん。是非ともリードをして上げてください! あ、あっちのリードじゃないですよ!?

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― 新着の感想 ―
[一言] ジョブことに性別が決まってるゲームですからねぇ。 アーチャーとランサーが女アバターで切り替え式なんですよね。
[一言] 今もサービス続いてるMMOで女性アバター使ってたなぁ
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