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647.式の撮影依頼2

本日、ちょっと短め

「本日は、おめでとうございます」

「ああ、馨くんいらっしゃい。今日はよろしくね」

 新郎である新道さんに挨拶をしてなかったので、報告がてら顔を合わせておく。

 今回、新郎新婦に要望を先に出してもらっていたので、それを中心に撮っていくつもりだけれど、正規にカメラマンがいたので、細かい打ち合わせまではいかなかったのが現状である。

 メインカメラマンに昇格したので、撮影のスタンスを切り替えて行くことにしよう。


「はい。思い切り撮らせていただきます」

「きゃあ。カメラマンさんこんなに若い子だったの? うわ、高校生?」

 さっきも言われたものの、どうして男子だと高校生に思われるのだろう。身長か? 身長がいけないのか。

 むぅ、と不満げな顔をしていると、新郎の新道さんはこれでも二十歳過ぎてるんだってさ、とヨメさんにきらびやかな笑顔を見せた。

 見えないだろー? とでも言いたげである。

 

「いちおう、前に新道さんと会ったときから三年くらいは経ってるんですけどね……当時は中学生とでも思われてたとか」

「いやぁ。あの頃も高校生っていう感じだったけどさ。それから育ってないというか」

「なんと……育ってない……と」

 よく言われますが、三年会ってない人に言われるとまた、衝撃がすごいですねというと、子供扱いしてごめんねと苦笑交じりに言われた。


「あー、でも男の子かぁ。もう一人のうちで頼んでた人も男の人でちょっとがっかりなのよね」

 女性のカメラマンの方がドレスの写真とかきれいに撮ってくれそうじゃない? と新婦さんがいうものの、その心情はよくわかる。男性のカメラマンの場合、キレイにとってはくれるけれど、内面までは表現しないのだ。こういうドレス着られて嬉しい、今日は幸せで嬉しい、そういった感情をとらえられるのはやはり同性だろう。


「えと、予定ではこれからドレスに着替えてって感じですよね? そこは撮らせてもらってもいいですか?」

「そこは……その。うちで雇ってる人が担当というか」

 見知らぬ若いこをあっちに連れて行ったら、おばさんに怒られると、新婦さんは申し訳なさそうに言った。

 彼女的には別にカメラ二人でもいいんじゃないかという思いはあるのだろう。


「うーん、まだ伝わってないか……」

「伝わってない、とは?」

 え、なに? と新道さんは不審そうな顔を浮かべる。


「実は新婦さん担当の三木野さんが先ほど発熱して倒れまして。救護室で休憩してもらってます」

「えぇー。こんな日に……」

「ほんと、こんな日に、ですよね。それで三木野さんの上司の人と話をしまして、空いた穴を僕が埋めることになりまして」

 たぶん、今頃おばさまにはそのお話がされてる頃だと思う、というと新婦さんはかなり不安げな顔を覗かせた。

 それも一枚写真に抑えておく。

 良い写真が残るかどうか。無名のカメラマンを前にして不安な様子なのだけど、これはこれで結婚式を前にした不安みたいな感じにも写るだろう。


「大丈夫。馨くんなら誰よりも幸せそうな君を撮ってくれるよ」

 あとで楽しみにしているといい、と新道さんは胸をはってくれた。かなり嬉しい。

「そういうことなら、着替えの場までついてきてもらうのはいいけど、おばさま……かなりカンカンだろうなぁ」

「おばさんの肝いりだったしね。まー俺としては木戸くんだけで両方とも全面カバーできるって思ってるよ。三年経っていろいろあれからもレベルアップしてるんだろう?」

 カメラもなんかごついのになってるし、と彼に言われると、もちろんと笑顔で答えておく。

 なにも、木戸とて無為に三年を過ごしたわけではないのである。

 ルイばかりが目立ってしまっているけれど、大学に入ってからは行き帰りでも撮影ができたりするので、こちらもそうとうのレベルアップをしているのである。


「親戚筋には僕から話を通しておくよ。たしか幸恵のおばさんが発注したんだっけ?」

「ええ。おばさんの知り合いとかって話だったかしら。知り合いの息子さんとかだったかしら」

「いちおう、あちらの上司から連絡を入れる手はずにはなってますが、お二人からも伝えていただいた方がいいでしょうね」

 岸田さんからは、最初は僕だけで撮影をという話だったというのは聞いてますし、後から追加オーダーをかけた方が心配されるでしょうから、というと、まー、そうだよなぁと新道さんは困ったように頬を掻いた。

 どこの馬の骨とも知らない若いカメラマンに、お嬢さんのウェディング姿の撮影を任せるのは、心配だというのはまさにその通りの感情なのだろうと思う。

 となると、説得材料というものは必要になるだろうか。


「あ、でも、その前にちょっとお時間があるようなら、失礼します」

 カメラを構えて、二人が入るように位置どりする。

 え? と困惑する新婦さんとは別に、あぁと新道さんの方は納得して、大丈夫だから、とリードしている。

 その姿も一枚もちろん撮らせていただきました。


「では、おばさまが納得するように数枚サンプルを撮らせてもらいますね。いくつか質問しますので、自然にそれに答えてくれれば大丈夫です」

「なんか、いきなりで……」

「大丈夫。言われたとおり気楽に質問に答えよう」

 きりっとした新道さんの顔を数枚撮影しておく。ここらへんはあとできっといい思い出として残るんじゃないだろうか。


「では、最初は……そうですね。ご趣味は?」

「ぷっ。いきなり何を言い出すのよ」

「はい、その顔いただきです。ちょっとずつリラックスしてもらわないとですからね。不安ですって顔が残っちゃうのはこういうハレの日にもったいないですよ」

 特に新婦さんにとっては最高の思い出の一つになるべきものですから、というと、あははと思い切り笑われた。

 まあ、表情を柔らかくさせるのが目的だからいいのだけど。


「じゃあ、次の質問は、そうですね。新道さん。奥様(、、)の素敵なポイントを一つ」

「なっ、何をいきなり……」

「ほぉ……そういう質問もしちゃうのねぇ。それは私も気になるかなぁ」

 さぁさ、聞かせてくださいな、と新婦の表情が一気に明るくなる。質問そのものに興味があるようで、さぁどうなの? ととても楽しそうだ。


「う……ほんとに答えなきゃだめ? 人前でこういうのはちょっと」

「人前で嫁さんを褒められる男性はかっこいいと思います」

 びしっと親指を上に上げて言い切ってあげると、うわぁと新道さんは怪訝そうに木戸を見つめた。

 おまえ、何言ってんのという感じである。


「謙虚で、一生懸命なところ、かなって、うわぁー面と向かっていうのすっげぇ、はずい」

「……新道さん……」

 うわぁ、と思い切り新郎の顔を見る、その表情は一枚いただきました。

 あまいひととき、ありがとうございます。


「では新婦さんは……そうですね。今日のドレスの仕上がりは自信あり、ですか?」

 ドレスは二人で選んだんですか? と話題を振ると、え? と不思議そうな顔をされた。

 いたってまともな質問だというのに、怪訝そうにされるのはどうしてだろうか。


「あ、ドレスね。二人で選びにいったけど、仕上がりは……ふふっ。できてからのお楽しみ、ね」

「えー、そこでぼかすのかよー」

 すっごく楽しそうな顔をした新婦さんの写真が一枚しあがった。

 ドレスの仕上がりに関しては、新郎さんには内緒というところあたりもあるらしい。


「やっぱり、がんばったんですか? ダイエットとか美白とか」

「そこはねー。夏場の日差しに負けないように、数ヶ月を過ごしました! やっぱり一番の姿を残しておきたいし」

「ですよね。そこは僕もご協力しますから、心配しないで式に集中してくれると嬉しいです」

 ほい、先ほど撮った写真がこちらです、と二人に見せると、一瞬二人から言葉が消えた。


「……確かに木戸くんの腕は知ってはいたけど、あの状態からこの表情を引き出すことができるとは……」

「あー、この写真借りていってもいい? おばさま説得するの、これあればすぐだから」

「了解です。とはいえタブレットごとというのは難しいので、データ移動できるものがあると助かります」

「じゃ、俺のスマホに! ぜひ! 結婚式の朝! とかタイトルつけて機種変しても待ち受け画面にするから!」

「そこは、ドレス姿のほうにしましょうよ」

 まだ着替えてない状態でそれはどうなのかというと、そっちもあるのかぁー! と新道さんは大喜びである。

 うんうん。写真数枚でここまで喜んでいただけるのは本当に嬉しい限りである。


「それじゃ、木戸くん。ちょっとおばさん当たり強いかもしれないけど、一緒に控え室の方にきてくれるかな? 着替え中はさすがに出て行ってもらうことになると思うけど、他より早くウェディング姿、見せてあげるわよ」

「おー、いいですねぇ。ばっちりそこも押さえますから、楽しみにしてください」

「ぬぅー。晴れ姿を先に見られるとは……」

 ぐぬぬと、新郎さんのほうはちょっとご不満なようすである。


「僕はカメラマンですよ? それに花道を通るときだって他の人の目には入ります。主役はあなたなのですから、どっしりしていればいいのです」

 ねぇ、旦那様、と声を少し高めに出していうと、お、おう、という返事が返ってきた。


 さて。そんなわけで新婦さんの準備の撮影に繰り出すわけだけれど。

 岸田さん達には、こちらの会場での撮影を適度にお願いしておくことにする。

 はるかさんが、スマホでわーいって式場の撮影を始めていたけれど、まあ、そこはきっと将来のため、と思うことにしよう。

いきなり童顔男子が「カメラやります!」と言っても納得するのかーって言われたら、まぁこんなもんです。

しかし、公式な場の大人の前で「俺」という一人称を使えないかおたんは、本日僕っこにございます!

私、と言わせてしまってもいいのですけど、それはそれでルイすいっちが入ってしまいそうというか。

僕っこもかわいーんでぃ!


次話はどうしよう……正直、控え室は姉様のところでやったけど……ちょい悩みます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 花嫁さんの控え室、覗いて見たいのでぜひとも お願いしたいです。 私もカメラ始めてみようかなー!
[一言] うーん…控え室の話は牡丹おねーさんの時にはカメラ制限されてたし、行ってたのはお婿さんの方だし、今回はお嫁さんの方にいくとかなら差異化できるし、今回は木戸馨としてのお仕事とはいえテンション上が…
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