646.式の撮影依頼1
271.で話題がでて、409で初登場。435の成人式で話題だけでつつ……499でも話にでるのは結局「病弱な先輩」なんです。
そして。。。ちーん。
はい! 佐伯さんちの病弱な子と絡む話でっせー。
ちなみに作者、書いてたかどうかもわからなくて、アップ分をDLして、三木で検索して今に至ります。
カメラの準備よし。服装よし。
メモリーカード、バッテリーよし。
鏡の前に立つと、よしと木戸は気合いをいれた。
八月のある日。外に出るにしても珍しく木戸は正装をしていた。
姉の結婚式の時のお仕着せのレンタル衣装ではなく、以前結婚式の依頼のときに着ていたジャケットである。
高校三年の時の服がそのまま着られるというのは、成長してない証なのかという思いもあるけど、横に太ってないということでもあるのだろうと思う。
「あら、馨ったら珍しく男のコっぽい感じに仕上げてるじゃない!」
「あの、母さん。普段俺は男っぽい格好してるからね? 男としてちょっとしゃれたって思うのは……それ毒されてるんじゃない?」
これ、高校三年のころにつかった撮影の時と同じ! 上のジャケットは女の子用だからね? というと、一応男のコに見えるわよと母様はなぜかうれしそうにハンカチを取り出した。
泣いてはいないけれど、まあ演技というやつなのだろう。
「どうにもあっちの方の印象が強くていけないわ……そろそろあんたあっちの廃業は……」
「しません。っていうか、今日は久しぶりにこっちに撮影依頼がきただけで、仕事の量ではもう雲泥の差だし」
しかもあっちは収入形態も決まってるし、ちゃんとした仕事としてっていう意味合いではあっちのほうが安定しているというと、うぐっと母さんは言葉を引っ込めた。
「ま、今はいろいろ模索中だよ。男としても撮影ができればいいなとは思ってるけど……んー」
さすがに母様の前で、女装だーいすきとはいえず。
行ってきますということだけを伝えて木戸は外に出ることにした。
「今日は来てくれてありがとう。大学生になって忙しいだろうに」
「いえ。お仕事回していただけるのはありがたい限りです」
父の職場の部下である岸田さんと話をすると、今日はたっぷり撮らせていただきますよとわくわく答える。
彼から依頼を受けるのも三年ぶりだろうか。いちおう社員旅行とかではご一緒したのだけど、最近はルイとしての私生活が立て込んでいて、あまり会えていない相手でもあった。はるかさんとはよく会ってるけどね。
ちなみに、そのはるかさんも参加していたりするけれど、ふわっとした王子様みたいになっている。
ほっそりしている上で男装状態なので、ノエルさんもかくやという感じなのだ。
今回のクライアントは厳密には父から経由ではなく、岸田さんからだった。部署の異動などがあったりなどもあるものの、岸田さんの個人的な友人らしい。父と面識くらいはあっても同じ会社の人くらいなつながりなのだそうだ。
彼はフォーマルなスーツに身を包んで、きりっとしながらも、こちらには柔らかい笑顔を向けてくれる。
はぁ。たしかにはるかさんが好きになる相手だけはある。一回りも年下にこうも丁寧に対応していただいてありがたい。
「それと、今日は馨くんにも来てもらったものの、実は専門の業者さんにもお願いしてるんだ。先方のご親族が、そのね。そりゃ俺たちは君の腕を知ってるし、リーズナブルにあれだけのことをやってもらっちゃってるからむしろ正式に推して行きたいんだけど。こういっちゃなんだが、アマチュアでしかない、わけだろ? そこんところがちょっと……」
前回はリーズナブル婚だったからそれもできたんだけど、やっぱり新婦の親族が気にしてしまってと申し訳なさそうだ。
「馨くんはもーどっかのスタジオにでもはいっちゃってばりばり働いちゃえばいいのに」
はるかさんが、にやっと笑いながら話に混ざってくる。
いちおうはそれでも男声で対応しているところをみると、会社モードではあるらしい。
「いや、でも俺、去年佐伯さんところにご厄介になることになりましたよ? もちろんあっちでですが」
耳元でこそっとそう伝えると、はるかさんがまじで!? と驚いていた。この年で写真館で働き始めるのはなんということだとでも思ってるのだろうけど、あいなさんだって二十歳くらいには出入りしていたと言うし、学よりは技術が物を言うようにも思う。
「うわぁ。で、でもイベントは来るんだよね!? まさか毎日外のお仕事いっぱいで、あっちに来ないとかないよね?」
けれどはるかさんが心配していたのはイベントの方だったらしい。たしかに就職してしまうとイベントいけなくなるって言う人もそれなりにいるわけだしその懸念はわかる。
「そりゃまあ。個人での撮影は自由にしていいし、大学でるまではそんなに多くの仕事は任されませんって。それより正規のカメラマンさんにご挨拶してきますね? こっちもフラッシュ焚いたりはあんまりしないんですけど、下手に警戒されてもこまるし」
プロの人と撮る時は相手を立てるのはまず大切なのです、といいおいてカメラの用意をしている人に近づいていく。
撮影の腕章をつけている人はすでにチェック済み、というか……あぁここで会うかというような感じで。
今日の撮影を任された相手は木戸も知っている相手だった。
ルイとして何度か会ったことのある相手だ。そう。佐伯写真館の若手男性の三木野さんだった。エレン……いちおう男子校に行っていたからこっちの名前で書くけど、あの子の学校に行ったときに熱だして寝ていたのもこの人で、現在28歳だそうだ。結婚式の仕事を取ってきたという話はきいていたけれど、まさかここでかぶるとは思わなかった。
でも、彼はルイを知ってはいても木戸のことは知らない。
初対面を装わなければ。
「あの、今日カメラ担当してくださる方ですよね。本日はよろしくお願いシマス」
「ああ。新郎と新婦それぞれカメラマン用意しちゃったってヤツ……ってわけでもないか」
高校生? と聞かれて、おやと首をかしげそうになって、ああ、と思い至る。
そう。なんだかんだで高校をでてもう三年にもなるのだけれど、いっこうに木戸には男っぽさが強まる気配がなかった。女装している状態なら大人っぽくなったとか、色気がましたとか言われるけれど、男の状態だと童顔というように言われることの方が多い。
「いちおーこれでも二十歳ですよ。それはともかく新郎側の知人からの依頼で個人的に撮影をさせてもらってます。とはいえ、プロの方がいらっしゃるなら注意事項くらいは聞いておくべきだと思いまして」
「……フラッシュだけつかわないでくれればそれでいいよ。シャッターチャンスで光っちゃうの、うちの事務所的にNGだし」
まあ佐伯さんならそうだろうね。そこらへんはこちらも納得なのでうなずいておく。
「あとは自由に撮ってくれてかまわない。新郎側ということはそちら中心になるんだろう?」
「もちろん新婦さんの艶姿もとことん撮りますよ? 以前別の結婚式で新婦さんのドレス姿がすごくキレイで、ばしばし撮っちゃいましたし」
きっと今年もそうなると思います、と答えたところで、三木野さんの様子がおかしいことに気づいた。
通常のサイズのレンズをつけているから、そう重くないはずなのに、肩で息をしているのだ。
いくらなんでも様子がおかしい。またかよ。
「あの、顔色がすぐれないようですが、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だ。今日の仕事は新婦の側からの依頼だからね、少しくらい体調が悪くても……」
よろり、そこで力が抜けるように三木野さんは体を揺らしてふらりと倒れそうになる。あわてて木戸はそれを支える。
触れた肌は異様に熱くなっていて、顔も熱っぽくほてってしまっている。
「これ、熱あるんじゃないですか?」
「さっき薬のんだんだ……だからじきに……」
「そうはいってもすんごい体重かかってて、重いんすけど」
「それはすまない、すぐに起きあが……」
「れてないじゃないですか」
ぐっと体に力をいれて背後にあった大きめな木に寄りかからせる。するとずるずると足を滑られてそのまま木を背もたれにしてこてんと座り込んでしまった。
「人呼んできます。新郎側の知り合いになってしまいますが」
「まっ、それは……佐伯さんところに迷惑がかかる」
いや、いままで散々そういうことやってきているのだし、ダメージを少なくすることを考えた方がいいのではないかな。
「駄目です。仕事は今日だけではないでしょう? 明日は? 明後日は?」
「うぐっ……」
明日と明後日の彼の予定は、佐伯さんについてどこか地方回りだった気がする。正直平日のみんなのスケジュールに詳しいわけではないんだけれど、遠出できていいなぁと思った記憶がある。
明日が休みというなら、無理もしていただきたいところだけれど、そもそも体がこれだけ揺れててちゃんと写真が撮れるのか怪しい。
「あー、カメラマンさん、さすがにこれだとホテルの救護室にいってたほうがいい」
「いや、でも……」
岸田さんを呼んでもどってきても彼はまだふわふわしているようだった。もらってきたペットボトルの水を持たせて飲ませる。飲む前に首筋や頬に当ててるところを見ると、やはり熱もあるのだろう。
「新婦さんとご親戚には話しておきます。それに写真のことに関しては馨くんがいればなんとかなるでしょう」
いいのを撮るんですよ、これで、という言葉の何割が伝わっただろうか。安心させるための方便くらいにとってるような気がする。
「それなら、ここに連絡をお願いします。誰かいてくれれば代理で……そうじゃないとその」
都合が合うのって佐伯さんくらいじゃないだろうか、と頭にちらりと浮かんだが、仕方ない。あとの判断は本人達にしてもらうしかないだろう。
「仕事として成立しなくなる、ですよね。まあ、僕が撮ったものを佐伯写真館に売り捌いてそれを納品してもらうってのも手段だとは思いますが。佐伯さんがどういうかな……とりあえず電話しときますから、岸田さんは三木野さんを救護室につれてってあげてください。結果はお知らせしますから」
それと少し寝て復帰して、続きを撮ってください、とも伝えておく。
式は披露宴を合わせて四時間ほど。前にやったときよりも少し長いのは、こちらのほうがお金がかかっているからだ。あのときは本当に最低限しかやらなかったし、お色直しもろくにやらなかったので、時間が短くなってしまったのである。
だとしたら、さっさと復帰して撮影に戻るべきだ。
その間くらいなら、場をつないであげることも十分に木戸ならできる。
「なにやら大事になっちゃったけど、大丈夫なの?」
「んー。三木野さん、ルイの先輩に当たる人なんだけどねぇ、あの人からだ弱いのですよ。前も風邪引いて撮影いけないなんてことありましたし」
こそこそ女声に変えてはるかさんだけに伝わる声で伝えると、へぇと納得声が返ってくる。それだけでどういうことなのかわかったらしい。
「さて、じゃちょっと電話しちゃいますよ。どっちの声で話すべきか……」
それが問題だ、といいつつもうルイ声でいくことは決定なのである。佐伯さんに教えているのはあくまでもルイの側の電話番号なのだ。
「おお、ルイちゃんどうしたの? 珍しいね君から電話くるだなんて」
「確かに貧乏でけちな性分で電話はこちらからかけないのですが……えとですね」
佐伯さんが出たのを確認してから声を切り替える。
「あの、俺今、父のつてで結婚式の撮影に来てるんですがね、そこでその……三木野さんがいて」
「それで、倒れた、と」
「よくわかりましたね……」
だって、それ以外に君がそっちで連絡くれる必要性がないじゃないと、佐伯さんはすぐに反応を返してくれた。
「いちおう、彼はいま救護室で休んでもらっていて、復帰するまでは代わりをすると伝えています。変に恩着せがましいのもいけないと思って、抜けた写真分は佐伯写真館に買い取ってもらって納品してもらうっていう風には伝えておいてます」
「それはいいよ。君はうちの人間じゃないんだしね。客観的には、だが」
腕は安心してるよーと付け加えてくれるのが嬉しい。君らしく撮ってくれていいと言われた。
そして先方にはこちらからも話をしておくから、と佐伯さんは電話を切った。
さすがに自分がこれからそちらに向かう、という選択肢はとらないらしい。こちらを信じてくれているからなんだろうが、果たして眼鏡をかけた状態でどこまでできるのか。わくわくしながらも、やはり怖いものがある。
さて。
ひょんなことからメインカメラマンになってしまったわけだけれど。
そうなればやることはあらかた頭に浮かぶ木戸なのだった。
やっと出てきたっ! というわけでしばらく遊びにいっていたのでお仕事の時間です。
久しぶりにかおたんの出番。俺って言ってるのがやっぱり違和感という感じがありますが、眼鏡の守りは万全です。
さてひゃっはーして素がでないといいのですが。。




