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640.プライベートビーチに行こう9

 一日目の夕飯はみんなで作ったカレーである。

 今回も買い出しは自分たちの手でやろうということで中田さんは遠くで待機である。


 せっかくだからと彩ちゃんも包丁を握りつつ野菜を切ったりしている。

 味付けはルイが担当することになった。

 ルイがよく使う出来合いのカレールー二種類をブレンドして作るモノで、味は皆さんの好みが分かれるので中辛にしておいた。

 辛いのが好きならそこに辛みスパイスをどうぞという姿勢である。


 そして、サラダはというと、よーじ君とクロがエレナの監督のもと担当している。まあクロも料理はできるから、監督もなにもなくさらっと作ってしまうだろうが。


 そして最後に残った崎ちゃんはというと……

「まさかご飯当番とは……」

 ひとりお米を前に、どうしてこの役割分担なのかしら、とご不満の様子だった。


「えー、でも重要じゃない? もちろん明日の朝用のパンもあるから失敗しても大丈夫だろうけど」

「あのねぇ、エレナ……どうしてそんなにあたしを飯マズ女にしたいのよ。これでも割とご飯を炊くだけじゃなくて、料理も家で結構やるようにしたんだけど?」

「その話は前に聞いたけど……ほら、キャンプのごはんだよ? 日常のそれとはまた別で」

 ルイちゃんの影響で料理にも挑戦してるっていうのは知ってるけど、とエレナが言った。

 そんな言葉に、はぁと崎ちゃんはうんざりしたような声を上げた。


「このコテージ、しっかり最新式の炊飯器があるのだけど? それともガスコンロで土鍋で炊けばよろしいんでしょうか?」

 ことことじっくりと炊いたご飯も美味しいよね、と彼女はルイが作った中華粥の味を思い出していた。

 まあ、カレーにするならしっかり固めに炊くべきなのだろうが。


「ま、一日目の夜だしとりあえずはこの分担でいこう? 別に料理できないからそうしてるってわけじゃないし」

 明日のご飯は期待してるからね、とルイが言うとわかりやすく、珠理奈は表情を緩めつつ、はっとしてそれなら仕方ないわとぷぃと腕組みをしながら顔を背けた。

 ほんとわかりやすいツンデレさんだなぁとエレナから突っ込みが入るものの、誰もそこには触れなかった。


「それじゃー、それぞれサラダ組とカレー組でわかれようか。ボク達はあっちで調理するので、ルイちゃんたちはカレーの準備をお願い」

 大きいお鍋があるから、それでどうぞと言われてはいよーと軽い返事をする。

 そしてぞろぞろとコテージのキッチンに大移動。

 楓香と彩、そして崎ちゃんを連れてルイはカレー作りを始めることにした。


「彩ちゃんはいままで料理ってやったことは?」

「母の手伝いをちょっとやったくらい、でしょうか。エレ姉さまと会ってからはもうちょっとがんばらないとなっていう思いはあるのですが……」

 ただ、あのクオリティを目指そうとなると、なんかむりーってなっちゃうんですけどね、と苦笑が浮かんだ。


「あの子のはほんと好きなことに一直線っていう性格がでてるんじゃないかな? お屋敷のコックさん達にも教えてもらったりもしてるみたいだしね」

 正しい手順で回数をこなすことが、上達の近道ではあるのかな、とルイは答える。

 いろいろなアレンジをするのも楽しみの一つではあるけれど、闇雲にやればいいというものでもないし、試行錯誤は基準点を作ってからやらないと、料理はかなり悲惨なことになる。

 さっき単語がでた飯マズ系の人も、初心者のうちに大冒険をしてしまうからすさまじい事になるのではないだろうか。


「なら、改めて野菜の切り方とか教えてもらってもいいですか?」

「あー、ルイ姉のやり方、私も見てみたいかも」

「楓香なら自分でいくらでも作れるでしょ? ばーちゃん仕込みなんだし」

 それに比率的には楓香が料理する率高めでしょ? と言うと、まーそこはそうなんですがとちょっと恥ずかしそうにする。


「ルイ姉のご飯美味しいから、教わったぞってのがあるとモテるもとになりそうかなって」

 がっちり胃袋をつかむのです! と拳をぎゅっと胸のあたりで握る楓香の姿が可愛らしくて、つい写真を一枚撮った。

「やっぱり料理ができた方がいいんでしょうか?」

「んー、あたしは別に自分で食べたいってのと節約からってだけだよ? 優先順位の問題じゃないかな?」

 必要なら覚えればいいだけのことじゃない? と言うとそんなもんですかね? とみんなは首を傾げた。

 やっぱり、料理ができるのならそれに超したことがないというのが一般的な感覚というやつだからである。


「ま、ご飯作ろうか。こっちのほうが絶対時間かかるしさ」

 エレナたちの方はサラダの用意だけである。

 正直、調理時間の差を考えればかなりこっちの方が余裕がないのである。


「それじゃ、まずは手を洗ってから作業を始めましょうか」

 あ、確かにそこからですね、とみんなは素直に水道の前に順番に並んだ。

 



「では、みなさん! いただきます!」

「いただきますー!」

 さて、あたりは夕焼けから夜闇へと移り変わる時間帯。

 夏場なのもあって六時を過ぎたあたりであろうか。ほどよく日差しも和らいで心地よい風が海の方から吹いている。


 コテージの外にテーブルを広げてみんなで夕飯をとることになった。

 すでにテーブルの上にはカレーとサラダが並べられている。

 カレーの付け合わせの福神漬けやらっきょうは別皿で各自お好きにどうぞという感じだ。


 自宅だとこれにさらに別のおかずが追加されることもあるのだけど、今日は簡単に作ろうと言うことで無難なラインナップになっている。

 カレーはこれだけで完成された食事なのである。


「海を見ながらのカレーっていうのも、雰囲気が変わっていいね」

「波の音がダイレクトに聞えるというか……プライベートビーチで他に音がないからすっごい天然のBGMって感じだね」

 キャンプというより、お洒落ななにかだなぁとルイは苦笑気味にこの光景を見ていた。

 

「んぅー、やっぱりルイ姉のご飯は美味しいです」

「あたしのじゃなくて、みんなで作ったカレーだよ? ご飯の炊き具合とかもすごくいいし」

「ちょっ、そんなの炊飯器にセットしただけだし」

「ちょっと固めなのがいいじゃん? カレーに合わせるならこれくらいの水の量がいいなって」

 うまいうまい、と言われて珠理奈はうぐっと息をのみながら白いラッシーをすする。

 カレーにはラッシーである。甘酸っぱい味がカレーの辛さを和らげてくれる。


「マンゴーラッシーも美味しいよねぇ。やっぱり自家製だとバリエーションがあっていいね」

「……って。ラッシーって自分で作れるものなんです?」

 え? と彩ちゃんが驚いたようにラッシーを見た。

 いわゆるよくカレー屋さんで出てくるラッシーと遜色のない白くてとろりとしたそれは、ストローですすると夏の暑さを吹き飛ばす甘みと酸味が広がっていく。


「サラダ作るだけだと時間もあるからってことで、あっちではラッシー作りもしてたんだ。マンゴー冷凍しておいて他の素材と合わせてって感じで」

「まさか最初から仕込んであるとは思ってなかったですけど……わりと道具とモノがあればあっさりできちゃいそうな感じでしたね」

 今度、うちでもやろうかなって思いましたとクロもストローでオレンジ色のラッシーをすすりつつ、上に浮かんでいるマンゴーをすくって口にいれた。


「……うん。なんか確かにさらっとそういうの作る人が身近にいると、これが基準なのか? とか思っちゃうわね」

 確かに美味しいけど……むしろこれは素人レベルではないように思う、と珠理奈は肩をすくめた。

「このサラダは兄様のお手製ですか?」

「ああ、それはもちろんそうだよ。っつっても葉物をむしって、トマト切ってくらいだけどな」

 それよりクロさんがぱぱっとドレッシング作ってくれたところを見て、おーと思ったんだけどな、とよーじ君は言った。


「クロくん手際いいよね。さすが、男の娘は料理できる率が高くてよいね!」

「あたしの大学の先輩は、別に女装してるから料理が上手いとか止めて! って言ってたけどね」

 志鶴先輩は結局その後、斉藤さんと仲良くやっているのかちょっと気になるルイである。

 あれで、さみしがりな人だから上手くいってくれると良い写真が撮れそうな気がする。


「ルイ姉もいってましたけど、料理は必要性によって、だと思いますよ。私の場合は高校の頃一年間は一人暮らしだったし、その後、楓香と一緒になっても家事は折半でやってたから、まあまあ得意なだけです」

「必要性……ねぇ。よーじ。もしボクが風邪引いたら、おかゆとか作ってくれる?」

「……うぉ。エレナさん……? とつぜん裾をひっぱってそういうこと上目使いで言うのやめてくんない?」

 うるっと、潤んだ視線をするエレナを思い切り対面のルイは一枚撮影した。

 いいや。よーじ君が入ってるバージョンと、見切れてるバージョンの二つである。

 一枚ではなく二枚だ。


「えー! 普段は甲斐甲斐しくご飯を作ってくれる男の娘の彼女が、赤い顔しながらキッチンに立とうとして、そこで包丁もとうとしたところで力尽きてがくりと体を崩れ落ちさせるところで、彼氏が後ろから抱きしめてくれて、お前こんな熱でなにやってるんだよ! とか言いながら、お姫様抱っこしてソファに横にしてから、よし、今日は俺が作るぞとか言って、エプロンしめるわけさ」

 きゃあ、すっごく萌えシチュエーション! とエレナが盛り上がると、それいいですね! と楓香がそれに乗った。

 彩もはわぁーと二人のその姿を想像しながらほっぺたを両手で押さえている。

 

「くぅー、見せつけてくれる……」

「だいたんです……エレ姉さま」

 そんな二人のやりとりにみなさんそれぞれ思うところはあるようだった。


「ねえ、ルイ姉。エレナさんって私生活だとこんなに砕けた感じなの?」

「あー、クロはイベント会場でばっかりだったっけ? そうそう。基本こいつは呪縛が切れてからこんな自由人だよ」

 別名、小悪魔とも言います、というと、えぇー、ルイちゃんだって自由人じゃん! という反論が返ってきた。

 それに、みんながちらりとルイに視線を向けて……自由っちゃ自由か……と、首を傾げた。


「なにその可哀想なものを見るような目は……」

「いや、いろんな意味で好き放題で羨ましいなぁってね」

「クロやん? 別にあたしそこまで自由ではないよ? バイトもしてるし経済的にも裕福ってわけでもないし」

 一番やりたいことのために頑張ってるだけ、というとあーうーん、それは……あー、とみんなちらっと、とある人物を一瞥すると、はぁーとため息を吐いていた。


「まあまあ、ルイちゃんは空気読めないくらいでいいんじゃない? 言い換えればほら、なににも束縛されずに選べるってことなんだから」

「いや。そこは、お金とか、仕事とか、時間とかにめちゃくちゃ束縛され……」

「ほぅ? カメラの事になると何時間でも延々と話し続けるのに、束縛があると?」

「うぅ。エレナさん。確かに打ち合わせで徹夜させたことは、反省はしていますが……」

 ふーんと、言い放つエレナさんに、ルイは前に撮影関係で無茶ぶりをしたことを思い出して居た。

 良い物を作ろうという考えが強くて、二人で頑張っていたわけだけど、徹夜に関しての価値観は二人ではちょっとずれているのである。


 ルイとしては撮影のためなら徹夜もOKなのだけど、エレナはどちらかというと健康と美容のために夜は寝よう派なのである。


「でも、相手がヤダっていったらちゃんと引き下がるよ? 撮影がヤダって言われたら……まぁ、仕方無しって感じで」

 あー、今回の旅行中も、やだったら、やだっていってね! とルイは周りに声をかけると、別に、撮られるのはいやではないので、という声が周りに響いた。

 いちおうみなさま、町の中での撮影ならばしつこくされないというのを解っているからだろうか。


「エレナさん。しつこくするのは我らレイヤーとか、モデルさんだけじゃないですか? さすがにルイ姉だって周りの迷惑とかは考えられるコだと思います」

 いろいろ抜けてますが! と、クロに言われて、あんまりだよー! とルイは答えた。


「そんなこというと、クロにはデザートのスイカ出さないからね?」

「うぶ……ルイ姉。それは横暴だ! っていうか、この旅行のデザート権がルイ姉にあるわけない」

「そりゃそうだけど……」

「……うん。クロくん。おかんの言うことは聞きましょう」

 はい……とおとなしく言いながら、クロはカレーの乗ったスプーンを口の中に入れた。


「あの。今夜はこのあとフリータイムですよね? それでちょっとお願いしたいことがあるのですが」

 カレーをはむはむもぐもぐして、こくんと飲み込んでから、彩が遠慮がちに声を上げた。

 いままで、賑やかな中で一人静かにご飯を食べていたコが声を上げたのでみんなの視線はそこに集まった。

 話が一段落するまで、切り出すタイミングを考えていたのだろう。


「なになに?」

「私はこのメンバーの中だとかなり新参なのですけど、先ほどお風呂で話を聞いていて、一点だけどうしても押さえておかないといけないなぁと思って」

「どうしたの、彩ちゃんがおねだりとか珍しいね」

 ん? とエレナが興味深そうに首を傾げる。可愛い。


「私だけ、木戸先輩に会ったことがない、ということに気づいたんです」

「あー」

「ああー」

「そういえばそうかも」

 その発言を聞いて、みんなからおのおの、そういえばー、という声が上がった。

 確かに考えても見れば、このメンバーの中で新参である彩だけは、ルイとの接触時間はかなり短いのである。


「学校では何度かルイ先生とお会いしてますけど、あそこまでいう馨さんに会ったことがないので、是非合わせてもらえないかと」

「あーうーん」

 どうしようかな、とルイは考えつつも、残念ながら要望に応えることはできそうにない。

 だって、服が無いし。

 さすがに今日はずっとルイでいるつもりでいたから、そちらの服装は用意していない。


「その服装で眼鏡かけても、馨兄とは言えないよね」

「あのモサ眼鏡さんでも、さすがに服装はカバーできないというか……」

 っていうか、女装してる時点で体のラインとかでちゃうし、あのモブ感はなかなかでないように思うと、みんながうーむと呻きながら答えた。いや、そこまで真剣に悩んでもらわなくてもいいのだけど。


「なら、にーさまの服を借りる方向で」

「ちょ、ストップ!、いくら彩ちゃんでもそれはダメだから。彼氏のぶかワイシャツを着て良いのはボクだけなんだから」

 なんて事を言い出すの!? とエレナが彩の発言を止めた。


「ぶかワイシャツ……たしかにそれはNGですね」

「エレナさんのぶかワイシャツ姿はちょっと見てみたいかも、です」

 黒木家兄妹が、ぶかワイシャツにそれぞれな感想を述べる。

 オタクな二人はその属性の魅力にやられきっているようだった。


「ちょ……どうしてそんなにぶかワイシャツ押しなの、二人とも」

 っていうか、そういうのはみんなの前で言うのは恥ずかしいというかなんていうか、とよーじ君はぽりぽりと頬を掻いていた。

 かなり恥ずかしいらしい。


「んー、だとしたら……エレナのぶかワイシャツはあとで撮影しようということでー」

「そういう企画はいつかね?」

 さすがにそういうのは、甘い新婚生活とかが終わってからがいいなぁとエレナさんは控えめに断ってきた。

 うーん、可愛いと思うのだけど。


「それでしたら、今回の旅行では諦めます。でもっ、写真だけでもあとで見せてくださいね」

「あー、それならボクの手持ちにもあるし、珠理ちゃんも持ってるはずだから、あとでもっさりかおたんについて、鑑賞会をしようか」

「もっさりって……別に目立たないようにしてるだけなんだけどな……」

 ひっそりと撮影ライフを送りたいだけなのにー、というと、みなさんは、お前が言うなと大反論を繰り出してきたのだった。


海といったら、カレーだよね!

というわけで、みんなでカレー作りをやってみました。

でも、料理上手がいっぱいいるので、そんなにみんなで作らなくても……みたいな。


そして、彩ちゃんはかおたんの普段のモブ姿をみたくてたまらないようです。

普段のきらきらしいルイさんが、モブときいてどうなってるのかすっごく興味があるようです。

さて、次話ではコテージの夜を書こうかと思っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 料理をしているお話を読んでいると 私も料理しようと思うのですが…(´・_・`) 崎ちゃんを見習います。 クロくんはルイさんエレナさんコンビと一緒に お風呂に入って大丈夫だったんでしょうか?…
[一言] 簡単ラッシーと言えば、明治ブルガリアヨーグルトのHPに載っているメニューが広まってる印象。 ・プレーンヨーグルト 250g ・牛乳        250ml ・砂糖        大さじ2…
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