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642.プライベートビーチに行こう11

お待たせしました! お時間かかってすまんそん。

めちゃくちゃ悩みました。そして長くなったよー!


「じゃあ、一発目は……あー、うわ。わっかー。これ高校の頃のだよね?」

「課外実習のかな。やっぱり学校の写真サーバからってなるよね」

 そこらへんにしか写った記憶ないしなぁとルイが言うと、本当にルイ先生は撮る専門なんですね、と彩がにこやかに言う。

 そして、古い順に写真が表示されていく。イベント毎での写真がほぼで、だいたいが学校の中での光景である。

 共学校ってこんな感じなんですねー、なんていう声が上がった。


「あとは大学生として……なんだけど。なにげにほとんど写真がありませんでした」

 っていうか、女装して写っている写真ばっかりなんだよねぇと、エレナがにこにこした顔で言った。

 大学で可愛い格好をしてくれるだなんて、なんていい子なんだろう! とでも言いたげである。

 

「大学内での女装は必要に駆られてだよ? それに意識的にはあくまでも女装の範囲内だし」

「そこのところが、ちょっと不思議というか。ルイ姉の状態とやっぱりなんか違うんだ?」

「まー、こっちは相手を萎縮させたり、警戒心もたれないようにするためっていうのが大きいからね。どんと構えるというか、意識しないで女性的であることが最優先というか」

 まあ、服装とかメイクとかは意識して可愛くしようとはするけど、それって普通の女性だってそういうものでしょう? というと、あー、なるほどね、とクロが納得げな声を上げた。

 他のみなさんは……エレナがにこにこしているだけで、首を傾げている人の方が多いようだった。


「女性は可愛くなるためにメイクをしたり着飾ったりするものであって、女性になるためにそれらを行うモノじゃないっていう話だね」

 男の娘大好きなボクとしては、男の娘として可愛く着飾る! というのもありだと思うんだけどねー、とエレナさんは願望を漏らした。

 可愛いは正義なのである。


「そういう意識で美人になれる人っていうのは、チートだと思うけどね」

「クロに言われたくないかなぁ。キャラの作り込みもすっごいのに」

 ほらほら、お姉さんがまた撮ってあげますよー? とルイがいうと、うわっ、それは楽しみっと、クロが少し高めな声を上げた。

 なんというか、百合色な空間である。


 そんな二人をにこやかに見ながら、エレナは写真が最後まで行ったのを見計らって、尋ねた。

「さて、ご所望の馨ちゃん写真を見てもらったわけだけど、彩ちゃん、どう? 思うことはある?」

「なんといいますか……同一人物だとはなかなか思えないですね」

 まったくの別人って感じがします、と彩が困惑した声を上げた。

 普段のルイをあまりにも見慣れてしまっている身としては、あそこに表示されていた写真に写っている男性はあまりにもギャップが激しすぎで、本当に? という感想しか浮かんでこない。だって、あまりにももっさりしていて、ザ・モブという感じなのだから。 


「やっぱそう思うよなぁ。俺も最初に見た時は、は? ってなったもんだし」

「兄様もですか? というか、兄様はルイ先生とどれくらい親しいのでしょうか?」

「彼女の親友ポストって感じかな。男同士で会ったことは……うーん、あったっけ?」

 どうだっけ? とよーじ君がいうものの、それくらい馨の印象は薄いようだった。


「まあ、印象が薄いのも仕方ないと思います。親戚の私たちですら、久しぶりに再会したときに驚きましたからね。あれ? こんな人だったっけ? みたいな感じで」

「だよなぁ。まあ俺の場合はレイヤーなのもあって、ルイさん(、、、、)は知ってたんだけど、実際家で馨兄を見た時は、いろいろと思うところはあった。っていうかあれの前に町中で後輩の女子とさくらさんと一緒に居たときくらいの格好なら、まだありだなと思うんだが……」

「違和感しかないというか……なんでしょうね? 昔、憧れてた親戚のお兄ちゃんが、もはや見る影もなくなっていたというような感じでしょうか……」

「楓香さん……そのたとえはさすがにちょっと傷つくのだけど……」

 さすがに日常の姿を見て、見る影もないというのはどうだろうかとルイは思う。


「あわわ。別にもっさい馨兄様がダメってことじゃなくて、昔はもっとこう、きらきらしいというかなんというか」

「確かに最初に会ったときは、すっげぇ美少年って感じだったしなぁ。あのショタっけ。牡丹姉さん達がうっかり女装させちゃおうとか考えるのも、とても納得がいくというか」

 無邪気さと、可愛さがあって、まるで天使でした、とクロがうっとりするような声を上げた。


「小さい頃の馨か……小学生の頃の写真はないの? ほら、ご両親が撮ってくれたヤツとかは」

「あー、それはないね。うちの両親はカメラからっきしだし。それに父様が御影じーちゃんのカメラ熱の影響なのか、カメラ毛嫌いしてたからね。運動会とかの写真も特別撮ったりしなかったんだ。その分思い出に刻む派というのかな」

「たしかに、叔父さんはそういうところあったっけ。となると幼少期の馨兄の写真はレアかぁ……もしかしたらうちのアルバムのほうが多いのかな」

 みんなでバーベキューやったときのとか、少し写真は残ってると思うけど……とクロが思い出すように声を上げる。

 そして、すぐに、うわっと声を上げた。


「クロくん? その写真、焼き増しとかコピーとかもらえないものかしら」

「ちょっ、いきなり両肩がしっとするのは、まっ」

「こらこら、珠理ちゃん。クロくん驚いてるからっ! 確かに幼い馨ちゃんの写真はボクも欲しいけど、そこまでがっついちゃダメでしょ」

 ハウスっ、と言われて珠理奈はびくりと体を震わせて手を離した。


 やり過ぎたとばつの悪そうな顔を浮かべている。


「そんなに期待しないでくださいよ? うちもいろいろあってあの頃のアルバムは割と奥底にしまってある感じなので」

「木戸家との関わりも十年くらいブランクありますしね」

 まあ、今度探しておきます、とクロが答えると、是非ともこの馨ちゃん写真集に加えよう! という声があがった。

 ルイだけは、一人苦笑ぎみである。


「でも、そうなるとあんまり成長写真集って感じにはならないかもしれないですよ?」

「それまたなんで?」

「だって、つながらないですもん。お兄様もそう思いません?」

 ちらっとクロに話をふる楓香をみつつ、皆何をいいたいのかと興味深げに視線を向けた。

 

「まー、たしかに、同じ人だっていう感じしないよなぁ……」

「ですです。どちらかというと幼少期の頃の写真に、ルイ姉の写真をつなげた方が、たぶんしっくりくるんじゃないかなと」

 んー、と頭の中で想像をして、おおっ、と楓香はしっくりいったようでぱちんと手を打ち鳴らした。

 クロも、あーそうだなっ! と声を上げる。


「な……」

「なんですって!?」

 さて。そんな反応にたいして、うなずいている姿がいくつか。

 そして圧倒的に不愉快そうな顔をしているのは珠理奈だった。 


「あたしは確かに馨の幼い頃を知らないけど、どうしてそんなに、馨のこと、否定するの!?」

「否定……してるつもりはないんですけどねぇ」

 そう聞えてしまったなら、すみませんと素直に楓香はあやまった。

 そして、兄の方がそんな妹をフォローするように話し始めた。


「あ……なんていうか……うん。否定してるわけじゃなくて、つながんないって感じなんですよ」

「です。母の葬儀の時に、馨兄は泣いてる私たちを抱き寄せて頭なでてくれましたけど……その延長ってどっちかというと、ルイ姉なのかなって」

 泣き疲れるまで、あのときはきゅってだきしめて、なでなでしてくれましたよね? と楓香が視線を向けてくる。

 うう。かなり幼い頃のことで、正直、お骨上げのイメージのほうしか残っていない。


「えっと、それ、牡丹姉さんじゃなくて?」

「馨兄だったと思います。だって。参列したのってうちと木戸家でしょ? 牡丹姉様はあのころから、こう、ふくよかというか……」

「俺、牡丹姉ちゃんが中一の頃には、なんか抱きついちゃいけないなって思ってな……」

 うん。だから、あれは馨兄だよといわれて、ルイは、むーと、不満げな声を上げていた。


「わーい、ねーさまって、あたしは割と牡丹姉様に抱きついていましたけど? 姉様が中学出るくらいまで」

「……これ、下手をすると案件発生なのでは……」

「つまり、ルイ姉がよくいう、おっぱいの大きさだけが女性の価値ではない! は、まじ本音ってことか……」

 ちらっと楓香が珠理奈に視線を向けつつ、なんかすんませんと頭を下げる。

 ん? とルイは首を傾げるばかりだ。


「ともかくですね! 私としては幼少期のルイ姉というか、馨兄っていうのは屈託のない幼い子というか、優しい子って感じで……」

「うん。別名、あほの子ともいうかもだけど……」

「むぅ。中学生のころからいろいろあったから、大人になったんですっ。あたしだって小学生のころの無邪気さはないんだけどね」

 ちゃんともう、大人ですっ、というルイの発言に、周りはどうよ、とひそひそした声を上げた。


「だから、私たちにしてみれば、映像にでてきた馨兄よりは、ルイさんのほうが、身近だし、お正月にお雑煮作って待っててくれる馨兄あたりが、しっくりくる感じなのです」

 ま、中高生の馨兄に直接会ったことがないので、実際に触れあったのなら、優しさとか、おせっかいさとかは感じられたのかもですが、と楓香が補足する。


「まあ、ルイちゃんがルイちゃんだよねってことで、ご納得いただけたらとボクは思います!」

 うん。これからも良い写真をヨロシクね! と、エレナは青ざめている珠理奈を放置するように、言い放った。


「ご納得なんてできないじゃない……」

「だろうけど、今はほら、ちょっとクールタイムにしよう」

 主張していいときと、そうじゃないときと、そういうのは解るでしょう? とエレナに言われて、珠理奈はむぐっと口をつぐんだ。

 きっと、従兄妹に優しくしたことも、正しいのだろうし、今それを否定していいわけでもないのだろうと思う。


 でも。

 怖くなるのだ。

 ルイと、馨の二つを別に捉えてしまっている自分が悪いところもあるんだろう。

 でも。自分が触れあってきた()の存在のほうが、偽物だといわれるのは、許せるわけがない。


 自分が好きになった子が、男装の女の子でした、というのならば、多分もっと素直に、諦めたり、好きになったからといって、付き合う覚悟はできるかもしれない。

 でも、馨の場合は、ベースは男性なのだ。

 女装をすることについて、どうこうは、たぶん世の中の誰も言えないレベルだと思うし、それをやめて欲しいというには、パワーバランスが悪いと思う。

 これが、自分にぞっこんなファンであるのならば、付き合うことを理由に相手の気にくわない部分を直すようにお願いできるだろうけど。

 残念ながら、珠理奈側が馨を大好きなのである。


 惚れた弱みとでもいえばいいのだろうか。でも、それでもちょっとずつ意識改革をしていきたいとも思っている。


「あー、クロと楓香にはいっておきたいけど、個人的にはルイとして写真家としてめだって、良い写真撮りまくって。普段は落ち着いた生活したいなってのあるからね? 不本意ではあるんだけど、ルイとしてのネームバリューがちょっとずつ大きくなってきてて、そこらへんちゃんと使いこなせるようにねって、佐伯さんにも言われててさ」

「えと、馨兄としては、写真はどうなの?」

「……まだ、プロとしてやっていける技術がないかと。まあ、力がついたのなら、両方で活動はしたいよね。クロやん、でゅふふふふっ。拙者、ローアングルで攻めたいでござる! できればっ、もんまりを! ぜひとも! というお兄さんと、衣装かわいーですねー! きゃーって子とどっちから撮られたい?」

「……前者は案件……ともいえんのかな。法律的にはわからないけど、男が男にセクハラされるのって、存在しないことにされるからなぁ」

 それは、めっ、ですよ? とか言えばまあまあ、みんな自制してくれるんだけど、といいつつ、クロは少し困った顔をする。


「んー、イベントで問題あったらボクにいってね? なるべく力になるから」

 っていうか、他の男の娘レイヤーさんにも、頼ってもらっていいと伝えてもらっていいよ? とエレナがふんすと、鼻息を出しながら言った。

 まあ、男の娘の守り神さまである。


「ああ、でも、基本的にイベントに参加してる子達はそういう偏見とかはあんまりないですよ? 素直に綺麗とか可愛いとか言ってくれることが多いので。っていうかルイ姉だって、さんざん女装レイヤーさん撮ってるでしょう?」

 ちょっと引いてる珠理奈に対して、クロは最初に話しかけつつ、後半はルイ姉に言葉を向ける。

 さすがに、コスプレ業界全体が、ギリギリを攻めているわけではないのである。


 けれども、珠理奈としては別の疑問点というものがあったようだった。

「あの……ほんとに、その業界はみんながその、女装レイヤーさんを受け入れているものなの?」

「……人は人、自分は自分。自分が好きなモノを人に嫌われたら嫌だ! って思う人達の集まりですからね。私は女性コスを中心にやってきていますが、晴れの場で楽しい事ができれば良い感じです。まあ、それとルイ姉の状況とがどう、関わるかはわかりませんけど」

 私としても、セミフルタイム? で、女装している従兄弟にちょっと心配はあるとクロは言う。


「むぅ。クロやんはあたしの就職について、不安なのー? なんとかなると思うけども」

 これでも、いろいろ考えています、というように憤慨するルイに対して。

「かなりフリーランサーだよね? それで、生活できなかったら……。おうそうか! そのときは珠理さんのペットっていうかんじで買い上げられるのね」

 よよよ。ペットだー、とクロがからかいの声をかけてくる。むぅとルイはほっぺたを膨らませて抗議の意志を示した。


「ペットというか、パトロンっていう関係性も結構いい繋がりなんじゃない? 壁ドンしながら、俺が養ってやるよ、みたいな?」

 やー、イケメンだぁーと、エレナも楽しそうに話題を膨らませた。

 まあ、今のご時世である。少し前なら男性の収入が多かった時代だったけれど、いまや女性でも稼いでいる人はいるのである。

 そうなると、イケメンを経済的に支援する女性がいたとしても、納得というものである。


「……珠理さん。いちおう馨兄を信じてやってくださいね」

 うちのおじいちゃんも、あの子なら仕事はできるじゃろーって言ってたくらいですから、と楓香がたしなめる。

 よっぽど、それもいいかもなんていうのが顔に出ていたらしい。


「ちゃんと正攻法で、お姉さんになって欲しいです」

 じぃっと楓香が珠理奈を見つめながら、キラキラした顔を向けた。

 うん。純粋なまなざしというヤツである。

 しかしながら、他のメンバーはなんというかこう。


「正攻法……ね」

「んー、正攻法はなー」

「せいこう法……と」

 最後の一人であるエレナさんは別の漢字をあてているようだが、まぁ、かなり残念そうな声を上げていたのだった。

 それって、かなり厳しいのでは、と数人のメンバーには思われていたようだった。




 そして、時は夜の海へと流れていく。


「さすがに従兄弟から幼い頃からの延長がルイの方だって言われたらへこむわよ……」

 だったらあたしが見ていた馨っていうのは一体なんなの? って感じと言いながら珠理奈は体育座りの膝に頬を埋める。

 結構なダメージだったのである。


「最初に好きになった相手が馨ちゃんってことだと、キミの言いたいことも解るんだけどね」

 客観的に常識的に見たのなら、そのギャップに大混乱だろうし、とエレナは体育座りの彼女の隣によいせと腰を掛ける。


「やっぱり珠理ちゃん的には、馨ちゃんに男らしさみたいなの求めちゃうんだ?」

「……男らしさってのとは違うのよ。別にそういうのを求めるのなら、ずっと男らしい人はいるわけで」

「まあ、そこはね。否定はできないね」

 どちらかというと、それとは対極にあるしなぁ、というとほんとにね、と深いため息が珠理奈から漏れた。


 そしてそれからちょっとばかり無言の時間が続く。

 それこそ、波音だけがいくど繰り返されただろうか。

 エレナは隣の女性の顔をちらりと盗み見ながら、やれやれとため息をついた。


「人間って多面的にできてるって話は聞いたことあるかな?」

「急になによ」

「人間はいろんな面を持ってて、それを相手によって変えるって話。例えばボクならお父様の前と友達の前だと全然見せる顔は違うし、撮影される時はキャラによって変える……ああ、ここらへんは珠理ちゃんの方が実感があるかもだけど」

 人物のなりきりはむしろ得意分野だろうし、というと、反応を伺う。


「それは解るけど……でも、それがどう関係するの?」

「ルイちゃんもいろんな顔を持ってるってこと。どうしても写真馬鹿一直線っていう面が多すぎるけど、それでも楓香ちゃんが言ってたみたいに優しい面であったり、好奇心旺盛だったり、騒ぎが嫌いだったり……他にもいっぱいいろんな面を持ってると思うんだよね」

 ほんと、写真にほぼ全振りだからどうしても他の面の印象は薄くなっちゃうんだけどね、とエレナは苦笑を浮かべた。

 

「そんな中で、珠理ちゃんはちゃんとルイちゃん……馨ちゃんって言った方がいいのかな。ちゃんといろんな面を見せて良い相手だって認識されてると思うよ」

「それは……確かに、一緒に居る時間も多くなったし、そりゃ確かにいろいろと関わってはきたけど」

 んー、確かにはらはらといろいろなところにお邪魔はしたけれども。それが、恋愛感情ゆえなのか、といわれると首をぶんぶか横に振る勢いだ。いわゆる普通の男性が自分に向けるであろう感情というのとはかなりずれているように思う。


「恋愛対象として見てくれないって?」

「そうよ……お出かけしても結局はウィンドウショッピングして終わり! とかそんな感じだし」

「もっと、自分をエロい目で見て欲しい、と」

 ふむ……というと、珠理奈はいや、その、と慌てたような顔を見せた。


「でも、もともと他のファンみたいに国民的美少女だからって特別扱いしないっていうのが良かったところなんでしょう?」

「それはそうだけど……」

「だったら、そこらへんは望んじゃいけないような気がするけど」

 そこは前から思ってたけど、無理筋ってやつじゃないかな、というと、でもー、と情けない声が返ってきた。


「世間一般のキミへの視線の半分以上は、キミが女性でさらには国民的美少女だからこそ向けられるものなんだから。それをストップしたら、普通の人相手になるわけでしょ? ってか、ルイちゃんなら肖像権が! とかいってアイドルならなおさら被写体にしないでしょうに」

「今にして思えばもっと自由に撮らせてあげた方が良かったって思ってるわよ。でも、あいつ、そういうところはちゃんとしてて、無許可とか盗撮はダメです! ってちゃんと解ってるところも、こう……良いところと言うか」

「マッド撮影リスト? なら、気にせずいろいろと理想だってことかな? ルイちゃんそこらへんは、法律とか決めごとは守るよね。まあ下手に捕まって、女装してますーってのがばれるのもまずいんだろうけど」

 ほんと、違法行為ってところに関しては、かなり注意してるからなぁと、エレナは言う。

 女子トイレに入った時に考えるのは、盗撮じゃないですよ! アピールなのだから、やりたいことはやるけど、傷口は少なくというのがあの子のモットーなのだろう。


「……いちおう言うだけいうけど、ハニートラップみたいなのは、馨に通じると思う?」

「……とても、魅力的な絵になるような何かがあればあるいは」

 女の子が、きゃーん、ご主人様ーとか、いう風に言い始めてもあの子は、そこで制服の質いいですね! お写真よろしいですか! え、チェキ代500円ですか……そうですかーって、ずーんとする子だよね、というと、そうよねぇ、と珠理奈も同意した。


「でも、ちょっと思いはするんだよね。キミの事を性欲の対象として思わない馨ちゃんだけど、キミが悲しんでいて抱きしめて欲しいとか、なでて欲しいとかいえば、きっと、それは叶うよね?」

「それは……うん。前に酔い潰れたときは介抱してくれたし」

「なら、それだけ大切にされてることを喜ぶべきなんじゃないかな?」

 それだけじゃ、ダメなんだろうか? とエレナは問いかける。

 正直、それだけで得がたい相手である。人間社会では損得抜きでそんなことをしてくれる人はそうはいない。

 まあ、木戸馨という人間からすれば、自分が手を出せば相手はいい顔をして、WINーWINなんだというのだろうが。


「捉え方で割と世界は変わるものでさ。確かに珠理ちゃんは馨ちゃんにとってのナンバーワンの恋人ではないんだろうけど。それでも大切な親友の上の方には位置すると思うんだよね。それでも不安だったり不満があるなら、結婚制度を使ってみるのもいいのかもだけど」

 馨ちゃんなら、すっごく雑に、婚姻届にサインすると思うんだよね、とエレナが言う。


 そう、馨が撮りたいのはあくまでも、結婚をした相手であって、自分自身の結婚については頭が回ってないというか、そもそも考慮すらしていない段階である。


「け、けけけ、結婚って……」

「婚姻関係なんてのは、日本人同士であるならば、割と気楽にできるものだよ? まあ、もちろん外国人との偽装結婚は良くないみたいだけど」

 日本人同士であるなら、本人同士が好き合ってるかどうかなんて、わかんないわけですよ、とエレナは疲れたような顔でこぼす。

 そう。正確に言えば日本人の男女同士であれば、というのが正しい表現なのだ。


「ああ。貴方たちはできないんだったわね」

「ま、今のところはね。よーじがどうしても結婚したいっていうなら、ボクなりにとれる方法はいくつかあるんだけど、そうなると男の娘としてのアイデンティティを曲げないといけないというか」

 そもそも、よーじなら肩書きだけの結婚より、そばで君が笑ってくれている方が大事だとか、なんとか、わっふぉー、とエレナが頬を両手にあててもだえ始めた。自分で言っていてその台詞を言われたのがとても恥ずかしいというような状態だ。

 ルイがここに居たら必ず何枚か写真を撮っていたところだろう。


「あんたも大概、よーじさんの事好きよね……」

「そりゃもちろんだよ。ボクとよーじは五年は熱々だから、三年目の浮気くらいおおめに見るあれとは無縁だしね」

 でも……と、そこでエレナは言葉を止める。


「結婚ってなんなんだろうね、って思うわけさ。確かに法律的に保護される部分はあるし、将来子供を作ったのなら国からの支援は受けられる。でも、離婚率は年々上がっていっているし、結婚しない人の数も増えていっていて。永遠を誓い合う儀式が結婚なんてのもずいぶんとうさんくさい話だよね」

 結婚指輪は魔除けにはなるけど、結婚していようが好きは止められないなんてこともあるみたいだしね、とエレナは悪い顔を浮かべる。


「もう……あんたさっき、結婚勧めてきたわよね……」

「ん? ああ、次善の策ってやつ? 本人に恋愛感情がほとんどないんだから、しょうがないじゃない?」

 それに、結婚関係が破綻する原因というのが、愛想が尽きた、か、他の人を好きになってしまったかなんだから、浮気の心配はないと思うんだよねぇと、エレナがいうと、うぐっと珠理奈は息をのんだ。

 たしかにそうかも、と思ってしまったからだ。


「ちなみに、こういう話は馨ちゃんの前ではしないでよ? あの子は純粋にわーいって写真撮ってて欲しいし、結婚式場とかのだって最高に幸せな姿を撮りたいっていう気持ちでいて欲しいから」

 どうせいつかこいつらも離婚すんだろ? みたいな気持ちで撮って欲しくないからね、とエレナが苦笑すると、絶対あいつはそんな気持ちじゃ撮らないわよ、と珠理奈も苦笑を漏らす。

 良くも悪くも、馨は恋愛方面ではとにかく純粋なのである。


「わかってるわよ。でも、なんかいろいろ話を聞いて、逆に情報が多すぎて頭の中、こんがらがりそうなんですけど」

「それは仕方ないかな。楓香ちゃんは正攻法で! っていってたけど、あれをどうにかするのは無理でしょ」

 そのためには、いっぱい頭つかって攻略法を考えるしかないじゃない、とエレナに言われて、珠理奈はうぅーと、うめき声を漏らした。


「ま、幸いライバルの方の動きも沈静化しているわけだから。これでもなめてじっくり考えてよ」

「ちょっ、もごっ、あまっ」

 なにっ!? とエレナから口に入れられた欠片をなめてその甘さにびっくりする。

 飴とは違う、なんというかもっと純粋な甘さである。


「頭を使うときは糖分補給ってね。氷砂糖は幸せの味なのです」

「……なんか、珍しく優しいじゃないの」

 うぅ、と口の中で氷砂糖を転がしながらそういうと。

「だって、男の娘は優しさが売りですから」

 エレナはそう微笑んだのだった。

 

「それにほら、キミにはルイちゃんとの間に男の子を三人産んでもらって、ご近所美人三姉妹爆誕! なんてのを期待もしているので」

「ちょっ、エレナったら! 全部台無しじゃないのよ! なんなのよその下心満載なのはっ」

「ふふん、そこは男の娘のためならなんでもやるボクのやることだからね」

 まぁ、好きなものを好き過ぎるというのは、いろいろと周りとぶつかるのでございます、とエレナはいうと、いい顔で、ほんと、期待してるからねと親指をぐっと突き出したのだった。

恋愛感情薄めの人を落とすにはどうすればいいのか。

キャラクターと一緒に作者もめちゃくちゃ悩みました。

身の回りでは、腹ポテエンドな人達が多く居て、たしかにまー、できこんではないのだけど、んー、あー、と思う三週間でした。

女性的魅力も、金銭的な援助も通じない相手をおとすには、愛情は受け取れなくても、なんていう思いが頭をふわふわしてしまいます。


さ、んなことは放っておいて、幼少期のかおたんかわいいよね! っていうね! こっちでほんわかしていただきたく思います。次話は悩まないであほな話を書きたい! そう、書きたいのです!

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様です・・・! こうして読んでいても、かおたんの男装技術はすごいなぁと思ってしまうあたりがかおたんですね。 以前スーツ姿の中年の男性なのだけど、少し変わった雰囲気を持つ人を見かけま…
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