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071.

何度もいいますが、芸能系はご都合です。ほんとイメージでしか書いておりません。

「そんなわけで、珠理奈ちゃんの要望に応えて、今日は写真集の撮影とは別に、メイキング写真も撮ることになりました。ギャラはでませんが、経験の一つということで。職場体験というような感じで対応をしていただきたい」

「ご迷惑になってしまうようでしたら、どんどんおっしゃってください。本日はよろしくお願いします」

 チョコ作り会をやったあとの週末。先日崎ちゃんに言われたようにスタジオにルイは顔を出していた。こういう場所にくるのは初めてで少しだけ緊張する。関係者であることを表す通行証は首からぶら下げている。

 ずらりと集まるスタッフさんの前でぺこりと頭を下げると、最初から事情を聞いていたのか彼らはまぁ仕方ないかと納得顔だった。崎ちゃんのわがままはある程度は周りにも認知されているらしい。

 今日のスタッフの中には、メイクのあやめおねーさんもいるし、メインでカメラを扱うのはあの人。

「佐伯さん、アイドルの写真集とか撮っちゃったりするんですね……」

「あれ? 知り合い?」

「ええ、前にお仕事ふってもらったことがあったり、わきで助手やってるおねーさんは、私の師匠というかカメラ仲間ですから」

「へぇ。じゃあルイ。ご挨拶個別にしてくるから、あんたもおいで」

 あえて手を握って引っ張るようにして崎ちゃんは自ら二人の前に自分とルイを立たせた。

「お二人とも、本日はよろしくお願いします。佐伯さんには今回もいい写真お願いしますね。前のやつすっごいかわいく撮ってくれて、お気に入りなんです」

「いや、こちらこそ。一緒にいい作品を作ろう」

 よろしく、とがっしり握手が目の前でなされる。

「それと、今回おまけ連れてきちゃいましたけど、今回だけは見逃してもらえるとうれしいです」

「光は出さないように気をつけます。それとなにか注意する点があれば先に教えていただけると」

 スタジオ撮影はさすがに初めての経験だ。こちらは好きに撮るだけでいいけれど、その行為がメインの撮影の邪魔になるのなら、控えた方がいいこともあるだろう。

「メイキング写真もとるって話を聞いた時に、誰がくるのか気にはなってたけど、ルイちゃんなら安心」

 メイキングはあくまでもメイキングだから、メインの撮影してるときはあんまり珠理ちゃん撮らないようにしてくれればおっけ、とあいなさんが軽くレクチャーしてくれる。

「いい機会だから、おっちゃんの仕事っぷりも見ていくといい」

 人間の撮り方、みせちゃると佐伯さんは腕まくりをした。佐伯のおっちゃんとはエレナの学園祭のときから縁があるから、あちらも覚えていてくれている。

「それと、メイキングの方はお仕事になるの?」

 なにかの付録になったり、DVDになったりとあいなさんがきいてくる。

「いえ、今回はその、崎ちゃんに言われた罰ゲームみたいなものなので、たぶん商品化とかはないと思います。崎ちゃんのプライベート所有みたいなのになるんじゃないかと」

「罰ゲームはひどいなぁ。せっかくお友達のルイさんをお仕事の接点に発展しそうな場所にご招待したというのに」

「へぇ。意外だけど二人とも仲良しさんなのね」

「ちょっ、ちがっ、私たちは別にそんな」

 なぜか崎ちゃんがあわあわと慌てふためく。

 仲はいちおう悪くないはずなんだけれど、まーそうなんだろうね。ルイと木戸の関係を黙っていたわけだし、そこら辺で少しだけ彼女の心象は悪いのかもしれない。

「いろいろある、ということなんです」

 くすんと拗ねてみせると、あいなさんが頭をなでてくれる。

「ぬなっ。ちょっとカメラマンさん何を、そいつはっ……」

「へ? 後輩の女の子がしょげてたら頭くらいなでても」

「いや、だからぁ……」

 あー、あいなさんの手の感触が頭をさわさわする。ウィッグ越しでも暖かい。

 でも、崎ちゃんの反応がどんどんとむすっとしていく感じだ。

「はいっ、メンタルコントロールのために、それ以上はNG。あいなも機材のセッティング頼む」

「りょーかいです」

 やりすぎたーとあいなさんは手を止めて、そいじゃ、がんばりましょーっと機材の方の設置に向かった。

 機材自体はそこそこあるようで。

 基本的にカメラは手元に置くようだけれど、光を左右するような道具がたんまりある。

 それらを脇目に見ながらこちらもぱしゃりと写真を撮る。そして崎ちゃんは着替えとメイクのためにいったん楽屋に移動だ。あやめさんも一緒についてきている。他には衣装さんもいるようで、とりあえずその姿も押さえておく。

「ほんとどういう関係なのよいったい」

「だから言った通り、師匠と弟子なんです。あいなさんがやってる講習にも参加してるし、地元も同じというか近いし。佐伯さんとは、派遣社員ぽいおつきあいを一度」

「本当に二人は仲良しさんねぇ。学園祭のあとからほんとうに掛け合いがこう、友達以上という感じで」

 くふふと、あやめさんに笑われてしまった。

「べ、べべべつに、ルイのことなんてどーとも思ってないもん。なによ、すました顔してここにも溶け込んじゃって。もうちょっと慌てふためくと思ってたのに」

「そう言われても、ルイはこういう感じだし、物怖じなんてしてられないよ」

 前髪をあげられてメイクされているところの写真も数枚撮っておく。枚数は多目に撮っておいた方がいいという話は前に聞いていたのでそこそこの連写だ。

「ここまでかっちり性格が変わると、たしかにちょっとあれだけど」

 あやめおねーさんまでそんなことを言っている。そして彼女は崎ちゃんの耳元でなにかをささやいた。

 急に彼女は顔をぼんと赤くすると、ふえっとこちらを見て視線をそらせた。

 なんだろうと眼をぱちくりさせていると、あやめさんはふふんと笑っているだけでなにも言ってはくれない。

「青春っていいなぁ」

 あやめさんはそう言いながら、鏡をのぞき込んで、おっけーと崎ちゃんの前髪を下ろした。




 本番の写真集の撮影のほうは可もなく不可もなくといった具合で進んでいた。

 その間にはもちろん衣装変えなんかもあって、その度に後についていって着替えなり、休憩なりを撮影していってメイキング写真を撮っていく。着替えに関しては最初は一悶着あったのだけれど、事情をしらない衣装さんに、別に女の子同士なんだからいいじゃないと押し切られて、崎ちゃんはぐぬぬと不承不承そのまま着替えをしていた。

 ルイとしてはそういうのに目をそらさないようにしているのだけど、さすがに今回は気の毒なので視線をそらしておいた。もともと着替え中は撮影もできないし別にまじまじその様子を見ている必要もない。

 そんなわけで追っかけては撮影していったのだけれど、さすがに水着に着替えるというところで崎ちゃんは、あんたはあとからきなさいと撒かれてしまって、とぼとぼと楽屋の方に向かっているのだった。

 さて、ルイの個性のひとつとして、都会やら似たようなところがあると迷子になるという、乙女チックなものがある。

「迷った」

 似たような扉に似たような部屋。慣れない撮影所は部屋がやたらと多くあって、どれが崎ちゃんの控え室なのかがわからない。

 この階であるのは間違いがない。ないのだが。

 ええい。ここに違いない、と一声かけて扉をあける。

「崎ちゃん、はいるよ?」

 といった先にいたのは、ちょうど着替え中の人だった。

 服装からいって、男の人だったのだけれど、胸がこう、たゆんと、していた。

 こういう現場は慣れてはいないけれど、シュミレーションだけは嫌になるくらいにやっている。

「ああ、すいません、部屋を間違えたようで」

 ぽそりとそっけなく言って扉をしめる。

 基本、ルイをやっている間は、たとえ女性の着替えを目撃しても無視すると決めている。

 うん。問題ないはずだ。きっと女性芸人さんかなんかが男装してなにかやるとかそういうことなのだろう。

 そう言い聞かせて、うろうろしていると、崎ちゃんが、遅いよもぅとぷんすかしていた。

「ごめん! ちょっと迷っちゃった」

 じぃと崎ちゃんの水着姿をみると、さすがにすごいなぁと思ってしまう。

 胸のサイズは一般的なグラビアアイドルよりは、ない。けれども小さすぎるわけでもなくその下の腰のくびれもあいまって、すさまじいボディラインを形成してる。胸だけがうりのうちの姉とは大違いである。

「どうよー。さすがにルイさんでも、これにはぐっとくるんじゃないかしら?」

 ふふんと見せびらかすように、崎ちゃんはポーズをとる。

「確かに、崎ちゃん前からきれいとは思ってたけど、こういうフィットする服はたまらなく似合うね。普通に写真とりたくなる」

「いいわよーメイキングだからじゃんじゃん撮るといい」

 ではお言葉に甘えて、といいつつ楽屋の中なのに水着というアンバランスを写し出す。

 なんというか、ここまでやられてしまうと、彼女を中心に撮るしかないと思わせられる。

 背景の力がここでは足りない。圧倒的に。

「くやしいなぁ。これが海辺とかなら、せめて市営のプールとかでもいいから、そういうところならもっとこう、調和した絵が撮れるはずなんだけど」

「んがっ。あたし単身だけだと嫌だっていうの?」

「そうじゃなくて。背景がここだと崎ちゃんに負ける。スタジオの方はセットとか用意するんだろうけど、さすがにもったいないなぁって」

 単身は単身で、背景をぼかして撮ったりもしているし、メイキングの意味合いもあって被写界深度を深くして背景までくっきり撮る方がおおいのだけれど、あくまでも今日のこれはスナップどまりということだ。

「それじゃ今度は海でもつれていきなさいよ」

「カメラ持ってく以上はルイでってなっちゃうけど……」

「あー、スキャンダル防止のためにもそっちのほうがいいよきっと」

 あやめさんが口を挟んでくる。

「ちょ、なにいってんのよ。別に二人きりとかそんなこと」

 ぷぅとほおを膨らませたところも撮る。

 いつもすこし作ったような感じの顔が、おもしろく変わる様は年頃の女の子っぽくてかわいらしい。

「はいはいっ。でも夏になったら海くらいならこっちはいけると思うけど、全部崎ちゃんの都合次第だから」

 そこんところはちゃんと覚えておいてよ、と言うと、わかったわよと返事が来て、スタジオから準備ができたと連絡が入った。

「絶対よ。夏には海よ。貴方に拒否権はないわよ」

「はいはい。受験生でも夏休みくらいはなんとかしますよ」

 そのときこちらがどうなってるのかはわからないけれど。それでも崎ちゃんと一緒に海というのは楽しそうだ。撮影がどれだけできるかといわれるとなやましいのだけれど。砂浜で水着の女の子というのは一度は撮ってみたいシチュエーションだ。

「スタジオの準備もできたみたい。未来の希望もできたことだし、笑顔をふりまいておいでよ」

「メンタル関係なく、いい絵を撮るのが崎山珠理奈ですー」

 崎ちゃんは、ぷぅといいながら、撮影所の方に向かう。その顔は、ちょっとふわふわしていて、気分は夏なんですかという感じだ。

 ちなみに夏に旅行にいけるかといえば、成績次第といったところだろうか。

 海となればそれはそれで景色を撮ったり空を撮ったりといろいろと楽しめるだろう。

 そんなことを思いながら、崎ちゃんを追いかける。

 わがままなお姫様はそのままスタジオに入ると、佐伯さんの前ではじけるばかりの笑顔を浮かべるのだった。

撮影話は次回も続きます。

ラッキースケベという単語がありますが、ルイにはそんなもん通じません。

男の子が、赤面しながら、「ご、ごめんっ」とかいって視線をそらすのとかも好きは好きですが、ルイがそんなことするわけがないのです。


ちなみにあやめさんが珠理ちゃんにささやいてたのは「彼氏が超絶美少女だと困っちゃう?」です。私なら困ってしまうな。。

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