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070.

 明日までひっぱろうかとも思いましたが、とりあえず解決するところまでは一気にアップです。後日誤字脱字修正はする予定です。

「にしても、あそこまで女子トークができるというのには、驚いたわ」

「まーねぇ。でも、驚いたのはあの後輩の子のほう。切り替えがない段階だと、あからさまに疑ってたもん」

 ぷはーと、イチゴ牛乳のストローを吸いながら、すごい人もいるもんでーとベンチに腰をかけて足をぷらつかせる。スカートの裾がやたらと短いけれど、そこらへんの座るときの作法もよく理解しているのでまったく問題はない。


 もう、気持ち的にはあのときからルイに切り替えている。崎ちゃんがどう言おうととりあえずはもうどうでもよくなってしまった。あのスカートめくりっ娘に看破されたように気持ちの乗らない女装はあくまでも女装に過ぎないというわけだ。

 人様に疑念を抱かせるような女装などしたくない。


「切り替え、って?」

「んーと、まぁ、それを話す前に。少し心の準備を」

 けれども、崎ちゃんはいまだに先ほどの出来事が理解できていないようで、どういうことなのという疑問を顔に張り付けている。


 さて。雰囲気まで完璧にルイをやっている状態で、崎ちゃんにばれるだろうか。まずはそこを考えないといけない。少なくともいつものけだるい木戸馨とは別人だと思うだろう。そして詰め寄られたりするのだろう。

 貴女はいったい何者なの? と。


 そうなった場合、果たしてどんな嘘をつくのだろうか。それとも本当のことを言うのだろうか。

 あいなさんにもそうだったけれど、崎ちゃんに対しても「言っていないだけ」が成立する。青木に関してはもう防衛のために何があっても隠し通そうと思っているけれど、この子の場合はいままで機会がなくて言っていないだけだ。そりゃ目の前でルイの話を振られたり写真をスマホの背景にしていることを知ってしまったりだとか、多少後ろ暗いところはあるけれど、あえて木戸とルイの関係について伝えるような状況にならなかった。


 そして基本そこまで崎山珠理奈という人がルイに対しての執着や意識を持っているとは思えないのだ。

 職業病で顔はよく覚えていると彼女は言っていたし、一度会っただけのさくらのことも覚えているくらいだ。素顔をさらせば一発でばれる自信はある。けれど実際彼女と会ったのは銀香での撮影の時と、その後の春休みの旅行の時で、直近のイベントでは馨の方であっている。


 普段メールをしているのも馨だし、彼女としてはルイは町中でばったりあったちょっと不思議な子くらいな印象なんじゃないだろうか。馬が合わないということはないだろう。なんだかんだでルイの写真の腕は買ってくれているし、話していて正直かなり楽しい。そしてもう言うまでもなく被写体としても申し分ない相手なのだ。


 たとえば木戸がルイをやっていると知ったところで、彼女の方になにかのデメリットがあるだろうか。そもそもルイとして、女子としてあまり接点がないだけに、あいなさんに話をしたとき以上に安心感のようなものもある。たった二回すれ違った相手が実は男でした、といわれても、はあそうですかで済むのではないだろうか。


 それよりもここで変に隠し立てして、後で発覚したときに、なんで言ってくれなかったのよとお怒りになることの方が怖い。

 いつかは話そうと思っていし、そして訪れた機会がきっと今日なのだろう。


「崎ちゃんには、一つ謝らないといけないことが、あるんだ」

 苦笑というんだろうか。この格好だと男声は出せないので女声ではあるけれど、その口調はルイというよりは木戸のものに近い。


「別にだますとかそういうんじゃないからな。ただ、機会もなかったから言ってこなかっただけで」

 まあ、あっちで会う機会もそうそうないと思っていたしと言い訳じみた言葉をつくる。

「な、なによかしこまって」

 崎ちゃんが怪訝そうな顔をするものの、こちらも慎重に言葉を重ねた。


「あたしが女子トークを完璧にこなせる理由。それはね、週末ずーっと女装して町中うろついてるからなの」

 そこで眼鏡を外す。これが切り替えというやつだ。口調もルイのそれに変える。


「週末歩き回るときに使っている名前は、ルイ」

「それって……」

 崎ちゃんの顔が一気に青くなる。前にルイとして会ったのは去年の三月の旅行の時以来だから、一年近くになるけれど、それでも彼女は覚えているのだ。


「崎ちゃんとは、コンビニの件のその前にあってたの、あの銀香町で」

「だまして……たの?」

 青ざめた表情のまま崎ちゃんは心細そうに、こちらを凝視しながらぼつっと言った。


「だましてたわけじゃないよ? 会ったっていっても、あんなやりとりだったじゃない」

 どっきりの内容だって全然知らなかった。結果的に喝破する内容になってしまったけれども、本当にルイで会っていたといっても、親しくなっていたわけでも全然ないし、だますだなんてことはこれっぽっちもしていない。

 けれど、崎ちゃんは立ち上がるとじりじりと後ろに。後ずさって、距離が。


「嘘つき!」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 いや。そこまで拒絶するような話はしていないはず。

 はずなのだが、なぜか彼女は悲痛に満ちたような顔をして。くるりと振り返るとそのまま逃げ出してしまったのだ。


 黙っていたことは申し訳ないけれど、嘘とまでいえることはしてない。

 風呂の件に気づいている? いや、そんなそぶりもなかったし、ルイとしてやったことと言えば、町で話をして誰しもが興味を抱く相手を適当に扱って、その場で写真を撮ったくらいなものだ。会った時間で言えばそれこそ二十分にも満たないんじゃないだろうか。

 ここは呆れながら、馨は変な趣味があるとどん引きするか、肩をすくめるかするところじゃないだろうか。


 それが、混乱して、あまつさえ逃げ出すとはいったいどういうことだろう。

「ったく。なにがどうなってんだよ」

 ぼそりと男声で悪態をつくながらも、崎ちゃんが走り去って行った方にむかって木戸は歩き始める以外になかったのである。

  



 彼が何を言っているのか。

 その顔を見た瞬間に何が何だかわからなくなった。


 たしかに木戸馨は、女装を看破する能力を持っている。それは一番最初に会った時に示されていることだ。

 そして、外見的にあの細さなら似合うかなと思って、あの衣装をオーダーしておいた。ほんの茶目っ気というか、駄目そうならもうちょっとおとなしめな服も用意しておいたのだ。


 それを難なく着こなした時は、少しだけおかしいなとは思っていた。

 もちろん声に関してもそれは言えた。いきなりあんな混じりっけのない女声を出せるだなんて、今まで聞いたこともなかったし、そういうネタを彼はまったく教えてはくれなかった。

 そう。たいていメールに返ってくる返事はちょっとぶっきらぼうで、すさまじくけだるそうな、それでいてこちらを気遣ってくれるようなものばかりだった。あちらからくるメールは、学校行事の話くらいなもので、そういえば私的な話を聞いたことがない。


 週末は引きこもりなのかと思ったこともあったけれど、返事が遅れることもあったし、そういうわけでもなさそうで、アルバイトと勉強だけの生活なのかと疑ったりもした。 

 けれどそんな彼がいうのだ。あの素顔で。週末は女装をして町中を歩いていた、と。

 どこからどうみても、人目を引きそうな美少女然とした素顔で、自分はルイなのだと。


「もう、何も信じられない」

 珠理奈がバンに戻ってくると、ひょいとあやめさんが顔を出してきた。

 誰もいないと思ってこっそり車に戻ろうとしたのに、鉢合わせとは運が悪い。

 あまりにも怖い顔をしていたせいか、彼女は車の後部座席の扉を開けると中に入れてくれた。

 天下の崎山珠理奈がそんな顔を周りにさらすなということなのかもしれない。


「なんかあったー? 木戸くん絡みなんだろうけど」

 ほいよ、と暖かい缶紅茶を渡されると、手のあたりがほっこり温かくなる。思考がぐるぐると回ってしまうのが少しだけほぐれてくれそうだ。


「あいつ……あたしを騙してたの。女の子のかっこが似合うのは自分がルイだからだって。ルイっていったら銀香町で会った女の子で、ちょっと芸能界に疎くて、ミーハーの欠片もなくって、それでも写真はうまくて。女の子で」

 珠理奈に会った子は、たいていどこかで壁を作る。すごいすごいと憧れの視線を向けるか、ライバルとして厳しい視線を向けるかだ。そんな中であの対応は、珠理奈にとっては久しぶりなことだったのだ。

 自分を知らず、先入観なしで撮影をしてくれた。そしてあの仕上がり。今でも珠理奈のスマートフォンの待ち受けはあのときの写真だ。


「あらあら。確かに化粧のりとか女装スキルとかすっごい高かったけど」

 んー、とあやめが思案顔になる。先ほどメイクしているときの素顔。あれを見て、あーと思うところがあったのは事実である。そう。先ほどは別に言わなくてもいいかと流していたのだけど、確かに自分も知っている顔だなぁと思ってはいたのだ。


 最初は双子ちゃんなのかなとも思ったのだけど、メイクを施していけば行くほどに、これが男子か? と思ってしまうほどに化粧のりは良かった。皮脂の量だって男子にしては少ない方だ。あやめは男性向けのメイクもすることはあるけれど、あきらかに肌質は違うものだと思っている。そんな自分が、女子っぽい肌だよなぁなんて思ったのだ。


「せっかく仲のいい、芸能界関係ない男友達ができたって思ったのにっ。なんで。なんで実は女の子とかー。こんなのひどい」

 ぐすっと、滅多に弱音を吐かない珠理奈が涙目だった。年上としてはそれをフォローしてあげたいところなのだが、果たして彼女はどうして、彼を女の子だなどと思ってしまっているのだろうか。


 確かに女の子っぽい子ではあるし、メイクの知識も豊富で、女装もかちっとはまった。ほとんど女の子にメイクしているような気分で仕上げたのは事実だ。けどその後の仕草はどこかちぐはぐしてはいなかっただろうか。


 さて。なんと声をかけようか。そう思ったところで、バンのドアが開けられたのだった。 

「それは誤解。ルイは確かにあたしだけど、ベースは木戸馨なのっ」

「はい?」

 後半の名前は少し声のトーンを落としている。回りに人はいないように見えてもどこで誰が聞いているかわからないからということなのだろう。そのまま彼はバンのドアを閉めて中に潜り込む。


 きょとんとした顔の珠理奈は救いを求めるようにあやめに視線を向けてくる。うっすらと目の周りが涙で濡れている。

 それを木戸くんが軽く指でぬぐうと、おそらくほとんどの人が聞いたことがないであろうルイ状態での男声に切り替える。


「だから、普段の俺が、男の俺がホントの姿でこっちが、女装」

「はい?」

 その声を聞かされても珠理奈はまだわからないという状態だ。口調を変えたところで目の前にいるのはルイではないか。


「そもそも、どうして俺とのつきあいが長いのに、ルイの印象のほうで思いっきりホントは女子なんだって思っちゃうかな」

 まず女子じゃこの低音はでないから、と言ってやってもうぅというだけで彼女は納得しないようだった。


「あはは。さっきの声に慣れたあとに男の子の声でしゃべられるとギャップがすごいわね……」

 ほとんど乾いた笑いしかでてこない。これでも芸能界でいろいろな人を見てきているが、これだけ男女の声を使い分けられる人もそうはいないだろう。でも彼の言い分は正しい。女性で低い声を出そうとしてもせいぜいでるのは少年声くらいまでだ。


「じゃあ、なんで琴心のスカートめくりに堪え切れてるの? そんなの物理的に無理じゃない」

「……なるほど」

 ずいぶんと過激なことをする女子高生もいるものだ。そんなことがあって問題にならなかったから、珠理奈はルイを女子だと認識しているのだとあやめは理解する。


 どう答えようかとミニスカートの彼は、うーんと思案しながら、ふぅと軽く息を吐いてから話し始めた。完璧な女声である。

「それが……無理でもなくて。体の構造上、隠すことはできるの。タックっていう、まあハイエンドスキルだよ」

 ちらりと、視線があやめのほうに投げかけられた。知りませんかという質問だろう。

 なら若者のためには答えないといけない。


「いちおう、そういう技術はあるらしいわ。その子が言ってるのも正しいんじゃない?」

 なんなら裸にひんむいちゃえばいいんじゃないのと、さらっと危険なことを言ってみせる。一番手っ取り早いのはその方法だ。


「ホントに……男の子、なの?」

「だから、ずっとそう言ってるだろうに」

 珠理奈はすがるような視線を木戸に向ける。まだ疑いが混じった視線に木戸は男声に切り替えて、あきれたように言い放った。


「あーうー」

 うなだれたように珠理奈はぺたんとバンの後部座席に力なく座り込んだ。

 ぽすんと軽く頭に手をおいてやる。

 ひどい誤解をしてしまった自覚はあるのだろう。


 木戸としてははなはだここまでこじれるとは思っていなかったのだが、なんとかわかって貰えてなによりである。

 先ほどまでの困惑は、安心感で塗りつぶされてしまったらしい。もう崎ちゃんからはお怒りのオーラは出ていない。


「それにしても、あのルイさんがこんな子だなんてね。おねーさんはちょいと驚きましたよ?」

「あれ。私のこと知ってるんですか?」

 はて、とあやめさんの言葉に疑問を漏らしてしまった。

 知ってたなら、さっき素顔を見たときにこの人は気づいていたのではないだろうか。


「銀香のときも同行しててね、あの時の崎ちゃんがもってきた周辺写真で、撮影スポット変わるくらいだったんだから」

 あの時の撮影スタッフの中では少しばかり話題になったのだという。

 そういや、コンビニで馨向けでそんな話は聞かされたような気がする。

 もちろん、ルイへはなーんも話はなかったですけれどもね!

 ルイの方だと、崎ちゃんとの連絡手段を持ってないから、言い出す機会もなかったのだろうけれども。


「しかもネット系では全くの無名でしょ。そう思いつつ夏ごろ検索かけたらごろごろ名前がヒットするという」

「ちょうどそのころから、ネットに写真を載せるようになりましたから」

 そう。イベントの時に知り合ったおねーさんたちの勧めで、エレナのサイトを間借りする形で写真をいくつかアップしてあるのである。エレナの人気に比べればまあ普通の写真に関してはそこまでいい評価でもないのだけれど、それはあそこに行き着く人が見たいのが、エレナのコスプレ写真なのだから仕方ないと思っておくことにしている。


「あー。珠理ちゃんも見る?」

 あやめさんが取り出したタブレットでエレナのHPを表示すると、しょげていた崎ちゃんがのろのろと起き上って、小さいタブレットに映し出された画面をのぞき込んだ。


「え……と。この子って、前にあんたのところの学園祭で会った……」

「男の娘キャラ専門のコスプレイヤー、エレナちゃんです」

「嘘。素人なのに一日のカウンターが昼過ぎで八百って……」

 ツイッターのフォロワーなんかだと、数千行っていてもそこまでおかしくはない。ないのだけれど、これはわざわざ見に行かなきゃいけないブログというかホームページだ。それでこのカウントはよっぽど人気がある場所でないとあまりない。しかもこれはみんな固定客なのだ。ほとんど毎日みなさん巡回してくださっているのである。


「一部のマニアにはすっごい人気で、一大宗教みたいになってるのよこのこ。その専属カメラマンが、このルイさんってわけ」

 今、密かにこの業界じゃ話題な人だそうですよ? と、あやめさんは訳知り顔を浮かべている。この人もコスプレに興味があるのだろうか。それともメイクのためにいろいろ研究しているのかもしれない。


「専属ってわけじゃないですよ? あの子はイベントでみんなに撮られまくってるし、ただ一緒にコスプレ写真集を出したってだけで。まあ友達は友達ですけど」

「ほほぅ。じゃー君はエレナが本当はどっちなのか知っているというわけですか」

「それは口が裂けてもいえにゃい」

 あやめさんと掛け合いをしていると、崎ちゃんがぷるぷると震えながら画面に張り付くようにして凝視していた。


「馨、いいえ、この場合ルイかしら。少なくとも私をこんな目に合わせたんだから、あんたには贖罪をしてもらうわ」

 そして顔を上げたかと思うと、彼女はぎんとこちらをにらみつけてきたのだ。勘違いしたり呆然としたり怒ったり今日は情緒不安定なお方である。


「贖罪って……さんざんごめんっていってるのに」

「今度、あたしの写真集とる企画があるの。二回目の写真集。グラビアとかじゃなくてちゃんと本になるやつ」

 はぁ、それは仕事が順調でめでたいことで、と思った矢先。


「あんたもその撮影に参加なさい。担当のカメラマンさんにはこちらから話を通しておくわ」

「でもそれ、すごい邪魔になるんじゃ……」

「いいの! それになにも本になるやつを撮れって言ってるんじゃないもの。グラビア写真を撮っている最中のあたしを撮って欲しいの」

「ああ、メイキングみたいな感じ? でもそれって普通ビデオカメラで撮ってDVDの特典とかで売ったりするんじゃないの?」

 たとえテレビに疎くたってそれくらいはわかる。それをカメラでやれってことだろうか。


「別に売り出すわけじゃないからいいのよ。私の個人所有というか、思い出というか、そういった感じになるんだから」

「って、それでもちょっと現場に迷惑というか」

「あー、ルイちゃん。諦めてやってあげた方がいいよ。この子言い出したら聞かないし。それに誤解をさせた責任ってのもあるんだから」

 ちゃんとフォローするのも男の子のつとめだぞー、と緩い忠告があやめさんから入った。


「あーあ。わかりましたよ。でも現場の人に駄目って言われたら駄目ですし、当日はルイで固定しますからね。いくら女の子っぽくても知りませんからね」

「あら、言ってくれるじゃない。女優に向かって演技で勝負しようっていうわけ?」

 ふふんと不敵な笑みを浮かべる崎ちゃんは、いつもの状態になんとか戻ったようだ。


「そうじゃなくて、カメラ使うのはルイだもん。正体も内緒にしてくれないと困ります」

「なるほど。そういうことなら別にいいわ。どんくらい違和感がないか見てやろうじゃない」

「それと、人物撮るのはそんなにうまくないほうなんで、できに関しては保証しませんからね」

 弱気な発言、というわけではない。ルイが得意とするのはやはり自然の風景のほうであって、人間ではないのである。


「あら。カメラ娘のくせに弱気じゃないの。いちおう今日の罰ってことだから、自己ベストをたたき出すだけでいいわよ」

「はいはい、わかりましたよ。それじゃ詳細が決まったらメールください。最優先でいきますから」

 そこまで言ってようやく崎ちゃんはふぅと体の力を抜いた。


「それと、お二人さん、もう祭りの方はいいのかしら?」

 あやめさんがふんふんと鼻歌交じりにこちらを見つめる。眉尻がさがってるところを見ると、なにかいいものを見たような感じなのだろうか。


「そういえば、まだそんなに回れてないんだった」

「あたしもちょいとバンに荷物取りに来たときに騒動が始まっちゃったから、あんまり見れてないのよねー」

 そこでちらりと時計を見る。時間はまだ二時過ぎといったところだ。


「ああっ。バロンさんが舞台やるとかなんとか言ってませんでしたっけ?」

「そういやあんた。バロンさんとも知り合いだったり……」

「しますよ。コスプレイベントで一回お会いしただけですけどね」

「ほー。バロンさんかっこいいからねぇ。あたしもご一緒してもいい?」

 ちらりと崎ちゃんをみると、しぶしぶ首を縦に振った。


 それをうけて、あやめさんが、じゃーいこー! と車の外に飛び出す。それにつきあうように木戸も外にでる。もう崎ちゃんにばれてしまったので、眼鏡は外してルイ状態にしてバックからはコンデジを取り出している。さきほどから撮影したくてたまらなかったのだけど、崎ちゃんの手前そうはできなかったのである。ここからはもうルイとして撮影し放題だと思うと、先ほどのやりとりなんてもう気にならない。


「あの子ばっかり撮られてずるいじゃない……」

 一番最後まで残っていた崎ちゃんのぽそりとつぶやかれた本心はルイの耳には入っては来なかった。

 こんなに可愛いあの子が男の子のはずがない。という話です。

 木戸くんの想定はまったくの真逆の方向でとらえられてしまったという今回のお話。修羅場回ではあるので、分割せずに一気に投稿です。その分お時間もいただきました。


 と、まぁそれで明日の朝分はこれから校正してちゃんと朝アップを目指しますよー。珠理ちゃんはちゃんとした女子の中で一番女の子してるキャラなので、これでルイと絡ませることが出来ます。ふふふ。楽しみ。

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