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654.式の撮影依頼9

あと一話で終わると思ったのだけど、長くなりそうだったので分割で。

あと二話ほど三木野さんとお付き合いくださいまし。

 景色が流れて。

 少しすると、見慣れた町並みに切り替った。

 三十分程度だろうか。なるべく静かにしながらのドライブだった。

 ちなみにその間も、岸田さんとはるかさんの顔はしっかりと観察させてもらった。

 なんというか、後部座席の事は関係なく良い雰囲気というやつのようだ。

 ときどき、先ほどもらったブーケをきゅってしながら、はるかさんがにこにこと幸せオーラをだしていたりするので、正面から撮れたらなぁという感じだったのだけど、まぁ運転中はさすがに無理である。

 あぁ、ドライブレコーダーで撮影できないだろうか、と思うくらいだ。


「到着、ですね」

「んー! ちょっと肩こったかなぁ」

「えと、そこは、んーって、可愛らしく腕を伸ばすところよりも、ありがとって、岸田さんに口づけでもして欲しいんですけど」

 さて。佐伯写真館からほど近い駐車場に到着して、外にでると三木野さんが寝ているのを良いことに、木戸は二人にからかいの声を向けた。

 車中ではやめてっていわれたけど、今なら問題はないだろう。


「ちょ、馨くん……まったく、いつまで経っても高校生みたいなんだから……」

「それを言うなら女子高生かなー。自分の恋愛を放置するところはちょっと違っても、こう、恋愛を煽るのはちょっとそれっぽいというか」

「女子高生……なるほど。そんなもんかも」

 二人からはちょっと呆れた様な、それでいて高校生扱いの言葉が並ぶ。むぅ。


「……うぐ。旅行の時、私も大人になりましたって言ったのに! はるかさんが寝落ちしてるとき」

「えっ!? なにそれっ! 仲居さんやったときだよね!? 岸田さんになにしちゃったの?」

 むぅーと、はるかさんが可愛く睨んでくるので、そこは一枚確保させてもらった。


「特別なにもないですよ。その場のノリでそういう事を言ったら、無反応だった! ってだけで」

「うーむ。西もそんなに睨まないでくれって。別に俺と馨くんがどうこうなるわけないだろ」

 年の差もあるし、なにより今は写真に夢中みたいだしな、と苦笑交じりにいわれて、まー、そうだけどー、とはるかさんはなんだか疲れたため息を漏らしていた。

 いくらなんでも、友人の彼氏を誘惑するなんてことはないんだけどな。

 基本、木戸もルイも、恋愛話を他人にふるのはその方がだんぜん表情がころころ動くからである。

 そこらへん、はるかさんなら知ってるはずなのに、それでも反応してしまうのはそれだけ岸田さんの事が好きってことなのだろう。


 そうこうしていると、後部のドアが開いた。

 ようやく、三木野さんがお目覚めらしい。

「ま、病人もいることだし、俺達はこれでおいとまするよ。あとは馨くん。三木野さんの事はお願いしても?」

「……うあ、すっかり寝ちゃいました。すみません」

「だいぶ体調もよくなってきたので、大丈夫ですよ。さすがに背負ってってなると厳しいかもしれませんが」

 肩を貸すくらいならできるので、というと、背負うのはちょっと厳しいかと岸田さんが意味ありげにいいつつ、はるかさんはうぅと、可愛い声を上げていた。

 ほほう。お姫様抱っこでもしてもらったことがあるんでしょうかね。是非ともやってもらいたいところだけど、あれ、そうとう鍛えてないとできなさそうだよね。


「三木野さんは体調どうですか? 歩けます?」

「それはもう全然! っていうか、あっちでも仕事してたし」

 そこまでへろへろじゃないよという返事が来たので、大丈夫ですと二人に伝える。

 体調壊すのも早いけど、回復もまあ早めということなのだろうか。

 もしかしたら、この人は休息不足なのかもしれない。


「それじゃ、馨くん。納品はよろしくね」

「了解です。こちらのお仕事はしっかりしておくので、お二人も休日の残りの時間をお楽しみください」

「はいはーい。開き直っちゃった方が木戸くんには効果的かな」

 それじゃ、また今度といいつつはるかさんは助手席に乗り込んでいった。

 次に会えるのはいつになるだろうか、と思いつつちらりと三木野さんの様子をうかがっておく。


 今朝あったときよりもずいぶん顔色も良くなっているし、ふらつきはもう完全に無くなっている。

「それじゃ、佐伯さんのところに行きましょうか」

「……はぁ。怒られるだろうなぁ」

「すでに、電話かけて怒られてるのでは?」

「そうなんだけどねぇ……」

「まあまあ、こちらは臨時収入をあてにしているので、是非ともっ!」

 お互いの写真を見れるチャンスですよ! といいつつ、三木野さんの背中を押した。

 そう。これから始まるのは、楽しい品評会タイムなのである。




「おー、いらっしゃい木戸くん。君から連絡が来たときは驚いたよ」

 いやぁ、名刺を渡しておいて正解だったね、と佐伯さんは木戸の姿を見ながらうんうんとうなずいていた。

 木戸馨=ルイの話はスタッフの中でも機密事項として扱われていることだ。知ってる人が増えるとばれるかもしれないということで、仮採用になったときに、そういう取り決めになっていた。

 佐伯さんとしては、完全に二人は別人という認識で触れあうように心がけてくれている。


「以前あいなさんに聞いてた特徴そのままだったので、ついお節介をしてしまいました」

「ははっ、君の場合はただ撮りたかっただけなのだろうけど。フォローしてくれて助かるよ」

 さぁ、中へどうぞと言われて事務所の方へと進むことにする。

 写真感の奥にある事務所は、たいてい写真の品評会をするときに使ってる部屋である。

 そういえば、ルイ=木戸馨って話をしたときもそこ使ったっけ。


「そして、(ルナ)? お前今月で何回目の体調不良だ?」

「二回目……です」

「前の時、もう今月は倒れないっていってたよな?」

 まったく、何回倒れりゃ気が済むんだよ、と佐伯さんはすさまじく不機嫌そうである。

 そりゃ、仕事に穴開けられたら溜まらないってのはわかるんだけどね。


「まあまあ、佐伯さん。その話はみっちり後で絞ってもらうとして、俺の方の写真のチェックをお願いしたいです」

 データ、買ってくれるんですよね? とにこにこしながら言うと、う、それはまぁと佐伯さんはちょっとひるんだ。

 部外者がいるところでの注意というのは正直あまりよろしくない行為だと木戸は思っている。

 佐伯さんとしては身内みたいなもん感覚があるから気にしてないのだろうけど、残念な事に木戸としてはあまりここにきたことはないのだ。

 是非ともお客さん扱いして欲しい!


「ごめんごめん。そうだね。大切なのはそっちだ。君の写真を見るのも久しぶりだからね。ちゃんと使い物になるかどうかチェックさせてもらうよ」

「了解です。あ、でもその前に新郎分としての写真を選別して、別データにしておきたいのですけど」

「機材は持ってきてる?」

「タブレットしかないですね。パソコンお借りできるとありがたいです」

 ここで編集することもあるってあいなさんから聞いてますというと、それならその作業やってもらおうか、とお許しがでた。

 正直、持ち運び用のタブレットだとそこまで細かい作業もできないし、それに画面のサイズも大きい方がクリアに映る。

 木戸家にあるディスプレイよりもこっちのほうが鮮明に表示されるのである。


「それじゃその作業の間、ルナには今日の報告と、お前が撮ってきたのを見せてもらおうか」

 いつもなら自分の仕事は自分でやってもらうところだが……体調不良の時はいろいろ心配だからな、と佐伯さんはいいつつデータを提供するようにと促していた。三木野さんは、ひっ、と悲鳴をあげつつぷるぷるするお手々でデータを渡しているようだった。小動物系カメラマンである。

 仕事には厳しい人ではあるから、写真を見せるときにかなり緊張するというところはあるのだろう。


「ふむ。まああっちはあっちでやってもらうとして、こちらは作業をしますか」

 分別すべきデータは三木野さんが倒れてからの三時間程度のものだ。それを新郎の友人、新婦の友人と分けていく。

 新婦さんのドレスの着替え直後などは、もちろん新婦側である。

 いちおう、教会での席次を見つつで判断はしているけど、混ざってしまったとしてもそこは許して欲しいところだ。

 両方の知人というのもいるわけで、きっちりと分けること自体がそもそも難しい。


「やっぱり大きい画面、いいなぁ」

 次整えるべきは、パソコン環境か、などと思いつつ、んーでも、今のやつ別に壊れてないしなぁと少し遠い目になる。

 カメラは新しいのに切り替えるけど、そっちはどうなのだろうと思ってしまうのである。

 大きい画像を扱うようになると、処理が追いつかないってことはあるけど、現状あまりレタッチをしないのでそんなに苦でもないというのが正直なところなのだった。

 合成大好き未先さんみたいなコなら、ハイスペックなパソコンが必要になってくるとは思うけどね。


 そんなわけで、すいすいと仕分けをしていく。

 没かどうか、というのはあまり考えずに、とにかく新郎側か、新婦側かで分けていく。

 採用かどうかは新婦側の写真を見てもらって三木野さんが決めるものだから、木戸としては素材を提供するだけ、というような感じなのである。

 ああ、もちろん三木野さんが採用しなかった写真で木戸のお眼鏡にかなうものがあれば、新郎の方に封入する予定だ。

 岸田さんからも、ちょっと分けてって言われてるしね。


「うわ……これ、朝から相当だなおまえ……これ、昨日何時に寝たんだ?」

「えっと……その。機材のチェックとかしてたら二時くらいになってて……」

「おまっ。遠足前の小学生じゃあるまいし」

 仕分けをしている最中にも、佐伯さんと三木野さんのやりとりが聞えてくる。

 ほんと、まじなにやってんの? と佐伯さんはすさまじく不満そうである。

 確かに、自分で取ってきた仕事でやらかすってのは、そうとうまずいことに違いないし、しかも本来ならサポートが効かない一人でのお仕事だ。

 あれで木戸がいなければ、新婦の叔母さんが危惧していたとおりに、残念な結果になってしまっただろう。

 結婚式は多くの成功よりも一つの失敗が記憶に残るっていうしね。


「っていうか、いつもは倒れる前に連絡いれるのに、今日に限ってどうしてこんな無茶したんだ?」

「それは……その。迷惑掛けるわけにはいかないって思ったからで」

「はぁ……フリーでやってるならなんもいわんけどな。お前はうちのスタジオの一員だろ? 穴を開けて困るのは誰だかわかってるか?」

「……それは、はい。ご迷惑をおかけして……」

「おまえなぁ。困るのはお客さんなの。その瞬間は二度とないんだから、それを押さえてこそのカメラマンだろうが」

 ほんと。現場に木戸くんが居てくれたからよかったものの、下手したらクレームどころか損害賠償案件だぞ、と佐伯さんは強めに言った。

 三木野さんは、しょぼんとしながらすみません、とうつむいているようだった。


「わかったなら、今後はきちんと体調管理はしろよ。後半のほうはいつものお前のが撮れてるんだし」

 寝ないと良い仕事できないぞ、と佐伯さんが柔らかい声で言った。いちおう叱るだけではなく、フォローもしてくれるいい上司である。


「あの、木戸くんってあいな先輩とも仲が良いって聞いたんですけど、どういう付き合いなんですか?」

「あん? それは、まぁー、なんだ。あいなの弟の同級生だったんだよ。それでカメラ好き同士で打ち解けた、みたいなことらしい」

 詳しくはあいなもあんまり話さないんでわからないんだがな、といいつつ、ちらりと木戸の方に視線が向いた。

 これで、いいですか? というような感じの視線である。


「概ね、そんな感じです。馬鹿な青木(弟)の友人をやってましてね。それで家に行ったら写真家のお姉さんがいるというではないですか。これはお近づきになろうということで、写真の評価してもらったりしています」

 お姉さんの方は美人だし、仕事ばっちりだし、なによりカメラが大好きというのは素晴らしいです! というと、仲良しだなぁと佐伯さんから苦笑が漏れた。

 最近はそんなに連絡取れてないけど、まあ、仲が良いといえばいいほうだったのだろうと思う。いろいろやらかされたけど、別にそれで離れようという気にはならなかったし。

 とびきりの馬鹿だったから、逆に楽しかったっていうのはあったと思う。

  

「じゃあ、石倉さんは? そっちの名前もでてたよね?」

「あれ? 木戸くん奈落(げへな)と知り合い?」

「うわ、マジでげへなって呼ばれてる……」

 それはちょっと、名前どうにかならんのですかね、とマウスをいじりながら答える。

 分別作業はそろそろ終わり。あとはカードにデータを移すだけだ。

 新郎と新婦とで、別のカードにいれて、一枚をケースにいれてバッグにしまった。

 

「そこはほら、昔からの慣習だし。木戸くんもうちのスタジオ入ったら、なにかしらそれっぽい名前つけてあげるからね?」

 楽しみにしてなさい、と笑顔で言われて、ひっ、と声を上げてしまった。

 でも、そこはあまり気にせず、どこで知り合ったの? と佐伯さんは言った。

 あいなさんにはいろいろ話してるけど、佐伯さんにはあまりルイの話って伝わってないんだね。


「最初は町中でばったり、ですね。それから割と町で会うことが多くて。そう。このカメラも石倉さんにアドバイスもらって買ったんですよ」

 割とお値段が張ったので当時はびびりましたけれど、というと、あーうーん、そうだろうねぇと佐伯さんは苦笑気味だった。

 いいチョイスではあるけど、学生に勧めるにしてはちょっとという感じだった。


「まあ、仲良くする分にはいいよ。あいつにも得意なものってのがあるし、きっと良い刺激になるんじゃないかな」

 それに、木戸くんにならすごく優しいだろうから、と佐伯さんはさらに笑みを深くしてそんなことを言い出した。

 は、はい。すでに優しくしてもらっています。社員旅行に連れて行ってもらったりとか!


「俺としては今日、三木野さんの撮った写真を見て、刺激を受けたいところです」

 はい、こちらは分別完了しました。と三木野さんの前に新婦関係者が写っているデータ入りのカードを渡す。

 選別はしてないので、使えるのがあったら買って下さい、というと、うぐっと彼は嫌そうな顔を浮かべた。

 ま、実質出費が発生するわけだからそこはしょうがない。

 

「さすがに早いね。没写真も入ってるの?」

「俺としては没かなぁと思うのもあったんですけど、とりあえず新婦さん関係のものは全部こっちに入れてあります。新郎さんの方は今日家に帰ってから作業しようかなって感じですね。納品まではこっちは緩いですから」

 そもそも、金額設定もこちらよりずいぶん安いですしね、というと、おいおい、ほどほどにしてくれよと佐伯さんに小言をいわれてしまった。

 三木野さんは、ん? って顔をしてたけど、まぁスルーである。

 適正価格で写真は売ってねというのが、佐伯さんからお願いされてることだけど、残念ながらそこにはプロとアマチュアの肩書きの差というのは確かに存在しているのだと思う。

 実際、新婦の叔母様にはどこの馬の骨ですか? みたいな感じの対応されたしね。

 肩書きというのも、ある程度相手を信用させるためには必要なものだと痛感してしまった。


「金額に関しては実績を積み上げてからですね。是非お願いしたい! といわれたらちょっと価格交渉を次回はやってみようかと思います」

 自分で好きで撮ってるものはフリーにしますけど、というと、君は商売を意識しようか、と佐伯さんにため息をつかれてしまった。


「まあ、そこはいいや。じゃ、君が撮ってきたもの、見せてもらおうか」

 時間があれば、新郎さんのほうも見せて欲しいな、と言われて木戸は、ヨロシクお願いしますとぺこりと頭を下げたのだった。


失敗したあと、上司に会うのってなんかすごい怖いですよね。

という感じで。ルイさん的には佐伯さんは優しい上司だけど、いちおー経営者でもあるのでこんな感じであります。


さて、次話でやっとこのパートもおわりますよー!

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― 新着の感想 ―
[一言] この子ひとの恋愛には興味深々だよなぁと思っていたらそんな理由が! そのうちいい表情が撮れるから!とか言って男をたぶらかす魔性の女になってしまうかも。 かおたんは40すぎても「こんなおじさん…
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